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Dragon's nest
第一話「デアイ」
「きゅー?」
川辺で魚を取っていた少女は、近くで水浴びをしていた、「アルプ」と呼んだ龍に声をかけた。
龍は振り向くと、少女が手に持っている魚を見て、心底嫌そうな顔をした。
「ぎー!ぎぎー!!」
「何?オ魚嫌カ?」
「ぎー!」
こくこくと頷く龍を見て、少女はため息をついた。
「ソウダヨネー…オトーサンとオカーサン、オ魚食ベ無イモンナー…
良イヨ。ステア一人デ食ベ…」
最後まで言う前に、少女…ステアは空を見上げた。
「きゅー…」
何かを感じ取ったのか、アルプも不安そうにステアの傍に寄り添う。
二人の間を、強い風が吹き抜けると、
その風に乗って、何かが焼ける臭いが二人の下へと届く。
「ひっ…!」
その臭いを嗅いだ途端、ステアは川辺に膝をついた。
焼け焦げた樹の臭いと、血の臭い。
それは紛れもなく、風の吹いてきた方向…ステアの両親が住む方向からだった。
「アルプ、行くよ!オトーサンとオカーサン心配!」
「き…きゅー!」
力の抜けた足を言い聞かせて立ち上がると、ステアは家へと走った。
※
二人は、家の近くの茂みから、そっと顔をのぞかせる。
家といっても、洞窟を少し掘り進めた程度のものなので、家というより、巣と言った方が正しい。
血の臭いは濃ゆくなっていて、どう考えてもここで何かあったとしか思えなかった。
「きゅー!」
アルプが何か感じ取ったように一声鳴いた。
その鳴き声を聞いて、ステアは巣の方角を見ると、巣からボロボロになった一頭の龍が這い出て来る所だった。
「オトーサン!」
悲鳴に近い声で、ステアはその龍を見た。
「お父さん」とステアが呼んだその龍は、低く唸ると、その場に倒れる。
「オトーサン!」
父に駆け寄ろうとするステアは、後ろからぴっぱられた衝撃でそのまま躓く。
「アルプ、何スルか?」
必死にステアの服のすそを噛み、聞いても、首を振るだけのアルプは服を噛んだまま小さく鳴いた。
まるで「行くな」と言っている様に。
「アルプ…?」
何とか弟をなだめていると、数人の話し声にステアは再び茂みから顔をのぞかせた。
「死んだか?」
「あれだけダメージを食らわせておいたんだ。死んでいるだろう」
二、三人の防具を付けた人間に、ステアは顔をしかめた。
「オカーサンは…逃ゲタカナ…?」
そわそわと、今からでも飛んで行きたい衝動を抑えて、心配そうにつぶやいたステアは、次の瞬間、目の前の光景に目を見開いた。
巣からまた、二人ほどの人間が出てくる。
一人は大きな袋を担ぎ、また、その中の一人は中に居て、先に殺されたであろう龍の首を持っていた。
人間の精神年齢にしてみれば、まだ若いステアには余りにも酷過ぎる光景だった。
傍で弟が小さく鳴きながら、ステアの服のすそを引っ張っているのに気付かずに、ステアはその場から動けなかった。
全員が集まり何事かを話した後、その中の一人が父親の首に剣を振り下ろす。
ステアは反射的に目を塞いだが、再び濃ゆくなった血の臭いにステアは気を失った…
※
「うーん…アレ…?」
頭を抱えて起き上がったステアは、額に乗せてあったタオルに気付く。
「一体、誰ガ…?」
「起きたようだな…」
かけられた声に、ステアは振り向く。
けして派手とはいえない鎧とマント。
碧の瞳に、金髪の青年が水の入った水筒を持ってステアのそばに来た。
くるりと見渡せば、そこはステアが数分前に弟と魚を取っていた近くの川辺だった。
「森の中に倒れていた…何か…見たのか?」
「え…?」
「烏が異様なほど集まっていた。
お前が倒れていた近くの洞窟に、二頭の…首のない龍の亡骸が燃やされていたんだが…」
「っ…!」
「知って…いるのか?」
「ステア、何モ知ラナイ…!貴方、誰?オトートは?」
「弟…?」
片子なしゃべり方で喋っていたステアは、
青年の反応に、はっとしたように立ち上がった。
「アルプ、アルプ!」
辺りをきょろきょろと不安そうに見回しながら、ステアは弟の名前を呼び続けた。
暫くして、遠くのほうから「きゅいー」と言う鳴き声が聞こえたかと思うと、
森から灰色の人間の子供と然程変わらない位の子龍が走ってくる。
「アルプ、心配シタよー…大丈夫ダッタ?」
「きゅー」
アルプの体を抱きしめ、ステアは頭をなでた。
「お前…平気なのか?」
「何ガ?」
べろべろとアルプがステアの顔をなめる。
それをくすぐったそうにしながら、ステアは青年の言った言葉に首をかしげた。
「龍は人に馴れる事はない…まして、気性の荒い龍となれば、人も襲う。
なぜ、お前は…?」
「ステアのオトーサンとオカーサン、龍。
本当のオトーサンとオカーサン、ステア捨テテ行ッタ…ダカラ…」
立ち上がり、服についた砂を払いながらステアはそう、言った。
『そうか…それでこの龍がこんなに懐く訳か…』
ステアの横に行儀よく座り、尻尾を振る子龍を見ながら、青年は納得したように頷いた。
「自己紹介がまだだったな…俺はアシュタル。旅の傭兵だ…」
「ワタシ…」
「ステア。そっちがアルプ。」
アシュタルがアルプを指差すと、アルプは「ぎー」と鳴き、左手を上げた。
「む…ワタシ、ステア=ディグレス。コレデも、貴方ヨリ、(多分)年上!」
アシュタルに先に言われた事が気に喰わなかったのか、ステアはぷぅ。と頬を膨らませた。
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