chiro128

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映像はいかにして作られるのか(1)



人間の眼はふたつ、水平に並んでいる。当たり前のようだが、人間の物を認識する大事な要素のひとつだ。普通の世界では人間は自分の身体が傾いているのを、三半規管と視覚とで理解している。視覚の方が細かいところまで把握できるようで実は曖昧さがある。斜めの線がある世界では正しい認識が行ない得ないという弱点がある。阪神大震災の後、電柱が斜めになり、家が歪んだ世界で、人々は町を歩くのに強い違和感を感じていた。
ふたつの眼で焦点を合わせ、両眼の視線の方向を調整することによって、人は物を見ることが出来る。距離によって水晶体を引っ張ったたり、縮めたりすることによって、焦点距離を変え、光彩を操作することで光量を調節する。そして両眼の視線の角度が大きければ近くのもの、小さければ遠くのものと認識する。
さて、ここまでは学校の理科で習う知識に近い。しかし、この事実からでは映像を理解する手だてにはならない。もちろん、カメラの仕組みを考える時、有効ではあるが、それはもっと先の話になる。

眼をどのように使って、人は物を見ているのか?
実際に人間の眼の動きを測定してみると、細かな振動と1秒間に5回程度の大きな動きが中心になる。充分明るい中にいる時、網膜にある光の刺激を受ける細胞が感知するのは、光量よりも光量の変化である。眼球の細かな振動により、微細な光量の変化を感知し、それを基に全体像が認識されている。さらに、1秒当り5回程度の大きな動きは主に注目している物の一部をピックアップし、細かく焦点を合わせることでよりはっきりしたイメージを認識するための動きである。
人間の眼で見ているイメージの特徴を更に考えてみよう。人間は瞬きはするものの、起きている間中、連続した画像として世界と捉えている。そして、自分の動きに合わせてのみ画角は変化し、それに合わせて映像の奥行き、距離感なども変化していく。奥行きや距離感の変化は日常、そう意識することはないが、例えばベッドの上で寝転がった状態で横を向いて目覚まし時計を見る、という時の風景は相当手前に焦点が合っており、普段の視界の感じとまったく違う。実は実際の生活の中で様々な視覚的な効果を私たちは体験している。

一方、私たちが普段接している映像と呼ばれるものはどうだろう。必ずしも連続した画像ではない。ここがもっとも大きな違いである。しかし、画像がそのまま見えてはいる。それは映像が映し出されている場所に私たちの眼の焦点が合っているため、大きな変化でありながら、眼の機能に負担をかけていないからだ。(立体映像の場合、ここで大きな負担がかかるため、映像についての考え方を変える必要がある。ここでは映像という時、平面上の動画像のみを指すこととする。)
更に、日常の生活の中で見ている像は連続した光の反射(一部は光の放出)によるものである。しかし、私たちが映像として親しんでいるものは1秒間に24回~60回瞬間的に映し出される像であり、その瞬間以外には存在していない。テレビ画像に至っては瞬間にはほんのわずかな部分しか実際は光っていない。しかし残像を感じる人間の眼の仕組みにより、走る光の点ではなく、図像として認識されている。
こうした仕組みを基に、連続した動きのある動画像として人間が認識するには1秒間に最低24コマが必要である、という実験結果から映画のコマ数が割り出された。それ以下にした場合、人によってはちらつきを感じ始めたり、また周囲が明るいなど環境要因によって動画としてではなく、静止画の連続と感じることがあるためである。テレビが実用化される段階でもこの数字は参考にされた。この結果、ヨーロッパを中心とした地域では1秒当り25コマ、アメリカや日本を中心にした地域では1秒当たり30コマが選ばれた。ここで数字が5、0にまとめられたのは周波数を設定するのに便利だ、という理由が大きい。
奥行きの理解も人間の眼とは違っている。両眼の向く方向のずれが意味をなさないからだ。映像の中は人が片眼で見たのと似ている。そこでは相対的な位置関係と普段の暮らしの中で掴んでいる「大きさについての常識」が大きな意味を持っている。もちろん、絵画の遠近法など、人間は平面画像に充分慣れており、このことは映像を見る際に人間に大きな違和感を抱かせない。しかし、映像を見るという作業は、同じ位置のものを見つめることを強いるため、それによる眼の疲労は当然現れる。

眼でものを見るということと、映像の根本的な差のうち、拭いようのないのが「カット」という考え方である。映像の仕組みから、疲労には直結しないもののそのショックは大きい。ここに初めて映像の本来的な力の源がある。実際の生活の中では起こり得ないショックであり、そこに新たな意味が持ち込まれる。映像の進歩は撮影技術の進歩と共に、この映像の編集の進歩であると言えるだろう。


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