chiro128

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カットの集合によって映像作品はできるとして、全体構成を考える時にはカットは並列に並んでいると受け取る訳にはいかない。カットが集合してひとつのシーンを作り、シーンが組み合わさって、一つのシークエンスが出来る。そうしたシークエンスの集合が作品全体となる。もちろん、そこまでの長いものではない場合もシーンの集合体として全体が出来ている。構造の複雑さと長さは基本的に比例している。
生まれた時から映像に接している私たちは最早映像の論理をいちいち気にしないでも見ることができる。しかし、間違いなく、頭の中でカット単位だけではなく、その集合としての固まりを意識している。またその集合としての全体を意識している。ばらばらなものでも、ただの並列なものでもない、構造のあるものとして捕らえているのである。映画やテレビ番組を誰もが楽しめるのは、こうした構造が共通した認識で受け止められているからである。いちいち映像について難しく考えなくても受け取りはできる。もちろん、発信もできる。

では、どのような認識に基づいて集合を見極めていくのだろうか。
まずはそこに写っている部屋や風景が同じかどうかでひとつの基準ができるだろう。同じ場所である、ということだ。次に時間の一致を感じるかどうかがひとつの基準となるだろう。人物が共通かどうかもそうした基準のひとつだ。こうした基準が大きく変わった時にシーン(またはシークエンス)が変わったと判断していく。
判断基準を明確にさせるにはロングを使って違う場所であることを印象付けたり、夜景を見せて時間が経過したことを表したりしている。もっと巧妙な切替えはいくらでもあり、枚挙に暇がない。様々な編集によるシーン切り替えの印象を選択することは映像表現を考える上で大きな意味がある。
実際に映像を構成している段階で、シーンの順序をまるまる変えることがある。その方が理解しやすいと考えられる場合や、逆に理解は遅らせるものの、布石として有効になるなど、結果として効果的な場合だ。シーンを入れ変える場合、シーンの切り替えが以前の編集のままでよい場合もあるが、本来、シーンを切り替える瞬間のカットは意味が大きく変化するため、同一ではあり得ない。もちろん同じカットでいい場合もあるが、その意味合いは変わるのであって、したがってカットの長さも編集点も同一ではあり得ない。
本来、撮影する段階で、ドキュメンタリーであろうと、編集についてはある程度は考えておかねばならない。編集段階での変更を見積もると、エクストラカットは用意すべきであるし、その撮影の段階でシーン内の映像構成の流れは考えておかねばならない。これ以上はカット編集の話の繰り返しとなるので止めておこう。
こうした準備を経て、映像の編集となる。構成は全体を通して言いたいことを言うための論理構築である。したがって、言いたいことを伝えるために一番有効な構成を見つけ出すのが仕事だ。映像の構成とは箱を積んでいくような作業だ。箱を順番に開けていくことで何かを理解させ、何かを感じさせるのが映像表現だ。箱の順序は大きな意味がある。上の箱を開けないと次は見ることができない。 ではどの順番にするか。大きな箱、シークエンスの構成はこうして組み立てていく。その箱を開けると中には映像が順番に入っている。これも小さな箱の積み重ねのようなものだ。シーンの順番、カットの順番どちらも同じ論理に基づいている。
こうして文脈が作られていくが、10人いれば10通りの答が出来てしまう。映像は人によって感じ方が異なるためで、何が最高というものではない。それぞれに一つの答となり得ているのだ。しかし多くの人に有効かどうか、見ていて感情が動くかどうか、は映像の構成により大きく左右される。まさしく文章を作っていくのと同じようなテクニックがここでは必要になってくる。
こうした考え方は現実の編集作業、構成作業の最中には無意識の中で行なわれていると言っていい。しかしある程度意識的に行なうべきであり、そうすることでドキュメンタリーのコメントなども最初からこれと定まったものになっていく。何を言いたいのかがはっきりしないままにカットが積み重ねられていくとしたら、映像に引きずられる形で文脈が生まれていることになる。それはあるべき編集の姿ではない。言いたいことがまずあって、そのためにどうするのが効果的なのかを考えていくのが編集作業だからだ。そうしない限り、編集結果を見るのはただの印象についての批評になってしまい、無意味なものになる。

文脈の構成はなんとなく作るものではない。きちんとシーンに論理的な意味をどう持たせるかを考えた上で決まるものだ。同じ映像にも違う意味を持たせることは出来る。その映像を用いて何を表現するのか、その映像に至るところでどんな論理関係が存在するか。そうした事象によりシーンの意味合いが明確になり、また、視聴者にも明確な意味が伝わる映像作品となっていく。


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