月浮かぶそら、輝くひかり。 -静かな夜空の小さなトモシビ。

第十二章-ポーカーフェイス-

｢べ、別に！なんでもないよ？｣
｢ん～？なんでそんなにあせってるの～？｣
藍がﾆｺﾆｺしながら横から顔を覗いてきた。
｢焦ってないっ｣
｢涼哉ってさ｣
｢ん･･･？｣
｢嘘ついてるときとか、隠し事してるとき、いっつも辛そうな顔するよね｣
｢え･･･？マジ･･･？」
｢うん♪小学生のとき、一度家に遊びに来た時のこと覚えてる？｣
｢え、いつ？｣
｢お父さんの壷割ったときあったでしょ？｣
｢ああ、うん。たしか･･･｣

小学三年生ぐらいだったかな。
あの日、二人で廊下で紙飛行機を飛ばしていた。
｢どうだ！かっこいいだろ！｣
俺が持っていた飛行機は、両翼が短く、そして全体的に細長い戦闘機のような飛行機だった。
｢紙飛行機にかっこいいも悪くもないでしょ？｣
｢う、うるせえ！｣
｢すぐ怒る、涼哉の悪い癖だよ？｣
｢う･･･ごめん｣
｢まぁ、とりあえずとばそっか｣
｢うん｣
｢せーのっ！｣
二人同時に前に向かって飛ばした。
はじめは二人ともほぼ並んで飛んでいた。
2秒ほどたってから差が出始めた。
確か･･･藍の紙飛行機が減速して段々高度も下がってきたんだっけ。
で、その壷の2Mほど前に落ちた。
｢やった！俺の勝ち！｣
涼哉の紙飛行機は丁度壷の横に落ちた。
｢へっへーん！ざまあみろ！｣
涼哉は後ろ歩きで自分の紙飛行機を取りにいった。
｢危ないっ｣
｢え？｣

─ガシャン！

｢ガシャン･･･？」
｢あ･･･壷･･･｣
｢うわ！やべっ！｣
焦ったなー、あれは。
結構高そうな壷で、カッコいい絵が全体に彫られていた。
｢と、とにかくお父さんにばれる前に片付けなきゃ！｣
｢お、おう！｣
藍が箒と塵取りを持ってきて、箒を俺に渡して。
｢ど、どうしよう･･･これ｣
｢隠したほうがいいかな？｣
｢た、たぶん･･･｣
その時はすっごい焦ってて、確かに辛そうな顔もしてたきがする･･･。

｢その後･･･どうしたんだっけ？｣
｢覚えてないの？じゃあそこからは私が。えーっと･･･｣

それから何処に捨てようか考えてたんだよね。
｢ｺﾞﾐ箱に捨てる？｣
｢それじゃすぐばれるんじゃ･･･｣
｢じゃあ窓から外に？｣
｢外歩いてる人がたまたま見つけたら･･･｣
あれもだめ、これもだめ。すっごい必死で考えてたら、結局お父さん帰ってきちゃって。
｢ただいまー｣
｢ど、どうしよう！お父さん帰ってきちゃった･･･｣
｢やっぱ言わなきゃ･･･｣
で、涼哉すっごい辛そうな顔してたから、私は何もいえなくて。
｢お、涼哉君来てたのか｣
｢こ、こんばんは･･･｣
｢あ、あのさ、お父さん･･･｣
｢ん？なんだ、どうした？｣
｢こ、これ･･･｣
私が持ってた塵取りをお父さんの目の前に出して、そのときのお父さんの顔がまた･･･結構拍子抜けしたような顔してて。
｢壷･･･？｣
｢ご、ごめんなさい！廊下で紙飛行機飛ばして遊んでて、取りに言ったときに僕のお尻が壷を載せてあった台に当たっちゃって･･･それで･･･｣
｢そっか、割れちゃったか。ははっ、気にしなくていいよ、どうせ安物だから｣
お父さんはすっごい笑顔で、涼哉の頭をグシグシ撫でて。
｢本当にごめんなさい｣
｢正直に言ってくれたんだ、許してあげなきゃな！えらいえらい！｣
それでやっと涼哉の辛そうな顔が笑顔に変わったんだよね。

｢あー、そうだったな･･･｣
｢でね、あの後壷の値段教えてもらったんだよね｣
｢いくらだったんだ？｣
｢50万円だって｣
涼哉の足が止まり、凄く驚いた顔だった。
｢ご、50万円･･･？｣
｢うん、でも笑ってたよ、お父さん。家族ぐるみの付き合いだからな、って｣
｢へ、へえ･･･。今度改めて謝らなきゃな･･･｣
｢あれ、もう家だ｣
｢本当だ･･･」
｢じゃあ、また明日ね！｣
藍が手を振って自分の家に入ろうとした。涼哉は先ほどまで忘れていたことをふと思い出して叫んだ。
｢あ･･･まって！｣
｢へ？｣
拍子抜けしたような声を出して振り返った。
｢ちょっと、待って。すぐ、終わるから･･･｣
｢何、どうしたの？そんなに真面目な顔して｣
｢は、話が･･･あるん･･･だ･･･｣
何故か言葉が尻すぼみになった。
｢あ、あのさ、俺･･････。｣

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