ギロホリック

ぬるい夢



磨いていたビームライフルを火かき棒に持ちかえて、火の中の芋に軽くさし

てみる。

「もう気持ち焼いておくか・・」

この時刻になると風がいっそう冷たく感じる。枯葉をもう少しくべて火を大

きくしておこう。芋にはおき火のほうがいいのだが・・・。


この星はこれから一層寒さが厳しくなる。以前赴いた極寒惑星「ヒエピタ

ン」に比べればさほどでもないが、それでも気象が全てコントロールされて

いるケロン星にいた自分たちにとってはこの寒さと乾燥がかなりこたえる。

こうして火を焚いていれば、かなり寒さが凌げる。それに、何より・・・

「あいつがよろこんでくれるからな。」

火かき棒で丹念にもう一度芋の火の通りを確かめた。


塀の向こうで話し声がして、ハッと身構えた。

ただの通行人か・・・。

上げかけた腰をまたブロックに下ろしながら深いため息をつく。

「とんだ体たらくだな。」

俺たちはこの星を侵略しに来たんだ。なのに俺はこうして芋なんぞを焼いて

いる。

ここで暮らすうちに俺たちは少しずつ変わっちまった。

ドロロの言うとおり、この星は美しい。いや、醜い部分もある。が、この星

の、この星にしかない自然や文化、そして人々・・。


侵略が遅々として進まないのを、ケロロがガンプラにうつつをぬかすせいに

して吼えまくっている俺が、一番踏み切れないでいるのかもしれない。


俺たちがその気になれば、この星ひとついただくぐらい造作ないことを俺た

ちは知っている。だが、皆わざと気付かないフリをしているのだ。

いつかは起きなければいけないと知りながら、布団の中でぐずぐずと惰眠を

むさぼるように・・・。

このまま、許されるならいつまでもぬるい夢を見ていたいのだ。

だが、その時は来る。数年後か、数ヵ月後か?今日か、明日かもしれない。



そのとき俺は・・・



「ただいま~!お芋、焼けてる~?」

夏美の声にはじかれたように立ち上がった。

「お、おう。ちょうどいい頃合だ。」

制服姿の夏美が近づいてくる。

ちっ!今日はやたらと煙が目にしみるぜ。

「ああ!焚き火ってほんとにあったかいね!!」

火かき棒にさした芋を渡しながら横目でこっそり夏美の笑顔を確かめる。

「うわぁ!おいしそーう!あちちっ。いただきまーす!」




そのとき俺は、

そのときが来ても俺は・・・



炎の照り返しで頬をばら色に染める夏美の笑顔を見ていて思った。

ひとつだけ確かに言えることがある。

「おーいひぃ~!ありがと!ギロロ♪」

「ふ、ふん!」




俺はこの笑顔を守るためならなんでもする。






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