Beliar

#5




#5:狩猟【しごと】


そして、そんな彼を見かねた私は、行く当てなさそうな彼をここで居候させることにしたのだ。
なんて、甘い自分!馬鹿じゃないのか私はっ!!

ぎゅっ!!

「いッ、てェェ!!」
「え?あっ!ごごご、ごめんなさいっ!」

思わず握っていた包帯に力を込める。
力をこめすぎたせいもあって、白い包帯にジワリ、と血が滲んだ。
ソレを見てやなが、ぎょっ、とする。
痛みによる怒りは、やなに向かずに主犯である政宗に向けられた。

「ったァー!コレも全部テメェのせいだかんなァ!!」
「五月蠅い。次は首を斬るぞ。」
「バァーーカ、ンなんじゃ死なねっつの。」
「試してやろうか。舌でも斬って喋らなくしてやる。」
「やンのか、殺すぞ!」

幸村は直情的である。やなと出会った頃から。
普段は、幼い子供のようなノリが軽い性格だが、キレたり感情的になると普段とは面影もないほど変化する。
故に怒りのON/OFFのスイッチの変化が激しすぎるのだ。
ザワリ、と幸村の目元に紅い刺青が現れる。それを見たやなが目を見開く。

「ちょちょちょッ、駄目駄目駄目!幸村さんストーーーップ!!」
「あァー?なんでェ。」

場の雰囲気の悪さに気づいたやなは、飛びつくように幸村の腕にがしッ、としがみついた。
やなの必死さに気づいた幸村は手にしていたあのおぞましき大鎌を下ろした。それを見た政宗も抜刀しかけていた日本刀を収める。

「へ、部屋!部屋が壊れちゃう!」
「へやァ?あー、そだっけ。」

めんどくせー、とブツブツぼやきながら幸村が目元に浮かばせていた刺青を消した。スイッチがOFFになった証拠だ。
政宗の方にやなが目をやると、さも気にせずに政宗はご飯に手を伸ばしていた。
幸村はそれを見て不服そうに椅子から立ち上がると、ソファに身を沈めた。陸遜と甘寧がそれに気づく。

「あれ、幸村。夕飯いらないんですか?」
「いーラネェ!ソイツと飯囲むなんてぜってェやだ。」

拗ねた子供のように幸村が紅いパーカーのフードをがぽりと被る。
それを見た甘寧がニヤニヤ笑う。

「ほォっとけ、陸遜。ガキはねんねの時間だー。」
「ンだと、コラァ!!」
「甘寧さん!幸村さんを怒らせないでください!」

ギロリ、と濁った翡翠の瞳が甘寧に向けられる。
やながこの場にいなかったら、幸村はとっくのとうにブチ切れてこの部屋を血塗れにしているところだ。

「甘寧。やなの言うとおりですよ。幸村は怪我してるんですから。」
「カンケーねー。俺らの時代に同情なんてあったか?」
「・・・ありませんけど、幸村の世とは時代が違いますからね。」

三国の世の甘寧と幸村、戦国の世の幸村と政宗、そして現代に生きるやな。
生まれも育ちも全く違うこの家じゃ、こういうことは日常茶飯事に行われている。
かく言うここにいる残り三人もこの家に落ちてきた者達だ。

甘寧が落ちてきたときはそれはもう驚いた。
幸村が落ちてきた数週間後に風呂場の湯が溜まっていると思って、見に行ったら物の見事に浴槽で沈んでいたのだから。

だが、それ以上に驚いたのは、陸遜と政宗である。

陸遜は玄関の靴箱の上でグッタリ、と倒れていた。
見つけたときにどうしようと困り果てていたら、甘寧が身内者だと言いだし看病していくうちに仲良くなっていったのである。
温厚で親切である彼は、やなのお気に入りだ。

そして、問題児である奥州筆頭伊達政宗。
彼はやなが朝、目覚めたときにベッドの真横で倒れていた。
胸や身体中に矢を喰らっていて、幸村は「もうじき、死ぬだろうから腐らないウチに食べちゃおう。」と言っていた。
彼は幸村と違って瀕死の状態で、虫の息もいいところだったが、軍師であった
陸遜のおかげもあってか、今この場にいるのである。

孤独を好み、人との馴れ合いを嫌う彼は、常日頃からやなの与えた部屋に篭っている。
思えば、意識を取り戻したあとの彼を看病するのも大変だった。

食事を取らせようとしても一口も食べないし、話しかけても随時完全無視。重体の人間を外に出すわけもなく、生まれて初めて学校相手に「持病の発作が酷いので体調管理するために暫く休む。」と言うアホみたいな嘘もついた。引っかかった先生もアホであるが。
一番酷かったのが徐々にやつれて行く彼を見て無理矢理食事を取らせようと試みたら思い切り殴られたことだ。
さすがは鬼将、殴られたところに青痣が出来た上に唇を切った。これは本当に休まねばならないハメになった。
しかも、物音を聞きつけた幸村が事態を見て、思い切りブチ切れたことだ。どこからかあの大鎌を取り出し、部屋が少し壊滅状態になった。

(気まずい、なあ・・・)

箸を銜えながらやなは考えた。反抗期の息子を持つ母親の感覚だ。
黙々とご飯を食べる男三人に、ソファで不貞寝する男一人。そして家主なのに何故か肩身が狭い女一人。

槙野家では日常茶飯事でも、やなだけは未だに慣れていない。



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