Beliar

#3


過去の世に名を馳せた兵たちとの出会ったあの日のこと。


#3:必然【アタリマエ】


3ヶ月くらい前、そうハッキリと覚えてる5月7日・・・
幼くして両親共々失った私は、祖母夫婦に引き取られて親代わりとして育てて貰っていた。
けれど、そんな祖母も去年に病で亡くなった。
身よりも肉親すらいない私は、自分の寿命を悟った祖母が残してくれた財産とこの家で一人で暮らしていた。
朝起きて一人、夕方帰ってきて一人、夜寝ると一人。

ずっと独りぼっち。

別にホームシックとかそんなのにかかってるワケではない。
ただ、いとも容易く思い浮かべれる祖母の顔に対して、両親の顔は何をしてもどんなことをしていても思い出せなかった。

そんな時、私の運命を変えるかもしれない5月7日がおとずれた。

朝、いつもどおりに起きた時のことだった。
多少、まだ夢の世界に入り浸っていた私は、微睡んだ両目を擦りながら暫くベッドの上でぼーっとしていた。

がた、ごとんっ

「?なに・・・??」

リビングから、何かが落ちてくる音がして、微睡みの世界にいた私は現実に非違戻された。
棚の上にあったものでも落ちたのかな、と起きるついでに気になってリビングに向かってみると。

いた。

「っい・・・・!!!」

危うく悲鳴を上げそうになった。朝っぱらから悲鳴は上げれないけど。
でも、軽く叫びそうなくらい衝撃的だった。

床に広がるのはどす黒く変化した血の様なモノ。
うつぶせで倒れ、息をしているのかすら分からない青年。
横に転がる、人一倍大きな巨鎌。

知り合いなワケがない。と、言うか知り合いであってほしくない。
その場で硬直し、私はただ、ただ倒れている青年を見つめた。腹部からも腕からも酷い出血で、生きているのか生死不明の状態だ。

「え・・・え、殺人・・・?私の家で殺人・・・?」

そんな馬鹿な。
もしかして、金目当てで泥棒に入ったこの人が、運悪くそこのデカい鎌で自分を刺してこうなっちゃったと?
ありえない。ていうか、こんな事実はあってほしくない。
震える手で、私は倒れている青年の脈に触れようとした。

死んでいたらどうしよう、警察に真っ先に疑われてしまうだろうか、それとも例え犯人扱いを免れたとしても近所の噂好きのオバさんたちに影からアレコレ言われてしまうだろうか。
どこにでもいる高校一年生なのに、粋なりこんな運命が変わるなんてありえないですよ、神様。

嗚呼、生きていますように。そして、警察や救急車の人達にどうか私とは何の関連性も無いと言ってください。

そう、願いながら青年に触れた。

刹那

「だァァァ、あンのくそダヌキィイイ!!」
「きゃあああああ!!?」

青年が顔から血を流しながら起きあがった。
死んでいるなんて思われ無さそうな、青年の顔には青筋が立っていた。

殺られる。

長い金髪の隙間から見える青年の翡翠の瞳は、俄に殺気だっていた。
どうしよう、あのでっかい鎌で、私も首をスパッと斬られてしまうのだろうか?私にマリーアントワネットにでもなれと?
驚きの余りに、その場で固まっていた私に気づいた青年が、こちらを見る。あ、以外とイケメン・・・じゃないじゃない!!

「あァ~~~ン??誰だ、てめェ・・・」
「それはですね・・・こっちの台詞でもあるんですけどね・・・」

ジャキン、と青年より一回り大きい鎌が軽々と片手だけで持ち上げられる。
ちょちょちょ、待って待ってウェイト、ウェイト。その物騒なモノ下げてください。

「・・・クソダヌキはどこに行きやがった?」
「は・・・狸・・・?狸狩りでもしてたんですか・・・?」
「ちげェよ。」

狸追いかけ回してそんな風になったんですか?と聞きたかったけど、あの死神みたいな鎌の刃先が、あろうことか喉元に突きつけられているため、言えない。
と、言うか「狸追いかけ回して」と言った瞬間に私の首と胴体が「バイバーイ、また明日ねー。」ってなりそうな気がする。明日なんて無いけど。

「ここどこだァ?大阪城はどこに消えたァ?」
「おおお、大阪城・・・?ここ、東京ですけど!?」

何言ってるんだ、この人。
もしかして、アレか?アレな人か?
大阪観光に来て、バスか新幹線乗り間違えてこの家に来たのか?いやいやいや、ウチには新幹線もバスも通ってませんけど。

じゃあ、どうして?

そんなん知るか。

とにかく、こんな危ない人は早々に引き取ってもらうに限る。
大阪観光したいなら、病院行くついでに交番でも寄って行ってください。無論、鎌持ってるから即御用でしょうけどね!

「あ・・・あのあのあの・・・」
「あー?なに?首チョンパがいいのォ?」
「言ってません!それより、か、か帰ってください。」
「はァ?」

よしっ!言った、言ってやった!
でかしたぞ、やな!偉い偉い、アカデミー賞ものだ!

「・・・・・・・」

サクリ

「いっ・・・ぎゃああああ!!!」
「うるっせェー。黙んねーと喉潰すぞ。」

何何何、何なのこの人!!
喉もと切られた!鎌の先っちょでスパッて切られた!!
ていうか、喉潰すって何さ!現代に「喉潰すぞ」って脅迫の仕方なんて聞いたことないんですけど!?
しかも、極端に「殺すぞ」って言われるよりも怖い!

「ごごご、ごめんなさい・・・!」

本来ならば、人の家に土足で入り込んで恰もその家の家主に刃を向けるとは。
なんて、矛盾した男!
しかもお気に入りの絨毯を血で染めやがって!!

「まァ、いいやー。アンタ殺してもつまんなさそォー」

ジャギン、とまるでギロチンか何かの鋭い音を立てて、男の人は私の首元に突きつけていた鎌先を下ろした。
そしてあんな重そうな鎌をぐるんと振り回すと、突き出ていた鎌先の刃がジャキンッ、と音を立てて、杖部分に引っ込んだ。

「で、アンタ誰ェー?」
「・・・」
「ああ、こっちの台詞だ、って顔してらァー」

あたりまえだ、このバカ野郎!!

落ち着いてよー、にゃんこちゃんー、と人をコケにでもしているかの如く態度で、男はニヤニヤ笑う。
男の長い金髪の前髪から時々翡翠の瞳と、私の蒼青の瞳がぶつかり合う。

翡翠の瞳が、俄に細められる。

「あのさァー、腹減らない?」
「は?」

どかっ、と最早人の家と言う意識とマナーの壁を難なく乗り越えた男は、その場で腰を下ろす。
気を抜いてるのか、と思えば彼の手にはしっかりとあの大鎌が握られている。なるほど、私が何か不可解な行動に出たら殺すつもりか。

「だっからさァー、お腹空いた。」
「な、何か食べたいモノでも?」

しまった、こういう系の男にこの返答は間違えたかも。
大抵、お前が喰いたいと言われて、あの大鎌で・・・・・!!
考えていたことが大当たりとでも言うのか、男がニヤリと笑う。そして、再びあのおぞましい鎌を取り出して、先ほどとの巨大な刃より一回り小さく、それでも人一人軽く殺せそうな鎌の刃を杖部分からガシャン、と放出させた。

「うーごかないでねー。失敗するとアンタも痛い思いするよー?」
「・・・っひぃ!」

動かないでね、ってアンタ!無茶がある・・って寄るな、こっちに来るな!!

た、助けてーーー!!



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