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2021.03.23
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カテゴリ: 気になる本
図書館で予約していた『星に仄めかされて』という本を待つこと2ヶ月ほどでゲットしたのです。
多和田葉子さんと言えば・・・
ドイツに在住の作家で、なんといっても「パンスカ」という言葉を造語した言語感覚が素晴らしいのです。つまり汎スカンジナビア語を「パンスカ」としたのです。





多和田葉子著、講談社、2020年刊

<「BOOK」データベース>より
世界文学の旗手が紡ぎだす国境を越えた物語の新展開!失われた国の言葉を探して地球を旅する仲間が出会ったものはー?

<読む前の大使寸評>
多和田葉子さんと言えば・・・
ドイツに在住の作家で、なんといっても「パンスカ」という言葉を造語した言語感覚が素晴らしいのです。つまり汎スカンディナビア語を「パンスカ」としたのです♪

<図書館予約:(1/05予約、副本5、予約20)>

rakuten 星に仄めかされて


私(ノラ)の友人たちが語られているので、見てみましょう。
p153~158
 隣のカフェテリアでカプチーノを買い、腰を下ろすと私は早速訊いてみた。
 「ねえ、ヒジュラーの集会って何?」
 「インド中のトランスジェンダーが集まるお祭りのようなものさ。性の境界を行き来する神様を祀る。そこでクリスと友達になったんだ。二人ともドイツに住んでいることが判明した時は嬉しかったよ」
 「あなたってヨーロッパ中に友情の網を張り巡らしているのね。」
 「蜘蛛の巣を張り巡らせているわけではないんで、食われる心配はないよ。」
 「あの人、クリスって名前なの?」
 「本名じゃないよ。ユニバーサルな名前で覚えやすいからだって。本名はクリシュナかもしれないし、クリストファー・コロンブスかもしれない。」
 「クリスは以前、女性だったの?」
 「彼は生物学的に言えば昔も今も男性だ。その上、外見も男性だから、一体どういう境界を超えているんですか、なんて仲間に訊かれることもあるみたいだ。でも彼としては、女性を愛する女性が男装しているつもりなんだ」

 パーティという言葉を聞くとどういても14歳の頃に友達の家に集まって、窓ガラスの割れそうなボリュームでテクノ音楽をかけ、ビールや安ワインだけでは物足りなくなって、エクスタシーを吸って朝まで踊ったいわゆる「パーティ」を思い出す。

 だから今夜は私たちを車に乗せて行ってくれる人がお酒や麻薬に手を出さないようにしっかり見張らなければ、とまず思った。ところがクリスの家に着くと、学生風の男女が五人、膝を揃えてソファーに腰掛けチャイを飲んでいて、音楽はかかっていなかったし、誰かが踊り出しそうな雰囲気も全くなかった。

 しばらく話を聞いていると、彼らはストライキは社会を変える有効な手段かどうかについて話しあっていることがわかったが、みんなまるでリュウマチの話でもしているようにうなだれて、押し殺した声で話しているのだった。クリスだけは楽しそうに鼻歌を歌いながら台所でサモサを揚げていた。振り返って私の顔を見ると、クリスは得意げに言った。 「見つかったよ。今夜ハンブルグまで行く連中が」
(中略)

 9時半頃にブザーが鳴って白髪の夫婦が入ってきた。コンサートの帰りだと言う。隣に住んでいる夫婦だそうでやはりチャイを飲んだ。年金生活者で趣味は旅だと言うので、もしかしたらこの夫婦が私たちを乗せて行ってくれるのかと思ったが、そのうち今朝5時に目が覚めてしまってもう眠いから帰る、と言いだした。老夫婦が帰ろうとするとブザーが鳴って、入れ替わりに黒い革の上下を身につけた髪の長い化粧した若い男性が二人入ってきた。

 ヘルメットをそれぞれ二個ずつ手にぶら下げている。私は嫌な予感がして台所に駆け込み、アカッシュとクスクス笑いながら立ち話しているクリスに、
 「私たちをハンブルグに連れて行ってくれるのって、まさかバイカーなの?」
 と訊いた。自制したつもりなのに非難するような激しい口調になってしまった。
 「そうだよ。ハンブルグの教会でバイカーの大集会があるんだそうだ。金のない奴らだから燃料費は頼むよ。人間の燃料とバイクの燃料と両方ね。深夜に出発すればアウトバーンもガラガラで思いっきり飛ばせるだろう」

 アカッシュは目を輝かせ、バイクに乗れることを喜んでいるようだったが、私は今更イージーライダーやあるまいし、バイクなんてとんでもない、寒くてうるさくて骨は痛くなるし危険だし、ヒッチハイクの上を行く軽薄さだ、と腹が立った。


『星に仄めかされて』2 :「だるまさんが転んだ」という遊び
『星に仄めかされて』1 :「パンスカ」が出てくるあたり





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Last updated  2021.03.23 08:05:48
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