SIGMA 24-60mmF2.8EX DG
(左が24-60mm、右が旧28-70mm。ずいぶんコンパクトになった。)
タムロンが世に放った渾身の一本「SP28-75mmF2.8」は、業界に大きな衝撃を与えた。それまで、大口径標準ズームには「大きくて重いのは当たり前」という暗黙の了解があったからだ。そんなお約束を吹き飛ばす新製品を、ユーザーは喜んで受け入れた。
この状況を、タムロンと切磋琢磨してきたもう一方のレンズメーカーの雄・シグマが、指を咥えて見ているはずがなく、ライバルに遅れること半年、立て続けに3本も新型大口径標準ズームを投入して対抗した。
一本は、従来からあったものをコーティングだけ改良した24-70mm。もう一本は、大幅なダウンサイジングに成功した28-70mm。そして、両者の中間に位置する新コンセプトレンズが、この24-60mmである。
当初、エンゾーは旧28-70mmF2.8EX DFを使っていた関係で、その延長線上にある新型28-70mmに買い換えようと思っていた。24-60mmにも魅力は感じていたが、60mm止まりの望遠側が損しているようでどうしても気になって、手が出せなかった。
が、発売予定が一番遅かった新型28-70mmを待っているうちに、上海に行く用事ができ、さらにヤフオクで、発売されたばかりの24-60mmが定価の40%という破格で出品されているのを見つけて、あっさり予定を変更してしまった。
さて、レンズをカメラバッグの中に入れる際に無視出来ないのが、フードの問題である。エンゾーの場合、いざ撮影に入ると、いちいちレンズをバッグに収納するたびに、フードを逆さに付け替えたりしない。正位置で付けっぱなしである。スナップの最中に、余計な手間は出来るだけ省きたいのだ。そんな時、愛用するドンケF6の中に機材がスムーズに入るかどうかは、とても重要なポイントになる。
以前使っていた28-70mmEX DFは、デュアルフォーカスというあまり意味のない機能を有するが故に図体がデカく、なおかつ全長も長かった。これはドンケF6にとってはいささか大き過ぎで、特にフードがどうしても邪魔になった。
しかし24-60mmは、超音波モーターに出来て自分たちに出来ないことへのこだわりを捨て去ったシンプルな構造のお陰で、二回りも小さく短くなった。EOS7にこのレンズを付けた姿は、バランスが絶妙でなかなかに美しい。
(正直な話、マニュアルに切り替える為に2アクション必要だったDFシステムは、ギミックとしては失敗だったと言わざるをえない。ペンタックスもトキナーも、1アクションでMFに移行できるのだからなおさらだ。そういう意味で、シグマがDFを捨てたのは名を捨て実を取る英断だったと言える。)
また、長年「逆光に弱い」と言われ続けて来たシグマだが、DGと称するデジタル一眼レフの特性に対応した作りに規格が変更されてからは、そのような欠点が目立たなくなった。特にこの24-60mmに関しては、一世代前までのフレアが出頻発する性格はすっかり矯正されていて、シグマらしい鋭利な解像力だけが際立っている。広角24mmからスタートしているレンズとしてはまずまずディストーションも良好に補正してあり、建築物でも安心して撮れる。ボケ味も悪くない。
さらに、ズームリングの回転方向が純正レンズと同じ向きに統一されたところも密かな改良点である。リングの幅が倍以上に広がり、トルクも軽くなった。おまけにズームロックも追加されている。細かい点まで、着実に進歩しているのである。
もっとも、不満がない訳ではない。コストダウンの影響で、被写界深度表示はなくなってしまった。ライバルであるタムロンの28-75mmにも無いからこれで良いという判断だろうが、少し残念だ。それに繰り返しになるが、やはりライバルが望遠側を75mmまで頑張ったのに対し、いくら広角に振った設計とはいえ、望遠が60mm止まりなのはどうしても見劣りする。倍率の問題ではなく、パースペクティブをコントロールしたい時に、望遠側は少しでも長いに越した事はない。
そもそも、標準域をカバーする大口径ズームを3本もラインナップしたのは、裏を返せば、それらを一本でまかなうだけのものはまだ作れなかったという事でもある。タムロンとの熾烈を極める開発競争のさなかにあって、常に一歩出遅れ、後を追う形の戦いを強いられるシグマは、製品を煮詰める前にとにかく手札を切るというスタイルが習慣になっている節がある。望遠側を60mm止まりにしたところに、シグマの苦悩が見て取れる。
しかし元を辿れば、あのキヤノンよりも先んじて「24mmから始まる大口径ズーム」という新境地を切り開いたのは、他でもないシグマなのだ。レンズメーカーの底力を発揮して、ぜひ次は、本命たる「コンパクトな大口径24mm-70mmズーム」をリリースして欲しいものである。
<作 例>
長所
○「逆光に弱いシグマ」の汚名返上。怖いほどにシャープで切れ味の良い描写。ディストーションの補正も良好。
○とにかくコンパクトになった。24mmから始まる広角側は、特に室内で便利である。
短所
●これで望遠側が70mmまであれば・・・。それは言うまい。
●ややハイコントラストな嫌いがある。ピーカンは苦手なレンズ。
スナッパーへのオススメ度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
風景派へのオススメ度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆
望遠側と広角側のどちらを優先するかで、レンズの選択が変わる。エンゾー的には、こちらがお勧め。