家政婦は見た(その4)



ボクが家政婦さんと朝食の準備をしていたら、二階からテツトが「ふぁぁ~~~」と大あくびをしながら降りてきた。
髪はボサボサだ。
「何時だと思ってるんだよ」とボクが言うと、
「うっせー、おりゃ~~!バックドローーーップ!!」と技をかけてきた。
「痛い~~、やめてよ~~、テツト兄さ~ん!」
「兄さん、言うなっ!」
ばこっ!
「痛い~~」
「よ~~しっ、準備体操終わり!食うぞタカヤ」
まったくなんだよ、もう!

スローイングができなくなって二週間ちょっと、テツトの体にはアドレナリンが溢れまくっているらしく、なにかっていうとボクにちょっかいを出す。
いい迷惑だ。
頼むから早く完治して欲しいよ。

「その前にちゃんと『お羊さま』にお祈りしましょ」
と家政婦さんが言った。
「は?」とボクとテツトは聞き返した。
「知らないんですか?羊はこのお屋敷にとっては一番縁起がいい動物なんですよ。未年のとき、このお屋敷はもっとも栄えてきたんです。お二人ともここのご子息なのにそんなこともお知りじゃないんですかっ!!」と家政婦さんの声はだんだん大きくなった。
このヒトはこのお屋敷のこととなると異常に興奮するヘキがある。なにしろボクたちが生まれる前からこのお屋敷に仕えてきたらしい。考えようによっては「おそろしいひと」だ(爆)

「さぁさ、ご飯食べる前にちゃんと手を合わせましょう」
と神棚の前にボクたちふたりを立たせた。
神棚には「羊のぬいぐるみ」がちんまりと置かれていた。
「マジかよ」とテツトがボクのわき腹をつついてウンザリした顔でいった。
「テツト、ここは家政婦さんの言うことにおとなしく従ったほうがいいって」
ボクたちは神妙な顔をしてぱんぱんと手をうった。


味噌汁をずるずるとすすりながらテツトは「あんなの迷信だよ、迷信」と言った。
「オレはこの親指をあんなもんに治してもらおうとは思わないぜ」
テツトは毎日黙々とランニングをしている。
昨日から東京でお父様率いる先陣が「乳酸菌軍団」と戦っている。ボクは地元に帰っての「とら猫組」に参戦するので、ここで待機しているのだが、テツトは今年は絶対最初から実戦に参加するのだと、張り切っていたのにケガで涙をのんだ。

病院からかえったときはショックで少しおとなしくなっていたが、そのままですむ男じゃない。
ときどきテツトの部屋から「ぼこぼこ!」と音がするのだが、たぶん壁がとんでもないことになっているに違いない。ビフォーアフターしてもらわないといけないと思うが「予算内に納まる」かどうか問題だ(爆)
でも、この御屋敷の御旗でもある「鯉のぼり」の季節の頃にはきっと帰ってくるに違いない。

昨日、お父様率いる「鯉軍団」は周囲の低い評価にもかかわらず、見事な戦いぶりで勝利を収めた。
とくに博樹兄さんの完投はすごかった。尊敬する。

ボクは地元でひょっとして先発を任されるかもしれないのでよく調整しておかないと、、、



一汗ながしたあと、休憩してたら、テツトが走ってきた。
やばっ!
また技をかける気だ。
ボクが逃げようとすると腕を掴まれた。
「きゃ~~~!」

「ばかっ!女みたいな声だすな、誤解されるじゃねぇかっ!」と言って、ぶっきらぼうに手を出した。
それにはなにやら握られていた。
テツトはボクの手にそれを乱暴に押しつけるとクルリと背を向けて走っていった。

「な、なんなんだ?」
まったくテツトのやることはよくわからない。
と思いながら手のひらをあけてみるとそこには
「羊の人形の」のケータイストラップがあった。

ボクはひとりでふふと笑った。
知らないひとが見ていたら気持ち悪かったにちがいない(笑)


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: