ル三パン世のつぶやき

ル三パン世のつぶやき

裁判



午後 2:00
~法廷

まずは検察側による書類報告があり、もし私がそれを認めれば裁判が始まる。
だが、私が認めなければ上の法廷に持ち越されることになる。

打ち合わせ通り罪を認める。

裁判が始まった。

検察側は懲役一年の求刑を要求。
先ほどの黒人青年と同じ実刑だ。

それに対し、弁護側はふたつの争点で立ち向かう。

所持していたバタフライナイフは日本で購入したものであること。
イギリスに入国の際に手荷物として提示したにも関わらず、空港警備員が注意を促さなかったこと。

その結果、所持することが違法であることを知らなかった。
その証拠として、今回も手荷物と一緒に提示したことを上げた。

違法と知っていれば隠して持ち込む筈だ、と。

それから、弁護人は私が日本の大学で建築を学んでいること、ロンドン滞在中はアルバイトをする傍ら学校に通っていたこと等、私のヒトとナリを話しはじめた。

彼はこんなに真面目な好青年なんですよ、というアピールをして情状酌量してもらおうということだ


そして、裁判長から判決が下される。
運命の瞬間。


鼓動が早くなるのを感じる。


裁判官がゆっくりと罪状を読み上げる。








「罰金なし。

懲役実刑なし。

但し一年間の執行猶予とする!」


弁護士のローランと目が合う。
ほっと胸をなでおろす。

法廷を出るとローランがポンと肩を叩いた。

「よかったね。
罰金も付かないなんてすごいラッキーだったよ。

実は6ヶ月くらいの懲役は仕方ないかな、なんて思ってたんだけどねー」



・・・・・。

怖ぇえ。
聞かなきゃよかった。

まぁ・・・とにかくひと安心だ。
ただ、罰金はないが裁判所の利用料として一万円ほど支払わされた。

ローランと裁判所近くのカフェで祝杯をあげる。

一年間の執行猶予期間中に、たとえ些細なことであれ警察の厄介になるようなことがあれば、遡ってこの事件も実刑になるから、と注意をされた。

幸い前科が付くのはイギリスのみで日本では付かないということだ。

今から空港に行けば夕方の便に乗れそうだったのでローランに何度もお礼を言って裁判所をあとにした。


午後4:50
~ヒースロー空港

コリアンエアーのカウンターで、チケットの再発行をしてもらう。
理由は言わず、ただ乗り遅れたことにした。

コンピューター画面で確認していた職員が、

「あー、あんたかぁ。
こないだ逮捕された日本人ってのは?」

なんと判決が下って数時間しか経っていないにも関わらず、既に航空会社の端末のブラックリストに載っているのだ。

しかも、ヒースロー空港で日本人が逮捕されるのは珍しく、職員の間で話題になっていたらしい。


搭乗時間が近付き、手荷物検査場を通る。
2日前の出来事がトラウマとなって甦り、心拍が早くなる。

あの、やけに冷たい手錠の感覚を覚え手首の辺りを触る。


ポケットから手荷物を出す。

鍵、財布にケータイ・・・・そして一本のカセットテープ。

メトロポリタンポリスと記されたラベルには[T2063060××]と書かれてある。
警察で写真を撮られてときに胸の前に掲げたボードに書いてあった番号。

証拠品として裁判所に提出された取り調べの録音されたテープ。
弁護士にお願いしてコピーしてもらったのだ。

金属探知機を通り抜け、このテープをポケットに入れる。


・・・・・My London life is over.




tape2


★第八章『エピローグ』★



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