天の道を往き、総てを司る

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第12話 人質


ムウの提案で使える部品を回収し、アークエンジェルを少しでも修理する為である。
これには最初、マリューは渋っていたが今のアークエンジェルの損傷とムウの「近い内にザフトがまた攻めてくる」という言葉に提案を飲んだ。

「艦の修理状況59%……とりあえず、武装は全部使えるようになったと整備班から報告です」

「そうか……機体の方はどうだ?」

「はい。ストライク、D兵器、メビウスの整備は完了。アークラインも修理は完了したそうです」

ノイマンから伝えられた報告にナタルは頷きつつ、思考する。
とりあえず今出来る事は全てやった。武器弾薬もデブリで回収した分と今回回収した分で十分まかなえる。

「残るこちらの問題は……レナード少尉か」

ため息混じりに呟く。
彼女がフロンティアサイドで何をされたかは聞いているが、何時までも部屋に引きこもらせておくわけにもいかない。
次の襲撃がムウの言うとおりの物ならば手持ち戦力は全て出せるようにしておくべきだ。

「……報告ご苦労。スペースアーク、ナデシコとの連絡を怠るなよ」

「はっ」

敬礼し、持ち場へと戻るノイマンを見送り、ナタルは居住区へと向かう。
彼女には悪いが、こうなれば力づくにでも戦闘に出て貰わねば……。



宇宙空間を航行するヴェザリウスとガモフ……その周辺を数隻の戦艦が追従する形で航行している。
一隻はザフトと同盟関係になるギガノス帝国の巡洋艦フンボルト……他にもギガノスの戦艦が2隻ついている

「敵は連合軍の戦艦、アークエンジェル……通称足つきと練習用と思われる艦が一隻、そしてナデシコ級戦艦一隻の計3隻。戦力はMS3機にメタルアーマー3機、モビルアーマー1機……そして、エステバリスが最低1機とPTが1機」

ヴェザリウスブリッジにクルーゼやアデス、アスラン達とマイヨとプラクティーズの姿がある。
クルーゼはモニターに今までの戦闘で集めたデータと映像を映しだしながら、話を続ける。

「戦力……数だけで見れば我々が圧倒的に有利。その上、足つきはフロンティアサイドでかなりの損傷を負った模様……負ける要素はほぼ皆無ですな」

「それだと言うのにわざわざ我々を呼び寄せるとは……クルーゼ隊長はよほど足つきが怖いと見える」

嫌みっぽくマイヨが言う。
クルーゼはそれに対しフッと笑みを返す。

「何、どうせ潰すのなら徹底的にと思いましてね。そちらも足つきには苦渋を舐めさせられたと聞く」

「フン……」

クルーゼの言葉を鼻で笑い、マイヨはモニターに背を向ける。

「ダン、カール、ウェルナー、フンボルトに戻るぞ。出撃の準備だ」

「「「はっ!」」」

プラクティーズを引き連れ、マイヨはブリッジを後にする。
これ以上クルーゼと話す事はないという意思表示なのだろう……アデスやアスラン等は不安げな表情で交互を見る。

「隊長……プラート大尉を怒らせて大丈夫なんですか?」

「構わんよ。それにこの程度で怒るような器の小さい男でもあるまい……むしろ、良い具合に闘志を燃やすかもしれん」

どこからそんな根拠出てくるんだ……と半ば呆れた視線を送る部下を後目にクルーゼはモニターに向け、フッと笑みを漏らす。

(こちらの準備は整った……さぁ、どうでる? ムウ・ラ・フラガ)



「まったく……あの変態仮面め。大尉殿に向かって何という口を!」

格納庫、フンボルトから乗ってきた小型艇の前でカールが忌々しげに言う。
ダンとウェルナーも同じなのか、鼻息荒く、クルーゼへの怒を露わにしている。

「前から気に入らなかったが今回ので更に気に入らなくなったわ!」

「ああ! いずれこの例はたっぷりとさせて貰おうぞ」

「落ち着けお前達。奴の言う事など、いちいち気にするな」

プラクティーズをたしなめながらマイヨは小型艇の席へと腰掛ける。

「奴の皮肉にいちいち反応していれば身が持たないぞ」

「……確かに」

マイヨの言葉に頷きながら、3人もそれぞれの席に座る。

「それに、足つきだったか……あの戦艦に借りを返す良い機会だ。その辺だけは感謝してやらんとな」

アークエンジェルに借りがあるのは本当の事。
ならば、クルーゼの申し出を素直に受け、その借りを返すのに利用すれば良いだけだ。

「フンボルトに戻り次第、出撃の準備だ。良いな?」

「「「はっ!」」」



スペースアーク格納庫、ヘビーガンとF91の整備が行われている中、シーブックとビルギットは二階で整備の光景を眺めながらドリンクを飲んでいる。
こうして機体の整備中にパイロットがする事は体を休めて次の戦闘に備える事ぐらいだ。

「アークエンジェルの方は近い内にまたザフトが攻めてくるとか言ってるそうですけど……本当に来るんですか?」

「来る……だろうな。前の戦闘だって、こっちを落とせる筈なのにこなかったのが気になるが、すぐにまた来るだろ」

ドリンクを飲みきり、近くのゴミ箱へ投げ捨てビルギットは廊下の奥へと歩いていく。

「んじゃ、俺はひとまず寝てくる。お前も寝られる時には寝てろよ」

そう言って廊下の奥へと消えていくビルギットに軽く答えながらシーブックは二階からぼんやりと格納庫を眺める。
休める時に休むべきなのは解っているが、どうにもそういう気分になれない。先程まで戦闘をし、すぐに休む事を体が望んでいても心が望まない。

「はぁ……休めって言われても休めないってーの」

「シーブック」

「……セシリーか」

格納庫二階の出入り口から顔を覗かせていたセシリーがシーブックの傍へと近寄り、手すりにもたれ掛る。

「パイロットスーツ姿のままだけど、着替えないの?」

「ああ、すぐにまた戦闘があるだろうから……ってみんな言ってるからね」

「休まなくていいの?」

「休める気分じゃないよ……」

ドリンクを飲み干し、近くのゴミ箱へ投げ入れながら愚痴っぽくぼやく。

「どうも……こう落ち着かなくてさ。目が冴えちゃってるっていうか、なんていうか……」

上手く口では説明できないが、とにかく休める気分ではない。
目も冴えており、特に眠気も感じないのだ。

「全く……なんでこんな事になっちまったんだろうな」

フロンティアサイドで平凡に暮らしていただけの筈なのに、いつの間にやらMSなんかのパイロットをやる羽目になってしまった。
「人生は何が起こるか分からないから楽しい」とはたまに聞くが、まさにそのとおりだ……楽しくはないが。

「私達、フロンティアサイドに戻れるのかしら……」

セシリーは不安げにつぶやく。
正体不明の軍に襲われ、なんとかスペースアークに乗り込み脱出したがフロンティアサイドについての情報はあれ以来まったく入ってこない。
長い間住んでいた故郷であるコロニーがどうなったのか、気になるのは無理がない事だ。

「セシリー……大丈夫さ。いつか戻れるよ」

そっとセシリーの肩を抱き寄せ、安心させるようにシーブックが言う。
いつの日か、フロンティアサイドに帰る時まで意地でも生き残ってやると心に決めながら。



「えっと……迷ったか」

アークエンジェルの廊下のど真ん中……ライル・クリオスは頭を掻きながら僅かに困ったといった表情を浮かべる。
初めて中に入る戦艦なだけに道がわからない。

「むぅ、これは困った」

「……誰だ、お前は?」

「ん?」

不意に話しかけられたので顔を向ける。
そこには睨み付けるような表情でこちらを見るナタルがいる。

「アークエンジェルのクルーでは無いようだが……?」

「あぁ、悪い悪い。俺はナデシコBのライル・クリオス中尉ってんだが」

「ナデシコの……失礼しました」

所属と階級を聞き、ナタルはすぐに敬礼する。
中尉というならば少尉である彼女より階級はひとつ上だ。

「いや、敬礼はいいんだ。それよか、クレアだっけ? 彼女のところまで連れて行ってくれるとありがたいんだが」

「レナード少尉ですか? 丁度、私も行く所でしたので案内いたします」

「それはどうも」

軽く礼を言い、ライルはナタルの後へとついて歩く。

「そういえば、フロンティアサイドでレナード少尉を助けていただいたのは貴方でしたか」

「まぁ、偶然だけどな。助けた身としては容態ぐらい知っておきたいわけで」

軽い感じでライルは答える。
ナデシコの方でも何度か小耳にはさんだ程度で意識は回復したと聞いている。
しかし、一度ぐらいは直接あっておいても良いだろうと思い、小型艇を拝借してこちらへ来たのだ。

「今、彼女は自室にて安静にしていますが……こちらです」

クレアの自室の前につき、ナタルがインターホンを押す。

「レナード少尉。私だ、入るぞ」

言い終えると同時に部屋のドアを開放する。
部屋の中にはベットの上で仰向けに寝転んでいるクレアとすぐ傍で椅子に腰掛けているフレイの姿もある。

「フレイ・アルスター……ここで何をしている?」

「え……あの、クレアさんに食事運んできたら戦闘始まって、それで終わるまで部屋にいろってクレアさんに」

「そうか……丁度良い。お前に話がある……こっちに来てくれ」

「あ……はい」

フレイを呼び寄せ、クレアに「また後で来る」と言い残し、ナタルは部屋を後にする。
必然的に、部屋にはクレアとライルの二人きりとなる。

「……女の部屋に男置き去りにするか? 普通」

思わず愚痴るライルだが、それはそれとしてクレアへと声をかける。

「よぉ。体はどうだ?」

「……誰?」

顔だけこちらに向け、気だるそうにクレアは呟く。

「ナデシコのライル・クリオス中尉だ。一応はアンタの命の恩人になるんだが」

「……フロンティアサイドで私を助けてくれたのって貴方なんだ」

上半身だけ起こし、ライルに顔を向ける。

「お礼言っておくわ。お陰で助かったんだし」

僅かに笑みを浮かべ、言う。

「あのままやられてたら、どうなってたか解らないし……」

口ではそう言うが実際どうなっていたかは容易に想像が付く。
最も、口に出してまで言うことでも無いし、無理に聞く必要もない事なのでライルも何も言わないでおく。

「で……? お礼言わせる為に来たわけじゃないでしょ?」

「あぁ……いや、お前さんの様子が気になったんで暇潰しついでに様子見に来たんだが……」

そこまでいってライルはクレアを見やる。
黒のタンクトップとジーパンという自室や暇なときのラフな格好で、上半身に所々包帯が巻かれている。
しかし、クレアの表情はまだ暗い感じはする物の顔色は良く、怪我の後遺症なども無さそうに見える。

「心配する程でも無さそうだな」

「ん……あぁ。まぁ、一応は軍人ですから、そこそこ鍛えてるしね」

見た目よりも怪我は酷くないようだ。
ライルが発見したときは見た感じ酷い物だったが、ドレイクのハッキングで怪我はそう大したことが無いと知っていたが実際そうみたいだ。
何より本人が言うのなら本当に大したこと無いのだろう。

(にしても……ホントにスタイル良いな)

男としてはやはり気になってしまう点である。
タンクトップというラフで少し露出の多い服装なだけに余計に意識してしまう。
全体的に纏まっていてバランスがよいスタイルで、顔込みで普通にライルの好みど真ん中である。

「……何? 人を事じろじろ見てどうしたの?」

「いや……別に……」

まさか見惚れていたと言える訳もない。
正直、これが町中だったら早速ナンパしてるだろう。

「さて、見た感じ元気そうだし……俺はそろそろ行くわ」

そう言ってライルはドアを開く。

「ん……あ、そう。わざわざどうもね」

「んじゃ、そのうちまた来るわ」

それだけ言ってライルは手を振りながらクレアの部屋を後にする。
それと入れ替わるようにして、フレイが部屋に戻ってくる。

「……フレイ?」

フレイの様子は部屋を出て行く前と一変していた。
顔を俯かせ、表情はわからないが明らかに良い物ではない。
何か辛い事でもあった直後とでも言わんばかりの暗い雰囲気だ。

「どうしたの? 何か、様子が……」

思わずベットから降りて、フレイに近づき顔を覗き込もうとする。
と、フレイは顔を俯かせたままクレアに凭れ掛かる。
何かにすがるかのように、弱い力でクレアに抱きつき、すすり泣く。

「ちょっと……どうしたの?」

「パパが……パパが、さっきの戦闘で……」

そこまで聞けば、何が起きたのかはさっしがつく。
開きっぱなしの扉を見ると、ナタルが微妙な表情でこちらを見ている。
隠しておいても良い話ではないし、いずれは知る事になる話と彼女が話したのだろう。
自分からこの手の嫌な役を買って出たナタルもフレイの落ち込みように困惑している。
とりあえず後はこっちで何とかすると目で合図し、ナタルも理解したのか小さく頷く。
扉を閉め離れた直後、部屋の中からフレイの泣き声が聞こえるのを耳にしながらナタルはクレアの部屋を後にした。



パイロット更衣室のソファーに腰かけ、トールが差し入れに持ってきたドリンクを飲みながらキラやケーン達もひと時の休息を取っていた。
すぐにザフトがまた攻めてくる筈だからというムウの忠告で4人ともパイロットスーツのままだ。

「またすぐに敵襲があるかもっておっさん言ってたけど……マジか?」

「さぁ? でもまぁ、プロの軍人さんの言うことは聞いておくに限るっしょ」

パイロットスーツの首元をあけながら、タップの問いにライトが軽い調子で答える。

「俺達ド素人なんだし、先輩の言うことは素直に聞くもんだ。亀の甲より年の功ってやつだな」

「ムウさん聞いたら怒るよ……それ」

おっさんと言われるだけで怒り出すムウの事だ。
亀の甲より年の功などと聞けばどうなるか……キラは考えるのも怖くなって止めた。

「いい加減にして欲しいよなぁ……大人しく見逃してくれりゃぁいいのによぉ」

タップがぼやく。
ここに来るまで色々な敵に襲われてきたが、特にあのクルーゼ隊はヘリオポリスの時からずっと自分達を追いかけてきている。
ムウが「クルーゼはしつこい男だ」と言っていたが確かにその通りだと実感する。
追いかけられている身とすれば、いい加減に諦めて欲しいものである。

「あちらさんにしてみりゃ、そう言うわけにも行かないのさ」

そう言いながらムウが格納庫から更衣室へと入ってくる。

「俺等にとっちゃ迷惑だが、あっちもあっちでそれが仕事だしな」

「仕事で殺されちゃ、たまんねぇっすよ」

「軍人としては耳が痛いなぁ……それ」

苦笑いしながらムウはツブや気宇。
この少年達は自分も軍人だと言うことを忘れてはいないだろうか。

「それはともかく……次に仕掛けてくるとすればもうそろそろの筈だ。スペースアークやナデシコの方とも打ち合わせて、即興だが作戦を考えてるんだが……」

単純な力押しではこちらが圧倒的に不利なのは誰もが解っている。
故に艦長達やムウ等が勝つ……というより生き残る為に現状の戦力で出来る作戦を捻りだしたようだ。

「まぁ、嬢ちゃんがいる事が前提の作戦が成功確立あがるんだがな……」

なにげなくぼやく。
クレアはフロンティアサイドでの一件以来、ずっと部屋に籠もりっぱなしだ。
彼女が何をされたか知っているだけに無理矢理連れ出すのは気が引ける……しかし、彼女がいる方が作戦の成功確立があがるのも事実だ。

「まぁ、こんな事言っても仕方がないな。嬢ちゃんがいない前提で話を進めるぞ……まずは」

「誰がいないんですか?」

不意に掛けられた声に顔をあげる。
顔を上げた先……更衣室の出入り口にはパイロットスーツに身を包んだクレアの姿があった。

「クレアさん!?」

「オイオイ、もう動いて大丈夫なのか?」

「ええ、十分休みましたし……今回から戦線復帰って事でよろしくお願いしますっと」

そう言いながら、出入り口の側にあるソファーに腰掛ける。
あまりにも急なことで皆の思考が一瞬停止したが、すぐに我に帰りムウは話を続ける。
クレアが復帰してくれるのなら戦力も多くなり、作戦成功率も少しはあがるのだ。

「そう言うんなら頼りにさせてもらうぜ。って言っても、嬢ちゃんは病み上がりだし……今回は艦上での支援に徹して貰うぞ」

「了解」

「で、作戦の説明に入るが……」

そうして、ムウの口から立案された作戦が説明される。
その内容はとても荒っぽいと言うか、作戦とは言いにくいような物だった。



「策敵範囲内異常なし。射出した偵察用ビーコンも何も捉えていないようです」

「エステバリス、サブロウタ機。ワイバーン共に整備完了。出撃可能状態で待機中です」

「アークエンジェルの修理も59%終了。現在、レーダーの修理を急いでいるとの事」

ナデシコBブリッジに、次々に報告が上がってくる。
修理中のアークエンジェルや練習艦で大した装備のないスペースアークの代わりに最もレーダー感度の高いナデシコが策敵を行っている。

「アークエンジェルの修理は思っていたより早く進んでますね」

「うちからも何人かメカニック貸し出ししましたから、その分早く済んでいるんでしょう」

オペレーターの言葉にルリは軽く頷き、答える。

「とりあえず、次の敵襲に対する備えはやれるだけやれてますね」

ムウの言うとおり、ルリ自身も次の敵襲はすぐにあると踏んでいた。
故にこうして見張り台役を買って出てもいるし、メカニックをアークエンジェルへ貸し出し、修理を手伝わせてもいる。
移動しながら行っても良かったが、どのみちアークエンジェルが全速を出せない状態で、3隻とも歩幅を合わせている為にすぐ追いつかれる。
ならば、この場で踏みとどまって迎え撃つのも同じだ。アークエンジェルを見捨てていくという選択肢は最初からルリの頭に存在しない。

「各自、警戒を怠らないでください。敵さんはいつ来るかわからな……」

そこまで口にした時、偵察用のビーコンから信号が届く。

「艦長! 偵察用ビーコンが敵影を捉えました!」

「そうですか。数と距離は?」

「3時方向に艦1隻……9時方向、12時方向からも敵影確認! 計3隻。すでに機動兵器を展開しています!」

「3方向からの同時攻撃ですか……ちょっと厄介ですね」

表情を僅かに険しくしながら、ルリは即座に指示を飛ばす。

「アークエンジェルとスペースアークにも伝達。第一戦闘配備、エステバリスとワイバーン発進後、艦を前進させ他2隻の盾になります」



「こちらに気付いたか……あちらも必死だな」

シグーのコクピットでクルーゼはヴェザリウスからの報告……敵艦が機動兵器を展開し始めたという報告を聞いて一言漏らす。
彼の率いるヴェザリウスが敵から見て3時方向から、ガモフが12時方向、フンボルトが9時方向から同時に攻める策にどう出るのか見物だと苦笑を浮かべる。

「さぁて、私の演出したショーをどう切り抜けるか見せて貰おうか」

視界に見えてきた敵艦3隻へ、彼は挑発的な言葉を呟いた。



アークエンジェル甲板上、アークラインはそこに配置されていた。
機体の修理は完了しているがパイロットであるクレアの怪我は完治していない上に病み上がり、故にこの位置での支援が今回の役目。

「復帰第一線が3方向からの同時攻撃とは……またキッツイわね」

愚痴っても始まらないのでプラズマランチャーをライフルモードに切り替え、戦闘に備える。

「皆、前衛は任せるわよ!」

「姉さんこそ、病み上がりなんすから無茶しないでくださいよ!」

クレアの言葉にケーンが勢いよく返す。
3隻の周辺にはそれぞれから出撃した機体が武装を構え、展開を終えている。

『嬢ちゃんとタップ、ライト、んでもってエステバリスは艦の護衛と俺達の支援頼むぜ。残りは前衛で出来る限り敵を艦に近づけるなよ!』

通信モニターにムウからの電文通信が届く。
彼のメビウス・ゼロの姿は何処にもなく、電文による通信しか行えない状況にある。

『スペースアーク、主砲発射準備完了』

『ナデシコ、グラヴィティブラスト何時でも撃てますよ』

『アークエンジェル。ローエングリーン、ゴットフリード発射準備完了』

3隻の戦艦もそれぞれ主砲及び最強兵装を機動させ、発射準備を整える。
レーダーに移る敵影を現した光点がゆっくりとこちらに近づいてくる。

「……まだ撃つなよ」

誰にでも無くダグラスが呟く。
レーダーの光点が近づき……表示されている二重線を越える。
瞬間、レアリーが叫ぶ。

「よし! 9時方向、主砲撃て!」

「12時方向へローエングリーン発射! その後、ゴットフリート撃てぇ!」

「9時方向へグラヴィティブラスト、発射してください。その後、適当にミサイル連射です」

3隻の主砲が一斉に各方向へと放たれる。
艦のレーダーに移っていた敵影を現す光点の幾つかが消滅していく。

「攻撃命中しました! 敵残存機、なおも接近!」

「やはり主砲一発では退いてくれないわね。イーゲルシュテルン、バリエント、コリントス起動!」

アークエンジェルの搭載兵器が起動する。
それを合図に周囲に展開していた機体もそれぞれの武器を構え、交戦に備える。

「さっきの一撃で敵の数はそれなりに減った筈だ。あとはどうにかして持ちこたえろ!」

最初に艦3隻の主砲で先制攻撃を仕掛け敵の出鼻を挫く。
これがムウの立てた作戦の第一段階だ。いや、これは普通に良くある戦法なので作戦とは言い難いかも知れない。
とりあえず、これにより敵機の数は良い感じに減らせたはずである。

「よし、お前ら! 絶対に敵機を艦に近づけるなよ!」

ビルギットの檄が飛んだ直後、本格的な戦闘が始まる。
数機のジンやダイン、ゲバイがマシンガンを片手に迫り来る。

「ザフトは、ギガノスを呼んでいたのか!」

ストライクのビームライフルがダインの頭部を撃ち抜き、破壊。
それと背中を預けるようにD-1がハンドレールガンを連射し、ジンの胸部を撃ち抜いている。

「まさか、フロンティアサイド行く前の時に出会した部隊じゃないだろうなぁ……」

「どうやら、そのまかさみたいだぜ……っ!」

Dー3のレーダーが後方に控えるフンボルトの姿、そして底から出撃するファルゲンと3機のゲルフの機影を捉える。
更にイージス、デュエル、バスター、ブリッツのオマケ付きだ。

「オマケ盛り沢山で泣けてくるね……ホント」

「ホント、律儀な事で!」

D-3の側で240mmレールガンを放ちながら、D-2のコクピットでタップがぼやく。
こうもご丁寧に戦力を惜しみなく送ってきてくれるほどに恨みを買っているのかと思うと泣けてくる。

「キラ、ケーン、艦の護衛とクレア姉さんのフォローは俺達に任せて、お前らは前に出てくれ!」

「おう!」

「タップ、ライト、後宜しく!」

ストライクとD-1がライフルを撃ちながら前に押し出て、D-2とD-3がそれを支援する。

「確かに病み上がりで本調子じゃないけど……フォローして貰うほどじゃないわよ」

キラ達の通信を傍受し、内容にありがたさを感じつつ苦笑するクレア。
アークエンジェルの甲板上でライフルモードのプラズマランチャーを撃ち、的確に敵機を撃ち抜いていく。
やはり病み上がりすぐで上手く狙った所へは当てられないが、それでも大きく外してはいない。

「さて……と、今まで休んでた分働かないとね!」

ジンの頭部を破壊した後、クレアは別の敵機へと狙いを定めトリガーを引いた。



「初っ端から主砲で歓迎とはやってくれるじゃないの!」

アークエンジェル側から見て正面、ガモフに配備されていたデュエル、バスター、ブリッツのモニターにアークエンジェル等3隻が映る。
戦闘空域に入って直後の主砲攻撃により、数機のジンが破壊されてしまった。
定石の戦法とはいえ、前に見たときにアークエンジェルが手負いの状態だったのが彼等に油断を生んでいたのだろう。

「礼はたっぷりとしてやるさ!」

ビームライフルを構え、デュエルが先行。バスターもそれに続く。
どうやらスペースアークを狙うようだ。

「シホさんは僕と一緒に! 足つきを狙います!」

「はい!」

ブリッツとキャットゥスを構えたジンがアークエンジェルへと狙いを定め、突撃を仕掛ける。



フンボルトから出撃したメタルアーマー部隊はそのまま手近に展開しているナデシコBへと狙いを定めている。
敵3隻の中で攻防の要になっているのはナデシコ。そのナデシコを落とせば一気に戦況はこちらへ傾く。

「ナデシコのディストーションフィールドを破るのは骨が折れる。皆、油断するな!」

マイヨが部下に檄を飛ばしながら、自ら先陣を切る。
レーザーブレードを構え、一気に加速。ナデシコへ肉薄せんと迫る。

「ナデシコ……悪いが落とさせ……むっ!?」

そこへ高出力のビームが放たれ、ファルゲンやそれに続くメタルアーマーは足止めを受ける。
直後、ナデシコから放たれたレールガンとミサイルがメタルアーマー隊へ降り注ぐ。

「くっ!」

マイヨは即座に機体を退き、ミサイルとレールガンを回避。
彼に続いていたプラクティーズもかろうじて回避に成功するが、その他のダインやゲバイが数機巻き込まれ撃墜される。

「チッ、避けたのがいやがった」

『狙いが甘いんだ。下手くそ』

「照準はそっち持ちだろうが」

互いを罵りながらもライルとドレイクはすぐに狙いを定め、ワイバーンに搭載された火器を展開する。

「悪いが、こっから先は通行止めだ!」

全身に装備された火器が一斉に放たれる。
機動性や運動性ではメタルアーマーに劣るがパワーや火力ではワイバーンに分がある。
ワイバーン自体はどちらかと言えば接近戦向きの機体だが、ちょこまかと動き回るメタルアーマー相手にはやはり分が悪い。
それに接近戦向けと言っても火力も十分に持つ機体だ。こういった足止め的な砲撃には十分すぎる。

「くっ! 力攻めか!」

ただでさえ大型機たるワイバーンに力攻めでこられてはいかにマイヨといえど不利は否めない。
しかし、これを突破しなければナデシコへ取り付くのは至難の業だろう。

「プラクティーズは回り込め! 私はこの敵機を討つ!」

意を決し、自らワイバーンの相手をし部下に大きく迂回させてナデシコを討たせる戦法を取る。

「了解しました!」

「我らでナデシコを落としてご覧にいれます!」

プラクティーズの機体がその場を離れ大きく迂回を始める。

「ん? 回り込むつもりか!」

ライルはそれに気づくが、すぐにファルゲンの妨害が入る。

「キサマの相手は私だ!」

すぐさまワイバーンとプラクティーズの間に割って入り、ハンドレールガンを連射する。
咄嗟に左腕のシールドで弾丸を防ぎ、胸部ビームキャノンで牽制する。

『機体照合……ファルゲン。ギガノスの青き鷹だな』

「いきなりエースが相手かよ」

『回り込んでる連中はサブロウタにでも任せておけ。コイツを残しておくと後々厄介だ』

「へいへい!」

左腕のシールドに取り付けられたヒートクローを振り上げ、ワイバーンはファルゲンへ襲いかかった。



「メタルアーマー3機? ったく、ライルの野郎は何素通りさせてんだよ!」

ナデシコの近くで待機する青い機体、スーパーエステバリスのコクピットでサブロウタは前衛に回った同僚の失態に愚痴る。
お陰でこっちは3機も同時に相手をしなくてはならなくなった。いや、前衛に出ている彼は一人で数機以上相手にしていたがそんな事はサブロウタにはどうでも良い。
そうこうぼやいている内にモニターに3機のメタルアーマー……プラクティーズの機影が捉えられる。

「こうなったらしゃーないね。いっちょやったりますか!」

大型レールガンを向け、弾丸を放つ。

「護衛機か、散開!」

ダンの言葉でプラクティーズ3機が散開し弾丸を回避。
サブロウタは舌打ちしながら、両肩のミサイルを放ち、牽制する。

「コイツ等一人で押さえろってかぁ? 無茶言ってくれるよ、全く!」

この3機をみすみす抜かせたライルへ心の中で呪詛を吐きつつ、サブロウタはプラクティーズの機体との戦闘を開始する。


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