天の道を往き、総てを司る

天の道を往き、総てを司る

プロローグ


その世界にはお世辞にも相応しいとは言えない、鈍く、鋭い耳をつんざくような銃声が響き渡る。
其れの一瞬遅れで響くのは何か、巨大な物質が倒れる音。ドォォンと漫画のような派手な音を立てる。
純白の白い雪の大地にその身を預け、力無く倒れるはRK-92、サベージと呼ばれる蛙のような頭部形状をしたAS。
現在における国連軍の主力ASであり、少数ながら一般にも出回っているそのサベージがコクピットに位置する部分を撃ち抜かれ雪に埋もれている。
そのサベージを見下ろすようにライフルを構えたAS――サベージとは異なり人に近い体型をした力強さを感じさせる灰色の機体――M9、ガーンズバックがいた。

「こちらウルズ7。敵サベージを一機沈黙させた、これよりPー360へと向かう。以上、交信終了」

サベージを見下ろすM9のコクピットの中でパイロットの少年、相良宗介(さがら そうすけ)軍曹が他のポイントで作戦行動を展開している友軍へと現状報告を入れる。
通信を終了させ、周囲を確認すると宗介は機体の電子迷彩システム、ECSを作動させ機体を透明化させ移動を開始する。
ホログラム技術の応用であるECSはレーダーや赤外線探知からはほぼ完全に姿を隠す、現用兵器の多くが装備している最先端のステルス装備だ。
本来ECSには機体を透明化させる程のステルス性能は無い。しかし、このM9に搭載されたECSは可視光の波長を消し去り透明化を可能としている。
これは彼の駆るM9共々、国連軍でも配備されていない最新鋭装備である。それ等の装備を彼が有しているのは彼が“ミスリル”と呼ばれる傭兵集団に所属する傭兵故である。
世界の10年先を行く技術を持つと言われる謎の傭兵部隊として知られるミスリルのメンバーで、その中でも宗介は様々な技能を身につけたトップチームの一員。
ミスリルの主立った活動内容は国内紛争やテロの鎮圧、核弾頭等の密輸阻止などで国連軍を初めとした如何なる勢力にも与しないとして知られる。

「こちら、ウルズ7。P-360に到達・・・・・・目標を発見した」

数分ほどM9を歩かせた後、宗介の視界にひっそりと建てられている古びた木造のログハウスが確認できた。
見た目はただの木造小屋であるが、それはカモフラージュであり地下が巨大な兵器工場や研究所などを兼ねた施設になっている事は情報部により調べがついている。
その施設が以前からミスリルと敵対していた組織の施設の一つであることも判明している。
現在、世界各地で活動を起こしている“虚無”を初めとした様々な組織とつながりを持ち、数回に渡り国連軍の要人暗殺を行ってきた“十二神の使者”を名乗る組織。
其処で行われている兵器開発及び人体実験の阻止、実験台にされている人々の救出が今回の任務内容である。
情報部の人間が自らの命と引き替えに入手したこの情報を元に本部が作戦を立案、実行に移したのだ。

『ウルズ6了解。こっちもポイントに到達した所だ』

『ウルズ2了解。全ユニットの指定ポイント到達を確認した』

同じ部隊に所属する仲間の二人が通信を返してくる。
現在、目の前のログハウの周囲100キロはM9が数機。実験台にされている人々の救出部隊を兼ねた歩兵部隊が数部隊で包囲している。
作戦時間は現地時間の1800。丁度、2分後に全ユニットで突撃を開始する予定だ。

『突入時刻まで、あと1分』

各部隊がそれぞれの装備のチェックを即座に済ませ身構える。
この作戦に成功すれば十二神の使者の拠点の一つを完全に叩き潰す事が出来る。失敗は許されない。

『後10秒・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・突入!!』

現地指揮官の合図と同時にM9数機が一斉にECSを解除し、歩兵部隊がログハウスへと向かい駆け出す。
しかし、その進軍は突如としてログハウスの真下から起きた爆発により中断される。
ログハウスを跡形もなく吹き飛ばし、周囲の雪を蒸発させ、歩兵部隊は元より全長8メートルに及ぶM9の機体を爆発の余波が襲い転倒させる。

「な・・・何が起きた!?」

M9を地面に這い尽かせ爆発の余波に耐えている宗介はノイズが酷くまともに写らないモニターでログハウスのあった地点を確認する。
其処からは白い光の柱が天に向かい真っ直ぐに立ち上り、真紅の炎が雪を舐め溶かしていく光景が見られる。
その白い光の柱の中、宗介の視界に写る一つの影があった。

「何だ・・・・アレは・・・」

光の柱の中、其処に一体の機動兵器らしき影があった。
良くは解らないがASとは異なる漆黒の鎧を身にまとった戦士を思わせる形状の兵器だと確認する。
黙視である以上は絶対とは言えないが全長もかなりある。最低でもASの二倍以上はあるだろう。
宗介の視線に気がついたのか、その漆黒の戦士は宗介のM9の方へ顔を向ける。黄色く光る二つのアイカメラでほんの一瞬M9を凝視した後、漆黒の戦士は光の柱を上り空へと飛び上がる。

「・・・・・・・」

漆黒の戦士が飛び去った後、光の柱は消え去り周囲は何事も無かったかのように静けさに包まれる。
爆発の後に残った物はASを初めとした機動兵器や施設の機器の残骸。そして、呆然と立ちつくすミスリル実行部隊のメンバーのみであった。


この後、施設は全壊、生存者0である事が確認され実行部隊は撤収。
ミスリルは総力をあげて飛び去った漆黒の機動兵器の行方を捜したが結局発見することは出来ず捜索は打ち切られる。
そして、半年の月日が流れた。


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