Dragon's nest

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第5話:神様のチェスボード



縁側で女が二人、チェスをしていた。
二人ともラフな浴衣の着方をしている。
足元や胸元が多少はだけても、気にとめないらしい。

「チェックメイト」

両目に包帯を巻いた女が駒をスッと進め、凛とした口調で言う。
『道見(どうけん)』と呼ばれる闘神である。

「あー、やっぱり強いわ。参りました。
 てか、闘神に勝負事で勝てるわきゃ無いってねぇー?」

黒髪の女が苦笑する。
セイの母親、ナルミだった。

「…それより、何しに来た?
 わざわざこんな辺境へ、チェスを興じに来た訳では無かろう」

道見に訊ねられ、ナルミはニヤリと笑った。

「先見の瞳を持つ闘神にして、
 闇に堕とす苦痛を与えし堕神・道見
 …にしちゃあ、キューピッド役?
 中々オツな事をしてくれたなぁーと思ってねぇ」

「…何の事だ?」


「ラバイトとセシルの事…ですか?」


男の声が話に割り込んできた。
振り向けば、若い男が酒を注いでいる。
道見につかえる者・ラッセルである。

「そんなにラバイトが気になる?
 セシルに横取りされた気分?」

ナルミに擦り寄られても、
ラッセルは表情一つ変えずにグラスを寄越した。

「…愛嬌の無いボウヤねぇー、
 女は道見しか興味ないっての?
 …それとも」

瞬く間に、ナルミの姿は女から男に変化した。

「こっちの方がお好みかな?」

「あまりラッセルをからかうな。
 あの子らの件で、この子も随分と心を痛めた。
 ふざけてないで早く用件を言わぬか」

一杯呑み、ナルミの言動に呆れたように道見が言う。

「はぃはぃ、
 …ちょっと、ラッセル君。
 おつまみも持って来てくんないー?
 アタリメでもイカ天でも何でもいいからーvV」

「イカはありません」

ラッセルがきっぱりと言っても、
ナルミは駄々っ子の様な口調で催促した。

「イカじゃなくてもいいからはーやーくー!」

ラッセルが渋々と酒の肴を取りに行くと、
ナルミは男の姿からまた瞬く間に女の姿に戻り、
煙管をくゆらせた。

「そのラバイトとセシルって子達のことなんだけどねぇー、
 あなた、ラバイトを堕天させただけじゃなく、セシルにも…」

「…知っていたか」

「当然。
 未来が見えるあなたの眼同様、私の耳は過去が聞こえるの。
 実は数分前、うちの屋敷にその子達が来たのよねぇー。
 その事も筒抜けなのよ」

「よく言う…ザクラを餌に二人をおびき寄せたクセに。
 ザクラが封印から出ればセシルが感知する。
 そしてセシルが「ザクラに逢いたい」と言えば、
 ラバイトは屋敷に連れていく…
 それを狙ってタイミングを計り、
 息子に封印を解かせたのだろう?」

「まぁねぇ…あのバカ息子の性格からして、
 無闇に滅したり追っ払ったりしないと思ったし。
 おびき寄せるだけなら、
 コレを餌にしてもよかった…んだけど」

ナルミがチェス盤の上に置いたのは、卵型の透明な容器。
中には 玉状の何か が浮き、光を放っている。

「…まだコレとご対面させる訳にはいかない。
 残留しているロアの邪気とコレ本来の気に当てられて、
 私ら以外は気がふれる危険性があるから」


ナルミの眼光は、笑顔に反して鋭かった。

「何故、そこまで…。
 息子どもの様に、あの子等も己の手駒にするつもりか、
 ナルミ… いや、『道聞(どうもん)』よ。
 お前は何を企んでいる?」

「…息子ども…ね。
 子どもなんてね、分身であり他人でもあり未完成な作品なのよね。
 … まさか一番出来損ないだと思ったのが …ねぇ?」


その出来損ないが今、天使と悪魔達とカレーを喰っている…

ナルミにとって、それは描いてた筋書き以上に滑稽な傑作であった。


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