丘菜摘のその日暮らし

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2008年06月22日
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カテゴリ: 介護日記
「俺の軍服は,どこへやったんだ?」


「軍服なんて見たことないよ。」
それとなく否定してみるが,全く納得していない様子で,
「昨日帰って来ただろう。そのとき着てたやつだ。」
と続ける。父は要介護5,ほとんど寝たきりなのだ。
「帰って来たって,どこから?」
と尋ねると
「俺が部隊から戻ったのは昨日だろう?」

「戦争が終わってもう60年以上過ぎてるんだよ。」
と,やんわり否定してみるが,やはり全く理解できない様子で,不満そうな顔でしきりに首を捻っている。

数日前,父は,昭和50年ころの記憶の中にいた。
やはり朝の第一声が
「俺の車はどこに停めたかな。」
だった。不審に思いながらも,ありのままに
「車はもう10年以上も前に処分したじゃない。」
と答えると,如何にも困った様子で言った。
「仕事に行かなきゃならんのに,どうするんだ。」
父が仕事を辞めてから既に13年の月日が流れている。

広い意味での認知症の症状である。少なくとも3年くらい前からこういう状況は始まっていた。

「菜摘はまだ学校から帰らんのか?」
どきりとしながらも,質問の意味を図りかねて聞いた。
「目の前にいる私は誰なの?」
答えは象徴的かつ衝撃的だった。
「お前は妹だろうが。」


最初のうちは,こちらも状況を飲み込めず,しっかりしてよ,とばかりにむきになって訂正し,言い合ったりしたが,それは父を苛立たせるだけであると気づいた。
強く否定するのではなく,ある程度受け止めながら噛み合わない会話を続けるうち,自分でも混乱するのであろう,やがて父は黙り込んでしまう。そして,そのまま時間がすぎると,そのような会話など,すっかり忘れてしまうのだということをこちらが学んだ。

父の意識は,自由に時間を飛び越えて,遠い過去を一瞬にして引き寄せる。歳を重ね,そう,父はタイムトラベラーになったのだ。
さて,明日の父は,どの時代に目覚めるのだろうか。





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最終更新日  2008年06月22日 23時37分45秒


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