元気力UP!

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2025年06月04日
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カテゴリ: 吾輩は猫である





「それで面白い趣向があるから是非いっしょに来いとおっしゃるので」と客は落ちついて云う
「何ですか、その西洋料理へ行って午飯《ひるめし》を食うのについて趣向があるというのですか」と主人は茶を続《つ》ぎ足して客の前へ押しやる
「さあ、その趣向というのが、その時は私にも分らなかったんですが、いずれあの方《かた》の事ですから、何か面白い種があるのだろうと思いまして……」「いっしょに行きましたか、なるほど」「ところが驚いたのです」主人はそれ見たかと云わぬばかりに、膝《ひざ》の上に乗った吾輩の頭をぽかと叩《たた》く
少し痛い
「また馬鹿な茶番見たような事なんでしょう
あの男はあれが癖でね」と急にアンドレア・デル・サルト事件を思い出す
「へへー
君何か変ったものを食おうじゃないかとおっしゃるので」「何を食いました」「まず献立《こんだて》を見ながらいろいろ料理についての御話しがありました」「誂《あつ》らえない前にですか」「ええ」「それから」「それから首を捻《ひね》ってボイの方を御覧になって、どうも変ったものもないようだなとおっしゃるとボイは負けぬ気で鴨《かも》のロースか小牛のチャップなどは如何《いかが》ですと云うと、先生は、そんな月並《つきなみ》を食いにわざわざここまで来やしないとおっしゃるんで、ボイは月並という意味が分らんものですから妙な顔をして黙っていましたよ」「そうでしょう」「それから私の方を御向きになって、君|仏蘭西《フランス》や英吉利《イギリス》へ行くと随分|天明調《てんめいちょう》や万葉調《まんようちょう》が食えるんだが、日本じゃどこへ行ったって版で圧《お》したようで、どうも西洋料理へ這入《はい》る気がしないと云うような大気
ありがとうございます。以下にご依頼の3点を順にご提示いたします。

要約


主人の家に訪れた客が、迷亭氏に誘われて西洋料理店に出かけた時の出来事を語り始める。吾輩は、主人の膝に座りながらその会話を聞いている。客によれば、迷亭は「面白い趣向がある」と言って自信満々で昼食に誘ってきたという。
料理店では、迷亭が献立を見ながら「つまらない」と評論し、仏英の料理事情を語る。しかし実際には迷亭は洋行経験などなく、口先だけの空論に過ぎない。話の中で「トチメンボー」という聞き慣れない料理名を真面目に注文し、客もそれに同調してしまう。
ボーイが「メンチボーの間違いでは」と確認すると、迷亭は真顔で「トチメンボーだ」と訂正。客も信じ込んで一緒になって「トチメンボー」と念を押す。
しばらくしてボーイが戻り「トチメンボーはあいにくございません」と断り、「メンチボーならございます」と返答。迷亭は残念がりながらも引き下がり、わざわざ店に来た甲斐がないと嘆く。
吾輩は膝の上でこの話を聞きながら、内心で笑いをこらえ、迷亭らしい茶番に呆れつつも、その場の穏やかで滑稽な空気を味わっていた。

解説


この一編は、明治時代の知識人や文化人の「西洋かぶれ」と、それに対する皮肉を風刺的に描いている。迷亭という人物は、博識ぶるが実際は無知で、洋行経験もないのに「見てきたような」評論をする典型的な偽インテリ像である。
当時の日本では、西洋文化への憧れが強く、料理やファッション、思想に至るまで“西洋的”であることがステータスの一つとされていた。しかし、漱石はそうした風潮を冷静に観察し、むしろ滑稽であることを猫の視点から描き出している。
「トチメンボー」という存在しない料理名に真面目な顔でこだわる迷亭と、それに乗せられる客。これは、人間の「見栄」や「知ったかぶり」がどれほど滑稽かを象徴している。また、ボーイの「今日はあいにく…」という対応もユーモアが効いており、真偽を問わず相手に調子を合わせる日本的処世術も浮き彫りにされる。
この章は、漱石が描く明治社会の知的虚飾を皮肉とともに笑い飛ばす秀逸な一幕であり、吾輩という外部視点が、その可笑しさをより一層引き立てている。

夏目 漱石
慶応3年1月5日(新暦2月9日)江戸牛込馬場下横町に生まれる
本名は夏目金之助
帝国大学文科大学(東京大学文学部)を卒業後、東京高等師範学校、松山中学、第五高等学校などの教師生活を経て、1900年イギリスに留学する
帰国後、第一高等学校で教鞭をとりながら、1905年処女作「吾輩は猫である」を発表
1906年「坊っちゃん」「草枕」を発表
1907年教職を辞し、朝日新聞社に入社
そして「虞美人草」「三四郎」などを発表するが、胃病に苦しむようになる
1916年12月9日、「明暗」の連載途中に胃潰瘍で永眠
享年50歳であった






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Last updated  2025年06月04日 20時19分49秒
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