烏猫の自由奔放記~It's a Wonderful Life~

Legend of Twlilght


「とりあえず何があったか・・・話してくれないか?」
「はい。」
剣に意思が存在し、その意思が目覚めたこと。
悪意はなく、主の危機に反応して起こったことなど、余すことなく聞いた。
「だが・・・お前達を危険な目にあわせたのは・・・事実だ。」
「いえ!」
力いっぱい否定するシェスカ。伏せていた瞳はまっすぐにこちらに向いていて、かすかに涙さえ浮かべている。
「私が・・・悪いのです、剣の覚醒がいつなのかとはっきり見定めれられずにあせったばっかりに・・・。」
「覚醒・・・か。」
壁に立てかけた得物を見る。
「この剣にまつわる・・・物語を話しましょう。」
「物語・・・?」
「はい、人間界にも存在している有名な話です・・・。」


神界と魔界は太古よりいがみあい、争っていた。
しかしそんな争いも、いつしかなくなっていく。
神界と魔界の力は拮抗し、終わりの見えない戦い。
その時の神界の王と魔界の王は講和の道をとる。
その証として、互いに力を差し出す。
神界は命を生み出す生を、
魔界は命を無に返す死を。
強大な力は一つの剣として象る。
だがその剣は神王と魔王の両方を主として認めなかった。
その剣は人間界に封印された。
その剣の力は色々なものを引き寄せた。
神界からは神獣と呼ばれる存在を
魔界からは魔獣と呼ばれる存在を
人間界は荒れに荒れ、人間は脅威を消すために
剣を求めた。
三つ巴の状況はついに争いまで発展してしまった。
時は流れ、なかなか手に入らない剣に
皆諦めてしまいその存在さえも忘れてしまっていた。


It is a misunderstanding. 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年7月23日 11:07:24
「それでー・・・その剣はどうなったんだ?」
「争いがなくなると同時に、行方がわからなくなりました。」
「行方が・・・わからなくなった?」


聖剣とも魔剣ともとれない剣は、作った天界人と魔界人達にさえ、どのくらいの力が秘められているかわからなかった。
製造方法は、もうすでに亡くなった神王と魔王のみが知り、どんなに模索しても、同じものを作ろうとしても、『完璧』なものはできなかった。
そうこうしてるうちに、剣の行方がわからなくなった。
壊れたのか、盗まれたのか。
次に発見された場所は・・・
300年後の魔界だった。
剣は二つに分けられ、魔王が管理していた。
そのときの神王は祖先の神王が作った剣を勝手に扱ったことに怒り、魔王に術を施した。
長命の魔王の命を人間と同じ長さにしてしまう術をかけた。その時魔王をかばった魔王の部下にも術がかかり、効果は分散されてしまったが、他の神族や魔族に比べると明らかに寿命が短くなってしまった。
魔王の命は主の体を離れ浮いていた。
魔王はその命をさらに分け、剣にそれぞれ与えた。


「ここまでがどこにでも伝わっている話です。」
「・・・その魔王と部下ってのは・・・。」
「はい、あなた様と私です。」
これは・・・よく聞く話だ。何説もあるが、シェスカが魔界にいた者だとすると・・・今話したのは語り継がれる中で変形していった話ではなく・・・真実の物語ということか。
「そして・・・この世界にやってきた・・・か。」
「・・・。」
「剣は・・・?どうなったんだ?」
「前に落し物の話をしましたね?」
「ああ、・・・剣もそうなのか。」
「はい、今一つはありますがもう一つは行方不明です。」
「・・・。」
魔王の・・・俺の命が入った剣か・・・。
「もとより剣の力が強大すぎて誰も扱えるものがいませんでしたが、あなたの命が吹き込まれたことにより魔王専用の剣として不動の物となりましたが・・・。なにぶん生き物と化したので・・・。」
「己が持つ力の使い方や道も、剣自体がきめる・・・か。」
「今日のようなケースは初めてです。意見はあっても主の体を操るなどということは・・・。」
「・・・そんだけ今の魔王様は不甲斐ないんだろ。」
「そんなことありません!」
息がかかる位置まで顔を近づけてきた。
「あなたのおかげで・・・私は今、ここにいるのです。」
「それはい・・・。」
手で口をふさぐシェスカ
「体力を回復させます。」
手を口から離す、その手からエメラルドグリーンのやわらかい光が放たれる。
「なんだか・・・落ち着く。」
「癒しにかんしては私の魔力と反対なので素人的なものしか使えませんが・・・。」
心地よい・・・夏の青空を見ながら草っ原で寝転んでるような・・・。自然と目が閉じてくる。
「・・・最後に。」
「え?」
やわい光の中、シェスカの唇が自分に重なるのを感じた。


「・・・入りますよ。」
ラザナーシュだ。
「どうです?調子は。」
「俺よりお前だろ?さっき来てくれたとき思ったが顔色が悪かった、疲れてるんじゃないか?」
「えぇ・・・まぁ。」
含みのあるというか・・・いわゆる真実をかくすような言い方。
ま・・・いっか。
「それよりね・・・。」
照れというか・・・言いにくいというか、そんな表情なラザナーシュ。
「なんだよ。」
「ああいうことは・・・もうちょっと警戒したらどうかと・・・。」
「ああいうこ・・・。」
・・・ま・・・まさか。
「見て・・・」
「偶然!偶然ですよ?その・・・様子を見に。」
不可抗力なんだよ・・・、下手な勘違いされるのも嫌だな・・・。
「えっとあれはだな・・・」
「大丈夫です!ちょっと見えにくかったから私の勘違いかもしれないし、誰にも言いませんから!」
それだけ言い切ると出て行った。
・・・まいったな。
「あ、肝心なことを言い忘れてました。」
「おわっ!!」
びっくりした・・・。
「明日は昼前に出発だそうです。夕方には王都に着きます。」
「あ、ああ、わかった。」


Consciousness 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年8月20日 00:20:26
「あれから調子はどうです?」
「ああ、・・・悪くない。」
「そういえば・・・」
他愛も無い会話をしながら王都までの道のりを進む。
今日も天気がいい、ゆえに気分は最高。
・・・のはずだが。
「あれって・・・」
「なあ・・・昨日の・・・」
ああ・・・わかってる。昨日のだろ?
ひそひそと・・・うるさい。
昨日の・・・事件だな、まったく・・・。
地面は抉られ、木々は焦げ、数キロ先にはクレーター。
誰もがあの光景に驚くだろうし、真相を知りたがるだろう。
・・・だが残念だったな、やった本人でさえ知らないんだよ。
シェスカもそのことについては誰にも話してないし、まあ・・・当たり前か。レナも誰かがそのことについて触れてくると持ち前の明るさと要領のよさから難なく回避しているようだし。
などとため息をつきながら考えていると・・・。
『ラグナ様』
・・・なんだか久しぶりな気がするよ。
『驚かれないのか・・・つまらないな。』
結局反応見て楽しんでやがったか・・・。で、何のようだ?
『サギテンドが覚醒しました、なにか体に変化は?』
サギテンド?なんだそれ。
『その剣の名前ですね、話してなかったですが剣達は命を与えられたと同時に自分で名を名乗りました。』
ほお、んでこいつはサギテンドと?
『はい、もう一つのアライバー・・・つまりは行方不明の剣のほうは私は知りませんがね。』
なんでだ?
『・・・アライバーは名をあなただけにしか明かしませんでした。』
・・・なるほど、じゃあ俺が思い出す、もしくはアライバーが見つからない限り名前はわからないと。
『そういうことだ。』
ふーん、こいつは明かしたんだな・・・。
『そういえば、』
ん?
『いつの間にやらこの会話方式も自然となっておるのぅ。』
なにを今更・・・。
『・・・それだけラグナ様が私のことを気にしているということですか・・・。』
ちょーっと待て。
『やはり昨日の押しは効いたな・・・。』
おーい・・・。
舞い上がってるような、・・・そんなシェスカの様子に。
たまたま近くにいた者達はいつもと違う様子に驚いていた。
『ま、それはさておき。』
コホンと咳払いをするシェスカ。
・・・。
『何か体に変化は?』
特に・・・いや、そういえば・・・。
『はい。』
何か・・・内面に違和感が・・・。
『はい、魔力です。』
・・・すぐわかるんだな。
『てかわかってました。』
・・・おい、じゃあ聞くな。教えろ。
『自覚する事が大事なんです、特に魔力の面ではね。精神的なものが左右しますから。』
難しいな・・・。
『理解する必要はないです、ただこんなものだと自覚することで魔力は成長し強くなります。故に自分をはっきり持つ者こそ、魔法という面では強いですね。』
なるほど。
『まあ・・・ラグナ様は自覚というより思い出すって感じなんですけどね。』
ふーん・・・、で具体的にどうなったんだ?
『剣が無理に魔力を引き出したことが功を奏しました、今までよりも魔力の扱いが楽になったんではないでしょうか?』
そうなのか・・・?
『まあその点は使ってみないとわからないでしょうから。』
そうだな。
・・・強くなる、か。誰もが望むことだが・・・。
俺の場合は・・・思い出す・・・か。
空を見上げる。
俺は・・・どこまでの奴なんだろうな・・・。


(無題) 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年8月23日 22:13:41
一方は語るが
偽りを
一方は語らぬが
真実を

反する二つは
あるべき場所へ帰るために
嘘をいい  真実をいい

またあるべき姿に帰るために
力を発し  力を溜める

                魔法書  黄昏の巻 

Flat harmony and the king capital are waited for and. 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年10月2日 00:12:04
出発から数時間が経ち、日が昇りきった頃。
相変わらず横では朝の手伝いがどうのこうので騒いでいる。
・・・そうだったらよかったんだが。
俺とシェスカは王都に向かう行列の最後尾にいる、先日の騒動のこともあり半ば隔離のような扱いを受けているといったところだ。
少し前の方にレニー達がいるが、レナとミルアスティーがちらちらとこちらを見ている。レナは一緒に行動してはいたがあくまで民間人枠。護衛をつけて歩くのがまあ一般的というか安心というか。
その護衛役にラザナーシュが買って出てくれたおかげで窮屈な思いはしてないようだが、落ち着かない様子だ。
最近はいつも三人だったからかな、距離は全然離れていなくてもどこか寂しいのだろうか・・・。いや、うらやましいというか恨めしい?そんな微妙な表情をしている。原因はシェスカであるのは誰が見てもわかるのではないだろうか。これ見よがしに俺の腕に自分の腕を絡ませ密着してきているのだ。まあ・・・はたから見れば中のよい兄と妹、一応それで通っているはずだが一部にはそんな関係に見られているのかいないのか・・・。レナは気づいているのかいないのか・・・、ミルアスティーはそのままを信じてるだろうから問題ない。シェルナークは・・・最近なんかぽーっとしてる感じがしないでもないが・・・、鋭い奴だからおそらく。レニーは興味がなさそう、・・・あくまでなさそうだから確証は無いが。ラザナーシュは・・・。
ラザナーシュを見る。が、目があうと顔を背けられてしまう。原因は昨日の一件だよなぁ・・・。
妹なら・・・いうまでもなく、だからといって恋人というには・・・シェスカの外見は幼い。
そんな相手とのキスシーンを見られたわけで、・・・これでも一応不可抗力なんですがね・・・俺にとっては。さらに弁解するなら、あれはシェスカが単に回復の魔法を使っただけであり・・・その延長上の事・・・ってのは無理があるか。
ともかく変に思われてないといいけど・・・。軽蔑って反応ではないだろうし・・・。
だいぶ脱線したが、なんでこの状況なのかってとこだな。
単刀直入にいうと、監査のせいである。いわゆる目付け役。
軍隊では当たり前にいる王の目、耳役。
国を離れている軍の様子を余すことなく伝える役目のことである。
その監査さんが現場にはいなかったからこの扱いは噂だけの処遇である。真意を確かめるまでもなくあの有様。危険だと判断された上のことだ。
監査さんはノアのことで忙しいらしく、あまり他のことに構っていられないんでございましょうよ。
こんなに皮肉っぽくなるのは、つまらないからだな。
なんだかんだいってもシェスカとレナのやり取りは面白い、お互い理屈は通ってるところがあるからなおさら。
・・・これはこれで静かでいいんだけど、レナ達がどんな思いでシェスカのこの行動を見てるかを考えるとぞっとするような・・・何故かは、わからんけど。


(無題) 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年10月16日 17:17:19
歴史が大きく変わるとき
その者は姿を現す

はじめには漆黒の悪魔として
その力をもって大地に死を降り注ぎ

やがて眠りにつく

しばしの眠りの後
その者は再び現れる

英雄としてあらわれる・・・。


Story of which white dragon fell in love with person 投稿者:ラグナレク 投稿日:2005年12月24日 21:43:36
日も傾きかけた頃、王都から少し離れた場所にある港町に着いた。
王都までもう目と鼻の先、一気に行ってもいいものだが・・・。どうやらそうも行かないみたいである。

この町は王都の関所みたいな役割があるらしく、王都に行くためには必ず通らなければいけないらしい、まあ有象無象を引き入れて問題が起きるのを未然に防ぐのはいいことだと思う。
何やら人材を集めてるって誰かが言ってたか・・・、どんなのがいるかわからないから入念にチェックするんだろう。

しかしだ、軍人をここでとどめる理由がわからない。任務があって、それで戻ってきたということは一刻も早く王都に行って政府やら何やらに報告せねばいかんのではなかろうか?ノアのこともそうだし・・・色々あるはずだ。まあ司令官のみ召喚ということもあるだろう、実際それが一番早いはずだ。

しかしながら、その司令官のアルベルトは俺たちと共にこの町にいる。今はこの町の領主に呼ばれて出払っているが。
忘れてはいけない、あの監査殿でさえ町の中心にある小洒落たテラスで粋にお茶していらっしゃるし。

俺達はというと、手配してもらった宿の談話室で思い思いに過ごしていた。
シェルナークはミルアスティーと話している、ラザナーシュとレニーはそれぞれ用があるらしく着いてしばらくして部屋を出た。シェスカとレナはというと、珍しいことにレナがどこからか見つけてきたカードで二人仲良く遊んでいる。どうやらシェスカはあまり得意でないらしく、負けても躍起になってなんども勝負を仕掛けていた。
俺はというと、
その光景を見ながらボーっと考えていた。
言われるがままにここまで付いてきたはいいが、これから何があるのか、何をすべきかが明確にわからないし。
それにいろんなことが一遍に起こりすぎて混乱さえしていた。

窓の外を見れば船が出入りしている港がある。大型のガレー船のバックには夕日が見えていてなんだか幻想的だ。

今日も一日が終わっていく、こんな風に何かを考え、その先の答えを見出そうとする。そんな一日があってもいいものだと思う。
隣りには遊びで楽しそうに笑いあう者たち、窓の外にはあくせく働く人もいれば酒場で仲間と杯を交わしながら談笑している人もいる。
それぞれの思いを抱えながら日は沈んでいく、夜になれば星も輝き、今夜は月も出るだろう。

荷物がおいてある寝室に行く。
数少ない手荷物から、小さな袋を取り出した。



夕飯のあと、一人でこっそりと屋根に上った。
平らでとても居心地がよい場所だ、潮の香りが漂い柔らかな風が吹いている。

先ほどの袋を取り出す。
中にはとても小さなオルゴール。
実はこれは母親からもらった唯一のものだ。

ゼンマイを巻き、そっと置き蓋を開ける。
単調な、だけどどこか子守唄のように聞こえるメロディー。
流しながら寝転び、天頂まで上った月を見ながら耳を傾ける。


目を閉じると、この調べに乗せながら母親が話してくれた、物語を思い出した。


Story introductory chapter 投稿者:ラグナレク 投稿日:2006年2月17日 22:29:52
「今から話す物語、
それは私の親の親の、そのまた親から伝わってきた。
そして、また私もここから繋いでいく、
親から子へ、未来へと繋げていかなければならないお話。」

「未来・・・?」

「そう、未来。あなたの子供にもあなたが伝えていかなければならない大切なお話し。」

そういって笑顔を見せてくれた。



父さんが仕事から帰ってきて夕食の時間を待つ間に、母さんはよく話をしてくれる。

だけどこのときばかりは様子が違った。

「私たちの一族は、太古から人々の吉凶を占い。そして不幸を取り除くお手伝いをするお仕事をしていたの。」

「魔法使い?」

「う~ん・・・そうね、魔法使いみたいなものだと思ってくれていいわ。」

「ふ~ん。」

「でもね、実際に何か特殊な魔法を使って人助けをしていたのではないの。私たちの一族はね『星読み』と呼ばれる他の人たちにはない力があったの。」

「星読み・・・。」

「星読みはね、未来のことが少しだけわかるの。力の強さは人それぞれだけど。それでも明日の天気や人の生死にかかわることまでもがすべてわかってしまうの。」

「お母さんはそれができるの?」

「うん。」
にっこりと笑いながら答えてくれた。

「僕にもできる?」

「それは無理なの。」

「えーなんで?」

「それは大きくなったときに話してあげる。ね?」

「うーん、わかった・・・。」

「じゃあ続けるわね、その力の凄いことはあなたもわかってくれたと思うけど。そのすごいということを利用しようとする人たちが現れたの。」

「逃げなかったの?だって明日の事だってわかったのに・・・。」

「星読みはね、自分以外のことしかわかることができないの。他人の不幸は言い当てられても、自分に降りかかる不幸までは知ることができないの。」

「どうなったの・・・?」

「うん、私たち一族はね。徹底した管理の下に使役させられていたの。」

「しえき?」

「命令のことよ、やりたくないことを無理にさせられたの。」

「えー」

「でもね、悪い生活ではなかったのよ。力のおかげで助かる人がいたの、そういう人たちが私たちに大きな家と十分なお金をくれたの。」

「うんうん」

「苦労はしなかったといえばしなかったと思うわ、・・・でもね自由がなかったの。」

「自由・・・?じゃあ、好きに遊べなかったの?」

「そう、遊びはおろか結婚相手までが決められていたの。」

「ふーん、じゃあお父さんとも?」

「うふふ、実は私だけはそうじゃなかったのよ。」

この時の嬉しそうな顔は今までに見たことのないものだった。

「違ったって?なんで?」

「私はね、そんな生活に嫌気が差してお家を抜け出しちゃったの。でもね~、今まで家から一歩も出たことなかったから街中なのに迷っちゃって・・・。そのときにお父さん、グレイブさんにあったの。」




The miracle that was able to meet you 投稿者:ラグナレク 投稿日:2006年2月26日 14:35:29
「・・・ぃ」
時は昔、王朝暦にして1270年。
「・・・~ぃ」
時代は国がまだ一つでなく、小国同士ががたびたび戦争を起こしていた頃。
「ぉ~ぃ」
場所は前方に海、後方は山々が連なる一つの国。
「お~い」
その国を治める王のいる城の中庭。
「お~い、起きろ~。」
さんさんと太陽光が降り注ぎ、凪いだ風が気持ち良く昼寝にはもってこいな昼下がり。
「グレイブ!起きろって。」
・・・そんな俺様の貴重なひと時を無粋な声で邪魔する男がいる。
「無粋とはご挨拶だな・・・、早く起きろ。」
どうやら声に出していたようだ、仕方がないのでしぶしぶ上半身を起こす。
「ふ・・・あぁぁ~」
伸びをしながらあくびを漏らす、当然ながら眠気はまだ飛ばない。
「やれやれ・・・これがかの特殊部隊に配属された男かよ。」
「うるさいな、俺だって好きで配属されたわけじゃない。」
「当たり前だ、誰だって好き勝手仕事なんて選んでられないだろ、このご時勢じゃ。そうなるためには俺たち軍人が頑張らんといかんだろ。」
「わかってるよ・・・、はぁお前は良いよな運よくユレーニ様に弟子入りできて。」
「運よくって何だよっ、実力だっつの。言っとくけどな、お前と俺とじゃ剣の腕はお前が上かもしれんがな、知識なら俺のが上だぞ。」
「ほっほう・・・ならお前は俺より頭が良い、とそういいたいわけだ、アルベルト君。」
「ああそうだ、それに剣では勝てなくても俺には拳がある。こいつでお前の剣と負ける気がせんよ。それと『君』なんてつけて頭よく見せようとしてもダメだ。俺はお前の筆記関係の成績なら知ってるからな。たしか・・・」
「死ね!このロリコン頭でっかちの暴力男!」
「誰がロリコンだっ、てめっ!」
「ロリコンじゃねぇか!賢者といっても年は俺らより年下の13歳。立派な犯罪者だよ!お前は!」
「それだけじゃ俺をロリコン呼ばわりする理由になんねぇだろっ!」
「はん!あん時みたいに手を出すに決まってら!」
「あん時って、お前が言ってるのは迷子を世話してたときのことだろ。お前が街中でロリコンなんて騒ぐもんだからあの後大変だったんだぞ!」
「ぷっ・・・。良い気味だ。」
「このやろう・・・お前が死ねっ!」






「いてっ・・・アルベルトのやろう、手加減なしかよ。」
こちらも手は抜いていないが・・・。
この一連の騒動は衛兵に止められた、毎度のことだから衛兵も笑いながら報告しないでくれると言った。
少し腫れた頬をさすりながら呼び出された王の元まで歩く。
「・・・少し目立つかな?」
途中、中庭の噴水の水に顔を映し出し腫れを確かめる。
ゆらゆらと動く水面でわかりにくいが、確かに腫れていた。
「こりゃ・・・アルベルトと同じくらい腫れてるな。」
腕力ではあいつは上とかぬかしてたが、そうでもないみたいだな・・・。
「ふ・・・あ、イテテ・・・。」
思わず口元を緩ませたがそれ行為が痛い。
それにあの自信、手加減されてたかもな・・・。
しかし、
「やべぇな、このままじゃ謁見なんてできやしない・・・。」
しかし急がねばならない。
「あの・・・どうなさいました?」
「え・・・。」
声をかけられ後ろを振り向くとそこには、
「あ・・・痛そう、動かないで。」
「え、あ・・・。」
俺の頬に白く透き通った手をかざす女の子。
ぽう、とやさしい光が痛みを徐々にとっていく。


見たことのない白い装束に身を包み、どこか神秘的で美しい面持ち。
「もう・・・大丈夫ですね。」
にっこりと微笑みながら完全に痛みがとれ腫れの引いた俺の頬をさする。
そんな天使の笑顔に俺は思わず頬を染めてしまった。
「あら・・・どうなさいました?熱でも・・・。」
「い、いや。なんでもないんだ。」
ぷいっとそっぽを向いてしまう。
「えと、ありがとう・・・ございます。」
横目で女の子の顔を見ると。
「いいえ、かまいませんよ。」
またもにっこりと微笑む女の子
「何かお礼をしなき・・・しないといけませんね。」
「そんな、お礼なんて。いいですよこのぐらい。」
「でも・・・いや、なんかさせてください。」
「う~ん・・・やっぱりいいですよ。」
「それじゃあ俺の気がすみません!、・・・あ、私の気がすまないのです。」
女の子はクスッと笑った。
「ふふ、面白い方ですね。じゃあ・・・私とお話してくださいますか?」
「そんなんでいいんですか?」
「はい、私今までお城の中で一部の人としかお話したことがなかったもので。・・・ご迷惑でないでしょうか?」
「いえいえご迷惑だなんて!あんな頬で人前には出れなかったので助かりました。」
「あら、ご予定があったのですね。」
「あ、そうそ・・・」
ん・・・?何か大事なことを忘れている気が・・・。

「あぁぁぁぁぁ!!王様に呼ばれてたのすっかり忘れてた!!!」
「それは大変!は、はやく行かないと!」
「あ、ああ。」
走り出す。
「あ!ちょっとお待ちを。」
「は、はい?」
急ブレーキをかけ振り向く。
「お名前、教えてもらえませんか?」
「あ、グレイブっていいます。グレイブ・ザーグン。」
「グレイブ様ですね?わかりました、ではまた後日・・・。」
にっこりと笑うと女の子はお辞儀をして宮殿の中に入っていった。
「不思議な子だったな・・・。」
あの天使の笑顔を思い出す。
「っと、こんなことしてる場合じゃなかった。」
女の子とは逆の方向の宮殿に向けて走り出す。


A military unit name: A sword of King 投稿者:ラグナレク 投稿日:2006年3月26日 00:47:45
「『王の剣』への正式入隊、心して任務にあたれ。」
「はっ、命に代えましても。」
王の傍らに立ち、大声を張り上げながら大臣が命ず。
俺たち兵士が王直々の命令を受ける時の何変わらぬ儀式だ。
名誉的であることなのだろう、しかし、だ。
これからの生活はどこへ行くにも護衛と称した監視役が数人付き、加えては極秘部隊であるが故に無許可で人と会うことが禁じられる。
そして、お役御免の時まで辞めることのできない職場。
これのどこが名誉的な事態なのかさっぱりだ。
だが俺は一兵士であるが故、文句も言わずに任務遂行を全うせねばならないのだ。
・・・今更ながらこの仕事辞めたくなってきた。
無理なのわかってるがね・・・。





「はぁ・・・。」
いつものように中庭で寝転びながら雲を眺めていた。
確かに、いい面もあるといえばある。王の直属の部隊、その名のためか、住む所は城の中、飯は当然美味い、極めつけは名前を呼んだりこのようにひょいっと手を上げるだけで・・・
「お呼びでしょうか?」
と、専用のお付きが用を聞きにくる。
こういうのは好きではないが、いわゆる貴族達の暮らしというものを満喫している。
配属から7日たった今日、特に仕事らしい仕事もないまま日だけが過ぎている。
しかし、自由に往来を行くことはできず、ましてや人と会うこともままならないので毎日適度に運動して飯を3食きちんと食べ、こうして寝転んで空を見ているわけだ・・・。
「あの・・・御用は・・・」
「あ、やっぱりいいや、ごめんね。」
「いえ、では私はこれで。」
用もないのに呼んでしまったが、笑顔を見せてから元の仕事に戻っていった。
ううむ・・・、よくできた人だ。
なんて年上に向かって思うが俺はまだ18の小僧・・・。
それなのに人生をひどく怠惰に生きているような気がする。

そういや王の剣の他のメンバーにも会ったんだった。
やたらと無愛想な雷を操れる魔導士、
魔獣と契約し炎を操る女弓士、
国立の学問所の学長をしているほど頭のいい風使い、
無愛想ではあるが何かと気が付き優しい感じの水使い、
千里眼と呼ばれる特殊な眼力を持つ者、
といったいわゆる秀でたる能力者というものが集められていた。

俺がここに配属されたのもその能力とやらが評価されたらしい。


神獣と呼ばれる者達と通い合う能力。

この能力に気づいたのはまだ7の頃、住んでた村に迷い込んだ幼い竜が殺されかけるのを必死に止めて逃がしてやった時に、
『ありがとう』
といわれたのがきっかけ。
ただでさえ珍しい神獣と、理解できないといわれた神獣の言葉を理解した驚きは他人には理解できないものだが。
今でも時々人には見えない精霊と会話もしてるし、胸の奥に秘めたままだが、誰も知らないはずの竜たちの住処まで知ってしまっている。
この能力をおおっぴらにした覚えはないが、精霊の力を借りた術などを使ったのが知られた理由だろうな、・・・戦場だったし、傷ついた仲間を助けるには大規模な術が必要だったし、仕方がなかった。


とにかく、仕事なのだから・・・。
割り切ってやるまでさ。

The angel whom there is in a tower 投稿者:ラグナレク 投稿日:2006年4月23日 03:25:21
「王の剣としての最初の任務を与える。」



そう言われて与えられた俺たちの最初の任務は、剣探しだった。
王といっても先の大戦で勝利しその座を手にし、やっと国が軌道にのった今。
王としての威厳を示すものが必要になってきた。
つまりは象徴としての物を探せと言われたのであった。
それは王冠であったり大きな城であったりと様々だろう、この王は剣をそれとするようだ。
では、なぜある意味特別な地位にある俺たちにこんな任務が与えられたかというと。
国中の一流鍛冶屋が打った一品でも満足しなかった王のお目の高さにあるわけで。
お手上げだったところに俺達の王の剣という名前が出て、押し付けられて・・・いやご命令をうけて。
どうしようかと一室で話し合っている最中である。


「剣といっても種類があるだろ?」
「代表して両刃、片刃の2種類か。」
「大臣殿の話によるとその辺のこだわりはないらしい。」
「・・・ふむ、しかし何百と打った剣はすべておきに召さなかったのだろう?」
「それなのに私たちにどうしろというのでしょうか・・・。」

「「う~む・・・」」

皆そうとうまいっている。
「探せってのが何だか引っかかるんだよなぁ・・・。」
「つまり、あれか?伝説の剣でも探しに行けってか?やれやれ・・・。」
「伝説の剣といってもだ、伝説ばかりで実際に見たことはない。」

「「う~ん・・・」」

いい考えがなかなかない、そもそも新たに作ってもダメなものを俺たちがどうしろってんだ・・・。
煮詰まりかけた頃、部屋の扉がノックされ、
「グレイブ様、グレイブ・ザーグン様はいらっしゃいますか。」
と、呼び出された。
「なんだ?」
例のお付きだった。
「レミアム様がお呼びです。」
「・・・え?だ、誰だって?」
恐れ多い名前を聞いた気がするが・・・。
「レミアム様です、レミアム・シェルミスタ様がお呼びです。」
聞き違いじゃないのか・・・な、なんでそんな俺と身分がさらに違うようなお方が俺なんかを、顔さえみたことがないぞ。
「おいおいグレイブ・・・、何かしでかしたのかぁ?」
「え!?」
「ふふふ、いつも庭先で昼寝してるのがばれたんじゃないの?」
見ると皆口元を緩ませ茶化してくる、こちとらそんな場合じゃない。ほんとになんかやっちまったのだろうか・・・?
「と、とりあえず俺は行って来る。」
「はいはい、またここへ戻ってこれるといいな。」
「別れの言葉なんて聴きたくないぞ?」
・・・部屋を出る直前までからかってくれた。



レミアム・シェルミスタ

知る人ぞ知る名前、しかし誰一人として顔を見たことがないという謎の人物。
噂が噂を呼び、齢100をとうに超えた老人だとかなんとかめちゃくちゃな姿が想像されてきている。身分が違いすぎてとても会うことなんて一兵、一民にはできないのであった。
そんなお方が一兵の一員である俺に何の用だろうか?

向かう先は『星詠みの塔』と呼ばれる特別な場所。
城の裏手にある山の頂に高い塀と、堅固な門の中にそびえ立つ塔。
期待と不安が交じり合う中、
門をくぐるとそこには広い庭がある中に、
ぽつんと立つ塔があるだけだった。
極めつけは兵士は門と兵のそとをぐるりと囲っているだけで、中には人一人見えず、これではこの塔を守っているというより、中のものを外に出さないようにしてるようにしか見えなかった。

塔の螺旋階段をゆっくりと上っていく、それほど高くはないが中は広い。
扉の前に立つ、そしてゆっくりとノックする。
「はい。」
中から女の人の声がする、
声質からしてかなり若い。
「グレイブ・ザーグンであります。お呼びでしょうか?」
しばしの間のあと、
「お入りください。」
と先ほどよりやややさしい感じのする声で部屋に招き入れられた。

扉をゆっくりと開けると、
部屋から心地よい風とともによい匂いが流れ、
薄い布の向こうに見える人影は自分よりも小さく、
風により布が舞い上がると、
そこにいたのは、

「お久しぶりですね。」

以前あった天使の笑顔の女の子だった。

A reencounter with an angel 投稿者:ラグナレク 投稿日:2006年5月5日 22:31:38
「お元気でしたか?」
なんというか、軽い・・・いや重過ぎるほどのショックをうけている。
「は、はい。勿体ないお言葉感謝したします。」
自分より身分が上のものが少しも偉ぶることなく、笑顔で、丁寧な言葉で語りかけてくる。
「あの時はお忙しそうだったので名前を明かせず、申し訳ありませんでした。」
そういって深々と頭を下げてくる。
「お、おやめください。自分のような下賎なる者にそのような振る舞いは・・・。」
「まあ、そんなことありませんよ。あなたはとてもすてきな方ですわ。」
そういってこちらの手をとりにっこりと微笑んでくる。
やんごとなきお方たちの性格はきまって傲慢で、人を道具のように扱うものしかいないと思ってた。
それ故に、この女の子がいまだにレミアム・シェルミスタと呼ばれる、この国でも大臣に並ぶ身分であるお方とはとても信じられない。
「あの~、御用は何でしょうか?」
しかし、だ。パッと見の印象として身につけている服は白色の修道服のような感じだが、生地は見た目にも高級品。部屋の広さは50人あまりが寝泊りしている兵舎のざっと2倍。紛れもなくやんごとなきお方であることは間違いないのであろう。
「御用・・・というほどのものではありませんね、あの時はお忙しそうでしたのでろくにお話もできませんでした・・・、またお会いしたいと思っていたので・・・すみません、ご迷惑ですよね・・・。」
しゅんとなりうつむいてしまった。
「い、いえ、そんなことはありません。ただ、レミアム様ともあろうお方が私などをお呼びになられるとは、私に何か不手際があったのかと心配していたしだいで・・・。すみません、御用はなどと不躾でした。」
「いえ、お忙しい中私のわがままでこんな辺鄙なところにまで足を運んでいただいて、すみません。」
「とんでもない!私でよければいつでもお呼びください。大概暇なので!・・・あ、すみません、公務を暇などと・・・。」
「・・・ふふふ」
「え・・・?」
レミアム様は笑い出した。
「何だか私たち謝ってばかり、おかしいですね。」
笑い方ひとつにしても上品だと思う、整った顔立ちに似合う笑い方。見とれてしまいそうだ・・・。
「そうだ、お互いの自己紹介が途中ですね。」
たしかに、相手が有名人であることを抜かせば俺が名前を名乗ったきりであることは確かだ。
さっと衣服を整え、凛と目の前に立つ少女。そして上品にお辞儀。
「私の名前はレミアム・シェルミスタ、星詠みと呼ばれる仕事を生業として先祖代々ここで働いています。レミアムとお呼びください。どうぞお見知りおきを。」
俺は天使と再会したらしい。



忘れていた、あれ 投稿者:ラグナレク 投稿日:2006年12月16日 23:28:56
「ラグナ様・・・ラグナ様」
「ん・・・あ・・・?」
「こんなところで寝ていては風邪をひく。」
「・・・いつの間にやら寝ていたか。」
ゼンマイが切れ音を止めていたオルゴールを手に取り立ち上がる。
「それはなんです?」
「オルゴールだ、母さんの形見。」
「ほう・・・音色を聞かせて欲しい。」
ゼンマイを巻き蓋を開ける、すると心地よい子守唄が聞こえてくる。
「これは・・・どこかで聞いたような。」
「うん?このメロディーを知ってるのか?」
「・・・いえ、聞いたことがあるのは確かですが。名前は・・・。」
「そうか・・・。」
少し残念に思う、この心に響くような懐かしい音。遠い昔に置き忘れた幸せを具現したようで、遠い未来への希望をも表しているようなメロディー。
「明日は早い、もう降りて寝ようぞ。」
「ん?予定が決まったのか?」
「はい、町を出る際にアルベルトからもらった書状があったのを覚えているか?」
「ああ、・・・そうか。そのための物だったな。」
アルベルトから受け取ったのは王都の検問をフリーパスで通るための物だった。それを忘れて一日無駄に過ごした・・・とは思いたくない。
連戦続きだった俺達の休日になったはずだ。

明日はいよいよ王都、待つものはいったい何なのか。ただ流されるままに王都に来た。・・・まだまだ危なっかしいが頼りになる仲間も・・・いる。

待ち受けるものが何であれ、今の自分達の障害になるとはこの時、思いもしなかった。








© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: