寛容





“私の何処かで 何かが消え失せ
 サビついた怒りを 手放そうとしてる”

         ----- 鬼束ちひろ『螺旋』




『寛容』は、人間のもつ最高の美徳の1つである。

人間が生き残るための、最強にして唯一の武器でもある。

怒りや憎しみは、さらなる怒りや憎しみを生む。

嫌悪や憎悪、嫉妬、復讐、怨念といった感情は、人間にとって
一生どころか、何世代先までも持続できる本当に恐ろしい感情だ。

何代にも渡る殺し合いの歴史の過程で、憎しみが憎しみを増大させ、
愚かで哀しい『聖地』の奪い合いを、永遠に繰り返す。

まるで、お互いを許しあうことが、不可能であるかのように・・・。





現在弁護士として活躍する大平光代さんは、「だから、あなたも生きぬいて」の中で、
心の荒廃した自分の少女時代を振り返る。

暴走族仲間と遊ぶため、両親がコツコツと溜めたお金を、暴力と罵詈雑言を
ふるって、むしり取った。

やくざの妻となった光代さんは、16歳のとき、背中に刺青を彫るため、両親の
印鑑が必要だった。

「刺青入れるから、判つけ」と言って、紙を差し出した。

度重なる非行と家庭内暴力のため、すでに涙も出なくなり、無言でうつむく父親を
「これでもか、これでもかというぐらいに」何度も蹴った。

そして、タンスから印鑑を取り出し、承諾書に自分で判を押した。。。

数年後、司法書士になって家に戻ったとき、手をついて謝った光代さんを、
両親は、泣いて、許した。

「よう頑張ったな。よう頑張った・・・」と号泣しながら、手を握り、誉めた。




他人の犯した罪を許すことは、難しい。

罪を犯した人間を愛し続けることは、もっと難しい。

しかし、それができるのは、人間しかいない。

憎しみよりも、愛のほうが強い、と思いたい。

人間は、弱くていい。不完全でいい。

相手の心の声に、真剣に耳を貸すことができさえすればいい。


“キリスト教は政治革命を企てたが、失敗したので、のちに道徳的なものになった。”

                            ------ ゲーテ


しかし、弱い人間のための宗教だったからこそ、ローマ帝国が滅びた後もなお、
キリスト教は、世界に君臨することができたのだ、と思う。 





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