螺旋の旋律 ~SPIRAL~

螺旋の旋律 ~SPIRAL~

後編


「はい。自分や他の人を現在いる場所とは違うところに転送する魔法のことです。
私はまだ自分を転送するだけの魔力しかないですけどね。」アイシアは苦笑いしながら言った。さらに、
「転送魔法は、普通に使うことのできる魔法より遙かに魔力の消費が大きいんです。私の魔力だと、自分を『ガーデン』に転送できても、
そのまま魔力切れでふらふらになっちゃいますし。」
「そうか・・・。」
俺はまだいまいち『魔法』というものについてよく分かっていなかったので、そう返すことしかできなかった。



俺の怪我もだいぶ治ってきたときのことだった。
(怪我が治ったら、どうしようかな・・・。ここを出ても帰るところはないし・・・)
そう考えていると、アイシアが、まるで俺の心を見透かしたように、
「あの・・・、もしよかったら、ここで暮らしませんか?」そう聞いてきた。
「え?いいのか?」俺が驚きながら聞き返すと、
「はい・・・、あなたがいいのなら、私は構いませんよ。」アイシアは顔を赤くしながら答えた。
「・・・じゃあ・・・そうしようかな・・・。」

それから俺はアイシアと一緒に暮らすことにした。
それからしばらくして、
「はい、これ。」そう言ってアイシアは俺に青い石の付いたペンダントをくれた。
「これは?」俺はそのペンダントの石を見ながら訊いた。
「これは、魔鉱石という石で、魔法を使うときに魔力をサポートしてくれる、
言ってみれば魔力の増幅装置みたいなもの。魔力がなくても、簡単な魔法くらいなら使えるようになるよ。」
アイシアはそう説明した。
「そうか、ありがとう。」俺はそれを受け取った。
「けど、俺は魔法の使い方とかは分からないんだけど・・・」俺がそう言うと、彼女は、
「それなら、私が教えてあげるよ。簡単なものなら教えられますし。」そう言って笑った。



俺はアイシアから魔法を教わることにした。
火や水、雷を操るような魔法、傷を治すような治癒魔法。とはいえ、火をおこすようなものとか、簡単なものだったが。
それと並行して、俺は剣術の練習を始めた。
何故かは知らないが、型や基本的な動作は自然とできていた。
「魔法は人を傷つけるためのものじゃないよ。人を守るためのものだよ。絶対に人を殺すようなことに使っちゃダメだよ、魔法も、剣術も。」
彼女はいつもそう言っていた。



―アイシアと一緒なら・・・記憶が戻らなくてもいい。このまま一緒にいたい。―
俺はそう思っていた。
だけど、そういう日々は長く続かなかった。

ある日、
「ちょっとお買い物に行って来るね。」そう言ってアイシアは外に出た。
ところが、彼女が家を出て1分も経たない頃だった。突然、
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」アイシアの悲鳴が聞こえた。
俺があわてて家から出ると、そこにはアイシアが血を流して倒れていた。
少し離れたところに、どこかの国の兵士らしい2人組が立っていた。血の付いた剣を持って。
「っ―!?おい!大丈夫か!?」アイシアを抱きかかえて訊くと、
「ごめん・・・ダメかも・・・」彼女は苦しそうにそう答えた。
「今、何とかするから。」そう言って治癒魔法を唱えようとすると、
「多分ムリだよ・・・、もう・・・」彼女は半ば諦めているようだった。
「諦めるなよ!お願いだから・・・」俺も彼女の様子を見て、自分自身だんだん弱気になっていくのを感じた。
「ねぇ・・・あのペンダント持ってる?ちょっと貸して」アイシアはそう言ってきた。
「ああ・・・持ってるけど・・・」そう言いながら俺はペンダントを彼女に渡した。
「ありがとう・・・」そう言うと彼女はそれを両手で握り、何かの呪文を唱え始めた。するとアイシアの身体が光り始めた。
だけど治癒魔法を使うときとは違う感じだ。
「おい、何を・・・!?」
「ごめんね・・・輝刃・・・これで・・・」そう言ったとき、アイシアの身体の光が治まり、アイシアの身体が砂のようになった。
「な・・・何だよ、これ・・・」俺は焦った。
「魔力をその石に移したの。もう私の命はすぐにつきるから・・・」そう言った。
「死なないでくれ・・・!頼む・・・!」俺は自分が泣いているのが分かった。
「泣かないで・・・身体はなくなるかもしれないけど、魂はいつも一緒にいるから・・・」
アイシアがそう言ったとき、彼女の身体が砂になって散り、そこから光の玉のようなものが、ペンダントの中に入って行った。
「ア・・・アイシアァーーーーーーーーーーーーーー!!」俺は叫んだ。"アイシアの身体"だった砂のようなものを掴んで。
不思議と身体から魔力があふれてくるのを感じた。
その魔力によって、その場にいた2人組は近くにあった木に叩きつけられていた。

そして、
「お前達がやったのか・・・許さない・・・」俺は剣を持って2人組と対峙した。
相手を剣でなぎ倒し、その切っ先を相手ののど元に突き立てた。
その時、脳裏に
「絶対に人を殺したりしないで・・・」という、アイシアの言葉がよぎった。
「くっ・・・・」
俺は2人を殺さなかった。いや、殺せなかった。
その2人の武器を壊し、腕や脚に多少の傷を負わせることしかできなかった。
「くそっ・・・覚えてやがれ・・・こういう事をした以上は、我ら『セイクリッド』の軍が攻めてくることになるぞ・・・」
2人組はそう言って転送魔法で逃げていった。
「『セイクリッド』か・・・許さない・・・絶対に・・・」

それから俺は、その場に残っていた"アイシアの身体だった砂のようなもの"の一部を小瓶に入れ、それを自分の首に掛けた。
そしてアイシアの墓を作り、残りの『砂のようなもの』を瓶に入れてその下に埋めた。

俺はアイシアの墓に、俺が作ったペンダントを掛けてその場を立ち去った。
そして、『セイクリッド』に復讐するために、『レーヴァテイン』の軍に入隊した。
だけど、俺はアイシアとの誓いは守って、殺さずに戦うことを決めた。




その頃、『レーヴァテイン』の軍本部で、軍の上層の男2人が話していた。
「そうか・・・あの女を殺したか。これであの『輝刃』というヤツもこの軍に入ったのだろう。」
「はい。我が軍の兵に『セイクリッド』の兵から奪った軍服を着せ、『セイクリッド』の兵がやったことだと思いこませることに成功しました。」
「それで、その2人組はどうした?」
「『輝刃』には顔が割れているため、命令通り始末しました。」
「そうか、これで問題はなくなったな。ふははははは・・・」
2人はそう言って嗤った。



俺はもう後戻りはしない。アイシアのためにも、そして、俺自身のためにも。




あとがき
アナザーエピソード後編。


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