chiro128

ケネディ宇宙センターとその周辺

ケネディ宇宙センターがなぜ、小さな島にあるのか？　これは簡単だ。打ち上げというのは恐ろしいまでの燃料を一気に使う作業だから、民家のあるような場所ではできないのだ。発射台（アポロ時代からずっと使っている）の周囲数キロメートル以内は打ち上げ時には立ち入り禁止区域になる。もちろん何かあった時のためだ。ケネディ宇宙センターのある島にはNASA施設以外には何もない。その上、大西洋側の岸はウミガメの産卵が行われる場所でもある。この島は自然保護区なのだ。だから、ペリカンは飛んでるし、アルマジロはごろごろいるし、野ブタが瞑想してるし、ワニが丸太の真似をしている。打ち上げの映像を丹念にチェックすると煙（高温の水蒸気世界）に巻き込まれて命を失う鳥がけっこういるのだ。打ち上げ後のNASA職員はこうした鳥の後始末もしている。
普段宇宙飛行士はこのケネディ宇宙センターにはいない。ヒューストンのジョンソン宇宙センターにいるのだ。打ち上げ数日前に宇宙飛行士は戦闘機に分乗してやってくる。NASAは空軍なんだ、と思い出す。着陸後、当たり前のような顔をして笑顔で応えている彼らを見ていると人間には見えない。精密機械をみているような気持ちになる。
撮影のために行ったのだが、私たちの窓口はNASA広報。他の日本からの報道の方々は日本の宇宙開発事業団だった。おかげでだめな日本報道スタッフとは一線を画した場所で密かに仕事ができた。なんてったって、あの人たちは集団行動が好きな上に手抜きが好きなのだ。一緒には動きたくない。「何すんの～」という声が方々から聞こえる。NASA広報のおじさんが、なんで日本人は宇宙開発事業団を窓口にするんだ、ワンテンポ遅れるのが判らないのか、と聞いてくる。いや、あの人たちは英語はだめなんだ、と応える。宇宙開発事業団は通訳もするのか、と言うので、そういう訳じゃない、と応える。毎度日本の報道スタッフに悩まされているようだ。
プレスセンターでは英語でのアナウンスが頻繁に入り、細かな変更が判る。更にモニターを通じて、宇宙飛行士たちの動きはしっかりと伝えられる。宇宙センター内は恐ろしいほどの数のカメラが設置されていて、NASA TVのスタッフがルーティンのスイッチングで見せてくれる。映像が欲しい時には日付と時間を言えば貸してくれる。実にスムーズなのだ。
宇宙飛行士たちは全員メディア検収を受けている。突撃取材だろうが何だろうが、NASAイメージ通りにきちんと受けられるようにするための研修だ。若田さんの場合、NASAのミッションスペシャリスト（シャトルの運航に携わる資格を持っている搭乗者）だから、当然この研修を受けている。だから受け答えも見事だ。
ちなみに宇宙開発事業団と日本からの報道スタッフはよく「懇親会」を現地でしているらしい。そういう相談の声は聞いたし、翌日には「二日酔いですよ」という声もよく聞いた。何しに来てるんだろう？
スペースシャトルは一機ずつ名前が付いている。コロンビア、チャレンジャー、ディスカバリー、エンデバー。これは大航海時代の帆船の名前から採っている。テーマが大航海であり、帰還することが前提となっているのが判る。一機だけ、アトランティスのみが深海探査可能な船から採られている。これはチャレンジャーの爆発と関係があるのかもしれない。
一回ごとの飛行にはそのミッションに合わせてエンブレムが作られる。NASAマーク同様、宇宙飛行士たちの服に取り付けられているので、注意して見てほしい。そのミッションがどんなものなのかを表し、参加者の名前が入れられ、どこの国が参加しているのかが判る。更に、アメリカの国鳥である白頭鷲が描かれている場合は軍事目的が含まれている。どんなエンブレムがあるのかはNASAのホームページで探してみるといい。各ミッションはSTS-XXXという表現になっている。最近のものはPDFファイルで内容を知ることができる。
スペースシャトルは２０階建てのビルのように見える。これが空に飛んでいく様は圧巻だ。発射台まで6.4キロの場所が立ち入りが許されている場所だ。この距離の場合、音はだいぶ遅れて届く。だから、まずは飛んでいく機体と水蒸気が作る煙が見えているだけ。音は地響きのようにやってくる。音というより振動。やがてその振動がどこかに吸い込まれていくように消えていく。こればかりは現地で感じてもらわないと伝わらない。
役に立つこともないような話だが、NASAの話はまだまだある。いつか続きを書くかもしれない。

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