chiro128

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裏付けのある勇気


自分がとても興味あること。それすらなければもう本当に話にならないのだが、まあそんな人は滅多にいない。この興味のあること、というのはやはり大事だ。しかし興味があるというだけでは意味はない。考えよう。
好きなものに対しては人は多大な努力を平気で払う。はまっていくとどんどん加速し、より一層はまっていったりもする。そうしてその人の趣味や暇な時間の使い方が決まってくる。(もちろんそんなもののない人は本当に違う職場を勧める。)専門用語を駆使できるようになり、そんな話の分かる年齢の近い人と一緒にいると楽しく、自分の存在意義まで感じてしまう。提案を書く、番組を作る、というのはどうもこの方向にはない。しかし、専門知識があるとしたら、それはきっと何かになるのだ。

「ウチの番組もホームページを持ちましょうよ」先輩が提案会議の席で発言する。あまり強気じゃない君はそんなことを考えもしなかったというだけで、へえっと思う。でもその必要性を感じない。プロデューサーが「それどのくらいかかるの?」と聞く。「大したことないですよ、今なら局内に担当の人いますから、ちょっと話せば場所もらえますよ」「その必要あるかなぁ」「今時、ない方が変じゃないですか」
このレベルは即刻退場。たいていの番組はそんなものを持つ必要はない。現在番組が持っているホームページで人々が訪れるのはドラマやバラエティ番組のページだ。しかし、そこをきちんと覗いてみると判る。人気番組でも、掲示板(安易に付けてしまったんだろう)は閑散としている。つまり人がそういうところに書き込むのは相当な理由がないといけないのだ。番組に反映させたい、と言うが、そういうフィードバックは苦しい。放送作家の卵が陰で投稿して補っている所はまま存在するのだ。無駄な話はやめよう。要はこの先輩は提案が書けなかったのだ。その埋め合わせにそんな話をしている訳だ。
別の先輩の提案。専門用語がびっしり。彼が大学時代に建築の勉強を囓ったのだ。でっも一般教養レベル。実は大したことはない。ポストモダンとは何だったのかを具体的に表現していく、なんて書いてある。もちろん、説明もそのまま。誰も判らない。「自分が理解できないだけで提案の善し悪しじゃないんだからな。この会社、建築ネタ通らないんだよなぁ」
そういう問題じゃない。具体的に、人に判るように書かれていないし、言いたいことが他の人に、もっと知りたいと感じさせられなかったから通らないのだ。

専門を持つのはいい。しかし、それを専門用語でしか話せないようなら、番組にしようとしても無理だ。素人に教えるように話すのではない。それは間違いだ。何が面白いのか、専門用語なしで語ればいいのだ。客観的な必要は必ずしもない。主観的であっていい。勇気を持ってそれを語ろう。
次だ。面白いことを理解させた次だ。訳の判らない上司もいる。「今、なぜ、これをやるのか判らない」なんて言う上司が多い。そんなものは時事ネタ以外には存在しない。話していてその先をもっと聞きたい、知りたい、と思うものが「今なぜ」に応える唯一の答となる。「これはこんなに面白くて、しかもみんなの興味のあることなんです」と語ることだ。専門用語なしで。これがその上司に対する答になり、しかも作り手自身にとっても番組にできるかどうかの試金石になるのだ(古い言葉だ)。
これは自分の趣味を番組にしようという欲目の時に限らない。いつだって、この答を考えておかねばならない。それが大事だ。
提案会議の1度や2度で挫けても仕方がない。上司の使う常套句も気にしない。でも説得できなかったら自分の提案は落ちるのだ。勇気を持って何度でも挑戦しよう。

若田光一さんの話はとても判りやすい。航空工学への興味を聞いても難しいことは言わない。難しい話には本当に語りたい話なんてないのを知っているのだろう。「子どもの頃から飛行機が好きで、大きくなったら飛行機のパイロットとか、飛行機に関係のある仕事をしたいなあ、と思ってました。小学生になってからもラジコンとかが好きでしたね」こんな風に応える。「本気でそうなろうと思い始めたのは高校生になってじゃらでしたけど、その頃から航空工学やるなら英語は絶対必要だからと思って、英語はしっかりやりましたね」目的に向かって真っ直ぐで、しかも自分のやっていることをきちんと判っている人なのだ。
だからこそミッション・スペシャリスト、スペースシャトルの運航に関わる技術者になれた。ミッション・スペシャリスト。いい言葉だ。
NASAでは宇宙飛行士全員にメディア研修を受けさせる。NASAの代表としてメディアの質問に対し、どう応えるべきか、というベーシックなところから、突撃インタビューにどう対処するかという高度なところまで一通り教えている。もちろん若田さんもそこで研修を受けた。(ミッション・スペシャリストでない人はこの研修はメニューに入っていないと思う。)そこでは判りやすい話し方も教えられているに違いない。
若田さんの言葉は判りやすく、しかも聞く人に伝わるのだ。伝えたいという意志があって、それを判りやすく伝えているのだ。条件が満たされている。編集マンは「使える」と言う。計算づくの編集マンが、若田さんの話は使える、と言う。もちろん、NASA研修による計算も入っているだろうけれど。

さあ、君の番になった。2年前に書いた、特に愛情もない提案を書き直して、なんとなく熱っぽく喋ってみる。もちろん言葉は上滑りしている。あのプロデューサーが言う。「うーん、気持ちは判るけど、パッとしないなあ。こういうの本当にやりたいの?」うひゃあ、嫌なこと聞く人だなあ。「ええ、まあ、できれば」要領を得ない答をする。
この「本当にやりたいの?」というのは正しい質問だ。その後の反応次第で、取材を実際にしているのか、いないのか、本気なのかどうかはたいていは判る。「ええ」で始まったらもうだめだ。本気なら「はい」と言えるはずだ。

まず勇気が大事だ。それから専門用語を使わないこと。人に感心を持たせること。目の前の会議参加者に関心を持たれなかったら、君がそのネタで番組を作って、人に見てもらおうというのはちょっとやめた方がいい。だからおじさんが何人いようと、その会議を通過できなかったら、番組は出してもしょうがないのだ。
しかし、勇気を持とう。まず大事なのは提案を出し続けることなのだ。


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