| 本文 | 備考 | 出典 |
| (略)目立つところのない平凡な容姿なのだが、口が大きく、 笑うと劇的に魅力的になる顔 をしている。 | こういう人、いますねえ。 | 『光源』 桐野夏生 |
| (P118) 三蔵は、章二だけ、話したのだった。
(P128有村の発言)「(略)この話はお前の伯父さんの話だといってただろう。(略)」 |
P118の記述がいつのまにか、P128の時点では有村も知っていることになっている。この『光源』はこれに限らず、2~3行後には矛盾したことが出てくることが多く、読者は立ち位置を固定することが出来ず読みにくい。 | 『光源』 |
| (P216義妹に対しての気持ち。) 「勿論そうです。セックスなんかできない。だけど、 会うときは恋人みたいに胸が騒いで、恋人より近しい気持ちになる。(略)」 | 私には腹違い(その逆も)の兄弟姉妹はいないけど、年の近い親戚等の事を考えてみると、なんとなくわかる感じだなと思った。 | 『光源』 |
| (P221) シャシンは女人禁制だよ。男の夢見るものなんだ。女の夢なんてちゃんちゃらおかしいよ。どだいイマジネーションの幅が違う。深さが違う。女は綺麗なのが一番だよ。映画の世界じゃ、女は女優しか価値がないんだ。それもごくごく上等のね。」 | これは、年をとった昔有名だった監督が、後を追って映画を作ろうとする女性(妻)にいう言葉だが、本当にこう思っているというよりも、自分を引きずり落とす可能性の有るものを先に引きずり落としておこうとする臆病さや小ささが見える発言である。 | 『光源』 |
| ・ こういう何も知らずに生きている人の鈍さをわたしは憎むのですから。
・ 差というのは、ちょっとやそっとの時間では埋まらないものでした。美や裕福さのインフラといいますか、基盤が違うのだとしか言いようのないことだと思いました。じっくりと何代か経て貯められた豊饒さといいましょうか。長い時間をかけて遺伝子に組み込まれた美や裕福さなのです。付け焼き刃は通用しない世界でした。 ・ 女の子にとって、外見は他人をかなり圧倒できることなのですよ。 ・ しかも、わたしは祖父と一緒に暮らし、便利屋までも手伝っていたのですから、ごく当たり前の家庭から高校に通ってくる生徒とは違うに決まってます。 だからこそ、この苛烈な学校でも、傍観者として楽しく過ごせたのです。 ・ 不外部から来て内部生を真似して装う聖徒には余裕というものがありませんでした。内部背詠が発散する富の淫らさが決定的に欠けていたのです。 富みというのは、常に過剰を生むものです。 だからこそ自由で淫らなのです。(*チェリb註:これを伝統やしつけ、礼法で洗礼できるから旧家は清い品というものが必要になるし備わる。上手く言えないけど。)それは、だらだらと内部から自然にこぼれ溢れるものなのです。その淫らさは、たとえ外見が平凡でも、その生徒を特別な存在に仕立て上げることができるのです。豊かな生徒は、皆淫らで、享楽的な表情をしていました。わたしはQ女子高で富の本質を学んだのだと思います。 |
読み終わって知ったのだが、作者はこの事件の被害者の心の傷というか、ゆがみを高校生活に原因があると考えこの小説を書いたらしい。だから、私立で、下から上がってくる子と途中(中学や高校から)入学してくる子がいる、お勉強のできる、お金持ちの子供が多く行く学校の、薄い皮一枚下(決して深いわけでもないと思う)みたいなところがこれでもかこれでもかと出てくるところがとても面白い。事件のモデルに近く考えれば、QとはKと置き換えられるが、Kがこの通りというわけではなく、伝統ある私立の内部にいると、漠然と感じていても言葉にできないものをこの小説は、偽悪的に次々と言葉にしているところがたまらなく面白い。(登場人物:姉の部分) | 『グロテスク』 |
| 他人を鏡にして自分の存在を知る(略)
(ハーフの妹の部分) ・ わたしは生き抜くために自分の悪意を磨いてきました。しかし、他人の悪意には脆弱なのです。わたしの悪意は、できの悪い天麩羅よろしく、分厚い小麦粉の衣のようなものでしかなかったのでしょうか。ミツルの悪意という濃いつゆの中で次第に溶けだして、種をぶよぶよと覆うだけの代物でしかなかったのでしょうか。 だとしたら、天麩羅の種は何なのでしょう。 (犯人の中国人の部分) ・ 元々、Q女子高は、女性の自立と高い自尊心を持つことを教育理念に掲げてきました。しかし、Q女子高出身者の離婚、未婚、自殺率は他校より高いというデータがあるのです。(中略)実社会が厳しいというより、僕ら(チェリb註:この学校の先生だった人の話)は あまりにも学園をユートピアにし過ぎたのかもしれません。 あるいは、実社会との齟齬にたいして、身を守るすべを教えなかったのかもしれない。 ・ 固体密度の高まりは、しばしば固体の発達や形状、生理などに影響をおよぼすことは生物学の常識です。 (チェリb註:ある集団(年代・性別だけが多いという集まりなど。)だけを一所に集めるという観点から見てみるのも面白いなと思ったので書き抜きに入れた。) ・ 実は僕は学校で真実を教えてこなかっただけではなく、別の「錨(いかり)」を心に埋め込んでしまったのではないかと心配でならないのです。それは他人よりも優れる、という絶対的な価値観でした。、それが本当の意味でのマインドコントロールなのかもしれないと僕は恐れるのです。なぜなら、努力をしても報われない生徒は。「錨」の存在に一生苦しめられるからなのです。(中略)そして、僕らが埋め込んだ「錨」さえも瓦解するものの前にあっては、さらに無力だったと思えてならないのです。それは、努力をもってしてもどうにもならない生まれついての「美」というものの存在です。 ・ 醗酵も腐敗も、微生物によって起きると教えてくれたのは生物教師の木島先生ではありませんか。それには水か必要、と。わたしが考えるに、水とは、女の場合、男なのです。 ・ ミツルは紅茶をゆっくり飲み干してかちっとカップを置くと、その音が合図のように喋りだしました。(←文章が気に入ったので。byチェリb) ・ あの人の懸命さがイジメの対象になった。 夢中で追いかけて来る のが見え見えだったからよ。 ・ (スクールリングについて。)下から来た子は、あの指輪に関心があまりなくて付けてなかったわ。ただの記念だったのね。でも、大学に進学してから、これ見よがしに付けていた子は、ほとんどが高等部からは行った人ばかりだったと後で聞いたわ。下から来たということを自慢できるからよ。虚しい話だけど、笑えないわ。(中略)「誰に聞いたの」「忘れたわ。そのくらい、つまらない話ではあるの。でも、ほんとにつまらんばいかっていえば、そうでもない。あたしたちは下から来ることが最上級であるかのように。Q学園では学ばされた。高等部よりは中等部、中等部よりは初等部。初等部ならば、兄弟姉妹や親や親戚もそうでなくてはいけない。生え抜き。それが最高の位だったからよ。本当に馬鹿馬鹿しいことね。でも笑えないわ。怖いことよ。あたしたちが暮らすこの日本を支配している価値観なのだから。(中略。新興宗教に入ってからのことを振り返って同じ構造を発見し)あたしが中等部からQ学園に入って、一生懸命『生え抜き』に近付こうとしてたのではないかってことね。(それに続いて単行本P400下の段ほとんど。) |
『グロテスク』 | |
| ・ 「(略)でも、周囲はどうせ敵ばっかなんだから、どんな味方でも、味方を作って損はない。日本の社会とはそういうものだ」(註:コネ入社について。守られるということ。)
・ あたしは復讐してやる。会社の面子を潰し、母親の見栄を嘲笑し、妹の名誉を汚し、 あたし自身を損ねてやる のだ。 ・ (チェリb註:→はストーリーの中でのポイントの部分)あたしは稼ぐ子供なのだから母はあたしを一生離さない。(註:稼げなくなったら)そしたら、あたしは母親に見捨てられる。(註:”どうしよう。”という文章もある。) ・ (略)あたしたち娼婦が男の何かを引き出すからだろうか。あたしはチャンから弱さを、ドラゴンからは悪意を引き出した。 |
『グロテスク』 | |
| ・ 人を意気消沈させるのは実に簡単だ、と思った。風呂上がりにつくろいでいるところを襲って、何も持たせないで、贅沢なビルのエレベーターに乗せればいい。いかに自分がいろいろな物で鎧(よろ)っているかがわかる。
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なんだか実感こもってるなーと感じるのは、私が実感を伴って共感したからか。 | 『顔に降りかかる雨』 |
・ そこへ、さきほどの若い女がコーヒーを運んできた。金の盆に、リモージュの金ぴかのカップアンドソーサー
だった。これは、私たちに対する態度表明なのだ、と私は感じた。私たちはぬるいインスタントコーヒーでちょうどよい客、なのだ。それが証拠に、上杉(*チェリb註:”私たち”を呼びつけたほう。”私たち”より、この時、立場は上。)の分はない。
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上の書き出しもそうだけど、こういうことに敏感な人とそうでない人がいるが、敏感な人は鈍感な人によって傷つけられるものである。なにげなく悪意なくこういうことを平気でやらかす人っていますけど、そういうことはこういうことをあらわすのにも使う(ほど、精神的暴力や相手を威圧する行動である)ということを是非、学んで欲しい。普通は小さい頃から親に仕込まれるものなんだけどね。不幸にして、どういうことが相手に対して失礼、思いやりがないetcということを 親に 教えてもらってない人はこういう本で学んで下さい。どうか。そして、人を知らない間に傷つけるのをよしてください。どうか。 | 『顔に降りかかる雨』 |
| ・ 突然、海に行きたくなって講議をさぼり、(略) リトラクタブル・ヘッドライトになったばかりのプレリュード
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ななな、懐かしい。プレリュード。私も大学生になったばかりの頃、乗せてもらった車はプレリュードだったぞー。この話のは2代目のようだが、もちろん私が乗せてもらったのは、たぶん 3代目 。なんか、今見てもかっこエエなあ。 | 『顔に降りかかる雨』 |
| 文庫本P233。 ・ 「成瀬さんは後悔していると思ってらっしゃる?」 「ええ」 成瀬の妻は勝ち誇ったようにうなずき、私は初めて、この女はいやなヤツだと思った。 |
いくらでも解釈できるけど、私にとっては意外な文章だった。そこまで嫉妬している、というか、親身になっているとは思っていなかったから、唐突な感じがした。だって、私はそれまで割と第3者的な立場で考えているようだったから。そしてこの後もまた、冷静な第3者に戻っているように感じた。 |
『顔に降りかかる雨』 |
| ・ 私は輝子のコンプレックスの原因が成瀬夫人にあると感じていた。 | 『顔に降りかかる雨』 | |
| 文庫本P277・6行目~P278全部。 ・ 「実は、厳密には日本にはネオナチはいないとされているんですよ。というのは、ご存じでしょうが、本当のネオナチというのはほとんどアーリア人種史上主義者でして。外国人嫌いの人たちです。大体が教育課程の低いチンピラなんです。ですから、右翼程の思想背景もないし、何の組織も持たない場合が多い。 (*註:本当は全部写したいけど、この辺で。) |
勉強になりました。この長い解説に途中でこの台詞を喋らせている人物に 「すみませえん。講議するつもりはないのです」 と言わせているのが、作者の言い訳っぽくて面白いけど、この台詞はもちろん、あった方が良い。 | 『顔に降りかかる雨』 |
| ・ 輝子の悲劇は、彼女が人より野心に満ちていたからでも、見栄を張っていたから起きたのでもない。愛しようのない男を深く愛したからだ。成瀬は輝子を殺したのではなく。愛そのものを殺してしまった。そして、この私も愛しようのない女だった。たぶん、博夫(*チュリb註:ミロの夫。自殺している。)はその愛を殺すために、自分を殺したのだ。 | 『顔に降りかかる雨』 | |
| ・ ちなみに「ミロ」というちょっと変わった名前は原本の「著者の言葉」によると「私の好きな酔いどれ探偵、ミロドラゴヴィッチから拝借した」とのこと。ミロドラゴヴィッチとは『さらば口づけ』(ハヤカワ文庫)を筆頭とするジェイムズ・クラムリーの一連のハードボイルド小説に出てくる主人公の名前である。 | 名前の話で思い出したけど、ミロの夫、博夫は「ひろお」という変わった名前で、「広尾」みたい。後1つ、登場人物の名前の発音を他の字に当てると他の意味が出てくるものがあったが、忘れた。 | 『顔に降りかかる雨』解説:香山二三郎 |
| ・ 典子(*チェリB註:その家の育ちの良い奥様)は道弘(*チェリB註:お客さま側の夫)の相手をしながら、テーブルクロスの上にこぼれたパン屑を両手で集めては。せっせと灰皿に入れていた。男たちがタバコを消すと、その度にパン屑が燃えて、トーストの匂いが一瞬だけ部屋に満ちた。家族が集うあたたかさというものを承知している女だった。
・ しかも、典子は石山(*チェリB註:典子の夫)の交友関係に巻き込まれたことを面倒に思ってないらしい。年令も環境も暮らし振りも明らかに自分とは違うのに、そんなことをおくびにも出さない賢さがある。 |
この2つの文章はつながっている。というか、そのまま切れ間なく書いてある文章です。だけど、別々に取り上げたくて分けました。1つめは、なるほどな、って思った、生活の智恵。 2つめは、私はそういうことは当たり前だと思っていたのにそういう感じよさを知らなくて暖かいスムーズな人間関係を作れない人々が、この世(というか日本なのに、というか、は、というか。)には意外と多いということを日頃から感じているので、文章になっているものをみて、気に入ったから。 |
『柔らかな頬』 |
| ・ 「私は聖書のこともしりませんが」 「構いませんよ。興味のある方にはそういうお話をしますし、なければ、他のお話をいたしましょう」 |
なるほど。こういう感じか。宗教勧誘の導入とは。 |
『柔らかな頬』 |
| ・ 「俺は嫌だな、そういうの。聖書研究会とか言ってるけど、どんな教義かわからないんだろう。うまいこと言って信者を増やそうとしているだけじゃないか。第一、パラダイス会なんて変な名前だ」 | 『柔らかな頬』 | |
| ・ 「その人がね、どうしてイエス・キリストが好きかというとね、白人の男の人だからっていうのね。素敵だからと。そこから信仰に入っているのよ。でも、私はそれでいいと思う。というか、それこそがすべてじゃないかと思うのね。人が人に憧れたり、欲したりすること。(略) | なんか、聞いたことがあるような気がする話だ。なるほど、こういう感じなのか。宗教勧誘の導入とは。 | 『柔らかな頬』 |
| ・ 「言葉は道具さ。(略)」 「どうやって見分けるのよ」 「 心を鷲掴みにされればそれでいいんだよ 」 |
そうだよな。なるほどな。この考え、良いなあ。 心を鷲掴みにされればそれでいいんだよ 色んなことについても言えるなあ。 | 『柔らかな頬』 |
| ・ 生き物のにおいのしない黒い海。 | 北海道の海。なるほど。他の本でも感じたけど、この作者は東北や北海道になんかあるのを感じる。 | 『柔らかな頬』 |
| ・ 「好きだと思う。」石山は首を傾げた。「だけど、恋愛じゃないな。あなたとは恋愛したけど、真菜は違う。二十歳も違う女と恋愛なんかできないよ。あの子から奪うものなんかありゃしない。また、あの子が奪うものなんかも俺には全くないよ。なくしたんじゃなくて、用意する必要がないんだ」 「私の時にはあった?」 「あったさ。あなたの時間を奪ったし、あなたの愛情のほとんどを家族から奪ったし、あなたの体をあなたから奪った。最後は自由さえ欲しかった。」 |
”愛は奪う”んだ。 | 『柔らかな頬』 |


