ネオ・ヴェネツィア戦線

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第3話 学校で放課後で


共学で全校生徒は、約1000人。
創立はもうすぐ100年の古い学校だ。
だが、歴史はあっても誇れるものは少ない。
剣道部が、去年インターハイ出場。
柔道部と、野球部が県大会ベスト16。
このくらいである。あとは、コソコソと文化部が実績を残しているくらいで市でも県でもそれほど目立つような学校ではない。
進学校にはなりつつあるものの、大学進学者は数えるほどで、大半が専門学校への進学や就職である。
そう、ここが僕の通う高校である。








また謎が増えた。
月読と天照の関係、月読が歌ったあの謳のこと。
すぐにでも聞きたいが、あれ以来月読は現れていない。
平和と言えば平和だが、もしかしたらあのことを怒っているのかと思うと申し訳ない気がする。
しかし、あの謳はなんだったのだろうか?
もう何がおきても不思議ではないが、謳だけで瀕死の僕を全回復させてしまった。一体なんだったのだろうか・・・・。


やっと日常に戻ってこれた気がする。非現実的なことが続きすぎた。その間も学校に入っていたが、気が気でいられなかった。
天照と言う男が現れて以来、月読は姿を消し、うつろわざるものも出なくなった。
こうして、学校に安心して登校も出来る。


平和だ。


その言葉に尽きる。
月読に殴られることはないし、死ぬような目にあわなくていい。
だけど・・・何か寂しい気がする。


「・・・・・・・・。」

「・・・・み・・・・・・。」

「三崎!!!」

ガツン!!

殴られて我に返った。

「痛て!!」

「なぁ~にボケッとしてるんだよ!」


平和ボケしていた。
それほどまでに、最近は非現実的事件に苦労してたんだと思う。
殴ってきたのは博樹だ。亀山博樹。中学の時からの親友だ。
こうして、隙を見せると殴ってくる。
本人はスキンシップとか言っているが、正直ただの暴力だ。


「どうしたんだよ~最近おかしいぞ?何か悩み事か?!恋か?恋煩いか?!聞いてやるぞ?」

言われるまでもない。自覚がある。
しかし、そんなどこにでも転がっているような悩みならまだいえる。
現実離れした出来事や、1回死んでいるなんて言ったところで冗談にしかならない。


「そんなんじゃねぇよ!」

「じゃ、フラれたとか?!」


不意に月読が頭に浮んだ。
別に好意があるとかそういうものじゃない。まるで別れたかのようにパタリと姿を見せなくなったからだ。
なんだか、フラれたような気分である。
博樹には時々驚かされる。なかなか鋭いところをついている時がある。


「・・・かもな」

これ以上会話をかわしても限がないので嘘でも認めておくことにする。
といっても、博樹がしつこい時はいつもこうしている。


「なるほどな~。うんうん。よくあるよくある。」

首を大きく縦に振って肯いている。
納得してくれたならいいが、いちいちリアクションが大きい奴でもある。

「か・・・・や」

「ん?博樹呼んだか?」

「いや、呼んでないぜ?」

「かずや」

「呼んだか?」

「呼んでないって。」


「おかしいな・・・」

「和弥!!!!」


ボカ!!!

鈍い音と共に後頭部に痛みが走った。
1回味わったことのある痛みだ。



「一回呼んだら気がつけ!!!」


「月読!!!」

月読だった。しばらく顔を見せないと思ったら、いきなり挨拶代わりに一発殴りやがった。
しかし、いつもの月読とは違う・・・・。

「和弥、この娘・・・彼女か?しかし、驚いたな~、こんな娘うちの学校にいたか?」

「・・・・ああ!!!」


そうだ、この間まで着ていた制服ではなく、うちの高校の制服を着ている。
それに気がつき、咄嗟に月読の腕を掴んで物陰へと連れて行った。

「おい!何でうちの高校の制服着てんだよ?!」

「あ、そうそう。名前なんだが、何かいいのをつけてくれないか?」

「はぁ?!名前ってなんだよ!」

「いや、お前の学校に入ることにしたんだ。何かと一緒のほうが協力も出来るだろうし、以前も高校に通っていたぞ。大衆が多く集まるところは情報収集にもってこいだからな。」


や、やられた。
そう言えば、前に学校に行ったほうがいいか?といっていた。
そして、調べたのだろう僕の学校を・・・・。


「はぁ・・・まったく。相変わらず勝手だな・・・。」

「それよりも、名前だ。前の学校で月読って名乗ったら変ってるって言われたからもう一つ名前を持つことにした。」

そんなことをいわれても、すぐに名前は浮んでこない。
子供が生まれたばかりの親の気持ちが分る。
以前から決めていたならまだしも、たかが数分で・・・・。

「和弥~朝からいちゃいちゃか~遅れるぞ?」


「ほら、あいつもああ言っている。早くしろ。遅刻するぞ。」

「わ、分ったよ!!・・・・か、香里!香里でどうだ!」


「香里・・・香里かいいな。ありがとう。」


香里

思わず口から出てしまった名前は、初恋の娘の名前だったりする。
なんでかは分らないが、出てしまったものは仕方がない。
しかし、初恋の娘の名前なんては到底いえるわけがないが・・・。


「じゃ、学校でな!」

そういうと、月読・・・改め香里は先に走っていってしまった。相変わらずちゃっかりしているが・・・。編入手続きとかはどうしたのだろうか・・・。名無しでしたのか・・・?できるのか?


そのあと、博樹に月読のことを色々聞かれた。
彼女?どういう仲??などしつこく聞いてきた。
さすがに、それを認めることも出来ずに、転校してきた従姉妹ということにして収めてしまった。
すっかり、ホラ吹き野郎襲名だ。










月読のせいで遅刻ギリギリだったのは言うまでもない。
危うく正門を締められる直前だった。
今のご時世、学校に不審者が入ってくる事件などが多いため登校時間を過ぎると門を完全に締め切られてしまう。

救済措置として、事務室のある東門から入ることが出来るが遅刻をごまかすことが出来ない。
高校生にもなると、遅刻とか欠席とか色々響いてくるため、たかが数分の遅刻で評価が下がるのは痛い。



「あちぃー、和弥がいちゃいちゃしてるからだぞ~」


「ち、ちげーよ!従姉妹だっての」


「和弥君がいちゃいちゃ?」


教室でクールダウンしていると会話に割り込んできたのは、真由。海山真由(みやままゆ)。
博樹と同じく、中学時代からの友人だ。
結構可愛くて、勉強も出来て、おしとやかで、モテル女性の条件を持っている。
だけど、そういう出来る女性に限って彼氏はいない。近寄りがたいというか、高嶺の花というか。
手が届かないと思ってしまうのだろう。
正直、もったいない。


「そうそう。いちゃいちゃ。」

「え?ほんとに?」

「ち、違うって!!従姉妹、従姉妹!!」

必死に、否定を繰り返しているとHRの時間を知らせるチャイムがなった。
勢いよく教室の前の扉を開けて、担任の木村が入ってきた。
元柔道部の県選抜選手らしくガタイがいい。
逆らったら、一本背負いでも喰らいそうな威圧感を持っている。
教台の定位置につくと、まだ着席していない生徒を席に座るように促して、挨拶をして話し始めた。


「おはよう。えぇ、皆さんに新しいクラスメイトを紹介しよう。・・・君!入ってきなさい。」


新しいクラスメイト?
まさか、と思ったがその通りだった。

月読だ。
このとき、最後の砦が崩れた音がした・・・。
同じ学校でも、学年もクラスも違うと思っていたのに同じとは・・・。
これで、平和な空間はなくなってしまった。


「おはようございます!今日から、この学校にお世話になる、三崎香里です!」

「あ・・・」

香里の姿を見て、3人はハモった。


「え~と、席だが三崎の左隣だ」

何から説明したらいいのだろうか。
従姉妹と嘘をついたのだが、月読は自ら三崎と名乗っていた。
『俺の従姉妹ということにしてくれ』とは言ってはいない。
つまり、月読が自分で三崎香里に成りすましたと言うわけだ。
多分、こういうのにはなれているのだろう。


それより、悪いこと?と言うものは続くもので
よりにもよって、隣の席になってしまった。

この前、左隣の堺君が親の仕事の関係で転校してから空いていた席。
窓際の一番後ろの机で、『聖地』と呼ばれる場所であった。
前には、幾人もの壁があり、寝ていてもちょっとやそっとじゃ気がつかれない。
それに、サボっていてもやはり気がつかれにくい。
まさに、聖地。

そこに、月読が来てしまった。
聖地は一転、俺にしては監視小屋である・・・。


「おはよ!和弥」

「あ、あぁ・・・。」








早い・・・・。
もう、お昼だ。
脇に月読がいると思うと、変に緊張してしまい、いつもの5倍は授業に集中してしまった。
おかげで、今日習った範囲はテスト勉強いらずで済みそうだ。


「おい、購買行こうぜ」

「あぁ・・・」

博樹がいつものように、パンを買いに行くため声をかけてきた。

「何、死にそうな声出してんだよ」


本当に、死にそうだ・・・。
緊張と、普段の5倍の集中力で体力の限界だ。

「まぁ、今日はお前の大好きなラスクがある日だぜ~!さっさと買いに行かないとなくなっちまうぜ!」


足が重い僕を、博樹は引っ張るように連れ出した。

その頃、月読は真由に誘われ教室を出て行った。
それにしても、本当に月読は人の輪に入るのが上手いと思う。
すっかり、俺の従姉妹を演じて、真由とも既に仲良くなった様子。
素性が分らない以上あまりいえないが、きっとそういう才能ってものがあるのだろう。



購買についた。既に、1年生から3年生でごった返していた。
確かに、僕は博樹が言ったように購買のラスクが大好きだ。
ラスクにも色々種類があるが、学校で売られているラスクは、砂糖がまぶしてあって甘くて美味しいヤツだ。
コンガリと焼きあがったカリカリの生地に、甘すぎず、丁度いいくらいの砂糖がふられていて、なんとも言えないほど美味しい。



何とか買えた。
ラスク1袋に、クリームパン1個、キャラメルパン1個。
博樹も買い終えると、いつもの場所。屋上へと向かった。
いつもの場所と言ったが、春と秋の始しか使わない。
さすがに、真夏の日差しや真冬の寒さを敵に回す馬鹿はいない。
それに、春と秋には屋上から絶景が見られる。
校舎の西側に、虎尾山という山がある。
その山には、江戸時代に城があったそうで、何百本と言う桜が植えてあり、春には満開の桜を見ることが出来る。
秋には、虎尾山に連なる山々の紅葉が素晴らしい。
中には、絶景スポットと聞きつけて写真家達がやってくる。
そして、学校の許可を取っては屋上で撮影をしている。


ま、正直屋上に来る生徒の大半はそんなものに興味がない。
ぽかぽかと心地よい陽の光が目的だからである。
昼食を取ったあと、屋上でゴロンと仰向けに寝るととても気持ちがいい。

いつもは傍観者の僕も、さすがに今日は傍観者を辞めて、思いっきり大の字になって寝転がった。
数分のしないうちに眠りに落ちた。



あっという間に、一日が終わった。
さすがに、昼休みに睡眠をとらなかったら死んでいたかもしれない。
いや、死んでいたかもしれないとは大げさかもしれないが、知恵熱でも出して倒れそうな勢いだった。
体育でもあったら、途中で本当に死んでいたかもしれないけど。


「ひぃ~・・・終わっだぁ~・・・」

僕は、机に倒れ込んだ。
帰るのもつらい・・・。


「お~い和弥~ゲーセンよって・・・」

「和弥、屋上に来て」


博樹の声をさえぎって、香里が話しかけてきた。
邪魔された、博樹はニヤッと笑って素直に引いて帰った。


「なんだよ~、月・・じゃなかった、香里・・・。」


「話があるのよ。屋上に来て。」


「分った分った。先行っててくれ。」



屋上に呼び出されるなら、告白のほうがいいのだが、呼んだのは月読。
何やら、また面倒なことになりそうだ。










屋上に着くと、神々しく輝く月読がいた。
綺麗な黒髪が、夕日の光を浴びて輝いていた。
出会ったあの日の夜と重なった。
そう、あの日から理解不能な世界への道へ反れてしまった。


「おまたせ。」


「遅いわね。」


何やら、やけに真剣な表情の月読。
遅れたことが勘にでもさわったのだろうか?
いや、それ以外の何かがありそうだ。


「まぁ、いいわ。大事なことだから、さっさと話すわ。」


「だ、大事なこと?」



「この世界の存亡をかけたことよ。」


存亡?つまりは、滅ぶか・滅ばないか、残るか・残らないか。
そういうことだ。


「そ、存亡ってどういうことだよ!!」


「あの男、天照が世界を飲み込もうとしているの」



先日現れた、赤髪の男・天照。
月読と同じ力を使えると思われる男。


「な、あいつ一人で世界を滅ぼせるのかよ?!」


「正確には、あいつらね。」


「あ、あいつら?」


「天照には、協力者がいるわ。確認できているだけで、5人。」


天照の他にも、5人もいる。
それは、絶望以外の何物でもない。
天照並が、他に5人いるということは、単純に僕の命が5つあっても足りない。


「でも、どうして世界が滅ぶの?」

「天照は、この町の人たちを御餞(ミケ)にしようとしているの」


「みけ?」


「つまりは、生贄よ!」


天照は、天神市の全人口を生贄にしようとしている。
天神市は、人口約11万人。決して、少ない数ではない。
11万人を、全員生贄にしようというのか・・・。


「生贄って・・!何のために?!」


「魂玉を満たすためよ。魂玉とは、魂・玉と書くんだけど、その名のとおり、魂を集めて力に変えるのよ。そして、それがこの町に眠っているの。」


「つまりは、天神市の全人口を生贄に、魂玉を魂で満たし、それを使って世界を滅ぼすってこと・・・?」


「そう・・・あいつを止めないと・・・世界は終わるの。」





『世界は終わる』

それは、あまりにも突然過ぎて、重すぎてすぐに理解が出来なかった。
せいぜい、世界が滅ぶのは核戦争とか宇宙人の襲来とかそういうものだと思ったのに、予想すら出来なかった事態。
関係ないじゃ済まない現実。

たった数人が世界をその手に握ろうとしていた。

無力な僕は、その場で立ち尽くした。




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