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BONDS~絆~
夏の終わり(上)
そろそろ夏も終わる。私ミツとサナとケイゴとタツヤで高校最後の夏のために旅行することにした。
「ミツ、仲間だな」
「そうだね」
サナとタツヤは付き合っている。私はタツヤと小学校の頃から一緒で、タツヤはきっと私のこと恋愛対象としてみてこなかったんだと思う。
私は、中学校の頃からずっと好きなんだけどな。
「ミツ、旅行の持ち物チェック一緒にしようよ!」
「いいよ!」
サナがタツヤに想いを告げたいといわれたとき、どうして私もタツヤが好きっていえなかったのだろう。
「じゃあ今日の夜メールするね」
「うん」
今更崩すつもりもない。4人の今の関係が表面上良く見えるから。
その日の夜、サナとメールをしていると、ケイゴから電話が来た。
「もしもし、ケイゴだけど今電話して大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」
「あのさ、今サナとタツヤ付き合ってるじゃん。でさ、流れっつか・・・流れじゃないけど、ミツ俺と付き合ってくれないか?」
「え?」
「ダメかな?」
「ダメじゃないけど・・・」
「マジ!?じゃあ付き合ってくれるのか!?」
「・・・うん、いいよ」
「やったー!サンキュ!じゃあ、明日な」
「うん、バイバイ」
これでよかったんだよ。サナとタツヤは大事な友達だし、タツヤと忘れるためにもケイゴと付き合うことはきっといいことだ。
翌日、4人は海へ向かった。途中、電車の中でタツヤが最初に話し始めた。
「そういえば、ケイゴとミツ付き合うことになったんだよな?」
「何でしってるの!?」
つい反発してしまった。
「昨日、ケイゴから聞いたんだよ」
「そうなんだ~!ケイゴすごいねー!おめでとう~!」
「あ、うん、有難う・・・」
ケイゴは何だかそこに居づらそうにしていた。
「ケイゴ、どうしたんだ?元気ねーじゃん」
「いや、そんなことねーよ?」
そのとき電車の中でアナウンスがかかった。
『間もなく終点です。間もなく終点です。ご利用有難うございました。お忘れ物のないようご注意ください。間もなく終点です』
私達は会話をやめ降りる準備を始めた。
そうして、会話をすることもなく宿泊するホテルに着いた。
「みて!海!」
部屋に案内されてから早速サナが窓のところで叫んだ。
窓の外に広がる真っ青な海。ところどころ、太陽の光が反射してキラキラ光っている。
「綺麗・・・」
ふと言葉が零れた。
「ミツ、今日はじめて笑った!」
「え?そんなことないよ!」
「ううん、電車の中でずっと暗い顔していたよ。タツヤがケイゴと付き合っているんだろって聞いたときが1番暗かったかなぁ」
だからケイゴの表情も暗かったのかな。
「そっか・・・ごめんね」
「ううん!でも何かあるなら何でもいってね?私、ミツのためならできること何でもするから!」
「有難う」
心の奥が痛い。
数何秒遅かったら、私の好きな人はサナの彼氏なんだよって言うところだった。
そのとき、ノックオンが聞こえた。
「はーい」
「海いこうぜ!こんなに良い天気なんだ。行かなきゃ損、損!」
タツヤ・・・。
「うん!サナはすぐいけるよ!」
「そうか、ミツも早くしろよ!」
「私も大丈夫だよ」
ヤバイ・・・笑顔がひきつる。
「ミツ?」
俯いていた私にサナが心配そうな声で話し掛けてきた。
「なんでもないよ、行こ!」
「うん、行こう!タツヤ、ケイゴ準備オッケーだよ!」
4人で繰り出した海は、まさに夏本番という感じだった。
やっぱりメンバーは、サナとタツヤ、私とケイゴに分かれた。
散々泳いだ後、ケイゴとサナが飲物を買いにいった。タツヤと二人きりなんて久しぶりだったから、少し緊張した。
「暑いな~」
「そうだね」
「晴れてよかったな!」
「そうだね・・・」
他愛のない兄弟みたいな会話。
「ミツ今日元気ないよな、何かあったのか?」
「別に、何でもないよ!」
「ふーん。まあ、何かあったらいえよ。相談くらいのるからさ」
「うん、ありがとう」
さりげない優しさも、やっぱり友達としてだろうな。
仕方ないことだけど、スキという気持ちが募ってばかりの私にはキツイよ。
「そういやさ、ミツはケイゴのことスキだったのか?」
「・・・そ、そりゃぁ・・・」
「そうだよ・・・な。スキじゃなきゃ付き合わないよな。いつからスキなんだ?」
「高2のときかな、同じクラスだったから・・・」
ケイゴもサナも一緒だったけどね。
「あぁ、なるほどな。やっぱ同じクラスになると違うよな!新たな魅力に気付くっていうかさ」
「そうだね」
新たな魅力に気付いてサナと付き合ったんだね。
「おまたせー!」
サナとケイゴが戻ってきた。
「おぉ、サンキュ。混んでただろ?」
「うん!めっちゃ混んでた~!でもケイゴが取りに行ってくれたからサナは混雑に紛れなかったんだ~!ね、ケイゴ」
「あぁ。タツヤの大切な彼女だからな」
「はは、サンキュ」
ケイゴが私に飲物を渡して私の隣に座った。
一通り会話を終えてから私達は飲物を口に運んだので沈黙が流れた。
「ぷはっ。そういや、ケイゴはいつからミツのことすきなの?」
「女ってこういう話好きだよな」
「なによ~!じゃあタツヤは聞かなくていいよ!」
「実は俺もさっきミツに聞いたさ!ケイゴはどうなのよ?」
と、二人の会話にケイゴが混ざった。
「・・・俺は高1のときから好きだった」
「マジかー!長いな!」
「タツヤはいつからサナのことスキだったんだ?」
嫌・・・聞きたくない。
「俺か?俺は・・・つめてっ」
突然雨が降ってきた。
「早く中にはいろう!」
私達は急いで海の家へ駆け込んだ。
「間一髪だったね~」
「だな~。スゲー雨。快晴の予報だったのにな」
「天気予報見てきたの!?めっちゃ張り切ってたんだね、タツヤ」
もう元気の無い様子なんて見せちゃだめだ。皆楽しむためにここにきているんだから。
「おう!何せ企画したのも俺だからな」
「提案したのはケイゴでしょ!」
「あはは、そうだったかもな」
「あ、雨やみそうだよ」
「本当だな、ホテルに戻ろうか」
皆合意して、ホテルに戻った。
「じゃあ、あとでね」
「またな」
それぞれの部屋へ戻り、和室の窓際にサナと私が腰掛けた。
「ねぇ、ミツ、暇だしお互い何持ってきたか見せあいっこしない?」
「暇だしね、いいよ!」
サナの鞄の中には、化粧ポーチ・ヘアアイロン・ワックス・ジェル・スプレー・下着・洗面道具・私服や小物など女子が旅行に持っていくもの総て持って来ていた。
「私はこれだけだよ!ミツは?」
私の鞄の中には、ワックス・スプレー・下着・洗面道具・私服・勉強道具だった。
「勉強道具なんて持って来たの!?」
「出来たらやろうかなって思ってね」
「さすがだね、進学だもんね~」
「うん、サナは就職?」
「うん。お金ほしいし、タツヤも地元に残るって言ってたから」
「そうなんだ・・・」
サナと話していてタツヤを意識していなかったわけではないけれど、名前を口にされるとドキッとした。
「ケイゴは進学?」
「ケイゴはどうなんだろう」
「そういう話しないの?あ、まだ付き合い始めたばかりだからしないか~」
いや、それは関係ないと思うけど・・・。
友達同士も進路の話はするだろうし。サナは何でも恋愛にもっていこうとする。
私から見たサナの悪いところの1つだ。
「あとで聞いてみるよ、せっかくの機会だしね」
「そうだね!あ、ミツには言ってなかったんだけど、明日泊るホテルはカップルで部屋一緒にすることになったの」
はっ!?
「昨日タツヤからケイゴとミツが付き合うことになったって聞いて、初夜を兼ねてね、うふふ」
面白そうに話すのは他人事だから。
私が黙っていると、サナは顔色を変えて話した。
「ミツ怒ってる?」
「ううん、驚いただけだよ」
驚いただけ。確かに間違ってはいないね
「そっか!良かった~!あれ?もうそろそろご飯じゃない?タツヤたちの部屋遊びに行くついでに誘おう!」
「そうだね」
財布と携帯の貴重品を持って、タツヤたちの部屋へ行こうとすると、タツヤたちも廊下にいた。
「あれ?サナたちも俺らと同じコト考えてたんだな」
「そうみたい!」
サナが返事をして、タツヤの右腕に自分の左腕を絡ませた。
「じゃあ飯いくか」
必然的に私はケイゴの右側へ行き、カップルの形となり、食堂へ向かった。
ケイゴはその途中、私の手を握った。隣で腕を組んでいるのに、私達は何もしていないとオカシイとケイゴなりに思ったのか、あるいは単に手を繋ぎたかったのか・・・どちらでもいいが。
「と~ちゃく~♪やたっ!バイキングだ!」
「サナ、バイキングスキだもんな」
「うん!この前旅行したときもバイキングだったよね~!」
「あぁ、そうだな。ライチ丸っこまんまあって、サナ食べ過ぎていたよな」
「そんなこと覚えていなくていいよ~!」
恋人同士の会話。私の入れない、入っちゃいけない会話。
「ケイゴ、席とってようよ。サナたち先にとっておいでよ」
「ミツは気が利くな~」
タツヤは感心したように言った。
「じゃ、いってきま~す!」
トレイを持つときでも、彼らはべったりとくっついていた。
「よし、どこにしようか?」
「そうだな・・・あそこは?ライトアップされて海も見えるし、おかわり出来る位置にあるし、ミツにとって良い席じゃないか?」
「も~!でも、それもいいかも♪あそこにしよっ」
窓際の席に決めて、私達はタツヤとサナの帰りを待った。
二人が帰ってきたとき、タツヤはトレイを二つ持っていた。
「タツヤ、そんなに食べられるの?」
「これ、サナのだぜ。残すくせにこんなにとるなよな~」
「残ったらタッツ食べてくれるでしょ?」
「決まりきったように甘えるなよ~、こんな量だから先食ってるよ。お前らもとってこいよ」
「うん、行って来るね」
バイキングコーナーには色とりどり、本当にたくさんのものがあった。
「これならサナがあれだけ取ったのも納得だな」
「あは、そうだね~」
「あっ、ラーメンあんじゃん!食べよ~」
「ケイゴ、麺スキだもんね」
「よく知ってるな~」
「自分でよく学食でも言ってるよ」
「あれ?そうだっけ?」
「うん。じゃ、終わり口のところで待ち合わせね」
「おう、トレイ二つになったら呼べよ」
「ならないように気をつけます」
「あはは」
少し独りになりたかった。だから、ご飯を選ぶときだけそう謀った。気持ちがすーっとした。
選び終わり、ケイゴと待ち合わせの場所で会うときの私は自然と笑顔を出せるくらいまで心が回復していた。
「おまたせ」
「いいえ。よし、戻るか」
席に戻ると、タツヤは味噌汁をすすり、サナはライチを食べていた。
「サナ、ライチ美味しい?」
「うん、すっごく美味しいよ!」
「そう応えると思って私も持ってきちゃった」
「初体験?」
「こら」
すかさず、タツヤが突っ込んだ。
「こいつらまだ純粋なんだから、あんまり変なこというなよ」
「よく言うよ。お前、俺がカレー食ってるときにだってハシタナイコトいうじゃねぇか」
と、ケイゴも突っ込んだ。
「あれ?そだっけ?過ぎたことは忘れる性分でね。それにしてもケイゴ、小麦粉ばっかりだな」
言われてみると、ケイゴのトレイに乗っているのは、ラーメン・パン・お好み焼き・・・というように小麦粉で作られたものが多かった。
「ケイゴ、栄養偏るよ~」
と、サナがライチをほおばりながら言った。
「栄養なんてどうでもいいよ。あ、俺少しミツに話あるからあっちの席いくわ、ミツいいだろ?」
「うん、じゃあねー」
私とケイゴはタツヤとサナから10席くらい後ろの席に座った。
「ケイゴって気の遣い方上手いね」
「え?あ、いや・・・気遣ったわけじゃないんだ。その・・・飯のときくらいミツと一緒にいたかったんだ。俺そんなにいいヤツじゃないよ」
「そっか!可愛いな~ケイゴ」
「男は可愛いなんて言われても嬉しくないよ」
「あら、誉めたのに~」
「まぁ、良いんだけどさ。そういえば、明日の話聞いた?」
「明日?もう予定たてたの?」
「あ、いや、ホテルの話」
「あぁ、うん。聞いたよ」
「その・・・嫌だったら無理しなくていいんだよ。あぁ、でもタツヤたちは一緒にいたいか。まぁ、何もしないから安心しろよ」
「何もしないの?」
「え?」
「や、そういう意味じゃなくてね・・・まぁ私は気にしていないってことよ」
「そう」
『何もしない』といったケイゴの気持ちはやさしさから来ているのだろうケド、付き合っていて何もしないのもオカシイと思うのは私だけ?しばらくの間沈黙が続き、食器とナイフやスプーンが当たる金属音だけが響いた。
「・・・ミツさ・・・」
「ん?」
スパゲティーを口に含みながら返事をした。
「あ、やっぱいいや」
「そう」
ケイゴは『いいや』といったあとに相手からいくら聞き返されても応えない性格だと私は知っていた。
「ふー、お腹いっぱい!ライチも美味しかった。あとでサナに言わなきゃ」
「そうだな、少し休憩したら部屋戻るか」
「そうね」
10分くらい珈琲を飲んでまったりしてから、部屋に戻ることにした。エレベーターに乗ると、完璧な密室状態になった。
「ミツ、そんなに離れるなよ。何もしないから」
「え?あ、ゴメン」
気付いたらケイゴはボタンを押すところにいて、私はその左斜め後ろの隅にいた。
「まぁ、いいんだけどさ」
思わず、私はケイゴの手を握っていた。ケイゴも握り返してきた。
「ケイゴは私のどこがすきなの?」
「ん?う~ん・・・どこだろう。言われるとわかんないな・・・」
「そう・・・」
しばしの沈黙の間ケイゴが手を離し、話し始めた。
「・・・ミツはタツヤのことがスキなんだろ?」
「え?そんなことないよ?」
つい早口になってしまった。
「それでもいいんだ。俺、それでもいい覚悟でミツに告ったんだ」
「ケイゴ・・・」
ケイゴは私の気持ちを知っていて告白してきたんだ。
なのに、私、ケイゴの告白にOKしたなんて・・・不純な女だと思わなかったのだろうか。
「でも、俺諦めないから。ミツがタツヤを忘れるまで諦めないから。その・・・ミツも覚悟しとけよ」
「ケイゴ、私・・・なんていうか、話してくれて嬉しいよ。今迄ゴメンね」
そうなんだ。もうウジウジしていたらだめなんだ。
このままじゃケイゴを傷つけたままでいることになっちゃうし、いつサナやタツヤに本音を話しかねない。それなら当たって砕けたほうが良い。すっきりするし、ケイゴのため、タツヤへ想いを伝えるんだ。
「ケイゴ、本当に有難う!私、覚悟決めたよ」
「そうか、健闘を祈っているよ」
そう言い終え、私達は部屋に戻った。
部屋は真暗でサナがいなかった。きっとタツヤの部屋にいるんだろう。
そう思い、電気をつけた途端、ノック音がして、開けてみるとサナが泣いて帰ってきた。
「どうしたの!?」
サナの手を引き、とりあえず部屋に入れ座らせた。
「はい」
バスルームにあったタオルを差し出し、サナが泣き止むのを待った。
冗談だよ~って顔を期待しながら。
「タ、ひっく、タツヤが・・・別れようって・・・ひっく・・・言うの」
しゃっくりを交えたサナの声は遮りたくなるほどだった。
夏の終わり(下)
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