ダトニケ熱い小説

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つづき



 朝一番に「講演時間までは必ず行きますから」と学校に連絡しておいた。早い時間に出勤している教師は多少の責任感はあるのだろう。その教師が「五代先生の自宅の電話には誰もでないのですが」と言ったところで「そのことは講演終了後に話します」と言って六本木が会話を切った。

 今の教師の台詞で六本木はくだらないダジャレを閃いてしまったので、切る間際の言葉は笑いを堪えていてわずかに震えていた。


 自己紹介を済ませた六本木は講話をしはじめた。

「五代先生と私は話すことが違うかもしれませんが聞いてください。みなさんは中学生ですね。そしてその後ろにいらっしゃるのが生徒たちの父兄の方々ですね。見たところ、お母様が多いようですね」ゴホンと咳払いを一つ入れた。少し、「ね」が多いようですね。

「では、本題に入ります。最近私が思うことをいいたいと思うのです。それは、自分が何かをしたい場合に必ず壁というか、何か遮るものができることはないか?ということです。例えば、野球部に所属していて、ピッチャーで四番になりたいが、監督にお前の体はキャッチャー向きだと言われる。これは、ライバルがいるからピッチャーになれないのではなく体型が問題ということですね。自分自身が壁だ。と、こうなります」

 以外そうな顔で教師達が壇上を見上げている。昨日、カンナ屑まみれの姿で現れた中年男が新品であろう作業服を着てきたことに対してではなく、慣れた話し方とまではいかないが「まとも」な雰囲気で話し始めたから、いい意味で裏切られたのだ。実際、責任ある教師達は父兄までを揃えたこの会場をぶち壊したら、ただ事では済まないという心配が少し和らいだ。

 ところが講話が進んでいくと、そういった教師の心配の波は引いたり押し寄せたりしてしまうのである。

 まだ、始まったばかりなので欠伸をする生徒はいない。

 六本木は話を続けている。「ところが、こういうこともあるわけです。5番で普段センターを守っている選手は控えのピッチャーでもある。この、選手も四番でピッチャーになりたいのだけれど監督はオーダーを定位置から変えようとしない。意地悪をしているのではなく、本人が人一倍がんばってまでエースで四番になりたいと思っていないからなのです。ただ単に苦労もなくそうなりたいと思っているだけなのです」

 たいして、ざわめいたりしない広い体育館で六本木は一呼吸いれてからまたマイクの前で口を開いた。

「将来の夢はなんですか?と聞かれて例えば飛行機のパイロットや保母さん、プロの野球選手だのサッカー選手だのと答える者がいます。実際もうすでに、その夢に向かって本を読むなどして勉強したりとか、スポーツ選手になりたいならば高校生になったときからプロのスカウト連中につばの一つもつけられていないと簡単にプロ選手にはなれないのです。だから、さっきの五番でセンターの選手は考え方が変わらないかぎり、定位置に揺るぎはない。逆にレギュラーから滑落してしまう恐れののほうはある。なりたいなぁー。と、思っているだけでは何も進みません。おそらく、ピッチャーで四番の選手は目指すものが甲子園のマウンドだとかメジャーリーガーになるために行動しているはずです」

 中学生ともなればこのくらいの意味は理解できるはずと思い込んで、六本木は舌で唇を潤した。

 では、と言って「学校の校長先生が次の日には教頭先生になっていて、逆にその校長の座に着いたのはまだ若い学年主任の先生で、『成り上がり』ともいうべく眼差しをうけて朝礼の長話をしていた。仮にこんなことがあったらどうしましょう」笑いを含めて誰にというわけでなく問いかけた。

 六本木は壁側一列に陣取った教師連中にふいと目をやると、忘れ物を思い出した子供のようにわざとらしい、そういえばいたな。こんなやつが。という言い方で。「そうそう、居場所がなくなった教頭先生は職員室に新しい部署を作ることにしました」かるく校長と教頭が並ぶ壁側の前列をチラリと見てから言った。「この新部署の話は最後にすることにしましょう」

「中学生やその親、また先生方も皆ご存知かと思いますが『ドラえもん』の話をしたいと思います」六本木が言うと生徒たちがざわめき始めた。自分が知っていることや興味があることには過敏に反応してしまうものだ。

 その中の生徒が言った。というより披露した。「やあ、のび太君。僕ドラえもん」その子の持ちネタなのだろう。大きめの声でいうと周囲の人間が手を叩いて今のモノマネを笑っている。たしかにうまい。騒がしくなったのに反応し一人の教師が椅子から立ち上がった。担任の先生だろう。

 しかし、その担任教師は苦笑して着席することになる。もっと騒がしくなるからだ。それが公的な騒ぎだったからだ。

 そのモノマネを生徒たちと一緒に喜んでいた六本木が、クスクスと笑った顔をなおしながらマイクをつかんで負けずにやってみせた。「こらっ!タケシ!」「ゴメンよ。ゴメンよ。母ちゃん、違うんだのび太の奴が」

 ウケ狙いでモノマネをしたのだが逆に静まり返ってしまった。実は六本木の十八番ともいえる『ジャイアンとその母親の会話は常に穏やかでない』というモノマネのセリフよりも長い題名の技だったから空気が消えたような空間ができてしまったことに六本木はかなりショックをうけていた。

 ところが「すげぇ。めちゃくちゃ似てるよ」と、さっきモノマネをした生徒が空調のボタンを押したようにつぶやいた。実際、その子とその周りから拍手が沸き、徐々にそれは全校生徒からの拍手喝采とまでなった。この拍手が事実上の講演開始の拍手となったのである。

 つづく


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