酔眼教師の乱雑日記

女子大生の意識と行動を知る



          生活文化度の変容に関する一考察

      ――女子学生に対するアンケート調査にもとづいた分析――
1. 研究の目的

 従来の流通企業は、消費者との商品取引や情報交換を行う場としての「市場環境」(隣接的環境)から出発して、マーケティング・ミックスを組み立て行動した。その場合においては、市場環境の背後にある生活文化構造(本源的環境)は「経済的・社会的・自然的環境」として外生的変数としてとらえていた。確かに、需要が供給を上回る高度経済成長期のような場合には、流通企業は消費者との取引行動だけを対象としていたので、生活文化構造は所与と見なしても問題はなかった。流通企業は市場環境の動向にだけ注意を払っておればよかった。

しかし、急速な経済発展により、高度消費社会が実現し、グローバルなネットワーク社会が形成され、外国のより高度な生活文化の移入が容易になると同時に、経済が停滞期に入ると、市場環境の背後にある生活文化構造の活断層が活動をはじめ、生活文化度1)の変革が始まる。流通企業は市場環境対応行動から、生活文化構造の変革過程と新たなる生活文化度に対応する企業行動を創造していかなくてはならなくなる。

このような観点から現在の状況をみると、バブル経済崩壊後、商品流通の中で流通企業が優位を占める新しい市場形成へと向かいつつあるが、主導権を持った大規模流通企業においても販売額・利益額において対前年比割れの低迷が続いており、店舗の売却、人員の削減などのリストラクチャリングを進めている。

低迷の一因は、長期不況と将来の不透明感に伴う消費者の節約志向に求められることが多いが、それは必ずしも不況という経済情勢だけが原因ではなく、戦後五十数年の社会経済の変化を経て、消費者が単なる経済主体としての消費者から、社会・文化システムの中の行為者としての生活者へと変貌し、新しい生活文化度へと移行しつつあることに原因が求められるのではないかと考えられる2)。

生活文化構造は、価値観、生活意識、パーソナリティ特性、経済特性、地域性などの要因から構成されており、これらの要因は、社会・経済情勢の変化に即応し、容易に順応し、変化するものではなく、幼年期から少年・青年期にかけての社会経済環境と広い意味での教育によって形成される。
 現在、専門学校・短期大学・四年制大学で学ぶ学生は70年代後半に生まれた人たちであり、豊かになった社会に誕生し、バブル経済の最中に少年・少女期を過ごし、青年期がバブル崩壊後の不況の最中であり、彼女らの持つ意識・価値観・行動は従来のそれとは大きく異なったものになっていると思われる。

そこで、次代の消費の中心を担う女子大生たちの生活文化度は変化しているとの仮説のもとに、アンケート調査を実施し、生活・経済実態、価値観、生活意識・行動、購買意識・行動などを分析することによって、彼女らの生活文化度の検証を試みた。

また、様々な学校種別からデータを得たので、学校種別による学生の意識・価値観・行動の差異も検討した。



2. 研究調査の概要と集計・分析方法

 調査対象者は中部、関西、四国、九州地方の専門学校(419名)、短期大学(629名)、四年制大学(300名、うち近畿大学生112名)に在学する女子学生1348名であり、1997年9月~10月に質問用紙よる集合調査法によって実施した。

集計は各質問項目ごとの単純集計とクロス集計、質問項目間の相関分析、性格と購買行動のクラスター分析を行なった。ただ、調査対象校の専門学校、短期大学がファッション・服飾系であるので、結果については若干の偏りがあるかもしれない。特に、ファッション・被服関連の分析結果にその傾向がみられている。

分析結果は単純集計とクロス集計による生活実態(3-1)、一般的価値観(3-2)、生活意識・行動(3-3)、ファッション意識と購買行動(3-4)における分析を行い、次に、質問項目間の相関行列にもとづいた分析(3-5)、性格と購買行動(3-6)に関するクラスター分析に整理した。

分析結果は特徴ある点を要約・列挙する形で提示した。最後にそれまでの分析結果をもとにして、生活文化度についての検証を行うとともに、今後の研究の方向と課題を挙げてまとめとした。

3.調査結果要約

3-1生活・経済実態

① 学生の6割がアルバイトをしている。アルバイトの頻度では週3~4回という学生がもっと多く(30%)、次いで週1-2回(19%)、5-6回(10%)であった。アルバイトの時間は1回あたり4~6時間が最も多く(29%)、2-4時間(19%)、6-8時間(15%)の順であった。収入額では5万円以上が最も多く(28%)、次いで4-5万円(20%)である。こづかいをもらっている学生が6割弱おり、アルバイト収入と合わせると、自由裁量で使うことの出来る潤沢なお金を持っている。

② 学生の8割強は貯金しており、20万円以上貯金している学生も2割おり、四大生が貯蓄率も貯金額も多かった。また、5万円以上の借金がある学生が1割弱おり、学生の金銭管理状況はさまざまである。

③ 支出額のなかで服飾費が占める割合が1番高く(40%)、飲食費(22%)、遊興費(17%)の順になっている。学校種別に関係なく、全収入のうち服飾費に充てる金額の割合が一番高く、女子学生がいかにファッションを重要視し、関心が高いかをうかがいしれる。

④ 生活時間の平均像では、起床は朝7時30分、学校にいる時間が6.6時間、アルバイト時間3.1時間、余暇時間3,1時間、就寝時刻は0時45分であった。

⑤ 学生の8割は携帯電話もしくはポケットベルのどちらかを所有している。パソコンの所有率は学校種別に関係なく25%前後である。



3-2 一般的価値観・意識

① 今までの人生や現在の生活にほぼ満足している学生の割合は約60%であり、四大生は専門学校・短大生と比較して満足度が高いが、専門学校生は満足度が若干低い。現在の社会については、満足している割合は30%、不満を持っている割合が70%である。自分の生活には満足しながらも、社会に対しては不満と不安を持っているといえる。

② 一番大切なものは友人が第1位(33%)であり、2位が家族(24%)、3位が健康(16%)、第4位が恋人(13%)であった。友人が第1位であることから、友人との交流が、学生達の人生や生活に大きく影響しているといえる。第2位の家族については、短大・四大生はほぼ同じ割合(26%)を示しているが、専門学校生は他校よりも10%低く、家族からの自立心が高いと思われる。

③ 短大・四大生(75%以上)は将来の生活、とくに就職に関しての不安感が非常に高く、定職希望が多いことから現実認識度が高い。

④ 専門学校生は短大・四大生に比較して大きな夢を持っている学生が多く、楽観的で独立志向の傾向が強い。

⑤ 学生の豊かさに対する価値観は経済的余裕が左右しており、5万円がその分岐点であるといえる。5万円以上(貯金も含めて)持っている学生は精神的豊かさを、5万円以下の学生は経済的豊かさを求めている。ただ、可処分収入が2万円以下の学生の中に精神的豊かさを求めているグループがあり、彼女たちは「政治・経済への関心」が高いことが、相関分析で示されている。四大生は精神的豊かさを求める割合が高く、短大・専門学校生は経済的豊かさの割合が高くなっている。



3-3 生活意識・行動

① 家庭生活に関してはほぼ75%の学生が満足している。母親や兄弟姉妹と話す割には父親と話す割合が低いが、父親と話す人ほど家庭生活の満足度が高く、家庭の中での父親の果たす役割の大きいことを示している。

② 全体的に学校生活についてみると、学生の8割は学校生活が楽しいと回答している。その満足度は、四大生・短大生・専門学校生の順である。実習が楽しい、習っていることが将来の役に立つと考えている学生7割いるのに対して、カリキュラムに満足している学生や講義が楽しいと感じている学生は3割である。学校の施設・設備に関しては、短大・専門学校生では5割以上が満足しているが、四大生では3割程度と低くなっている。

③ 学んでいることが将来の仕事に役立つと考えている四大生は5割しかいないが、専門学校生は8割になっており、学校種別のカリキュラムから判断して、専門学校生の方がより実践的で職業に直結した内容を学んでいるのに対して、短大・四大になるほど総合的・専門的な視点にたつため、内容が曖昧になり、カリキュラムや講義に対する不満となっていると思われる。四大生も実習科目は楽しいと回答しており、学生の実学志向が現れている。

④ 学校生活の楽しさは施設・設備やカリキュラム、講義、実習への満足感だけでなく別の要素もあり、他の質問項目から推察すると友人の占める割合が大きく関係していると考えられる。

⑤ 現在の生活に満足している学生は今までの人生に満足しており、余暇生活が充実していると感じている。

⑥ 余暇時間の充実している学生は学校生活も楽しいと感じている。

⑦ 現在の生活に満足している学生は学校生活も楽しいと感じており、まとめると「今までの人生に対する充実感」と「余暇時間の充実感」さらに「学校生活の充実感」が「現在の生活の満足感」に深く関わっている。



3-4 購買意識と行動

① 学生の7割がファッション情報源として雑誌をあげている。なかでも、ファッション雑誌については、84%の学生が読む方と回答しており、雑誌のカテゴリーが高い支持を得ている。また、常に購入する週刊・月刊誌でもファッション雑誌が第1位である。第2位の情報源は店頭陳列(ディスプレー)であった。

② 学生の7割が充実したい生活分野としてファッション生活をあげている。それを裏付ける要 因として服飾費の支出が一番多い。

③ ファッションへの関心度については、他人のファッションは気になると回答した学生が95%であった。学校種別では短大生が大変気になると回答した割合が高い。短大生は友人と共に購買に行く機会が他の学校種別に比較して高く、行動を共にすることによって互いのアドバイス行為によって、購買が成り立つ側面がたぶんにあるといえる。

④ 他人のファッションは気にしても、同じファッションをしても気にならないという学生は半分であった。学校種別でみると、四大生が気にならないとする回答が高く、服飾費の支出割合が一番低く、ファッション雑誌の購読割合も低くなっており、ファッションに対して保守的な傾向がある。

⑤ 購買行動の特徴としての同伴購買は、友人同伴90%、母親同伴60%である。

⑥ 4割の学生は衝動買いをし、無駄なものを買わない学生は1割である。

⑦ ファッションおよび流行に対する関心度は四大生より専門学校生、短大生の方が高い。また、ブランドについては7割の学生がこだわっており、5割の学生がブランド商品を持っていると回答している。とくに、専門学校生に顕著にそのこだわりがあらわれている。

⑧ 学生の店舗選択は服種によって行なわれており、品揃えがひとつの選択要素になっている。そして、顧客志向にそった品揃え型ショップが注目されている。百貨店より専門店の方が支持を得ている。百貨店が専門店化を進めている原因もここにあるといえる。

⑨ 全般的に購買行動と購買動機には学校種別に差異がみられ、専門学校生はファッション流行への関心度が高く、オピニオン・リーダー的な存在としての性格がみられる、一方、四大生はファッションに対しての関心が低く、保守的であるといえる。



3-5 相関行列による分析

① 学生が関心をもっている主領域としては「流行への関心」と「政治経済への関心」の2つがあげられる。

② 「流行に関心」が強い人はファッション情報に積極的に関与し、ほしいファッション商品を購入するためにアルバイトをする。アルバイト収入の多さは、時間的な余裕を犠牲に経済的な余裕を得た度合いと読むことができる。

③ 「政治・経済に関心」が高い人たちは、時間の消費をアルバイト以外で行なっていることを示している。そして、時間の消費は比較的家庭の中で行なわれ、活字にも親しんでおり、知的好奇心があるということができそうである。この人たちは収入を得るために、あえてアルバイトをしようとしない。



3-6 性格と購買行動の関係

① 性格のクラスター分析をおこなうとフロアー、アドバイザー、チャレンジャー、リーダーに集約することができた。各性格と質問項目の相関をみたが、大きな差異はなかった。

② オピニオン型と非オピニオン型と平均の3タイプで比較をすると、オピニオン型は人生に対して肯定的な考えを持ち、夢を持ちながら、政治・経済をはじめあらゆることに関心を持ち、積極的な生き方をしている。情報収集のための道具としての携帯電話・パソコンの所有率も高くなっている。「流行にも関心」が高く、積極的に情報収集をし、流行の取り入れも早い。購買行動においては、価格志向ではなくデザイン志向である。非オピニオン型は逆の傾向を示している。



4.生活文化度の変容について

まとめの最後として、研究の目的の1つである「現在の消費の低迷が単なる長期不況や将来の不透明感だけによるのではなく、消費側の生活文化度の変容と企業側の変容対応の遅れにあるのではないかという仮説」について考察をした。

消費者が安定的文化度の段階にいる時、マーケティングは市場環境から出発し、その市場環境の動向(表層的な行動変化)に注意を払っていればよかった。すなわち、企業は大量生産→大量流通→大量消費をベースとして行動し、消費者も生活の中心を「経済的豊かさの追求」に置き、収入を増加させるために精一杯働き、多くの生活用品を購入してきた。しかし、成長期を経て、生活空間を構成する商品が飽和状態に達し、転換期へと移ると、市場環境の背後に潜んでいた生活文化構造のなかの活断層が活動をはじめるようになり、それまでの生活文化構造が大きく変革し、新たな生活文化度へと移行しはじめる。

いま、消費者は第2段階の安定型生活文化度から第3段階のエンジョイ型文化度の段階と移行しつつあると考えられる。エンジョイ型生活文化の特徴は、「モノの充足から自己表現や自己実現といって社会心理的な欲求を表面に出すようになる。つまり、もくもくと働くのではなく、個人的な趣味や友人や仲間とのつきあいを大切にする。また、商品選択においては、十分に情報収集を行ない、商品のファッション性や実用性、機能性を重視し、無駄な買い物をしない。」である。

これらのエンジョイ型生活文化度の特徴を今回のアンケート結果から検証してみた。

学生のと%は月額5万円以上の可処分収入があり、経済的には満たされている。このことが、あらゆる意識や行動の出発点になっている。

人とのつきあいを大切にしながらも(94%)、交際範囲は限定し、特定の集団の中で自分を表現しようとしている。一番大切なものとして「友人(33%)」をあげ、友人と同伴購買によく行き(42%、ときどき行くまで含めると約90%)、母親との同伴購買(15%)に比べてもはるかに高くなっており、現在の女子学生が友人との交流を中心として行動していることが示されている。

また、一番欲しい豊かさは「精神的豊かさ(32%)」であり、一番関心のあることとして「趣味(41%)」があげられており、余暇生活に満足している学生も実に70%に達している。

購買意識・行動の面をみると、ファッション生活の充実(69%)を望んでおり、ファッション雑誌を常に購読し(53%)、通販のカタログを見て(76%)、ウィンドウ・ショッピング(82%)をするなど、購買以前の十分な情報収集を行っている。

商品選択の面をみると、食料品では「品質重視(49%)」が「価格重視(44%)」を上回っており、洋服の選択においても「デザイン重視(72%)」が「価格重視(27%)」を上回っており、「ファッション性」か「機能性」かでは、「ファッション」の割合が少し高くなっているが、「機能性」を重視する学生も44%いる。インテリア商品の購入においても「品質重視(53%)」が「価格重視(45%)」を上回っており、「ファッション(35%)」よりも「機能(61%)」を重視する傾向が強くでている。また、店舗選択は服種によって行なわれ、品揃えがひとつの選択肢になっている。

アンケート結果で、エンジョイ型生活文化の特徴と異なっているのは、「無駄なものを買う(34%)」・「買い物は計画的(33%)」であったが、学生が自由裁量できる収入やこずかいをある程度持っていることによる結果であると思われる。

以上のように全体としてみた場合、学生の意識・行動の様々な面で、エンジョイ型生活文化度の特徴が顕著に表れているといえる。

次代の消費の主役となる女子学生の生活文化度がエンジョイ型へと変容している時に、製造企業も流通企業も従来の安定型生活文化度対応のマーケティングに依拠しながら行動していては、21世紀に存続・成長していくことは困難であろう。新しい生活文化度に対応する次世代マーケティングを構築し、行動する必要に迫られているといえる3)



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