| 1 枚 の 領 収 書 |
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父が先月入院してから初めての請求書がきました。病室で受け取った私は、3900円というその安さに改めて驚きました。 今まで何回も入院して、老人保健法を使い、しかも重度心身障害者の父は、入院費が安かったのですが、すっかり忘れていました。 入院する前の月にかかった金額を思うと、雲泥の差があります。 自宅介護の先月は軽く10万円を越えて支払っています。 週に1回1時間の訪問看護、週1回の1時間の訪問入浴(自宅の寝室にお風呂を組み立て、寝たまま浴槽に入れて洗ってくれる)、週1回、9時から4時までのヘルパーさん利用、週1回のディサービス(リハビリや、入浴、レクリェーションに施設に連れて行ってくれる)などをを使いました。 しかし、父から目が離せなく外出も出来ない私は、ヘルパーとディサービスの2日間の数時間では、私の休養どころか、薬を貰うため病院に行くこと、銀行や買い物に当てる時間にも足りません。 こまぎれに1日4~5時間しか睡眠のとれない私は、2ヶ月でふらふらになりました。 ひっきりなしに騒いだり、怒鳴る父の側にいられず、2階に隔離した母も、ストレスでめまいなど起こし始め、やむなく、ショートスティ(泊りで預かって貰う)も利用しました。 母も私も、その間は眠る事が出来ました。 それらを含めて支払った金額が10万を越えています。 介護度5の父には、在宅介護では、月に4500円のオムツ代が支給されますが、1時間に2~3回オシッコが出ちゃったと訴えるので(少量ずつ出ている事もあり)取り替えるのも多く、またオムツをちぎったり、引っ張って破いたりするので、おむつ代は支給される金額の3倍以上かかりました。 飲み込む事が上手く出来なくなって、むせるので、水分にとろみをつける補助食品も高価でした。 こんなにも、人の手を借りるのだから、お金がかかるのは当然と思ってあまり気にはしていませんでした。 どれも、私には大変有難く、これらの介護事業がなければ、一人では介護はむりでしたから。 しかし、今日病院から領収書を持ち帰り、なんとも腑に落ちない感じでいます。 在宅で、必死に介護してこんなに経費がかかり、病院ではこれほどで済むのかと。 友人から電話があったついでに、そのことを言いました。 すると、「あなたは、ラクになったし、お父さんを安心して預けられ、お金もかからないなんて最高じゃないの。何か文句でもあるの?」と笑われました。 「そりゃそうなんだけど、なんか腑に落ちなくて・・」と私。 更に友人は、「だいたいさぁ、この間の発作で入院した時、1ヶ月で退院してくるなんて・・なんかあったの?」 続けて、「普通はサ、3ヶ月くらいは置いて貰うのでしょ」と他の友人の例を出して言います。 確かに、父の入院している病院の東側の病棟は、お年よりばかりいて、老人ホームみたいであり、友人の言う事も私には十分に分かっていた事でした。 今日、主治医の先生が病室に来た時、私は父の聞き取れない言葉を、分かろうと必死に聞き返していたところでした。 先生に、「父の言っている言葉が解ってやれない」と嘆くと、先生は「脳梗塞が徐々に進行しているから、仕方がない」と気の毒そうに言います。 「もしこの前、退院をしないで、ここで看て貰っていたらこんなに悪くはならなかったのでしょうか?」と訊くと、そんなことはないだろうとのこと。 だとしたら、痴呆は出始めていたけれど、「早くうちに帰りたい」と意識のはっきりしていたうちに、家に連れて帰ってきてよかったのだ、とほっとしました。 もっとも、その我が家は、父にとってはすぐに、軍隊や、役場になったり、畑になったり(そこのクワ取ってくれ早く!と何度も怒鳴られたり)したのですが。 介護保険の利用枠が決まっていて、枠を越えると、自己負担になり思うように利用できないと聞きますが、利用枠の中でも、相当の自己負担があるのです。 父が入院する時、主治医は、「もう自宅介護は無理だから、病院にまかせなさい。私が面倒見ますから」と言い、笑いながら、「私は、儲からない患者ばかり入れるって、事務長にいつも叱られるんですけどね~」と、付け加えました。 老人は、今、確かに自宅にいるより、入院している方が身体的にも、経済的にも楽です。 体力に自信がなくなり、身内も頼れなかったら、病院から出ることに不安があるのは当たり前でしょうね。 これから、老人はますます増える中で、病院に頼らずに快適な老後を過ごせるようになるのでしょうか? 在宅介護支援に介護保険は本当に機能しているといえるのでしょうか? 1枚の領収書を前に考え込んでいる私です。 (注 2001.12月日記より) |