ぽっかぽかすまいる

ぽっかぽかすまいる

修了(卒業)旅行


「同じゼミの仲間と旅行に行こうという話になったんだけど。」と言ってきた。
他の4人のメンバーは即決したらしいが、とうさんは返事を待ってもらっていると言った。
家族のことを第一に思うとうさんだから迷いがあったのだと思う。
その理由としてまず私が妊娠中であること。
つわりもおさまり安定期に入ったとはいえ、自分がいないうちに何かあったら…と考えたと思う。
それから2つめの理由として、3月15日の出発だったこと。
それを聞いたとき、私は「えぇ~っっっ!!!(うそでしょー?!)」と反対を意味する声をあげたと思う。
3月といえば教員にとって1番忙しいとき。しかも、15日からなんて、終業式前で殺人的に忙しい毎日となる。
成績つけて、通知表書いて、要録書いて、会計〆て、来年度への引き継ぎをして、おたより書いて、会議もあって、etc・・・。
同業者の夫はそれを知っている。だから気まずそうに言った。
家事に育児にとうさんに任せっぱなしだった私としては、
そんなときに妊婦の私が2人の子どもを見ながら仕事なんて絶対無理よ~と思っていた。
でもとうさんは、まず家族のことを考えてこう言った。
「自分が旅行に行く日までは、何でもやる。だからかあさんは仕事だけをがんばって、なるべくその日までに終わらせて。俺がいない間は子どものことだけできるように、なるべく学校で仕事をしてきなさい。帰りが遅くなっても気にしなくていいから。」って。
なんて優しい人なのでしょう。今までも何もかもやっていたのに、さらにすべてを任せろということだった。
問題は私。いくら何でも仕事の遅い私が14日までに終わらせることなんて無理でしょう!授業もまだ残ってて、通知表だっていつも期限ぎりぎりに完成するんだから。

でも結果的に旅行はOKした。
今までがんばって勉強してきて、家族のことも大切にしている夫に安らぎの場を与えないとばちが当たります。
4月からはまた現場に戻り忙しい日々を過ごすだろうし、ゼミの仲間もそれぞれ地元に戻りバラバラになってしまう。
修了前の楽しい思い出になるでしょう。
しばらくとうさんを解放してあげないと。
「おみやげ買ってくるから。」ってうれしそうに言っていたとうさん。



旅行先は中国の北京でした。
とうさんは、そこで亡くなりました。



あの時「やっぱり行かないで。」って言ってたら、
とうさんは今でも生きていたかもしれない。
でも、とうさんが亡くなる直前まで仲間と過ごした時間はきっと幸せだったと思う。
だから、旅行に行ったことが悪かったとは思わない。
生きて、ずっと一緒にいたかったけど、とうさんが旅行に行ったせいじゃないから気にしないでって言いたい。


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