日記

日記

遺品


  歯医者さんにずっと通っていた主人の歯の型を歯医者さんがくださった。最初はこわかったけど、自宅に戻ってよく見てみると、本当に主人の歯の並びだった。ああ、こんなふうだったって。これは長男がほしいと言うので渡した。

2.めがね
  いつも鼻にずり下がっていた主人のめがね。そしてたいてい寝ているときもかけていためがね。だからいつもゆがんでいた。それは亡くなってからも、子供たちの希望でずっとかけておいた。いつもどおり少しずり下げて。
それで通夜、葬儀の間もかけておいた。はずしたのは火葬場で焼くときだった。

3.髪の毛
  斎場で3人分、切ってもらった。近いうちにそれを入れる巾着を作ろうと思っている。

4.テニスラケット
  亡くなるその日まで使っていたラケット。長女がいつか使うと言う。葬儀の間も長女はずっと抱きしめていた。ラケットは、主人そのもののような気がする。

5.リュック
  いつも主人が使っていた黒いもの。こげアナがあってそこは裁縫の得意な義母が直してくれてた。

6.2003年度、2004年度の会社のメモ帳
  帰宅する日が予定表にちゃんと書かれてた。楽しみにしてたのかなあ。それ見たとき、涙が止まらなくなった。お正月の連休の予定もはいってた。毎年行ってた天神様に四人で初詣したかったね。私にとってそれは「幸せの証」のような気持ちだったんだよ。お正月の透き通った空気を吸いながら毎年、4人で登ったね。2004年度のメモ帳も使わなかったね。どんなことしたかったのかなあ。

7.携帯電話
  単身赴任するときに買った携帯。長女と主人のツーショットの写真がはいってる。3人でファミレスで食事して、撮ったんだよね。いい顔してる。
ソフトの試合予定がスケジュールにはいってる、今も。携帯電話の中身はそのうち消える。だからフロッピーに保存した。私と主人とのメールのやり取りもすべて。いつも私の身体ばかり心配しているメール。もうそんなに心配してくれる人はいないよ。

8.ワイシャツ、スーツ、ネクタイ
  体型や顔がそっくりの長男。まだまだ小さいけど、いつか着ることがあるかな。それとも、古臭くて着ないかな。でも大事。クローゼットにしまってある。


9.靴、テニスシューズ
  主人の踏んだ土を落とさないようにそっと箱にしまった。あの人の足元にあった土さえいとおしい。


10.9月ごろの写真
  テニス仲間との飲み会の写真。楽しそう。笑って話してる、彼らしい笑顔。彼のきれいな細い指がなつかしい。健康そのものでお風呂上りのようなさっぱりとした顔。みんなといっしょでよかったね。

11.最後の写真
  亡くなる数時間前。飲み会の集合写真。つらそう。何かむくんでいるような顔。笑顔はない。いつもの彼の表情ではない。悲しすぎるから、かわいそうだからもう見れない。そんな状態でも飲みに行かなくちゃならなかったの?最後まで残らないでみんなより先に帰って、病院に行けば助かったんじゃないの?私たちをおいていってしまったんだよ。


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