chiro128

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カメラは画角のみで映像を決定する機械ではない。ここで簡単にレンズの仕組みについて触れておきたい。レンズの仕組みと映像には当然深い関係がある。
ズームを動画で使用する場合の問題点は多々存在している。カメラのレンズは単一のものではなく、複数のレンズが組み合わさって像を生成している。レンズ自体が明かりを充分効率的に送れるものだとすれば、そのレンズは絞りを充分に効かせ、レンズの芯の部分のみを使えばいいことになる。その場合、ピンホールカメラを考えれば判る通り、倒立した像がどこまでもピントがあった画像として結ばれることになる。
しかし、現実的にはなかなかそうはいかない。まず色、つまり光の周波数によってレンズの中での屈曲の度合いが微妙に異なっている。これを色収差と呼ぶ。複数のレンズを組み合わせることにより、できるだけ色収差を避けているものの、極端なズームをした場合や光量が不足している場合、つまり、絞りを開けてレンズ全体を使わないと撮影できないような条件下では、色収差ははっきりと現れてしまう。(ズームでアップを狙い、更にエクステンダーをかけた状態で色がにじむのはこれが原因である。)
次にこれもズームを使用した場合に起きるのだが、ピントが合わない現象がある。ズーム前と後ではレンズの配置は変わっている。充分明るい環境では、絞りが効いているので、この変わり方が基本から大きくずれない限り、きちんと像を結ぶ。しかし、光量が不足している場合、レンズ全体を使用することによって、焦点の合っている範囲が狭くなっている。レンズは位置がズームにより変わることで、焦点の合う範囲もまた変更を余儀なくされる。バックフォーカスを合わせる、と日本では言うが、レンズの微調整として、もっともアップで撮影した状況でピントを無限遠点に合わせ、もっともひいた状態でピントを無限遠点に合わせる調整を行なう。この2ヵ所でピントが合えば、その中間時点でも無限遠点は無限遠点としてピントが合うことになる。(現実的には充分に遠いものを目安として行なう。) この作業が技術的に可能なものとなって、ようやくズームレンズは動画の世界で活かされるようになった。

こうした特性はレンズ毎に違う。この違いは時に厄介なものだが、使い方によっては映像の表情を豊かにする。色のにじみもまた狙って撮影するのならば効果的なのだ。
光源からの光がレンズ内に直接入った場合に起きるレンズフレアはズームをすることでさっと動く。夏の暑さを表すのによく使われる太陽を真ん中に据えた空のショットはズームを使うことで同心円状になっているフレアの位置が綺麗にずれていく。レンズの位置関係がずれるため、こうした変化が起きるのだ。画像としては汚れであるはずのこうした現象も効果として用いることができる。リアルな映像を求めて、撮影時にはそうしたフレアがなかったのに、後から編集室で付けるようなことも最近ではまま行なわれている。
しかし安易なフレアやレンズの特性を乱用したような映像は慎重に使うべきであろう。それは間違いなく、実際の対象を見にくくするものである。必要なのであればするべきものであり、その必要がない場合は使用をしないことを勧める。悩むようであれば、両方を撮影しておくべきであり、大半の場合、こうしたレンズによる特殊効果は陳腐な映像表現を生む元となる。
さらに撮影には様々なフィルターを用いることができる。フィルターを使うことをただの気取った撮影だととらえるカメラマンが多く嘆かわしい。本来、自分の目的に沿った映像を作るにはフィルターは役に立つ、しかも簡単な道具である。
その場ごとの色温度をグレースケールや白い紙で調整するのはカメラの色の調整として必要だが、それ以上に撮影したいトーンを出すにはフィルターが重要になる。フィルターを使うことで特定の色味を削ったり、逆に強調したりすることができる。これはカメラの電気的な色調整では不可能なバランスの崩し方である。
もちろん自分達はどのように撮影したいのか、がきちんとしていない限り、フィルターは使うべきではない。フィルターは純粋に特定の色を削ってしまうからだ。後から調整しようとしても、ない色は殖やせない。後から減らすことはできるものの、殖やすことは他のバランスも同時に壊していくためである。

レンズにしてもズームレンズを必ず使用するのが当然になっているが、それも大きな間違いである。
単レンズは特定の画角しか存在しない。ならば必要な場所まで動けばいい。そういう発想に立てば、カット毎にカメラ位置は変更され、レンズは換えられる。こうすることでカットを撮ること自体に強い目的意識が生まれる。
何よりも今の映像制作の現場に欠けているのは考える作業だと言えるだろう。挙げ句、レンズの特性も知らないカメラマンが育ち、単レンズの存在を知らないディレクターが生まれてくるのだ。


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