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『それで、初めての鮎はどうだったの?』
なんだか照れくさそうに彼は言った。
『だから、釣ったとか、掛けたじゃなくて・・・こうなんて言うのかな、
その時のまま言えば、なんか重いよだね。
ただでさえ、その当時の鮎竿は凄く重かったんだから、落としそうな位に
なったんだと覚えてるよ。』
『そうして親父に、重いことを告げても中々、来てくれず、めんどくさそうに(ほんとに重いのか?エビじゃないか?)と言われて竿を渡したんだ』
『そしたら掛かってたの?』
『そうなんだね。そして(せっかくだからもう一回竿を持て。お前が掛けた鮎だからな)と言われて、全身で必死に竿を支えて、親父が下流に行って
タモで掬ってくれたのを覚えてますよ』
また照れくさそうに笑いながら、
『まぁ取り込みまでしていないから、本当に釣ったことにはならないんだけど、凄く衝撃的なひきというか、忘れられないんだよねー。
それからきっとしばらくたって、取り込みまで一人でやるようになるんだけど、そこは何故か覚えていないんだよね』
『本当に教えてくれない親父だったから、どうやって取り込んだり、
ハナカンを付けたり覚えたんだろうね?
なんか中間の記憶というか、なんだか曖昧なんだよね』
彼が話し終える前に会計が入ったので続きがあったのか分からなくなってしまったが、急に笑顔が消えて、一人カウンターでタバコに火をつける渓太には、自分の記憶が曖昧になっているのに、あまり深く思いださないでいようとする気持ちがあったのかも知れない。
それは、6歳前後の記憶が曖昧になるような衝撃的な事件があったらしいと聞くまでは腑に落ちない光景だった。