ル三パン世のつぶやき

ル三パン世のつぶやき

仮釈放



午前8:30
~独房

「朝食の時間だ」
看守がプレートに載せた朝食を運んできた。

体を起こすが、節々が痛い。
マットが硬かったのだろう。

ハダカの便器の横にある洗面台で顔を洗う。
当然お湯など出るわけもなく、3月の水道水で一気に目が覚める。
トイレをするも、だだっぴろい部屋の片隅で用をたすのはどうも落ち着かない。

さて、朝食だ。
出てきたのはカリカリベーコンにスクランブルエッグ、薄い食パンにジャム、という典型的なコンチネンタル式ブリティッシュブレックファースト。

もともとジャムは保存食として作られたもので、イギリスではパンにジャムを塗って食べるというよりも保存食のジャムを食べるためにパンがある、といった感じだ。

なので、食パンがものすごく薄い。
こんなもの2,3枚食べたところで腹の足しにもならない。
ああ、ヤマザキの厚切りソフトが恋しい・・・。

意外にも紅茶がおいしかった。

アフタヌーンティー発祥の地であるイギリスは紅茶がおいしいことで有名。
観光客はみなお土産に紅茶を買うことが多いが、イギリスの紅茶がおいしいわけではない。
イギリスの水が紅茶にあっているのだ。

イギリスの水道水は硬水だ。
この鉄分とカルシウムを豊富に含んだ「硬水」が紅茶と抜群に相性がいい。
今でも私は家で紅茶を入れるときはヴォルビックなどの硬水のミネラルウォーターで飲むようにしている。


朝食を食べ終わった頃、弁護士が入って来た。
電話をさせてくれるという。
確かに、私がここにいることを誰かに知らせておかないと心配をかけてしまう。

大韓航空で韓国の友人の家に一週間ほど寄って帰る予定だったので、その友人に電話しようと思ったら、

「国際電話は高いからダメ」

なんだそうだ・・・・ケチだ。

とりあえず、ロンドンの友人に電話をして連絡を回してもらうしかなさそうだ。
まずは警官が電話をする。

「もしもし、こちらメトロポリタンポリスですが、ミスター○木という人をご存知ですか?」

後で聞いたのだが、この瞬間私の乗った飛行機が落ちて、死体確認の電話だ!と思ったらしい。

勝手に殺すなよ・・・。


どうやら弁護士さんが仮釈放の要請をしてくれていたようで、なんとか仮釈放が認められた。
ただし、パスポートは没収され、
「もし、月曜日の裁判に出廷しなければ指名手配しますから」
とまで言われた。

その後、最寄の駅まで弁護士さんが送ってくれた。


午前9:20
~Boston Manor station

やけにまぶしい太陽が妙に心地よい。
いい天気だ。

とりあえず、元カノに電話をする。
月曜日までの宿が必要だ。

私の現状を聞いて、えらく驚いていた。
仕事中であったが、お昼休みに一緒に食事をすることになった。


午後12:15
~Angel station

待ち合わせのカフェに彼女が現れた。
イギリス在住のフランス人。
私が日本に帰ることになり、さすがに遠距離すぎるということで、別れたのだ。

空港で涙なみだのお別れをしたのが、つい昨日のこと。
嬉しくもあり、なんだか照れ臭い。

心配する彼女に昨日からの出来事を話す。

イギリスに住んでみて感じたことは、人種の違いというものはあまり気にならないということだ。
もし、あるとすれば宗教の違いだ。

つまり、宗教的発想、哲学的思想が近ければ普通に恋愛も可能だ。
彼女と出会ってそう感じた。


午後12:50
~Angel station

彼女が仕事に戻るため、家の鍵を渡してもらい先に帰って待つことにした。
街をブラブラしていて、もしなにかあったら大変なことになる。

神が与えてくれた束の間の休息。
裁判まであと23時間。

・・・・to be continued.


★第六章『裁判所』★



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