烏猫の自由奔放記~It's a Wonderful Life~

Legend of Twlilght


そこにあるべき必然

無いはずの偶然

転ずる

それが召喚術

            魔法書:黄昏の巻



A strange man 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年4月29日 23:28:52
ラグナ様とわかれたあと、我は小娘と一緒に情報を集め始めた。
「・・・で、なんでこんなことになっているのだ?」
「・・・お互い様でしょ?」
「く・・・。」
認めざるをえない、ほんの二分前。

「さて、どこから調べたものか・・・。」
小娘もいることだから魔法もあまり使えんし・・・。
ラグナ様も酷な命令をお与えになったものだ、人間界であまり目立つことをするなと。
こんな雑魚ども数千、数万を葬り去ることなど一瞬で可能だろう、
だがそれができないのが歯痒い。
できないのには、あまりに多くの人間に見られる危険性があるからだ。
強大過ぎる力は畏怖の対象となる、または利用価値を見出されたならば戦争の道具として使役させられる。
まあ後者は絶対にありえない、ラグナ様と我の力を人間ごときに抑えきれるはずがないのだ。それはさておき、つまりは面倒はやっぱり面倒でしかないということだ。ごたごたを起こさなければ面倒にはならない。
「それで、具体的どうするの?」
「ん?ん~そうだな・・・。」
集団の親玉なんていうのはだいたい本陣の最後尾にいるものだ。
「後ろに回りこめないものか・・・。」
「森を突き進めば行けると思うけど・・・。」
土地勘がないからあくまで推測でしか行き先をつかめない、・・・そうか、それでラグナ様は調査をしようとおっしゃったのか。
「なるほどなるほど。」
「な、なんですか?にんまりしながら、気味の悪い。」
「気味悪いとはな・・・!」
言い切りかけてとめる。
ゴブリン達が気づいた様子はない。
・・・危なかった。
(もう・・・ばれますよ?)
(誰のせいだ!・・・とにかく行くぞ!)

なるべく音を立てずに草をかきわけ陣営の後ろ付近まで来た。
「まずいな・・・、時間が足りない。」
「途中道も悪かったから。」
合流の時間まであと半分だろうか、まだ親玉らしきものは見当たらない。
「そろそろ戻ったほうがいいのでは?」
「言われんでもわかっておる!」
だが碌な情報を集めていない。だが仕方がないといえばそこで終わりだ。・・・そうしたくはない。
「・・・あと少しだけ探す。」
「うん、そうしよう。」
意見もまとまったところで・・・。
ここからはもっと慎重に、手を付いて四足で行動。
不意に服の裾を引っ張られた。
「ん?おい小娘、服をつかむな。」
「はい?そんなことしてませんよ?」
んじゃあ誰・・・。
「いよう。」
「「きゃー!!」」
あまりに驚き、叫んでしまった。


結局見つかってしまったわけで・・・。
「・・・そして、お前は誰だ。」
「いやー、面目ない。まさか任務中だとは、迷い込んだ者かと。」
「なぜあんなところで寝転んでいたんですか?」
「いやーホフク前進で君たちに近づいたはいいけど女の子だとは・・・。声かけるのに言葉を選んじゃって、悩んでるうちに行っちゃいそうだったから。」
「・・・この破廉恥が。」
「破廉恥?とんでもない!ただ純粋に君たちと仲良くなろうと・・・。」
「それが破廉恥だと言っている!任務中だろう!?貴様!!」
「君のそのきっつい口調・・・。決めた!結婚を・・・。」
「黙れ、消し炭にされたいか・・・?」
「ふっふっふ、できるかな?縄に縛られてる状態で。」
「あの~・・・、遊んでる場合じゃあないですよ。」
「誰が遊んでるか!!」
「そうだよ~、本気だよ?僕は。」
「殺す!こいつは殺す!!勘弁ならぬ!」
「あははははははは♪」
「軍の人間だろう!?なぜそんなにも軟派なのだ!!」
「ほう・・・ずいぶん楽しそうではないか。」


Surely・・・・ 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年4月30日 19:19:48
木の陰に隠れて様子を見る。
行ったか・・・。
シェスカとレナが森に入っていくのを見たあと、集合場所に戻る。
「・・・出て来い。」
暗闇に向かって声をかける。
「ほう・・・気づいていたか。」
風が強く吹いたあと、何もなかった場所に人が立った。
それは闇に紛れることを得意とする黒装束を身にまとっている。
「見ない格好だな・・・。」
「それはあなたも同じだとおもうけど。」
・・・よく声を聞いたら女じゃないか。
「ここにいるということは軍の関係者だな?」
「ええ、私はギルドだけどね。」
「ギルド・・・?ギルドは今回動けないはずでは?」
「・・・お喋りが過ぎたな、一つだけ聞きたい、男を一人見なかったか?」
「見かけないな。」
「そうか・・・邪魔したな。」
「待て!なんでこの戦闘にギルドが・・・!」
こちらの質問に答えぬまま闇に紛れていなくなってしまった。
どうなってんだ・・・?
・・・わからないことが増えた。


「いない・・・。」
まだ来てないようだ。
結局収穫はなし、あいつらの方はどうだろう。
それから・・・
五分経過・・・。
「・・・。」
さらに三分。
いくらなんでもおかしい。
「ん?」
ゴブリン達の動きに変化が・・・。
視線が後ろの方に集まってるようだ。
何もせずに隊列が崩れそうだ・・・。
「・・・・・・・・まさか。」
後ろに向かって走った。


The man's name・・・。 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年4月30日 23:56:14
「・・・お前は誰だ?」
目の前に立った男は、貴族を思わせる服装にパイプのタバコを吹かしながらこちらを見下ろしている。
「お前だと?ふふふ、無礼だな。」
ふうーと煙を吹いたあとパイプを側近らしいゴブリンに手渡した。
「その気丈さをいつまで保ってられるかな?」
そういった後目線を低くし、シェスカとレナの顎をつかみ舐めまわすように顔を見た。
「ほう・・・、美しい顔だ。」
「離してください・・・。」
レナは懇願するように言った。
当たり前だ、気分のいいいものではない。
「・・・その汚い手を離せ下郎が!」
「ふふふ、震えているぞ?」
それほどこの男は気持ちが悪いのだ。
本質そのものにどろどろとした気持ち悪いものを感じる。
シェスカの持ち前の気の強さもここでは無に等しい。
「さて、どうしてくれようか。」
「ちょちょっ俺にはなんかないの?」
すっかり蚊帳の外に出されている軟派男。
「ん?なんだ?我が下僕どもの餌よ。」
「餌!?こんなにもいい男をあんな汚らしいのに食わせるっての?」
「・・・貴様はいっそのこと食われてしまえ。」
「んな!?ひどいんじゃないの~、ともにピンチな状況に置かれた哀れな子羊じゃないか~。」
「くはははは!子羊か!」
男が高笑いをしながら立ち上がり歩き出した。
「なら子羊らしく扱って差し上げよう、30分の時間を差し上げる、その間に気持ちの整理をつけたまえ。」
「貴様・・・待て!こんな仕打ち、ただで済むと思うな!!」
立ち止まると口元を緩ませながら言った。
「私のことは伯爵と呼びたまえ、下等な人間どもよ。・・・余談だが、私は人間が大嫌いだ、覚えておきたまえ。」
それだけ言い切ると奥に消えてしまった。
「シェ、シェスカ、大丈夫・・・シェスカ!?」
シェスカは震えていた、目に見えてわかる程に。
「伯爵・・・だと?・・・思い出した、あやつは・・・。あやつの名は・・・ザナトゥ。魔界史上でも上位にランク付けされる程残忍で邪悪な男。」
「残忍・・・。」
「邪悪ねぇ・・・。」


動き出す黒狼 1 投稿者:ラザナーシュ 投稿日:2005年5月7日 01:09:18
その夜は、中々寝付けなかった。

「全く・・・!何故私がこのようなことを・・・!」
「まぁまぁ、いーじゃないシェスカ!こうやってるのも楽しいよ!」
「シェ…シェスカって…呼び捨てか…?」
そう、ぶつくさ言いながらも、シェスカちゃんがしぶしぶ手伝いだしたのは、それが起こった日の、太陽が少し西へと傾いたころだった。
最初はレナちゃんに色々言われて、ムキになって反抗していた感はあったけど…ミルちゃんがその場を何とか明るくしよう頑張ったのが功を奏したみたいで、少しずつ手伝ってくれていた。
…と言うより…朝から喧嘩ばかりしていたレナちゃんとシェスカちゃんに業を煮やして、ラグナレク君が一言何か言ったみたいだったけど…
そのレナちゃんはミルちゃんとは何度か言葉は交わしているが、シェスカちゃんとは今だマトモに話をしようとしない…でもそうヤバイ感じの空気ではないし…
「ええっと…私も何か、手伝いましょうか…?」
「ああ、いいよいいよ。シスターさんは座ってて!」
実の事を言えば…私の立ち位置の方が、よほどマズイ気がする。
まあ、私が神聖騎士団の、処女宮の紋章を服に縫いつけているから、どこからどう見ても騎士団の人間だって事丸分かりなんだろうけど…ここまではちょっと…
何か手伝おうと思ってテントの中に入ろうとすれば阻止されるし、他の事しようとすれば何もしなくていいの一点張りだし…
……まぁ…私も…相当無茶な事言って付いて来たのは・…分かってるけど…
それでももうちょっと何かさせてくれればいいのに…

「…ザさん、ラザさん!」
気が付くと、ミルちゃんが心配そうに、私の顔を覗き込んでいた。
「え…っと?どうしたの?ミルちゃん…」
「どーしたじゃないよラザさん!さっきから呼んでるのに、全然反応ないし、てっきりシェルナークみたいに調子悪いのかと思ったんだから!」
「あ、ゴメンナサイ…ちょっと考え事してて…」
ミルちゃんはまくしたてると、私の腕を引っ張って、体を立たせようとする。
「じゃあ…今別に、忙しいとかって言う訳じゃあ、ないんだよね?」
「?ええ。」
そう答えると、ミルちゃんは私の手をガッシと握り、ひたと私の目を見据えて、言った。
「手伝って欲しい事があるの。」


動き出す黒狼 2 投稿者:ラザナーシュ 投稿日:2005年5月7日 01:10:28
「シェルナーク!いるんでしょ?出ておいでよー!」
そうミルちゃんが大声を出すのは、シェルナークさんが寝泊まりするテントの前だ。
本来テントは、男女別で2,3人が一緒に使用するのだが、シェルナークさんの体調が優れない事から、ミルちゃんと同じテント-2人だけで使っている。
…本当は、男女を一対で同じテントにするのは良くないと言われていたのだが、年齢が結構離れているのと、シェルナークさんが他の人との相部屋を嫌がっていた事があって、相部屋を許可してもらったのはいいんだけど…
殆どテントから出てこないのは、どうなんだろう。
体調が悪いのは分かるけど、これじゃあ、余計体調が悪くなるんじゃないんだろうか…
そうこう考えていると、テントの中から、シェルナークさんの手が出てきた。
「…何の用だ。」
「何の用だ、じゃないでしょ!殆どテントから顔出さないで寝てばっかりで!そんなんだからシェルナーク!色がどんどん白くなって、体も細くなっちゃうんじゃない!」
…え?
そう言われてみれば、確かに…テントから出てきたシェルナークさんの腕は男の人にしては細く、また色も白い…
まるで…女の人みたいに…
「…すまない…もう少ししたら顔を出すから…」
「それ昨日も聞いた!んで、出てきたのはみんな寝てからじゃない!あんな真夜中に出たって、体は良くならないんだよ!?」
そう言うミルちゃんの声は、シェルナークさんへの心配の色が濃い。
だがそれに対するシェルナークさんも、本当に体調が優れないようで、小さな声でぼそぼそと話すのみだ。
「ちょっと、シェルナ…」
「その位にしとけ」
ミルちゃんの呼びかけを遮るように言ったのは、アルベルトさんだ。
いつの間にか…気配も感じさせずに後ろにいたらしい。アルベルトさんは、ひょいと顔をテントの中に近づけ、様子を一通り伺うと、
「…戦えそうか?」
「それに関しては大丈夫だ…その為の体力は温存してある…」
「そうか…」
そう言って、テント入り口から離れる。
「あの!アルベルトさん!」
「なんだ?」
「!…その…」
口ごもるミルちゃんに、アルベルトさんは太い笑みを浮かべ、ミルちゃんの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。
「さっきここに来る途中で、シェスカとレナがまた喧嘩してたぞ。手伝う、手伝わないで」
「え…えええっ!?」
アルベルトさんに言われて、ミルちゃんはテントから一度背を向けるが、振り返ってどうしようかと悩んでいるようだった。
「あ…後は私が話を聞いておきますから…」
「ホントッ!?…え…じゃあ、シェルナーク!日没までに一度外に出なさいよ!それ以上体が悪くなっても知らないからね!」
私の一言を渡りに船と思ったのか、そう言うと、ミルちゃんはくるりと背を向け、そのまま二人がいるであろう場所へ走り去っていった。
「アルベルトさん…」
「ん?ああ、二人がまた揉めてるって言うのは本当だぞ?恐らく説得はあんたの方が得意だろうが、あの子が行った方がトゲが後で立たずにすむなとは思ったんでな。」
そう言ってニッと笑う顔には、それ以上の感情や考えが読み取れない。
恐らく、シェルナークさんの体調をおもかんばっての行動なんだろう…
何時、どこから魔物が襲ってくるのか判らない状況では、少しでも多くの兵力を温存しておく事に越した事はないんだろうな…それがかなりの腕利きならなおさら。
「ところで…だ。シェルナーク。ミルちゃんも言ってたが、調子の悪いのは分かるが、このまま外に出ないままというのも、体に悪いってのは確かだぞ?」
相棒にあまり心配をかけさせんな。そう言ってアルベルトさんはその場を去った。
「…優しい人ですね…アルベルトさんって…」
「…………部下想いと評判らしいからな。町の駐屯騎士からも、かなり慕われていたらしい…」
そう答えるシェルナークさんの声は、本当に病人かと思うほど弱々しい。
「…ラグナレグやレニー達は?」
「ラグナレグ君はシェスカちゃんやレナちゃんたちと野営の手伝いで、レニーはそれプラス、アルベルトさんと何か話し合ってるみたいです。ノアさんの事で…」
「ノアの…?」
そのシェルナークの声は、やはり前のように低く、よく通る声ではない。
以前そんな声だったとは、感じさせないくらいに変質してしまった様に感じられた。

その夜は、中々寝付けなかった。
季節柄、蒸し暑くもなく寒い訳でもないのに、眠る事が出来ない。
何か、妙な胸騒ぎがして、私はまぶたを閉じる事が出来ないのだ。
「……」
時間が過ぎて行くに連れ、その胸騒ぎは酷くなっていき、とうとう私は体を起こし、テントの外へ出た。
外は真夜中さながらの様子だ。暗い森の中、真闇になるのを魔物避けの魔法光が遮り、その光に照らされて周りは青々と光っていた。
今の時間帯の見張りはレニーのハズだった。だが今、テントから出た時、レニーの姿は見あたらない。
「………?」
…おかしい。確かにアイツは希代の面倒くさがりだけど、見張りの時間にいなくなるなんて…
そう考えて、テントにある自分の獲物を手に取ると、私は森の中に足を踏みいれた。


動き出す黒狼 3 投稿者:ラザナーシュ 投稿日:2005年5月7日 01:11:30
彼を見つけた時、月は宙の真上に在った。
森を少し入った、まだ入り口の域を出ないところに彼はいた。
だが、その様子はどう見ても、見張りをしているようには、到底見えなかった。
「…レニー?」
ふらふらと、定まることを知らないような視線、森に向かって伸ばされた二本の腕は、何かを掴もうとも見て取れる。
近づいてみると、口の中で何かもごもごと言っているのが見て取れ、それが、尋常ではないレニーの様子を更に際立たせていて…すごく…怖い。
「あ…あの…レニー?」
そっと腕を掴んで呼んでみるが、全く気づかない様子で、そのままふらふらと、森の中へ入ろうとしている。
「…て…しまう…」
「え…?」
「行ってしまう…主が…」
「…レニー!?」
まるでうわ言のようにそう何度もレニーは呟く。その声は何処か弱弱しく、まるで置いてけぼりを食らった子供のようにも思える。
「行かなくては…」
「ちょ…ちょっとレニー!!」


「…邪魔立てする気か?ヴァルキュリアス。」

そう言ったレニーの顔は、見た事の無い表情をしていた。

レニーは昔から、私のことは苦手の様だった。
私が話す時に目は合わせないし、用事があるときは出来るだけ早く終わらせるようにして、一緒にいる時間をなるべく少なくしていた節があった。
今はそれに比べて多少ましにはなったけど…やはり苦手は苦手みたいで、私の前で良い表情をすることは0に等しい。等しいが…

こんな…虫けらを見るような目で、私を見たことが、かつてあっただろうか…?

それだけではない。
闇の中で見るそのレニーの目には、生気が一切感じられず、顔つきも酷薄そのもので、
彼と親しい人が見ても、私の目の前にいる人間がレニーとは信じられないような…いや、人とは全く異質の気配を放っていた。
これは…まさか…でも、そんな…!?
「あそこは魔の力が強すぎるしかもザナトゥ…あの阿呆まで来ているな…そのような所に、目覚め切れていない主とシェスカ、そして…ウロボロスだけを行かせる訳には…いかぬ…」
「…ウロボロス?」
「死に飢えし剣…我が半身とも言える存在…誰の事か分かるであろう?」


命に飢えし剣の言葉に、耳を傾けよ

「!貴方は…」
「ようやく気づいたか。レニーから話は聞いていたが、本気で鈍いのだな?貴様は。」
その衝撃が大きすぎて、嘲る言葉は私の耳を素通りしていた。


門は既に開かれ、閉ざす事を知らぬ


「・…一体・…何をするつもりなんです…」
そう聞くとレニーは…いえ…生に飢えし剣…魔王の武器の片割れは、私のほうを向き、近くにあった長い包みを手に取る。
「…少なくとも、貴様等に余計な危害を加える気はない。弱者を嬲る趣味はウロボロスなら兎も角、私には無いしな。」


霜の夜は門より訪れ、陽も灯火は地を癒すに至らず


「それにお前達が傷つけばレニーが煩い…アルベルトとやらに伝えて置け。皆、明日の夜までには戻ると。」


そしてここに昼は終わり、四の夜の一は始まる


彼が…魔王の武器の片割れが…行ってしまった後も、私はそこで、立ち尽くした。
そして私の頭の中で、枢機卿の『預言』の言葉の欠片が、ぐるぐると回り始めていた。


夢 投稿者:レニー 投稿日:2005年5月7日 01:48:25
『…してくれ』
―――?
『許してくれ…』
―――え?
『このような事、誤って済む筋ではない事は、重々承知している・・・』
その声は、何処からともなく聞こえてきた。
声を認識したとき、オレは光の…いや、白い闇の中にいた。光なら周りが輝いて見えて眩しいだろうが、今オレがいる此処は、そういった眩しさはない…
…が、空間に奥行きを感じられない、ただまわりが白いだけ、そんな場所だ。
…もの凄く訳わからん説明だが、実際、自分でも訳が分からん。
ただ目覚めたら尋常でない場所にいて、そこを思いつくままに表現したらこうなった…しかし、本気で訳分からんな。
因みに聞こえてくる声もこれまた何処からかさっぱり見当がつかない。全ての方向から聞こえてくるような感じだが…でもこの声…フェンリルの声じゃないしなぁ…

『私には、残された時間が少なすぎた…』

そう語る声は低く、男のものだと推測できる。だが、今まで聞いたどの声よりも、その声には悲痛さと後悔が込められており、まるで自分が、死刑台に立たされる囚人の最後の懺悔を聞いてる気にさせられる…
言っても良いかなこの声に…「うっとうしいから止めてくれ」って…

『かつて父と敬い、主として崇めていた方へ打ち勝とうとするには…力もまた足りなかった…』

…こりゃ多分…あれだな。
また誰かの『夢』を拾っちまったんだな…

魔力は常に、吐き出し口を求めている。
はっきりした理由はよく分からんが、魔力と言うのは、一生物に極端な量が集まると、その生物を破壊してしまうため、常に一定の量を保とうとするかららしい。
普通の魔法使いだと、その人間の体内の属性のバランスを保って健康維持をするだけですむのだが、魔力が極端に強い人間はそうは行かない。本人の意識無意識に関わらず、何処かで魔力を使おうと、体が勝手に働くものらしい。
人によっては、怪力(本人の筋力増加)や、透視(視力増加らしい)になったり、その場に存在するものを勝手に破壊したりするらしいが、オレの場合…
他人の『夢』の中のシーンを、『夢』で盗み見ちまうんだよな…
それもわざとやっているのではないので、一体誰の夢を拾って来るんだか分かりゃしないのだ。
あんまり役に立つ能力ではないので、ほとんど気にしてないんだが…今日のはやたらはっきりしていて、しかも内容が暗い。
聞いていてただの苦痛でしかないぞこれは…前後関係分からんから話がさっぱりだし…

『本当は今謝ったところで、その真意が分かるのはまだ先の事だろう…
 だが…その時には私は変わり果てている…今の私を私と見分けられないまでに…』

…てかこれは…夢というか…誰か魔力の高い存在が垂れ流しているメッセージか何かか?
自分に語ってると言うより、第三者に語ってる感満々なんだよな、これ。

『だから…これだけは忘れないで欲しい…これはギフトだと…愚かな私から君に送る事の出来る、
 たった一つの希望の芽である事を…』

…って…こうやって寝てるけど、オレそろそろ、見張り交代の時間じゃないのか?
声がそこまで言ったところで、オレは体を覚醒させようと、意識を起きる事に集中させた。




森の中で 投稿者:レニー 投稿日:2005年5月7日 02:38:29
「………………………」
…………………………………ええっと…………………………
気がついた時――…って言うか、オレ今起きたばっかだよな…?――オレは森の中にいた。
……………正確に言うと、森の中を全力疾走していた。
…今は恐らく真夜中で…辺りは殆ど何も見えない。だが森の中なので、当然あまり背の高くない木や、藪が密集している地帯は当然存在する筈なんだが…それに全く気を止めた様子も無く、オレは走り続けていた。

因みに、何でこんな第三者的に語ってるのかと言うと、
……さっきからオレの意思で動かないんですが…俺の体……

《そりゃあ、私が動かしているからな。》
ってやっぱりか!
物凄くのほほんと答えたのは、案の定フェンリルだ。
『何やってくれてんだフェンリル!てかお前、しばらく眠ってんじゃなかったのかよ!』
《主の緊急事態に、私が寝てばかりいるとでも思ったのか?お前は。》
『緊急事態?』
怪訝そうに言うオレの(心の)声に、フェンリルはチッと舌打ちする。
《まだロクに目覚めてもいないのに、シェスカと小娘と共に、阿呆の様な数の魔物に戦いをのぞもうとしたのだ…
 全く…シェスカは手っ取り早く主を目覚めさせたくてやったのだろうが、今の主のそばにウロボロスがいるのを忘れたか!魔の力があまり強い処に奴を持っていけば、どうなると思っているのだ!》
『ウロボロスって…師匠が使ってた?』
あのやたら禍々しい気を放ってた…あの剣か?
《…あの性悪だ…グレイブが使ってた頃は眠った状態だったが、私が今この状態と言う事は…奴も目覚めつつあると言う事なのだぞ!》
ヤバさがイマイチ分からんのだが…(あいつを主と認識してたら、あいつの意思に従うはずだろ?)取り合えず大変なことらしい。
《…言っておくが、奴は主の意思には従わんぞ。》
…はい?
《あ奴は私とは違い…主の力にひれ伏す存在なのだ…より強く、全てを無に帰すだけの力を持つ存在にだ。今現在、そんな存在は、覚醒した主以外に存在しない…
…が…完全覚醒した主ならともかく…今の状態なら、駄々をこねて自分の思い通りにしようとするに違いない…
血の大好きなあいつの事だ。一度眼が覚めれば、その場に存在する全てを息絶えさせるまで止まらんぞ。》
『…魔物相手なら、別に構わないんじゃないのか?それでも』
《お前…人の言う事をちゃんと聞いていたのか?主とともに、シェスカと小娘が一緒にいるのだぞ?》
――――!!
『滅茶苦茶…やばいんじゃないのか…?二人の命…』
《…二人は…少なくともシェスカは…主にとっては心の大きな部分を占めている存在だ…。もしあ奴がトチ狂って殺してしまえば…主が不味い事になる…》
成る程。だから慌てている訳か。
『んじゃあ、今お前が向かってる…ラグナレク達がいる場所に着いたら、3人を無理にでもキャンプまで戻さなきゃならないんだな』
《いや…それだけで事が収まらぬかも知れぬ…》
『?どういう…』

――――ほう?これはこれは…久しく見なかった顔だな

その声がした瞬間、オレは…って言うか、フェンリルは動きを止めた。
さっきからどんどん、ヤバい位に瘴気が濃くなってはいたが…こいつがいたのか…
『フェンリル…オレの得物は?』
《今背に背負っているそれだ…テント内にはそれしか見当たらなかったんでな。》
『背のって…これ遠距離用だぞ!至近距離でも使えんではないけど…!あああったく!いつもオレ枕の下に入れてたろうが!』
《そんなお前の細かい癖まで、私が知るか!》
『えーとえーと…ちょと待てよ…玉はケースの中に入れてるし、予備の奴も中に入れてたっけか…?』
《ぶつぶつ独り言言ってるのはいいが…来るぞ。》
そうして、目の前に霧が立ち込めた。

霧って事は…本体じゃない。幻影送り込んできたな…
だが、やばい位に背筋がゾクゾクする…幻影でもこれだけだ。また強くなったのか…あいつ…
幻影だから、多分攻撃されることは無いと思うが…どちらにしろ絶対何か仕掛けてくる…これはきっと、その挨拶と言った所なんだろう。
やっべー…オレ、今度こそ本当に殺されるかも…
次第に霧が明けて来るにつれ、ビビッているオレの心は更に恐怖が支配していくが、俺の体を支配しているフェンリルは、そんなオレの内心をおくびにも出さず、その影にしゃあしゃあと言ってのけた。

「さて…一体何年ぶりの邂逅かね…なぁ?ザナトゥ?」



Awaking 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年5月7日 16:13:03
さて・・・どうしたもんか・・・。
茂みの向こうには縄で縛られ身動きが取れない状態のシェスカとレナ。
しかしさっきの男はなんだ?・・・ここで唯一の人型、ターゲットである召喚士には違いないとは思うが・・・。
動こうにも・・・。

「ねえねえ、シェスカちゃ~ん。結婚式はどこであげよっかー。」
「・・・いつの間に私の名を知った。」
「さっきの話のときにね~、で、どこにする?」
「死んでくれ・・・頼むから。」
「はあ・・・これからどうなっちゃうんでしょうね?私達・・・。」
シェスカと変な男のやり取りのさなか、心底不安そうにレナが言った。
「案ずるな、ラグナ様が我らを・・・」
言葉を切って考えるシェスカ
「我ら二人を必ず見つけて助けてくれるさ。」
「あれあれ?そのラグナって人が誰か知らないけど、二人ってあと一人がかわいそうじゃん。」
「案ずるな、餌になるものなど数にいれおらぬ。」
「餌って・・・俺か!いやー冗談きついよーシェ・ス・カ。」
「く~・・・、気持ちが悪い!!鳥肌が立つ!!!決めた、助かったらまず貴様を殺す!塵一つ残さぬよう消し去ってやる!」
「またまた~、冗談ばっかし!」

・・・な~んか余裕があるようにみえるのは目の錯覚だろうか?
なんて場合じゃないか、作戦実行までの時間があまりない。
そうそうにターゲットを潰さねばヤバイ事態になるのは目に見えてる。
太刀を構える、段取りはこうだ。
まずシェスカ達を助ける、その後・・・手荒になるが護衛をシェスカとレナの魔法で引き剥がす。んで、俺が総大将を叩く。
・・・うまくいくか?シェスカ達にその旨を伝える時間が要るしな・・・。
何とかして俺がここにいる方法を伝える手段がないものか・・・。
そう考えていると気配がして横を見ると、先ほどの闇の装束の奴がいた。
「・・・連れは見つかったか?」
「ああ、寄寓にも目の前にな。」
「目の前・・・?」
視線の先にはシェスカ達と・・・もう一人の男。
「あの男か・・・?」
「ああ、つかまっているとはな・・・。」
てことはあの男もギルドか・・・。
「さて・・・君はどうする?目的は同じようだが・・・。」
「ああ、そのことだが・・・提案がある。」
「ほう。」


「ねえ、シェスカ。ラグナレクさん・・・くるかな?」
「・・・そう信じるしかあるまい。」
そうこうしているうちに時間は過ぎる。
魔法を使おうにもなぜか魔力が練れない、縄に何か仕掛けがあるらしい。
「まあ落ち着け、あせってちゃ成るものも成らんさ。」
「なに?・・・貴様、先ほどとは様子が違うな・・・。」
さっきまでおちゃらけてた男は真面目な顔つきになっている。何かを待っているようだ。
その時、ゴブリンの群れが騒ぎ出した。


「・・・よかろう、得意分野だ。」
「ああ、そうだと思ったさ。」
「ふふ、この格好を見てそう思ったか?」
「まあな・・・。」
「ふふ、見所があるな、どうだこれが終わったらあそこの阿呆に変わって私と組まないか?」
「いや・・・遠慮しとく。」
「そういうな、考えといてくれ。」
そういうと闇に消えた。
「さて、行きますか。」
茂みを飛び出す。


「何だ・・・?急に騒ぎ出したな。」
「あ!シェスカ!」
レナが声をあげた、そのほうを見ると誰かが走ってくる。
「ラグナ様!」


「はああああ!」
太刀を抜き走る。
「動くな。」
シェスカ達の縄を切り開放した。
「ラグナ様!」
「ラグナレクさん!」
シェスカとレナが抱きついてきた。
「悪いが早々に作戦に付き合ってもらう、話は後だ。」
「「はい、何なりと!」」
二人声を合わせて返事をした。


「く・・・人間ごときが我の後ろを取るとわ・・・。」
「そうやってなめきってるからじゃない?」
黒装束の女が男の後ろをとり首に短刀をあてがっている。
「くくく、甘いな。」
「!」
男は腕のなかから消えてしまった。
次の瞬間
「ぐっ!」
後ろから衝撃がきて吹き飛ばされた。
「な・・・何?」
「人間には理解できない事だ。」
男の手に魔力が集まっている。
「しかし解せぬな・・・、魔力を持たない者が気配もせずに近づくなど・・・。」
腕を組み考え込む男、不意に笑った。
「考える必要はない、ここで死ぬものの事など。」
「くっ」
「死・・・ん?なんだこの魔力は?」
男はシェスカ達の方を見た。
「・・・成功したようね。」
「何だと?」
男が女のほうを見るだが黒装束の女は地面に何かを叩きつけると煙とともに消えてしまった。
「・・・消えた、く・・・。」


「はあああ、は!」
シェスカの放つ魔法でゴブリン達が空を飛んでいる。
「Gyoe---!!!!」
「まだまだ終わらんぞ!!この雑魚共がー!!!」
シェスカは手当たり次第に魔法を使い破壊を続ける。
「レナ・・・シェスカに何があったんだ?」
「えっと・・・ちょっといやなことがありまして。」
・・・怒らせると怖いかもな・・・あいつ。
「ずいぶんと暴れてくれているな・・・。」
声のするほうを見ると男が立っていた。
「失敗したのか・・・。」
「すまぬ・・・予想以上に手強かった。」
いつの間にやら横に立っている黒装束の女。
「貴様の差し金か・・・、貴様は誰だ!」
「・・・貴様に名乗る名前はない。」
「ほう・・・まだ私を怒らせたりないか、人間。」
男の手に魔力がみなぎる。
「死にたまえ。」
こちらに向かって放つ。
「く・・・。」
咄嗟に魔力の盾を作りそれを防ぐ。
「大口を叩くだけのことはあるか・・・。」
防がれたことにいっそう怒りをあらわにする男。
「いいだろう・・・最大魔力で消し去ってやる!」
先ほどと比べ物にならないくらいの魔力球体を手に作り収束増大させていく男。
まずい、非常にまずい。防げるか?
盾だって一朝一夕で教わったものだ、防ぐ自信がない。
「くくく、消し飛ぶがいい!!!!!!!!」

貴様ごときに

「!?」

我らが消せるか?

「この声は!」

太刀を掴み一気に抜く。
「うおおおおお!!」
辺りが闇に包まれる、月光が照らす晴れた日に、地上で急速に広がる闇。

我が名はデスマネージャー、死を司るものなり。
力なき我が主よ・・・、その魔力をニエとし我と永遠の契りを結べ。

この感覚は・・・なんだ?
ひどく・・・冷たい。

「ぐああああああ!」
闇が一気に吹き飛ぶ。
そしてラグナレクがいた場所には、人間の姿をした彼でなく、その姿は刃の部分が肥大化した刀状の剣を手に持ち、空に翼はためかせる漆黒の龍の姿をしていた。
「変化だと!?人間が!!!!!!」
溜めた魔力を男は放つ。
「がああああああ!」
だが漆黒の龍は手に持つ刀で魔力を切り裂いてしまった。
「何だと!?」
男は驚愕した。
「ど・・・どうしちゃったの?」
レナはその場にヘナヘナと座り込む。
「不味いな・・・。」
「え?」
「奴が目覚めた。」
「奴・・・?」
「ラグナ様の使っていた刀があったろう、あいつの意思がだ・・・。」


久しぶりの再会は、知られず……戦いの調べに乗せて……。 投稿者:ノア 投稿日:2005年5月18日 13:10:58
……何だ、あれは?

森の中は、暗くてじめじめしていたが、身を隠すには最適な環境だった。
「……あれ、何?」
それに気がついたのは、一人の女性だった。
この女性は「千里眼」を持つとして、引き抜かれたらしい。この能力によって、遠く離れたものでも見ることが出来る。
たが、この事態には、ノア達もすぐに気がついた。
「……竜……」
千里眼の女性が、強張った表情で言った。
その女性以外は見ることは出来ないが、感じる事は出来た。危険な……邪悪な力は、離れていても感じられた。
「何だ……こりゃ」
「知るかよ」
「……危険ですね」
「ああ……この距離なら、向こうからの攻撃が届くしな」
「はい……。どうしますか?」
「ふむ……」
静けさは、たった一匹の竜に、一瞬で打ち壊された。
「こちらかの攻撃は届くか?」
「距離的には……彼が」
そう言って、指差されたのは雷の力をもつ、あの青年だった。
「……仕方ない」
答えは一瞬で決まった。こちら―「王の剣」の団員(仮)は、七名。陣形を組み、戦闘を開始出来る様にする。
「雷」、「炎」、「風」、「水」、「闇」、「千里眼」。そして、ノアの持つ……「時」。

そして、「雷」は……山を消し飛ばす威力で、竜に向かって放たれた。


Power of lacquer black 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年5月22日 10:10:43
「ぐああああ!」
雄叫びを上げながら手当たり次第にその巨大な剣で切り裂いていく漆黒の龍。
「きゃあ!」
レナ達の頭の上を剣が、尾が飛び交う。
「不味いな、非常に不味い・・・。」
いつの間にやら男はいなくなっていたが・・・そんなことは今問題ではない。
「そんな!打つ手なしみたいに言わないでよシェスカ!」
「打つ手はあるさ、だけど・・・。」
「だけど?」
「待て、移動するぞここは危ない。」
木の裏に身を隠した。
「その方法は・・・ひたすら待つ。」
「へ?」
「あの龍はラグナ様であると同時に剣そのものでもある、龍の姿自体は・・・そうだな・・・。」
「変化か?」
黒装束の女が言った。
「そう・・・だな変化の類だ、あの姿の場合は二つの存在の融合なのだ。活動のエネルギーはラグナ様の魔力に依存している。」
「えっと・・・体を乗っ取られて挙句の果てに魔力まで勝手に使われてるってことかな?」
レナが考えながら言う。
「そうだ、そして・・・剣自体が許容できる、使える魔力には限りがある。魔力を無理に、意思に関係なく引き出しているからだ。そしてその値に達するまで待つしかない。」
「手っ取り早くその値に達しないものかねー?」
「大規模な術の発動をすればなんとかなると思うが・・・。」
「こっちに注意を向けて術を使わせるのはどうだ?」
「死にたいか?半径2キロは塵も残らんぞ。」
シェスカは龍を見る。
「ちっ・・・まさか乗っ取られるとはな・・・。」
予想外の出来事だった、・・・あの男のいた場所で奴の半身を見たところで何らかの対策をするべきだったと後悔する。
その時、月夜の下で破壊の調べを奏でる漆黒の龍の上に雲ができ始めていた。
「あれ・・・なんだろ。」
レナが空を指差し、皆そちらを見た。
「雲が渦巻いている・・・、あんなものあったか?」
「いや・・・あれは自然にできたものじゃない、・・・魔力反応だ!」
シェスカが叫ぶように言った。
「じゃあ誰かの魔法?」
「ああ、しかもかなりの規模だ!くっ、どこのどいつか知らんが、このままだと我らも一緒に吹き飛ぶぞ・・・。」
ただならぬ魔力反応に龍も空を見上げた。
「ぐるるるる・・・。」
目を細め忌々しそうに雲を見る。
そして翼を一杯に広げた、まるで地上を守るかのように・・・。
「ジェット・シールド」
低い声で龍が言葉を発した。
その刹那、黒い障壁が空と龍の間に広がった。
「盾・・・?」
「あれは・・・私がラグナ様にお教えした魔力障壁・・・。」
シェスカ達もその盾の中に入ってしまう程巨大で堅固な魔力障壁がそこに存在していた。
魔力が高まり雲が異質な音を発し、巨大な雷が落ちた。
しかし雷は盾を貫くことなく雲散した。
それと同時に魔力障壁が消え、龍は魔力反応が複数集まっている方向に体を向けた。
「ぐおおおお!」
雄叫びを上げた後、口を大きくあけた。
「テンダー・オブ・フレイム!」
業火と呼ぶに相応しい熱量を放つ玉が口に作られた。
空気が陽炎に揺らぎ、枯れ木が圧倒的熱量に耐えられず燃え出す。
そして、発射された。



Return 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年6月11日 19:11:56
激しい閃光に包まれ、それが収まった後には驚愕せざるをえない光景が目に飛び込んでくる。
龍の口から発せられた炎は木々を消し炭にするだけでは飽き足らず、地面を大きくえぐっていた。
雨が降り始める。炎の影響で上昇気流ができ、それが雨雲でも作ったのだろうか。それとも雄たけびを上げる龍が降らせたのだろうか。
とにかくこの雨で火が燃え広がることはなさそうだ。

あたりを見回せば、偉そうな態度の男はいつの間にやら姿を消している。
「助かった・・・の?」
「ああ・・・なんとかな。」
怪我も特に無く、身を隠していた木から辺りを窺う。
その木でさえ咄嗟にシェスカが魔力障壁を展開したが上部のほうは焦げている。・・・それで済んだからこそシェスカ達は無事なのだ。
「ラグナ様は・・・。」
龍はピクリとも動いていない。
「どうしたんだ・・・?」
黒装束の女も先ほどまで共に戦っていた者の変貌っぷりに少しだけ緊張の顔を崩せないでいるが、静けさを迎えて安堵もしているようだ。
「おそらくさっきの術で限界値を超えたんだろう。」
「動かなくなったのはいいけどさー、このあとどうなるのさ。」
『餌』の男もこの後の展開に不安を覚えているのだろうか。
「・・・今、いやなんでもない。」
「元の姿に戻れるはずだが・・・、あ!」
龍が黒い煙に包まれる、煙が雲散すると龍の姿は消えていた。
「ラグナ様!」
シェスカが走り出す。
「あ!待ってよシェスカ!」
それを追う形のレナ。
「あ、俺も・・・。」
「待て、我らは任務中だ。行くぞ。」
「え~・・・ちぇ、利用できるかと思ったのに。」
「・・・その話はまた後でだ。報告もかねて上に聞かねばなるまい。」


「ラグナ様ー!!」
「シェスカ!落ち着いてー!」
押し潰された木々を乗り越えながら龍がいた場所に向かって走る。
「ラグナさ・・・ま。」
開けた場所に出ると、ラグナレクは立っていた。
「ラグナレクさん・・・?」
様子を見ようと近づくレナ。
「まて、様子が・・・。」
それを制す、すると
「シェスカ・・・。」
振り向いて名を呼ばれる。
「主の体・・・返すぞ。」
「!」
「思った以上に魔力が回復していた・・・、我の意思に介入して盾の強度、術の威力を調整なされた。」
「・・・そうか。」
「我は再び眠りにつく・・・、主を守るのに無理をしすぎた。」
口に笑みを浮かべた後、地面に倒れた。
「ラグナレクさん・・・!」
上半身を抱き上げるレナ。
「シェスカ・・・さっきのは・・・?」
「・・・剣だ。」
「変な剣・・・使ってるんだね。」
「ああ・・・。」


「ラグナレクさん・・・大丈夫かな?」
「・・・・。」
本隊が到着した後、その本隊の救護班にキャンプ地までつれて来てもらった。
「夜には・・・目も覚めると思う。」
「シェスカ・・・。」
元気が無いシェスカ、それを案じてかレナも余計なことは言えないし聞けない。
問題は山積みのままだ、敵の総大将である魔族は取り逃がしたまま。レニー、ラザナーシュ共にここにはいない。
まあ本来の目的のゴブリンの大半は龍によって片付けられていたので作戦も成功といえる。
だがあの男がいる限りまた起こりえる事態だ。残党狩りを済ませた兵士もキャンプに合流することなく調査を続けている。
日も何だかんだで傾き朱色の光を放ち始めている。


会えず、離れる。知られない、悲しみ……。 投稿者:ノア 投稿日:2005年6月16日 08:41:42
全体の色が変わった。一瞬、理解したのはそれだけだった。
「いかん、防御!!!」
最初に理解したのは、隊長格の闇の能力者だった。
もちろん、全員基本能力は高い。次の瞬間には理解していた。これは反撃だと……。
「はあぁぁぁぁぁ!!!」
七人がかりで防御の壁を張るが、あまりの炎の威力に押されている。
「ダメだ……押し切られる!!!」
「くそっ!!!」
「最悪だ!!!」
と、悪態をつく。
もはや、戦い等とは言えない。単なる、虐殺レベルだ。攻撃を仕掛けたのはこちら側でも、相手はレベルに合わせるつもりは先から無かったのだ。いや、合わせるつもりどころか、レベルの桁が違う……。
「くそっ……ノア!!!」
「はい!?」
いきなり、隊長格が叫んだ。
「『止めろ』!!!!」
一瞬、全員意味がわからなかった。ノアを除き。
「お前が頼りだ!!!生きる為の!!!」
叫びは心の底から言っているように聞こえた。実際、全員疲労がかなり溜まっていた。
「……了解」
悩みは一瞬。決断は、瞬間。ただ、ノアに出来るのはそれだけ。
「止める……ただ……それだけだあぁぁぁぁ!!!」
ノアの叫びと同時に、世界の時が止まる。
そして、次に時が動くまでに、ノア達は攻撃の危険圏内から離脱した。

It worries. 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年7月2日 23:02:12
そんなこんなで夜をむかえ、飯の支度の始まるころにはレニー達も帰ってきた。
なぜ出かけたかを教えてはくれなかったが、疲労困憊な様子のレニーと、それを気にするかのようなラザナーシュの様子を見て尋ねる気も起きなかったのでよしとする。
それとあのでこぼこコンビだが・・・、
やっとテントから出てきたシェルナークだがまだ本調子ではないのか、ミルアスティー以外顔を見せようとはしない。まあ会話はしてるから問題ないといえば問題ない。・・・声が高くなったとかそんなことは問題じゃないんだと思う。

ともかく色々あったわけで、俺が目を覚ました場所は森の中ではなく、ベッドの上だった。
覚えているのは・・・あの男が攻撃を仕掛けてきたところと、訳のわからないことになっているなか、急激に使われる魔力に嫌な予感がして魔力を使わないように色々試したのだが、そんなことだけ。
目を覚ましたらまず、心配そうなレナの顔と、悪いことをして叱られるのを待つ子供のようなシェスカが視界に入ってきた。
「ラグナレクさん大丈夫ですか・・・?」
「あ、ああ・・・一体何が・・・?」
「え、え~と・・・。」
チラッとシェスカをみるレナ
その視線を追ってシェスカを見る。
「・・・。」
だが何も語ろうとしない、
今にも泣きそう・・・というのが率直な感想。
「シェスカ・・・?どうした。」
「・・・・。」
うーむ・・・一筋縄でいかないようなことがあったのか・・・。
口を少し開いてまた紡いだ、何か話す気はあるらしいが・・・。
「ラグナレクさん、何か食べますか?」
「あ、ああ。食う。」
「わかりました、用意してきますね。・・・少し時間がかかるかもしれないですけどごめんね。」
そう言ってレナはテントを出て行った。
気を利かせたレナに後押しされ、二人きりのテントでシェスカはようやく言葉を発した。
「ラグナ・・・様・・・。」
「ああ。」



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