日々、考察中。

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挑戦、半熟漬け卵!

挑戦、半熟漬け卵!

2004/6/10
 煮卵は成功した。
 漬け卵も成功した。
 どちらも、いろいろな味付け、風味付けに挑戦した。酒味醂醤油砂糖の入った出汁で味付けた、純和風。砂糖の代りに蜂蜜を使って甘めに仕上げたりもした。唐辛子を効かせたピリカラバージョン。ウイキョウと鶏がらスープで仕上げた中華風。コンソメ風味で白ワインを加えた洋風。どれもおいしい煮卵、漬け卵になった。
 しかし、僕には不満があった。
 僕は、半熟卵至上主義者である。
 煮卵は半熟状態がありえない。なぜならば、煮込む事によって味をつけるからである。ゆで卵を作り、殻をむいて、出汁で煮込む事によって味をつけるという熱工程を踏む限り、半熟状態はありえないのだ。可能性があるのは漬け卵である。
 まずは半熟状態のゆで卵を作る事が必要不可欠である。鍋に水と生卵。数分のゆで時間。これで良いはず。これ以上熱をとおさないために水で冷やしておく。
 漬け汁をつくる。水は使わず、酒味醂醤油。醤油は強め。アルコールは完全に飛ばして香りになるものを加える。今回は唐辛子。種を取ったものを5mmぐらいに切る。唐辛子を加えてひと煮立ちしてから火を止める。そして冷却工程へ。温かいままの漬け汁に卵を入れてしまっては、半熟にしておいた意味がない。漬け汁が完全に冷えたところで半熟卵とともに密閉容器に入れ、冷蔵庫にしまう。あとは一晩じっと待つのだ。
 色づいた中が半熟であろう卵は、期待いっぱいの笑顔で冷蔵庫を開いた僕に、微笑みかけるようにたたずんでいるのだ。僕は密閉容器をそっと取り出し、炊き立てのご飯をホワッと盛ったどんぶりの少しだけへこませたご飯の登頂部へ、半熟漬け卵をゆっくりと乗せる。この後に残っている感動は、卵を割った時に内部からとろけ出る黄身がご飯へ染み込むさまと、それを口に入れた時だけである。僕は、緊張して箸を握り締め、おもむろに色づいた卵の表面へ近づけた。かすかな弾力を箸に返した半熟漬け卵は、次の瞬間自らの内部に箸を迎え入れた。そして裂け目が下方へ伸びていく。いよいよ待ちに待った瞬間が近づいてきた。とろりと黄身が流れ出る瞬間が!って、流れでない。どういうことか。僕は、箸を使って卵を真2つに割った。内部の黄身は確かに半熟だった。しかし、流れ出るほど半熟ではない。なぜなのだ!
 冷静になるために目の前の納得しかねる半熟漬け卵とご飯をかきこんだ。もぐもぐと咀嚼を繰り返すと、血液が胃袋のほうに流れて行ったのか、頭に昇ったものが降りてきた。そこで考えた。
 半熟卵の段階では問題がなかったはずだ。半熟卵の作り方が書いてある本を参考にして、それよりも少ない時間にセットして、出来あがり状態で水につけたのである。さらに、卵の殻をむくときに、やわらかい白身に苦労したのだ。黄身とろりの半熟であったに違いなかったのだ。僕はさらに冷静になろうと、麦茶を1杯飲んだ。そして、先ほど食べた納得しかねる半熟漬け卵を思い出した。あああ!これだ!これが原因に違いない!
 塩分である。濃い目の醤油で味付けされた漬け汁は、当然のように高い塩分濃度を持つ。それが卵に浸透していくから、色づいて味がついて、おいしい漬け卵になるのだ。
 では、塩分が浸透する事によって半熟であった黄身はどうなるのか。簡単である。あらゆる塩漬けされた食品を思い浮かべてみれば良いのだ。そう、塩分が水分を奪い取るのである。当たり前のように水分を取り上げられたものは、硬化するのだ。そして、とろりの黄身もそうなったのである。
 原因はわかった。あとは対策である。対策案は2つあった。塩分濃度を下げるのが1つ。ゆで時間を短くし、半熟状態をさらに強めるのが1つである。漬け汁の味はすでに決まっているし、塩分濃度を下げると浸透具合も変わってしまうため、1つ目の案は却下。とすると、残ったのは1つだけである。ゆで時間を短くするのだ。
 前回のゆで時間は沸騰後火力を弱めて7分であった。今回はそれを5分にしてみる。成功する気まんまんの僕は、実験レベルでは満足せず、一気に5個の卵を鍋に投入した。半熟漬け卵実験ではなく、調理である。
 5分。冷水へ。冷えたところで殻をむく。この時点で最大の難関が待っているとは思いもよらなかった。
 やわらかいのである。5分しかゆでていないゆで卵は、内部が固まっておらず、外部の固まっている部分も薄いから、とにかくやわらかいのだ。1コ目にひびを入れようと、コンコンとまな板の角に打ちつけた僕は、出来たひびからむいた殻に白身がくっつき、内部から固まっていない白身がはみ出したのを見て狼狽した。残り4個。失敗せずに生き残るのは何個あるのであろうか。
 慎重に白身から殻をはがす作業は困難を極めた。半分ほどはがしたところで、殻にひびを入れるために打ちつけた部分が割れ、内部がはみ出してきたりもした。そして、4個目。初めてつるりとした超半熟ゆで卵が完成したのであった。しかし、これといったコツを掴めたわけでもなく、5個目は見事につぶれた。
 漬け汁が入っている密閉容器の底に沈めたのは、成功した唯一の超半熟ゆで卵である。その上に殻むきに失敗した4個を沈めた。卵の体積が加わって、漬け汁は全てを覆う事が出来た。そして、1晩が過ぎた。
 見事に色づいた殻むき失敗超半熟ゆで卵が見えた。今日はカレーライスの上にのせようと考えていたから、多少崩れたものでも良いであろう。僕は、最上部に位置していた裂け目のある超半熟漬け卵を、すでに用意してあったカレーライスの上にのせた。ボヨンという感じでカレーに埋もれた超半熟漬け卵は、内部を見せぬままがんばっていた。
 いただきます、と言ってスプーンを超半熟漬け卵に当て、一気に引き裂いた。すでにあった裂け目の上をなぞったスプーンは、その回りにとろりとした黄身をまとわりつかせる。そして、黄色いカレーの上に、さらに鮮やかな黄色を撒き散らした。僕の心臓はドキン!と鳴った。
 スプーンの上には5割のご飯、4割のカレー、1割の超半熟漬け卵の黄身が乗っている。僕はそれを口の中に運んだ。再び心臓がドキン!と鳴った。そして僕は、「う、まーい!」とミスター味ッコのように叫んだのであった。



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