cathyの異次元空間

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女狐の恋




 ある日のこと。
 女狐は森の近くの丘に
佇むひとりの男に気が付ました。
男の匂いに淋しい女狐は小さく唸りました。
『誰だ。何者だ・・』

 男は森の女狐に気付くと、しばらくは
じっとみておりましたが
次第に静かな微笑みをなげかけました。

 何も怖くない。
 何も怖くない。
 こっちへおいで。

女狐は用心深く、徐々に匂いを嗅ぎながら
男に近づきました。
そして、丘へと一歩一歩、歩み寄りました。

丘に着くと、優しい手が女狐の背中を
撫でていきます。
女狐は唸るのを止めて、男の側に寝そべりました。
優しい手が女狐の顔や背中を撫でていきます。
代わりに女狐は男の手を舐めました。

言葉のない心の通いあう時間が過ぎていきます。

ざわざわっ。
ざわざわっ。

森が騒ぎだしました。

「女狐。お前は森の生き物だ。
すぐに丘を去れ。人間の匂いがつくぞ。
森に帰れなくなるのだぞ。」

女狐は森に向かって唸りましたが
とぼとぼと
森へと帰って行きました。

丘に男を残して。

次の日、女狐は又、森から丘を覗きました。

男の姿はありません。

女狐は森と丘の境で眠っていました。
優しい手を思いながら。

ふと、男の匂いを感じて目を開けると
男が丘に立ち、また、微笑んでおりました。

女狐は喜び、森を離れ、丘に走りよりました。

女狐と男は楽しい時を過ごしました。

しかし、ある時、

丘で男は涙を流していました。

女狐は助けたいのに、どうしてよいかわからずに
ただ、ただ、男の周りをうろうろと歩き回るだけでした。

近寄れず、舐めることも出来ず。
そして、じっとしておれずに、男の手を軽く噛んでしまいました。

男の手から一雫の血が流れ落ちました。

女狐は男の目に
怒りと失望を見てしまいました。
『近づくな!』
男の言葉が心に刺さります。

女狐は後ろを何度も振り返りながら森へと帰って行きました。

次の日。
女狐は男を、待ちました。
森と丘の境で。

しかし、男は来ませんでした。

女狐は遠くに向かって吠えてみました。
しかし、誰も来ませんでした。

次の日も。
また、次の日も。
女狐はじーとそこから動きませんでした。

哀れに思った風が、食べ物を運びました。
しかし、食べる事はありませんでした。
『私がほしいものの、匂いではない。』

女狐はだんだん、力を失って来ました。
吠えることもなくなりました。
視線の先には丘があります。

森の中から女狐は丘を見つめ続けました。

そして、ある日
とうとう、力尽きてしまいました。
しかし、女狐の見開いた目の先には、丘がさみしくありました。
お月様が女狐の為に影を落としてくれました。

女狐と男の影を。

森は静かになりました。

ざわざわ。
さわさわ。

さわさわ。。




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