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October 19, 2006
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カテゴリ: 小説

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第1話は こちら    第11話は こちら

 悪夢は醒めない--。

 ふとすぐ側に人がいる気配を感じ、身を起こすとベッドに松尾が腰

掛けている。

 頭の中で警笛が鳴った。けれど、どうすることも出来ない。松尾が美

優の手を強く掴む。今度は、ボートの時のようには行かなかった。素早

く美優の顎を掴んだ手に更に力を入れ、無理矢理キスをしてきた。必

死でもがく美優。

"修二!"

 心の中で修二の名前を叫ぶ。恐怖と修二に対する申し訳なさ、愛しさ

が交錯し、涙がこぼれる。

 泣いている美優に気付いた松尾の唇が一瞬離れる。離れたかと思った

瞬間、パーンと左頬に平手打ちが飛んで来た。ビックリすると同時に、も

う一度、今度は右頬に平手打ちが飛んで来た。意識が朦朧とする。

 松尾が覆い被さって来た。朦朧としながらも力なく抵抗を試みる美優。そ

んな美優の抵抗など物ともせず、荒々しく美優を抱く松尾。

 すべてがストップモーションのように、まるで自分ではない誰かに起こっ

ている出来事のように感じる。

 どれくらい時間が経ったのだろう。ふと意識がはっきりし、美優の背中か

ら腕を回している松尾の体温を感じた。先ほどの出来事が走馬灯の様に

美優の脳裏に浮かぶ。恐ろしくて身を引こうとすると、松尾はぐっと美優を

抱き締めつぶやいた。

「初めて空港で美優を見た時から、俺は美優を見ていたよ。美優は、修二

のことしか見ていなかったがね。」

 一体どんな気持ちで、どんな表情で話しているのか、声だけでは読み取

れない。

「どうして? どうして?」

 修二が亡くなったと聞いて、気が狂いそうなのに。どうして、こんな仕打

ちが出来るのか。どうして今なのか。どうして美優なのか。やはり修二の

ことは嘘ではないのか。聞きたいことはたくさんあるのに、涙で言葉に詰

まる。

「美優はここに残るんだ。修二を愛したように、俺を愛してもらいたい。」

 その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れたように涙がワッと

溢れて来た。

 修二を愛したように? 愛したように? もう修二を愛することは出来

ないの?

 修二--。

 本当にもう二度と修二には会えないの? 修二が死んでしまったなん

て信じられないのに。修二!

 でも--。

 どちらにしろ、もはや修二に会わせる顔などなくなってしまったのだ--。

その事実に気付き愕然とする。

 翌日、目を覚ますと部屋の中にジョーがいる。泣き腫らした瞼が重い。

 美優が起き出し、部屋を出るとジョーも付いてくる。リビングを見渡す

が松尾の姿は見えない。

 庭に降り海岸を歩く。ただフラフラと歩く。ジョーも少し距離を置いて付

いて来る。昨晩の出来事を知っているのだろうか。美優を監視しているの

だろうか。

 何の感情も、意識もなく、海に入り沖に向かって歩き始める。死にたいと

か、逃げたいとかそういう感情があった訳ではない。ただ、海が呼んでい

る気がしたのだ。そうすれば修二に会える気がしたのだ。修二のところに

行かなければ!

 海水が膝の位置ぐらいまで来た時、ふいに後ろから誰かに抱きかかえ

られた。ジョーだ。ジョーに触れ、人の体温を感じて初めて感情が溢れて

きた。

「修二!」

 ようやく口から言葉が飛び出した。修二の名前を叫んだ瞬間、涙が溢れ

出し嗚咽する。ジョーは何も言わず、美優を抱きかかえたまま屋敷に戻っ

た。

 悲しみを抱えたままベッドで横になった。とにかく眠りたかった。眠ってし

まえば何も考えなくて済む。そうして、ただ時間をやり過ごしたかった。

第13話へ つづく






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Last updated  October 19, 2006 10:39:13 PM
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