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chiro128
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映画、フィルムの誕生とは全く別の場所で培われた技術が相当に早い段階から映像の世界に持ち込まれたものがクレーンとドリーだ。
クレーンは建設現場から、ドリーは線路から。もちろん、その後、カメラを手持ちで扱えるようになったため、手持ちで動くショットを専らドリーと呼ぶ習慣も日本にはある。しかし厳密にはドリーはレールの上カメラ台を設置し(タイヤ付きのカメラ台もある)、三脚を立て、カメラ本体を固定して行なうものを指す。ここではその区別はしない。またさらに動きの距離の長いトラックショットも区別しないものとする。
ドリーショットを行なう場合は、町並み等の流れる風景を撮る場合と、人や自動車など動く対象物に付いて行く場合とが大きく分けて存在する。前者は町に来た人々がまず最初に感じる町の空気に近いショットで、違和感がない。また、立ち去る時にも同じ風景に出会う訳で、その使用方法も幅があるだろう。
一方、対象の動きに応じてのドリーショットの場合はその対象と撮影者との関係が如実に表れるので、注意が必要である。無意識のうちに撮ってしまったドリーショットには撮影者の意識がそのまま読み取れるショットになっている。もちろん、編集でその立場すらひっくり返すことは出来るが、それは後段での話である。ここではまず、正しいドリーショットの撮影を考える。動きの柔軟さから、基本的に手持ちカメラを念頭に置く。
まず、正面からドリーショットを撮るとしたら、その時点で撮影者は対象に対してある合意の上の知識を持っていると言ってよい。つまりそのショットを撮れるということが事前に判っていた訳だから。対象は撮影者を裏切らずにその方向へやって来るのだから。そういう撮り方をした段階で撮影者は対象に対して批判的ではない場合が多い。両者の間には合意があるからだ。(相手に対して批判的な場合は様々なことが起こりうるが、それはここでの主題とは別の問題であるため、論じない。)
背面からのドリーショットはどうだろう。基本的に対象がその後、どちらに動いても対応可能であり、その動きに付いて行くはずだ。撮影者はこの場合ニュートラルな立場で有り得る。しかしこのショットだけでは対象をきちんと表現出来ない。このショットが必ず前後のカットとの編集次第で意味を持つものだ。
真横から、というのは極端に恣意的であり、これは正面からと同様、対象に対し本来、批判的ではありえない。しかし、対象との距離によってはそう感じないこともあるだろう。映像について語る場合、必ずしもきちんとした基準はなく、その映像に限っての印象も大きい。
ここに至り、撮影方法が充分恣意的になるため、ショット自体の技術的な面を別にして、編集した結果の前後のカットとの関係性を抜きに語るのは難しくなってくる。自然な眼の動きからは判断が付かず、その時にあなたがそこにいたらどう行動するか、という質問に至るからだ。撮影者と対象との間には間違いない人間的な関係性(肯定的であれ否定的であれ)があり、カメラの位置はその関係性をまさに表現せざるを得ない。フィクションであろうとドキュメンタリーであろうと、撮影者がどう撮ろうとしたのかを考えた時に、この問題は基本的に等質である。その問題は最早1カットの中の話ではなくなってくる。
更に恣意的なのがクレーンを使ったショットだ。セッティングだけで充分に時間がかかるのだから仕方がない。更に、クレーンからの視線というのは本来の人間の視線ではあり得ないショットだから、すでに特殊な映像となる。通常の感覚から離れているため、クレーンショットは充分に恣意的であり、それだけに撮影段階でそのショットの意図を考え尽くされるべきである。そして高さを変えながら移動できるという利点を活かすと、他の方方ではなし得ない効果を得ることが出来る。
葡萄の葉が重なる映像からクレーンで少しずつ上に移動していく。視線はそのままやや下げたまま。ピントだけが送られて行く。するとそこには若干霧のかかった川が見える。ヨーロッパの典型的なワイン畑の地形をこのショットは充分に紹介してくれる。そこにはパンショットでは満足し得ない深みがある。ズームバックでは出来ない驚きがある。
普段の視線から離れている分だけ、そのショットに与えることの出来る意味は広く、その分撮影時にきちんとした設計をしておくことが大事だ。この場合、今まで紹介してきた基礎となるショットの組み合わせとしてクレーンショットを受けとめるべきであろう。クレーンショットの指示が出来れば、他のショットの指示は数段簡単だ。
日本では一旦クレーンを据えるとそこで数カット撮影することが求められるが、世界的にはそれはあり得ない。またショットというものの性質からもそれは本来あり得ない。その場所に据えて、こう撮る、というのがクレーンショットの指示であり、その場所からは1ショットのみが有効なはずだ。もちろん、スポーツ中継など、この範囲ではない場合もあるが、基本的な撮影では1ショットごとにクレーンの位置は違うはずだ。(同様なことはすべてのショットについて言える。)
クレーンショットの指示もまた前後のカットとの流れを意識しなければ出来ない作業だ。
最早、ひとつのショットの問題ではなくなっている。ではどういうクレーンショットが有効なのか? それはやはり流れの中で決まってくる。それは編集を知った上で判ることだろう。更に特殊な撮影も含め、編集について考えた後に再び考えていくことにする。その段階ではクレーンショットであるか、フィックスであるかに大きな差はない。それぞれのカットの複合体として映像は存在するからだ。まずは編集による意味の変化を考えていこう。
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