LovelyDogの部屋

2代目白蛇丸のはなし


母から電話で
「今度帰って来る時にビックリすることがあると思うよ」
と言う。
「何なん?」
と聞いてもおもしろそうにはぐらかして一向に教えてくれない。
さて、夏休みに帰省した時に、あ~らびっくり犬がいる。
「どーしたん、この子。お母さんがもらってきたん?」
私は本当に驚いた。

前述したように母は犬が嫌いであった。
が、白蛇丸を飼うようになって、
初めてペットというものに愛情をそそぐようになった。
その白蛇丸が死に、傷心していた母。
私も姉も遠方へ出て行き、
もうこの家に犬が来ることは無いだろうと思っていた。

「学校の生徒さんが困っとったけん、もろうた。」
聞けば、学校の生徒宅で(母は高校教諭である)
飼い犬が子を産み貰い手に困っていたらしい。
「・・ハク(白蛇丸)によう似とるやろ(ウルウル)」
白毛の柴犬の血の混じった雑種。
確かに毛並みがハクに良く似ている。
子供達が巣立った家で夫婦二人
(しかもお世辞にもおしどり夫婦とは言えない・・・。)
母は寂しかったのであろうと思う。
「お母さん、この子の名前は?」
「・・・白蛇丸」
「は?同じ名前にするん?」
「じゃぁ、白蛇丸2(ツー)」
「・・・・・・」
私なんかよりはるかに一途で情の深い母である。

2代目の白蛇丸は私とはあまり一緒に暮らさなかったが、
それはそれは母に大事にされていた。
初代が犬小屋なら、2代目は台所の土間で生活していた。
台所の勝手口からキッチンの入り口半径2mほどで
常に母の見える場所で生活していたらしい。

柴犬との雑種というふれ込みで貰ってきた犬だったが、
予想外に育ち大きくなった。
本当は秋田犬かなにかの掛け合わせじゃないだろうか、と、
姉と密かに噂したほど・・。
それでも、母にはかわいらしく映るらしく、
台所での楽しい話し相手になっていたらしい。
毛の抜けやすい時期にもキレイにブラッシングされ、
いつもピカピカだった。

私が帰省したある年、台所にハクがいない。
母もなにも言わない。
「どうしたん?ハクは?」
と聞くと
「・・・○○さんが酔っ払ってやってきて、
お母さんへの腹いせにハクを放してしもうて・・・。
帰ってこんのよ。」
と涙ながらに言う。
私に話すと心配すると思って黙っていたらしい。

我が家のすぐ裏に住む○○という人は、
酒乱で、今でいう母のストーカーのような人。
普段はおとなしくてあまり物も言わぬ人だが、
酔うととたんに豹変し、自分の妻に乱暴を働いたり、
近隣の家に勝手に上がり込んだりする。
高校教諭である母にナゼか異常に憧れを持っていて、
よく家を覗いていたりもした。

その○○さんが
酔ってやってきて家に上げろと玄関口で叫んでいた。
しばらく、家に入れろ入れないでやりとりをしていたが、
その後再び、包丁を持ってやってきたので、
「警察を呼ぶよ!」と脅すと帰っていったらしい。
しかし、翌日母が仕事から帰るとハクがいない。
どうも近所の人の話によると昼間酔ってやってきた○○さんが、
うるさい!とか何とか言いながらハクの綱を切ってしまったらしい。

母は驚愕した。温厚な父もこれには激怒した。
父と母は○○さん宅を訪れ、真実を問いただした。
酔っていてあまり覚えていないらしいが、
ほぼ、間違い無い事を認めたらしい。
本人より奥さんが泣きながら謝っていたらしい。
今ならストーカー法などもあるし、
私がその時この事件を知っていたら、
器物破損、家宅侵入罪で法的に訴えていたかもしれない。
しかし、田舎で閉鎖的な地域であるし、
実はこの○○さん父の従兄弟であるので、
今後一切我が家に関わらない事、
酒を飲まない事、等を固く誓わせて
不問に伏すことにしたらしい。
母が
「ハクをどこへやったんですか!」
と○○さんに聞くと
「・・・綱切ったら逃げて行った」
と言っていたらしい。
その後両親は保健所等に問い合わせを続けたが、
結局見つからなかった。
そして帰ってこない。

私は、”逃げて行った”と○○さんは言っていたが、
殺されたのでは、と内心思った。
犬は絶対に家に帰ってくるから・・・。
でも、傷心の母にそれを言う事はできなかった。
帰省してその事件を知った私に
母は
「お母さんは犬に縁が無いんじゃねぇ・・・。」
と言った言葉を思い出すと、
今でも、母とそしてハクがかわいそうで涙が出ます。

それ以降私の実家で犬を飼う事はなく、
また、いまだに白蛇丸について母がなにか話すことはありません。
ただ、母の机にはいまだに白蛇丸の写真が飾ってありますが。


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