ことさくらの 気の向くまま、いつもゴキゲン

2004年12月



■破線のマリス・・・野沢尚

テレビ報道の死角をえぐった、
と言うのは言いすぎな気はするけれど、
ミステリーとして雰囲気のある作品だと思う。
ドラマ向きなんだろうね。映像が浮かんでくる。

■生まれる森・・・島本理生

呼んだ途端にすべてを忘れてしまう小説だ。
ふわふわと軽くてしっとりした感じだけが残っている。
でもそれ以外は全く思い出せない。
読んだことさえ。

■人のセックスを笑うな・・・山崎ナオコーラ

文藝賞受賞作。選考委員の絶賛ぷりがよくわからなかったけど、
でも、面白かったと思う。するする読ませる感じがある。
特別な表現があるかと言えば、そうではない。
むしろ、恋がこんな風にはじまって、おわることがあるということを
改めて書いた。そんな感じ。

結婚している人と恋をするということは、
どんな感じがするのだろう。
このストーリーを男の子が書いていたら、
かなり興味深かったのだけれど。

■菜摘ひかるの私はカメになりたい・・・菜摘ひかる

現役風俗嬢であり、漫画家であり、ライターであるという人。
でも亡くなってしまったのだ。その時はおどろいた。
本を読んでみようと思っていて、初めて読んだ。
つまりは、ごく普通の女の子の日常。正直に伝えている。

■下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん・・・嶽本野ばら

おもしろかった。
派手に違うジャンルの女の子が友達になる物語、ではなく、
お互いをけん制しつつ認め合っていく姿を描いている。
独特の美意識を表した文体。
「それは調子よく行き過ぎだろ~」という展開も、おとぎばなしちっくで。
んん。どうもうまく表現できないわ。

■幸福な食卓・・・瀬尾まいこ

4編の連作で、女の子が中学生から高校生になるまで。
起こっていることは深刻に受け取れることなんだけど、
かわいく真面目になったり、なんとなく流してみたり、
日常ってそんな感じだなと思った。
家族みんなが誠実であたたかいのが、よい。

■バッテリー・・・あさのあつこ

これもなかなか手に取れなかった本。
主人公が野球少年というだけで、
どうも苦手な感じがしちゃってた。
でも読んでみると
中学生になる頃の男の子のキラキラとしたいらだたしさが
素敵に表現されている。とてもよかった。
本当に児童文学?というコメントに納得する。

■密やかな結晶・・・小川洋子

初めてだと思う。ずっと小川さんの本が読みたかった。
おとぎばなしのように進んでいく物語なのに、悲しく美しい。
ざわざわとした感覚とともに消滅していく世界と
あきらめに似た空洞をかかえていく人々。
消えるということへの憧れが、心を揺さぶるのかもしれない。

■火の粉・・・雫井脩介

すごい人を発見してしまった。
新しい作家の本も読もうと手に取ったら当たりだった。
高村薫に匹敵する。しかも怖い。
ストーリー自体はサスペンスの王道なんだけれど、
解説にもあるように、女性の心理描写がすごい。
それが謎解きにからみあってくる。
おもしろかった。しかし怖い。

■血と骨・・・梁石日

戦争を挟んだ朝鮮人の人々を描いた物語。
暴力ですべてをねじ伏せてきた人、人を信じることができなかった人。
生きるというのは、ただ生きるということだと、
そのこと自体に圧倒される。

■告白・・・井口俊英

元大和銀行ニューヨーク支店行員で、970億円の損失を隠し続けた男。
読んでいてむかついて、最後の4分の1は斜め読み。
銀行も大蔵も米連銀もお粗末だったのは事実なんだろう。
一人で苦しむハメになったのは、仕組みのせいもあったんだろう。
でもだからといって、結局のところ自分のせいではないと考えているのは何故?


■錆びる心・・・桐野夏生

桐野さんの短編集。
人の心というのは、ほんの小さな引き金で様々な作用を及ぼす。
誰もが自分の考え方を正しいと思っている。
客観的に見ればどうだかわからない。

■波のうえの魔術師・・・石田衣良

マーケットに迷い込んだ若者の成長物語、というと陳腐かな。
石田衣良っぽく面白くて、マーケットの知識もふんだんに盛りこまれていて。
楽しいけどパンチは無いかもしれない。
単に私のニーズと違うだけかも。



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