天の道を往き、総てを司る

天の道を往き、総てを司る

後編



「降りる!? この状況でか!?」

突然のマリューの発表に格納庫にいたメンバーも驚きを隠せない。
特にシーブックは舌打ちをして、マリューの判断に反論する。

「降りるってどういう事です!? 第八艦隊……スペースアークを見捨てるんですか!?」

「俺に言うなよ!」

八つ当たり気味に叫ばれたビルギットはたまったもんじゃないと小さく呟く。

「第八艦隊だけで敵を食い止められるんですか!?」

「普通に考えたら……結構厳しいんじゃない?」

不意に足下からかけられた声に全員が顔を向ける。
見ると、黒い戦車のコクピットから青い髪の少女が顔を出し、手元の端末で何かを操作している。

「アンタは……あの田中とか言うのがいってた新人か?」

「ええ、館華くらら、よろしく……ってちゃんとした挨拶は後回しにして、本題だけど」

手元の端末に簡単な宙域図と自軍敵軍を現した光点を表示させる。

「第八艦隊は私達の他にスペースアークっていう二つの大荷物を抱えてるのよ? それで相手はほぼ同戦力のザフトとギガノスの艦隊……普通に考えて勝てる相手じゃないわ」

くららと名乗った少女の言うとおり、第八艦隊は自分達とスペースアークという大荷物を二つ抱えている。
そんな状況で第八艦隊の戦力だけで持ちこたえられるとは思えない。
ジンやダインに比べ、ドートレスでは性能負けをしている。

「少佐、艦長に直談判してみます?」

アークラインのコクピットからクレアが顔を出す。
ムウもメビウスのコクピットから体を出し、腕を組んで少し考える素振りを見せるがすでに答えは決まっていたようだ。

「よし、俺から艦長を口説き落とす。お前ら、発進準備しとけよ!」

そうして全員がコクピットに滑り込み、ムウは通信をブリッジへと繋げる。

「艦長、降下まで何分ある?」

『えっ……大気圏降下シークエンスはすでにスタートしていますから、あと15分ぐらいですが』

「それだけあれば十分だな……俺達を出せ。どう考えても第八艦隊だけじゃ持たない」

『なっ……許可できません! この状況で出撃など……っ』

「しかしだな!」

「僕達からもお願いします!」

二人のやり取りを聞いていたキラが通信に割り込む。

『なっ……貴方、降りたんじゃ……っ!?』

すっかりアークエンジェルから降りた物だと思っていたのか、キラの顔を見たマリューの顔が驚きに染まる。
直後、通信機からブリッジのドアが開く音が聞こえ、聞き慣れた声が聞こえてくる。

『すいません、遅れました!』

『貴方達……っ!?』

『配置は今まで通りの場所で良いんですよね』

降りたと思ったメンバーが次々と現れた事にマリューは混乱を隠せない。
更に追い打ちとケーンも通信を繋げる。

「うだうだ悩んでないでさっさと俺達を出せばいいんだって」

『ケーン君まで……でも、本艦はもうすぐ降下を』

「降下するまで15分あるんでしょう? なら、12~3分は戦える筈です」

シーブックも通信を繋ぎ、マリューへの説得に入る。
それでもなお、渋るマリューに痺れを切らしたのかナタルが横槍を入れる形で通信に割り込む。

『出撃を許可する。ただし、12分後のフェイズ3までには帰還しろ』

『なっ……バジルール中尉!?』

「ありがたい! ブリッジ、管制頼むぞ!」

通信を切り、機体をメンテナンスベットごとカタパルトへと移動させる。
左右のカタパルトを開き、発進準備を進める。

「先にストライクとF91を出すんだよ! 装備? エールに決まってんだろうが!」

「続けて、少佐のメビウス出すから準備しとけよ!」

メンテナンスベットごとカタパルトに移動したストライクとF91の発進準備を整える。
開かれたカタパルトの奥……上方には戦闘中の艦隊、下方には地球が見える。

『進路オールグリーン、ストライク、F91、発進どうぞ!』

「キラ・ヤマト、ストライクガンダム行きます!」

「F91ガンダム、シーブック・アノー、発進します!」

左右のカタパルトから二機のガンダムが出撃。
続けて、メビウス・ゼロとアークラインがカタパルトに入る。

「嬢ちゃん、この状況での戦闘経験は?」

「あるわけないですよ……そういう少佐は?」

「生憎、俺も無いんだよ……ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!」

「何ですかそれ……」

一足先に出撃したメビウス・ゼロを見やり、ため息をつきながらヘルメットを被りバイザーを降ろす。

「アークライン、出撃します!」

カタパルトから飛び出し、戦場へと躍り出る。
直後、機体に負荷がかかり真下へと落とされるような感覚を受ける。

「機体が重い……重量に引っ張られてるわね」

スラスターの出力をあげ、一気に上方の艦隊へと向かう。
そのすぐ後に、ドラグナー、ヘビーガンがカタパルトにて出撃を開始する。

「ケーン・ワカバ、出るぜ!」

「ビルギット機、出るぞ!」

「D-2、発進する!」

「ライト・ニューマン、D-3出るぞ!」

最後に葵のノヴァイーグルがカタパルトへと入る。

「全く……連合の部隊に放り込まれたと思ったら、次は降下直前に出撃? なんでこうも面倒ばかり」

『すいません葵さん。この状況、他のヴァリアヴルビーストマシンでは不向きですのでお任せするしか……』

「解ってるわよ」

通信を切り、わざとらしくため息をつき、操縦桿を握りしめる。

「さて……行きますかっ!」

カタパルトからノヴァイーグルを出撃させ、一気に加速。
アークエンジェル搭載機はそのまま戦場へと乱入する。



「提督、アークエンジェルの搭載機が出撃しました!」

「何!?」

ハルバートンがその報告を受けた直後、メネラオスの横をストライクとF91が横切る。

「この状況で出撃するか……我らも遅れを取るな! 防衛を引き受けたのだからな、逆に守られては軍の笑い物だ!」

メネラオスを横切ったF91のコクピットで、シーブックはスペースアークの姿を探していた。

「スペースアークは……っ!? まだ、出てない筈……っ!」

正面から迫るダインのレールガンをビームシールドで防ぎ、ビームライフルで反撃、撃墜する。

「邪魔を! スペースアークは……そっちかっ!」

自らの直感を信じ、F91をスペースアークのいるであろう方角へ向かわせる。
それに続き、ストライクと追いついたドラグナー3機は第八艦隊の戦艦を攻撃する敵機へと攻撃を仕掛ける。

「タイムリミットまであと9分、無茶すんなよ!」

「わぁーってるよ!」

レーザーブレードでジンの重斬刀を握る右腕を切り落とし、腹部を蹴り飛ばす。
レーザーブレードを仕舞い、肩のグレネードを投げつけジンを爆破する。

「キラ、そっちに行くぞ! 数2!」

「わかった!」

D-3のレーダーに策敵された二機のダインをストライクも捉え、ビームライフルで迎撃する。
D-2は火力を活かし、砲撃で突貫している二機の援護を行いつつD-3を護衛する。

「数が多いな……っ!」

「艦隊戦なんて初めてだからな、俺達……油断してるとっ!?」

真下からの接近を察知し、ライトは真下へとハンドレールガンを向け迫っていたジンを蜂の巣へ変える。
そこへ、更なる反応が捉えられる。

「また新手……これは! ケーン、キラ、気を付けろ! 鷹が来るぞ!」

「何!?」

ライトからの通信の直後、D-1目掛けレールガンの弾が襲いかかる。
咄嗟にシールドせ防ぎ、機体を移動。そのすぐ後、ハンドレールガンを構えたファルゲンをモニターが映しだす。

「あれがギガノスの青き鷹! クソッ!」

ストライクのビームライフルで攻撃するが、ファルゲンは難無く回避しレーザーブレードを引き抜く。

「フンッ……ドラグナーとガンダムタイプか……っ!」

レーザーブレードを振り上げ、ストライクへと襲いかかる。

「うわあああっ!」

シールドで受け止めるが、加速の勢いを上乗せした攻撃を受け止めきれずに吹き飛ばされる。
そこへD-1がハンドレールガンを向け、弾丸を吐き出す。しかし、ファルゲンはそれを回避し、ハンドレールガンで反撃を返す。

「畜生っ! 動きが他の奴らと段違いじゃねぇか!」

「狙いはなかなか……筋も良いが……いかんせん、経験が足りないな。パイロット!」

一気に間合いを詰め、ファルゲンはレーザーブレードでD-1のシールドを切り裂く。

「わあああっ!」

「ケーンっ!」

D-2が背中のキャノンを撃ち、ファルゲンをD-1から引き離す。

「チッ……多勢に無勢かっ!」

「大尉殿!」

D-2の援護に舌打ちをうつマイヨの元へプラクティーズからの通信が届き、見ると彼らの機体が真っ直ぐにこちらへと向かってきている。

「来たか、プラクティーズ!」

「応援かよ! 残り時間7分と28秒……やれんのか!?」



艦隊の間をすり抜けながら、黒の戦闘機、ノヴァイーグルが戦場を飛び回る。
目の前にジンとダインが立ちはだかり、マシンガンを連射する。

「そんな物!」

葵は操縦桿を握り、ノヴァイーグルを操り弾丸の中をかいくぐるように飛ぶ。

「なっ!? この戦闘機、速い!」

両翼下の砲から弾丸を放ち、ジンとダインの両腕を破壊して両機の間をすり抜ける。
その後ろへ、シホのシグー・ディープアームズが取り付き、マシンガンを連射する。

「この戦闘機……連合の新型!」

「何よアレ……チッ!」

機体を傾け、マシンガンの弾を避ける。
シホは両肩のビーム砲を向け、チャージを開始する。

「ターゲットロック……当たれ!」

両肩のビーム砲からビームが放たれる。
葵は舌打ちしながら機体を強引に捻らせ、ビームを辛うじて回避する。

「外した!?」

マシンガンを向け、連射しながらノヴァイーグルへと肉薄を計るシホ。
葵はマシンガンの弾丸を回避しながら、しつこく食い下がるディープアームズに鬱陶しさを覚える。

「しつっこいわね……そんなにしつこいと、好きな相手に嫌われるわよ!」

機体を上昇させ、ディープアームズの頭上を取る。
葵は一呼吸置き、ノヴァイーグルの音声認識システムを起動させる。

「チェンジ、イーグル! ヒューノマロイドモードッ!」

機首にあしらわれた鳥の頭部の目が光ると同時にエンジン部が引き延ばされ両足となる。
両翼が変形、手首を引き出し、機首の下部装甲がスライドし人型の頭部を出現させる。

「なっ……人型に変形するの!?」

「ダンマグナム!」

手に拳銃を握りしめ、ディープアームズへと発砲。
ディープワームズはそれを避けながら、マシンガンで反撃する。

「この……負けるわけには!」

「やるじゃない、ザフトのパイロットさん!」



「邪魔だぁぁ!」

デュエルのビームライフルがドートレスを撃ち抜き、破壊していく。
イザークは機体を敵陣深くに斬り込ませながら、怨敵であるF91の姿を探す。

「どこに隠れているんだ、白いガンダムは……んっ?」

不意に、イザークの目に一隻の戦艦が止まる。
二隻の戦艦と共に明らかに戦線を離脱しようとする戦艦、それは避難民を乗せたスペースアークであるがそんな事をイザークが知る訳がない。
そして、彼の目には敵前逃亡の臆病者に見えていた。

「味方を見捨てて逃げる気かよ!」

デュエルをスペースアークに向かわせ、ビームライフルとレールガンの照準を合わせる。

「敵前逃亡艦がぁっ!」

引き金を引き、ビームとレールガンの弾丸が同時に放たれる。
スペースアークのブリッジへと真っ直ぐに向かうそれは、着弾寸前に割り込んできたMSのビームシールドにより防がれる。

「何!?」

爆煙の中、ビームシールドを構えたF91がスペースアークのブリッジを背に、現れる。
シーブックは間に合ったことに安心しつつ、スペースアークに通信を繋ぐ。

「スペースアーク、早く出てくれ!ここは押さえる!」

『貴方は……わかったわ。感謝します』

声だけの通信で、レアリーが感謝を述べ、スペースアークが護衛艦と共に離脱していく。
艦後部デッキ、セシリーはなんとなく来ていたそこで、F91の姿を確認し、驚愕と共にやっぱりかという風な顔を浮かべていた。
彼女には何故か、F91にシーブックが乗っているとはっきりわかっていた。

「シーブック……」

最後に彼の名を呟き、セシリーは後部デッキを後にする。
シーブックもセシリーに気付き、心の中で彼女の名を呼んでからデュエルへと向き直る。
イザークは、そんなやり取りなど知らず、表情を歪ませる。

「ようやく見つけたぞ……白いガンダムゥ!」

ビームサーベルへと武器を持ち替え、一気に間合いを詰める。
シーブックもビームサーベルへと武器を変え、デュエルのそれと斬り結び、鍔迫り合いをする。

「デュエル! 装備が変わっている……改良したのか!」

「貴様を見るとなぁ! この傷が疼くんだよぉっ!」

鍔迫り合いの状態でイザークはスラスター出力をあげ、そのまま押し切ろうとする。
シーブックは舌打ちを、胸部マシンキャノンでデュエルを怯ませ間合いを取る。

「キサマは! 戦いの最中に見境が無いのか!?」

ビームシールドを消し、左手でビームライフルを握り連射する。
デュエルのシールドで受け止め、イザークはレールガン、シヴァで反撃する。
シヴァの弾丸を避け、F91は間合いをつめてデュエルと組み合う。

「ぐっ……キサマァッ! 何を!?」

「キサマのような、見境のない奴に!」

接触通信で互いの声が聞こえてくる。

「見境が無いだと!?」

「キサマがさっき狙った艦に戦闘要員はいない! 乗っていたのは避難民だ、それを狙うつもりだったのか!?」

「避難民……だとぉ!?」

F91はデュエルの顔面を殴り飛ばし、距離を取ってビームライフルを撃つ。
強引に機体を動かし、ビームライフルをかわしてイザークは吠える。

「俺は避難民を狙った破廉恥とでもいいたいのか? え? ガンダムのパイロットよぉ!?」

「それ以前の奴だ! キサマは!」

二機のガンダムはお互いに牽制しあいながら、ビームライフルを撃ち合う。

「イザーク、何面白そうな事やってんだよ!」

そこへ、ビームと実弾を連射しながらバスターが横槍を入れる。
砲撃をビームシールドで防ぎながら、シーブックは舌打ちし、バスターへビームライフルを撃つ。

「もう一機来るのか!?」

「ディアッカ、邪魔をするな!」

「はぁ!? 何言ってんだよイザーク!」

バスターの砲を連結させた高出力インパルス砲を放ち、F91はそれを避ける。
そこを狙い、デュエルが突貫しながら左肩のミサイルを放つ。

「逃がすかよ!」

「ええい! こんな事で!」

マシンキャノンでミサイルを撃墜し、ビームライフルで反撃する。
互いの砲撃を交差させながら、3機のガンダムが攻防を繰り広げる。


アークラインのプラズマランチャーでジンを撃墜しつつ、クレアは機体を進ませていた。
ここまで上がると機体を引っ張っていた重力は殆ど感じないが、それでも機体がいつもより重い。

「この状況……どうしたもんかしらねっ!」

ライフルモードにランチャーを変形させ、遠距離のダインを撃ち貫く。
少し離れた位置で、メビウス・ゼロがガンバレルを展開し、二機のジンを破壊していく。

「この感覚……クルーゼはいないのか」

あのしつこい男がいないだけでも少しはマシだ。
それでも、状況が苦しい事に代わりはない。
ビルギットのヘビーガンもビームライフルでジンを撃ち落とす。

「数が多いぞ……鬱陶しい連中だな」

「嬢ちゃん、ビルギット、時間もあまり無い。無理はすんなよ」

「解ってますよ、言われなくても」

左腕の三連装機関砲を連射し、ダインの頭部を破壊しながら答える。
その最中、アークラインのレーダーがある戦闘を捉える。

「ん? 少佐、キラ君達が手こずってる見たいなんで応援に回ります!」

「わかった。そっちは任せるぞ」

「了解」

接近してくるジンをプラズマランチャーで撃ち貫き、クレアはアークラインをストライクとドラグナーがいるポイントへと向かわせた。



ファルゲンとD-1のレーザーブレードがぶつかり合い、エネルギーがスパークする。

「ドラグナー! 我がギガノスの汚点、今こそ取り除かせてもらおう!」

「ヤロォ!」

D-1の脚を振り上げ、ファルゲンを蹴り飛ばす。

「ぬうっ! だが、この程度で!」

ハンドレールガンを連射し、D-1へと攻撃。
それを避けながら、ケーンはファルゲンへと悪態をつく。

「クソ……時間がねぇってのに!」

その近くで、プラクティーズの機体とストライク、D-2、D-3が攻防を繰り広げる。

「以前の借りはここで返すぞ! ガンダムタイプ!」

「コイツは……前に戦った奴か!」

ゲルフのハンドレールガンをシールドで防御しながら、ビームライフルで反撃。
D-2は背中のキャノンをヤクト・ゲルフへと放つ。

「ライト、残り時間は!?」

「あと5分だよ!」

レビ・ゲルフの攻撃を避けながら、D-3もハンドレールガンで反撃する。
残り5分となれば、そろそろアークエンジェルへと戻らなければならない時間だ。

「ケーン、なんとか鷹を振り切れるか!?」

「無茶言うなよ!」

レーザーブレードをハンドレールガンに持ち替え、ファルゲンへと放つ。
マイヨは機体を軽く捻り、その弾丸を回避していく。

「フッ……その程度の動きでは、私を捉える事は出来んよ!」

そのまま一気に間合いを詰め、D-1の頭部を蹴り飛ばす。

「うあっ! んのぉ……舐めんな!」

適当に狙いを付けずハンドレールガンを発射。
当然のようにそれを避けるファルゲンへと、脹ら脛に収納されたアサルトナイフを投げつける。

「隠し武器か!」

投擲されたアサルトナイフを避け、ハンドレールガンを連射する。
それをシールドで防ぎながら、D-1はファルゲンから間合いを取ろうとする。

「逃がすものか……何っ!?」

突然、目の前を横切るビームにファルゲンの動きを止める。
見やると、プラズマランチャーを連射しながらアークラインがこちらへと接近してくるのが確認できる。

「チッ、増援か!」

「ファルゲン相手によく持ったわね、あの子達……っ!」

ライフルモードのプラズマランチャーを連射し、ファルゲンとゲルフ等の動きを封印。
その隙にドラグナーとストライクはその場を離脱していく。

「逃がしたか……!」

忌々しげにマイヨは呟き、アークラインの射撃から逃れるためにプラクティーズを連れて離脱する。
それを確認し、クレアは一息つきつつアークラインをストライク、ドラグナーの側へと移動させる。

「すいません、助かりました」

「これぐらい、いいって事。それより、そろそろ時間が無いから戻りなさい」

「解ってますよ!」

D-1を先頭に、4機はアークエンジェルへと戻っていく。
その後に続き、クレアもアークエンジェルへの帰路に機体を走らせる。



「はあああっ!」

左手でレーザー重斬刀を構えたディープアームズを突撃させ、ノヴァイーグルへと斬りかかる。
葵はそれを避け、間合いを取りつつダンマグナムを連射する。

「くっ……絶対に逃がさない!」

「ホントにしつこいわね……そういうの、大嫌いなんだけど!」

ダンマグナムでディープアームズを牽制し、間合いを取ろうとする最中、背後の友軍艦が太いビームに貫かれ轟沈する。
爆風に巻き込まれ、一瞬機体の体勢を崩す。

「くぁっ!」

「隙あり、貰った!」

シホはすかさずマシンガンを連射。
咄嗟に葵は機体を操作するが避けきれず、何発かが着弾。
更に間合いを詰めてきたディープアームズのレーザー重斬刀がノヴァイーグルの脇腹を切り裂く。

「うああっ! この……やってくれんじゃない!」

両腕となった翼の中から一本のダガーを取りだし、ディープアームズの右手首へと突き立てる。
貫かれ、爆発を起こしたディープアームズの右手首が吹き飛ぶ。

「きゃああ!」

「これは、オマケよ!」

イーグルを戦闘機モードへと変形、後部のスラスターをディープアームズに向け最大出力で噴射。
バーニアの炎でディープアームズの装甲を火あぶりにする。

「あああ!」

そのままディープアームズを引き離し、離脱。
ふぅと息をつき、葵はイーグルをアークエンジェルのいる方へと加速させる。



「ドラグナー着艦を確認。アークライン、メビウス・ゼロ、ヘビーガン、ノヴァイーグルも本艦への帰還コースを取っています」

「ストライクとF91は?」

「ストライクは本艦近くにて待機、F91は……まだ戻ってきていません」

アークエンジェルブリッジ、モニターに艦周囲と格納庫内部の映像が映しだされる。
発進させていた機体をそろそろ戻さなければ、大気圏突入に間に合わなくなるのだ。

『シーブックの奴、まだ戻ってないのか?』

「はい……あ、待ってください。F91の反応あり……デュエル、バスターと交戦中です!」

「何!? 一緒に敵機も来ているのか!」

『僕が行きます。万が一の場合も、ストライクならスペック上、このまま降りられますよね!』

「この状況ではそれしか無いか……わかった。しかし、可能な限り時間までには戻れ。スペック上は可能でも、やった奴はいないんだからな」

『解りました!』

ナタルの了承を受け、キラはストライクを向かわせる。

「他の機体は随時着艦。ビルギット中尉とレナード中尉は近辺哨戒を続けて」



アークエンジェルから少し離れた位置でF91はデュエル、バスターとの交戦を続けていた。

「くっ、アークエンジェルに戻る前に振り切れるか!?」

ビームライフルを連射しながら、追いすがるデュエルとバスターを牽制。
すぐ真下に地球が見え、機体の動きが少しずつ重くなる。

「チッ……地球の重力圏の近くまで降りちまったか、イザーク! このままだと重力に捕まるぞ!」

「解っている! 捕まる前に奴と、ついでに足つきを落とせばいいだけだ!」

「簡単に神業宣言してんじゃねぇよ!?」

デュエルのビームライフルと、バスターのキャノンが同時に放たれる。
それを避け、シーブックは現在の高度とアークエンジェルまでの距離をF91のコンピューターに計算させる。

「アークエンジェルは……すぐ近くか。だが、地球の重力圏に捕まるまで時間がない!」

MSでの単独大気圏突入などまっぴら御免だ。
なんとかアークエンジェルまで戻れれば最悪、艦の甲板にでも降りて降下出来るだろうが、その前にこの二機を振り切らなければならない。

「逃がさないって、言ってんだろうが!」

イザークがデュエルのビームライフルをF91へと向ける。
直後、遠距離からビームが放たれデュエルとバスターの動きを牽制する。

「何!?」

「レーダーに友軍反応……アークエンジェルから!?」

ビームを放った機体、ストライクはF91の側へとよりデュエルとバスターを牽制しつつ通信を入れる。

「今の内にアークエンジェルへ! もうすぐ降下開始時間だ!」

「解ってるよ!」

シーブックもビームライフルで牽制を行いつつ、デュエルとバスターから離れようと機体を加速させる。
しかし、イザークはシールドでビームを防ぎながらデュエルを突撃させる。

「逃がすかって言ってんだよ!」

「デュエルめ、しつこい!」

「でえやああああ!」

ビームライフルをビームサーベルに持ち替え、F91へと斬りかかるデュエル。
シーブックはビームシールドでビームサーベルを受け止め、そのまま力任せに弾き飛ばす。

「ぐうっ!」

「今だ!」

キラが咄嗟にストライクを動かし、デュエルの腹部へと蹴りを入れる。
そのまま大きく蹴り飛ばされ、デュエルの機体は加速をつけられた状態で降下していく。

「くっそおおおおおおっ!」

「イザーク!?」

ディアッカがバスターでデュエルを引き上げようと、マニピュレーターを掴んでスラスターを全開にするがすでに重力圏に捕まった二機は成す統べなく地球へと落ちていく。

「なんとかなったか……早く戻らないと!」

それを確認し、ストライクとF91をアークエンジェルへと向かわせる。
しかし、デュエルとバスターの相手に手間取りすぎた為か、二機が重力圏に捕まるのは時間の問題だった。



「ストライクとF91はまだ戻らないのか!?」

アークエンジェルブリッジで、いまだ戻らない二機の所在確認が求められる。

「現在、二機ともこちらに向かっていますが……こちらに戻るよりも早く、地球の重力に捕まります!」

「何!? ええい、どうしてこうも問題が……」

その報告にダグラスが忌々しげに叫ぶ。
このまま降下してはストライクとF91を見捨てる事になる。だからといって二機の回収しよう物なら降下ポイントが大きく外れてしまう。
更に、悪いニュースが飛び込んでくる。

「これは……敵軍、ユーラシア級戦艦が接近してきています!」

「なっ……!?」

モニターに拡大表示された映像に、第八艦隊の中央を突破せんと砲撃を行いながら進軍をかけるガモフの姿が映しだされる。

「艦隊の中央を突っ込んでくる……特攻のつもりか!?」



ガモフの特攻はマイヨにも当然伝えられた。

「艦長、何のつもりだ!?」

この混戦の中、敵艦隊の中央へ突撃を仕掛けるなど自殺行為でしかない。
現に今も敵艦の砲撃を受け、爆発を起こしている。

『今まで足つきを逃してきたのは……ザフトの責……艦隊だけ…………ここで…………確実に落と…………』

通信装置が損傷を受けたのか、雑音混じりで音声のみの通信で聞こえてくる。
ガモフの艦長は、ここでアークエンジェルか第八艦隊のどちらかを差し違えてでも確実に倒すつもりなのだろう。

「大尉殿、ガモフは!?」

「今からでは間に合わん!」

マイヨは最後にガモフへと、そのクルーへ敬礼し、最後の特攻を見送った。



ガモフの進路上、アークエンジェルとその真上に位置するメネラオスに砲撃が襲いかかる。
それを見たハルバートンは舌打ち混じりに指示を出す。

「特攻かっ! 砲撃をあの敵艦に集中させろ、周囲のMSにもそう伝えろ!」

メネラオスの全砲門がガモフに向けられ、一斉に放たれる。
周囲にいたMSも、ガモフへと砲撃を集中させる。



アークエンジェルでも、ガモフとメネラオスの交戦は確認できたが位置的にどうしようもない。
それよりも、ストライクとF91が確実に降下までに間に合わない事が問題だ。

「艦長、敵艦はメネラオスに任せられるとしてもストライクとF91が……」

「解ってるわ……アークエンジェルをストライクとF91の回収に向かわせて!」

「それでは降下ポイントが大幅にずれます!」

「あの二機をここで失うよりマシよ! 早く艦を!」

「了解しました!」

ノイマンが操舵桿を操作し、アークエンジェルをストライク、F91のいるポイントまで移動させる。
メネラオスの真下から移動し、甲板に待機しているアークラインとヘビーガンからもガモフの船体が小さいながらも確認できた。

「……こっからなら、狙えるかな」

クレアはコンソールを操作、プラズマランチャーをスナイパーモードへと変形。
続けて右腰のコネクタを解放し、プラズマランチャーを接続させる。

「あん? お前、何をするつもりなんだ?」

「ここから、ザフトの戦艦狙います」

甲板上でスナイパーモードのプラズマランチャーの銃口を上方のガモフへと向ける。
コクピットシートの裏から狙撃用スコープを目の位置まで引き出し、照準を合わせる。

「ここから狙うだと!? この距離だ、いくらなんでも射程距離が……」

アークエンジェルとガモフの距離はローエングリーンがギリギリで届くか届かないかといった距離だ。
カスタム機とはいえ、PTの武器が届くかどうかは疑問。更に降下直前という不安定な状況下で狙える訳がない。
しかし、クレアはいたって冷静に返す。

「大丈夫よ……狙撃は私の……」

クレアの覗くスコープで、ガモフへの照準がセットされる。
プラズマランチャーの銃口にエネルギーがチャージされ、最大出力となる。

「十八番だからね」

クレアはそう呟き、引き金を引く。
銃口から放たれた高出力のビームがメネラオスとその周囲に展開中のMSの間を通り抜け、ガモフのカタパルトハッチを正確に撃ち抜いた。
カタパルトハッチを貫き、内部に着弾したビームによりガモフは内側から爆発を起こす。
それに続けと、メネラオス、艦隊のMSが砲撃を集中させ、致命傷を負ったガモフは更なる追い打ちによりアークエンジェルはおろか、メネラオスに取り付くことも叶わず轟沈する。

「す……凄ぇ……この距離で、敵艦を正確に撃ちやがった」

ビルギットはそれにただ、一言だけの感想を漏らすしか出来なかった。
数秒後、ストライクとF91が無事にアークエンジェルの甲板上へと着艦する。

「全機、着艦を確認!」

「今から格納庫には戻せん。甲板上なら艦が盾になってそのまま降りられると伝えろ!」

「了解、アークライン、ヘビーガン、ストライク、F91の4機はそのままアークエンジェルの甲板上で待機! このまま降下します!」

そして、アークエンジェルはゆっくりと大気圏へ突入していった。
ハルバートンはそれを確認し、フッと笑みを浮かべる。

「無事に降りられたようだな……我らの面目はたったか」

静かに呟き、表情を引き締める。
自分達の仕事はまだ終わっていない。

「我が艦隊の消耗は?」

「はっ……艦3隻、MS12機が撃墜されております」

「ほぼ半分か……ここまでの戦闘で、それだけで済んだのも幸いというべきか……」

目の前には未だに戦闘態勢を意地するザフトとギガノスの軍が控えている。
アークエンジェルに逃げられた事で、標的を第八艦隊に変えたのだろう。

「マイヨ・プラートも必至と見える。ならば、それに応えてやらねばな」

どのみち今から撤退しようにも追撃され、全滅するのがオチだ。
かといってこのまま戦っても敗北は必至。
ならば、最後まで戦って散るとハルバートンも、他の艦隊クルーも心に決めていた。

「全軍、全てを出し切って戦え! 一機でも多くの敵を落とすのだ!」

『『了解しました!』』

第八艦隊とザフト・ギガノスの戦闘はそのまま続行された。
約2時間後……第八艦隊旗艦、メネラオスの撃沈を持って終結した。


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