Dragon's nest

Dragon's nest

第一話「デアイ」


「きゅー?」
川辺で魚を取っていた少女は、近くで水浴びをしていた、「アルプ」と呼んだ龍に声をかけた。
龍は振り向くと、少女が手に持っている魚を見て、心底嫌そうな顔をした。
「ぎー!ぎぎー!!」
「何?オ魚嫌カ?」
「ぎー!」
こくこくと頷く龍を見て、少女はため息をついた。
「ソウダヨネー…オトーサンとオカーサン、オ魚食ベ無イモンナー…
良イヨ。ステア一人デ食ベ…」
最後まで言う前に、少女…ステアは空を見上げた。
「きゅー…」
何かを感じ取ったのか、アルプも不安そうにステアの傍に寄り添う。
二人の間を、強い風が吹き抜けると、
その風に乗って、何かが焼ける臭いが二人の下へと届く。
「ひっ…!」
その臭いを嗅いだ途端、ステアは川辺に膝をついた。
焼け焦げた樹の臭いと、血の臭い。
それは紛れもなく、風の吹いてきた方向…ステアの両親が住む方向からだった。
「アルプ、行くよ!オトーサンとオカーサン心配!」
「き…きゅー!」
力の抜けた足を言い聞かせて立ち上がると、ステアは家へと走った。

二人は、家の近くの茂みから、そっと顔をのぞかせる。
家といっても、洞窟を少し掘り進めた程度のものなので、家というより、巣と言った方が正しい。
血の臭いは濃ゆくなっていて、どう考えてもここで何かあったとしか思えなかった。
「きゅー!」
アルプが何か感じ取ったように一声鳴いた。
その鳴き声を聞いて、ステアは巣の方角を見ると、巣からボロボロになった一頭の龍が這い出て来る所だった。
「オトーサン!」
悲鳴に近い声で、ステアはその龍を見た。
「お父さん」とステアが呼んだその龍は、低く唸ると、その場に倒れる。
「オトーサン!」
父に駆け寄ろうとするステアは、後ろからぴっぱられた衝撃でそのまま躓く。
「アルプ、何スルか?」
必死にステアの服のすそを噛み、聞いても、首を振るだけのアルプは服を噛んだまま小さく鳴いた。
まるで「行くな」と言っている様に。
「アルプ…?」
何とか弟をなだめていると、数人の話し声にステアは再び茂みから顔をのぞかせた。
「死んだか?」
「あれだけダメージを食らわせておいたんだ。死んでいるだろう」
二、三人の防具を付けた人間に、ステアは顔をしかめた。
「オカーサンは…逃ゲタカナ…?」
そわそわと、今からでも飛んで行きたい衝動を抑えて、心配そうにつぶやいたステアは、次の瞬間、目の前の光景に目を見開いた。
巣からまた、二人ほどの人間が出てくる。
一人は大きな袋を担ぎ、また、その中の一人は中に居て、先に殺されたであろう龍の首を持っていた。
人間の精神年齢にしてみれば、まだ若いステアには余りにも酷過ぎる光景だった。
傍で弟が小さく鳴きながら、ステアの服のすそを引っ張っているのに気付かずに、ステアはその場から動けなかった。
全員が集まり何事かを話した後、その中の一人が父親の首に剣を振り下ろす。
ステアは反射的に目を塞いだが、再び濃ゆくなった血の臭いにステアは気を失った…

「うーん…アレ…?」
頭を抱えて起き上がったステアは、額に乗せてあったタオルに気付く。
「一体、誰ガ…?」
「起きたようだな…」
かけられた声に、ステアは振り向く。
けして派手とはいえない鎧とマント。
碧の瞳に、金髪の青年が水の入った水筒を持ってステアのそばに来た。
くるりと見渡せば、そこはステアが数分前に弟と魚を取っていた近くの川辺だった。
「森の中に倒れていた…何か…見たのか?」
「え…?」
「烏が異様なほど集まっていた。
お前が倒れていた近くの洞窟に、二頭の…首のない龍の亡骸が燃やされていたんだが…」
「っ…!」
「知って…いるのか?」
「ステア、何モ知ラナイ…!貴方、誰?オトートは?」
「弟…?」
片子なしゃべり方で喋っていたステアは、
青年の反応に、はっとしたように立ち上がった。
「アルプ、アルプ!」
辺りをきょろきょろと不安そうに見回しながら、ステアは弟の名前を呼び続けた。
暫くして、遠くのほうから「きゅいー」と言う鳴き声が聞こえたかと思うと、
森から灰色の人間の子供と然程変わらない位の子龍が走ってくる。
「アルプ、心配シタよー…大丈夫ダッタ?」
「きゅー」
アルプの体を抱きしめ、ステアは頭をなでた。
「お前…平気なのか?」
「何ガ?」
べろべろとアルプがステアの顔をなめる。
それをくすぐったそうにしながら、ステアは青年の言った言葉に首をかしげた。
「龍は人に馴れる事はない…まして、気性の荒い龍となれば、人も襲う。
なぜ、お前は…?」
「ステアのオトーサンとオカーサン、龍。
本当のオトーサンとオカーサン、ステア捨テテ行ッタ…ダカラ…」
立ち上がり、服についた砂を払いながらステアはそう、言った。
『そうか…それでこの龍がこんなに懐く訳か…』
ステアの横に行儀よく座り、尻尾を振る子龍を見ながら、青年は納得したように頷いた。
「自己紹介がまだだったな…俺はアシュタル。旅の傭兵だ…」
「ワタシ…」
「ステア。そっちがアルプ。」
アシュタルがアルプを指差すと、アルプは「ぎー」と鳴き、左手を上げた。
「む…ワタシ、ステア=ディグレス。コレデも、貴方ヨリ、(多分)年上!」
アシュタルに先に言われた事が気に喰わなかったのか、ステアはぷぅ。と頬を膨らませた。

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