FROM  NEW  YORK

・・・続き



鏡の前に立つと右胸の乳首上に薄いキスマークを見つけた。慌てて首の回りを鏡に映して確かめた。「よかった。首の回りにはないわ。」ここにキスマークを付けられるのが嫌いだ。どうしても目立ってしまう。街を歩くと通行人が指を差して「おまえは昨日の晩エッチしたな。イヤラシイ女だ。」そう言って見ているような気がしてならないのだ。乱れた髪をポニーテールに結って鏡に映った自分の裸に目をやった。



「またこの夜景が見れたわ。ホントに素敵!」

ロバートのアパートに一歩足を踏み入れると、暗いアパートの中は街の光をいっぱいに浴びていた。手を引かれるままにバルコニーに出て手すり越しから寝静まる街を見下ろした。後ろから軽く抱き寄せられ彼に胸の高揚を聞かれるのではないかとドキドキした。

「恐くない?」

「ううん。高いところ好きよ。」

そう私が言い終わった途端、ロバートは私の首筋に軽くキスした。

「今日もエタニティーだね。」

「いつもよ。」

「う~ん、堪らない。」

そう言ってまたゆっくりと優しく首筋にキスを続けた。彼の吐息が熱い。胸の鼓動はますます高まり、私の体はすでに熱くなっていた。子宮を突き上げられるような衝撃が体中に走った。男にこんな風にキスされるのは久しぶりだった。蘇る感覚の中で抱かれたいと思った。

ロバートはキスを止めて一瞬顔を私の首筋に埋め、唸ったと思うと軽く笑いながら

「何か飲む?」と聞いてきた。

「お水もらおうかな。」

キッチンに入って行くロバートをバルコニーから見つめながら深呼吸した。体は相変わらず熱かった。それが酔いのせいなのか、キスされていたのかはわからない。この先のことを考えるとドキドキだったけど不安でもあった。ロバートはプレーボーイなのだとウワサに聞いていたからだ。もう一度深呼吸をしてキッチンにいるロバートの後を追った。リビングルームに両手にグラスを持ったロバートがいた。彼は何も言わずにグラスを差し出した。

「ありがと。」

喉が渇いていたせいか、一気に飲み干した。彼のグラスもほとんど空だった。

「もっといる?」

「ううん、いらない。」

空のグラスを私の手から取ってロバートはまたキッチンに消えた。私はソファーに腰を下ろし、背もたれに寄り掛かりながら空を見つめていた。ロバートがまた現れた時には一杯に水を入れたグラスひとつを持っていた。ナイトテーブルにグラスを置くと、私の隣にゴロンと寝そべり頭を私の膝の上に置いた。昨日散髪したばかりというロバートの短い髪を軽く撫でながら時折前屈みになって頬や額に接吻した。私も彼も黙ったままだった。どれくらい時間が経っただろうか、時計の秒針だけが響いていた。暫くして彼は身を起こし私の隣に座った。彼の顔が私の顔を覆いそのまま倒れこんだ。

ロバートは接吻も愛撫も優しくだから故に官能的だった。感覚の全てが彼の触れた部分に集まり、その度にビクンと私の体が反応し小さな喘声を漏らした。プレーボーイなんだから女の体を知り尽くしてるんだわ、と思いながらも身を委ねた。頭から足の指先までも丹念なロバートの愛撫に耐えられなくなった私はそのままイッてしまった。程なく彼も果てた。そしてそのまま眠ってしまった。



鏡の中に映る自分の裸を見ていつもより艶があるように思えた。愛される女の体は美しくなると聞いたことがあるが、わかるような気がした。キレイになりたいと思った。拾い集めた洋服にまた身を包み、そっとバスルームのドアを開けた。その微かな音にロバートが寝返りをうち、薄らと目を開いたのが見えた。

「ごめん、起しちゃったわね。」

ベットの縁に軽く腰掛けまだ眠そうな彼に目をやる。30歳過ぎているというのにまるで子供のように見えた。

「わたし、行かなきゃ。」

「わかった。玄関まで送るよ。」

一瞬彼が目を閉じた隙に彼の頬に軽くキスをした。彼は目を擦りながら玄関まで見送ってくれた。また会えるかしら、そんな期待と不安が一気に押し寄せてきた。

「よい一日と週末を過ごしてね。」

「あなたもね。」

軽く口にキスしながら抱擁した時に初めてなんとなく気まずさを感じた。だからまた会いたい、とは言えなかった。後ろでドアの締まる音が聞こえ、そのドアが彼と私を分け隔ててしまったような気がした。タクシーに乗り込んですぐ、窓をいっぱいに開けた。少し強い風が顔にあたるのが気持ち良かった。なるようにしかならないわ、そう思って目を閉じた時だった。ピピッと携帯にメッセージが入った音がした。ヴィトンのバックから携帯を取り出して見ると、ロバートからのメッセージだった。

今夜会える?

携帯をバックにしまいながら自然と微笑みが零れた。窓からの風が心地よいものと変わり、ビルと雲の間から朝日が射し込むのが見えた。ワクワクする一日の始まりだわ。寝足りなさと軽い疲労感と何かが始まりそうな予感に、まだ酔いが残っているような感じがした。

心地良い気分に浸っている私を乗せたタクシーは朝日の反射するビルの谷間を走り抜けて行った。






【注:フィクションです】


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