Bring Em Out

Bring Em Out

最後の夜


オヤジのデカイTシャツを借りて。 なんだかんだ言ってこのオヤジわがままだけど、変なことするような年じゃないし、いい奴だった。

プールサイドの椅子に腰掛けてくつろぐ。「人生は短いから楽しみなよ。」こんな悪がきオヤジに言われるとすごい実感があるよ。

オヤジがポストカードを見せてきた。「どっちのカードがほしい?」それはオーストラリア人のカメラマンがカンボジアの風景や人を撮った写真だった。1枚はにっこり笑う子供の写真。もう1枚は老婆が暗闇に1人たたずんでいる様子。私は老婆の方を選んだ。するとオヤジは他のポストカードもたくさん持ってきた。その写真のなかにはトンレサップ湖で見たような子供の姿や、バイクで駆け巡った赤い土と背の高い木の風景。いろんなものが込み上げてきた。 悲しいのか寂しいのか、涙が出てきた。
オヤジはそのポストカード全部を私にプレゼントしてくれた。そのほかにもたくさんのお香まで。 ありがとう。ハグをして本当に会えたことに感謝した。

部屋に戻った時時間は11時を過ぎていた。 どうしようもなくQの声が聞きたくなって電話した。「hello」「誰だかわかる?」「chinitoちゃんでしょ。」「何してたの?」「chinitoちゃんに手紙書いてたの。。。どうして同じカンボジアにいるのに会えないのかなってずっと思っていた。すぐ近くなのに、すごく遠くに感じるよ。」「私も・・・バカだね。」「今から会おう!!」「うん!!」「すぐにいくよ!!」本当は友達と旅行に行く予定を建てていたQ。でも、今こうして又会える。

涙が止まらない。ホテルマンは不思議そうな顔してちょっと心配そう。
すぐにQが迎えに来た。ガードマンはオーストラリア人のおっさんと一緒にいた私を売春婦だと思っていたらしい。 Qの後ろに乗り、ガードマンに笑顔を向ける。彼の顔も笑顔になった。
あーーー良かった。また、会えたよぉーーーー。しばらくドライブし、2人でビールを飲む。彼の友達にも偶然会い、懐かしく思う。たった10日間だけだったけど、本当に楽しい思い出作ってくれた。Qがかける言葉にいちいち涙してしまう。「泣かないで」そう言って彼はどこからか赤いバラの花を1輪差し出した。 「えーーん。また泣いちゃうじゃなーい」

その日、結局ホテルには戻らなかった。でも、無駄とは思わない。これで良かった。彼に空港まで見送りに来て欲しかったけど、余計さびしさが募りそうで、あえてそれは言わないでホテルのフロントでお別れした。


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