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2021.03.21
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カテゴリ: 気になる本
書館で予約していた『星に仄めかされて』という本を待つこと2ヶ月ほどでゲットしたのです。
多和田葉子さんと言えば・・・
ドイツに在住の作家で、なんといっても「パンスカ」という言葉を造語した言語感覚が素晴らしいのです。つまり汎スカンジナビア語を「パンスカ」としたのです。


【星に仄めかされて】


多和田葉子著、講談社、2020年刊

<「BOOK」データベース>より
世界文学の旗手が紡ぎだす国境を越えた物語の新展開!失われた国の言葉を探して地球を旅する仲間が出会ったものはー?

<読む前の大使寸評>
多和田葉子さんと言えば・・・
ドイツに在住の作家で、なんといっても「パンスカ」という言葉を造語した言語感覚が素晴らしいのです。つまり汎スカンディナビア語を「パンスカ」としたのです♪

<図書館予約:(1/05予約、副本5、予約20)>

rakuten 星に仄めかされて


ページをめくって「パンスカ」という言葉を探したけれど、終り近くになってやっとでてきたのです。なぜだろう?
「パンスカ」が出てくるあたりを、見てみましょう。
p261~264
 「太陽」のイメージが鍵になりそうだ。ただタイヨウと言うだけでは弱い。もっとじっくりとsusanooの心をあぶりだしてみたい。そこでタイヨウについて思いつくことを次々並べたててみた。

 「水平線から、地平線から、稜線から、まるくお顔をお出しになり、オレンジや石榴の色に輝いて、眠っている鳥を起こし、夜の間、暗闇で色を失っていた木の葉に緑を戻し、花に赤や黄色や青を戻し、冷えた地面を温め、人々を野外に誘い出す球形女神様。」
 もしかしたら太陽には昔こんな長い名前があったかもしれない。

 「今、なんて言ったの?」
 クヌートはわたしの言っていることが知りたくて我慢ができないようだった。
 「太陽の長い名前。」
 「そんなのがあるの?」
 「ない。発明。」
 そこに物知りナヌークの声が差し挟まれた。
 「長い名前の女神、実際に神話の中に存在するんだよね。本で読んだことがある。アマ、なんだっけ、アマ。」
 「天照大神」
 「それそれ。アマは雨って意味だろう。雨傘の雨。」
 「ちがう。」
 「それじゃあ、甘口カレーの甘。」
 「ちがう。」
 「奄美大島。」
 「ちがう。」
 「尼寺。」
 「ちがう。」

 わたしはナヌークの語彙の豊かさに感心しながらもいらいらしてきた。こんなに優れた脳味噌の持ち主が大学に通う代わりにお医者さんごっこをして、威張り散らして自己満足に浸っているのはもったいない。

 「アマは空という意味。一番上にいる神。その神様は女性なの」
 とはっきり言ってやった。するとナヌークは、
 「へえ、女が一番上に位置するなんて、それはフェミニズムという名前の宗教かい?」

 とからかうような口調で返した。ナヌークは英語もデンマーク語も流暢に話す。わたしはある国の上流階級またはエリートの喋り方を真似したいと思ったことはこれまで一度もない。国と国の間を移動しながら、必要な単語を拾ったり、要らなくなった単語を捨てたりして、自家製の言語パンスカをつくってきた。

 パンスカは絶えず姿を変えながら、わたしに同行してくれる。言語の引っ越しを続けるわたしの完璧な道連れパンスカ。でもナヌークの流暢なデンマーク語や英語を聞いていると、わたしの大好きなパンスカがまわりからは単なる「移民の片言」として低く見られてしまうかもしれないという気がしてくる。おもわず声が萎んでしまった。

 「それはフェミニズムではなく、シントーという宗教。」
 「シン島という島か。」
 「島じゃない。トーは、みち。神様たちのアウトバーン。追突事故が多いアウトバーン。わたしが安全を守りたい。」
 「へえ、君が安全を守るの?交通警察かい?」
 「わたしは太陽の女神。」

 口からでまかせを言った勢いで、つい振り返ってしまった。susanooはさっき見た通りの姿勢で微動もせずにすわっている。

ウン 「移民の片言」ようにも聞こえるパンスカであるが・・・
それを産み出し、それをこよなく愛でる多和田さんがええでぇ♪


この本は、『地球にちりばめられて』という本の続編という時期に刊行されたが・・・
続編というよりも重ね書きのような感じがするのです。

【地球にちりばめられて】


多和田葉子著、講談社、2018年刊

<「BOOK」データベース>より
留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoは、ヨーロッパ大陸で生き抜くため、独自の言語“パンスカ”をつくり出した。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会う。彼女はクヌートと共に、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を捜す旅に出る―。言語を手がかりに人と出会い、言葉のきらめきを発見していく彼女たちの越境譚。

<読む前の大使寸評>
言語学的なSFは、モロに太子のツボであるが・・・
ヨーロッパ大陸で生き抜くため、独自の言語“パンスカ”をつくり出したHirukoという元ニッポン人が、興味深いのです。

<図書館予約:(2/18予約、8/28受取)>

rakuten 地球にちりばめられて

『地球にちりばめられて』3 :「第9章 Hirukoは語る3」
『地球にちりばめられて』2 :「第6章 Hirukoは語る2」
『地球にちりばめられて』1 :「第2章 Hirukoは語る」





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Last updated  2021.03.21 00:28:19
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