Canon EOS-1V
Canon EOS-1V + EF50mmF1.4 USM
勝手にインプレッション
長いことフラッグシップに抵抗があったエンゾーが、ついに手を出してしまったEOSのハイエンドモデル。このカメラが事実上、キヤノンの銀塩史上最高にして最後のフラッグシップとなったことも、購入を後押しした動機のひとつである。
直接的なきっかけは、ある友人の披露宴の撮影を頼まれたことに始まる。カメラ馬鹿であることが仲間内で広く知れ渡っているエンゾーは、このような依頼を受けることも少なくなかったが、実はそれより少し前に出席した別の披露宴でのこと、さほど暗くないと思っていた会場で、EOS7が光量不足により合焦不能に陥り、背筋が凍る思いをした。
撮り直しの利かない大事な場面での失敗は、嫌なものである。もうあんな思いは二度と御免だったので、引き受けた手前、密かに対策を練る必要に迫られた。
あの時、エンゾーは万全を期したつもりで、大口径標準ズームにISO800のフィルムとスピードライトのEX420という組み合わせで披露宴に臨んだ。ところが、肝心のボディの性能が追いつかず、AFが使えないという事態に陥ってしまったわけだ。残念ながら、AFに特化したEOS7のファインダーでは、薄暗い環境でのマニュアルフォーカスなど無理な話だ。それまで数々の海外取材をこなし、立派に期待に応えてくれていた相棒だっただけに、ショックは大きかった。
EOS7より暗所に強い現行型ボディと言ったら、EOS3かEOS-1Vしか選択肢がない。が、EOS3とは発売当時からなにかと相性が悪く、EOSいち喧しいシャッター音も好きになれなかったし、そこそこ高価で図体も大きいのに、ファインダー倍率が100%に届かないのも中途半端な感じがした。
そうこうしているうちに、キヤノンが正式に銀塩の新規開発から手を引くと発表したため、それが最終的な引き金となって、EOS-1Vの購入に踏み切ったのであった。
結論から言うと、この決断は正しかった。エンゾーが経験した中でも最悪に暗い披露宴会場で、1Vはなんの逡巡も見せず一瞬でピントを合わせ、正確な露出を弾き出した。上がってきたネガは想像以上に出来が良く、新郎新婦にも喜ばれ、エンゾーは何とか面目を保ったのである。
さて、使い勝手に関してはいまさらエンゾーがどうこう言うまでもないが、使い込むほどに非常に良く練られたものだということが理解できる。どんな過酷な条件でもギリギリまで粘って仕事をしてくれるという安心感は、フラッグシップ嫌いを公言して止まなかったエンゾーも、認めざるをえないところである(もっとも、壊れない機械など存在しないが)。
EOS7に慣れている身にとっては、1Vのシャッター音は驚くほど大きい。切れの良さはいいとして、スナップなどの用途にはおよそ不向きである。撮られる側にその覚悟が出来ているというのが、人物を撮る場合の条件となる。むしろモデル撮影などでは、小気味良いシャッター音が撮影にリズムを作ってくれるので、モデルの気分も高揚するかもしれない。
ボディはさすがに大きく重く、太目のグリップも、手の小さなエンゾーにはいささか余る。この辺りは、ユーザーの手の形状を選ばないEOS5の方が握りやすい。ヌメッとした滑らかなラインで構成されたペンタ部のフォルムは好き嫌いの分かれるところだが、個人的には結構気に入っている。
エンジニアリングプラスティック製だった1Nの外装は、すぐにテカリが出るためフラッグシップとしての高級感を損ねていたが、マグネシウム合金製のトップカバーに艶消しの黒色塗装を施した1Vのボディは、相応の落ち着きを具えている。
細かいところでは、EOS-1Nまでのモデルで不評だったレリーズケーブルコネクターの位置が、グリップ側から反対の側面に移動したため、ケーブルを付けたまま三脚から外して2~3コマ押さえを撮るというような使い方がやりやすくなった。最初からそうあるべきではあるものの、改良されないよりはマシである。
なお、高速撮影用に複数のグリップが用意されているが、ただでさえデカいボディがどうしようもなく肥大化するので、エンゾーはボディ単体で使っている。
残念なことに、EOS1Vの血統を受け継ぐ銀塩機は、ついに永遠に登場することはなくなった。フィルムをこよなく愛するファンとしては寂しい限りだが、このカメラはキヤノン最後の最高級銀塩一眼レフとして、有終の美を飾るに相応しい、高度に完成された一台である。
長所
○爆速のAF。暗所でも難なく合焦する。
○正確な露出制御。特殊なシチュエーションを除き、ほぼカメラ任せでもOK。
○100%の視野率、防水シーリング、1/8000のシャッターなど、基本性能が高い。
○完成されたオペレーション。暗所や低温環境など、過酷な条件でも使いやすい。
短所
●シャッター音や巻上げの音がかなりうるさい。静粛性を求められる場面には不向き。
●仕方のないことではあるが、大きく重く、高価である。
●他に不満はない。
超個人的オススメ度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
偏愛度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆
Yahooオークション出現率
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
*実用機として、これ以上のカメラはない。お仕事するなら、迷わずこれ。