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ss一覧 短編01 短編02 短編03 ――――― 玄関の扉を開けて家に入る。すると――それまでリビングの方で聞こえていた夫と義父と義母の話し声や笑い声で賑やかだった家の中が、一瞬にしてシンと静まり返る。 ――静寂……いや、これは沈黙だ。 それから、壁ごしに伝わる視線。 私は無言のまま、足元だけを見つめて2階の自室へと向かう。 いつからそうなってしまったのかは、覚えていない。たぶん、結婚してから数年は経ってからだと思う。優しかった夫は私と話すことをやめ、笑顔を消した。義父や義母は、まるで私の存在などはじめからいなかったかのように――私を無視した。 どうしてそうなってしまったのかは、わからない。どれほど考えても、どれほど努力してみても、解決はできそうになかった。 私は愛知県の動物愛護センターに勤めていた。犬や猫や鳥が好きで、それならばと選んだ職場であった。 動物愛護センター――とても楽しい仕事ではあるが、同時に――とても悲しい仕事でもあった。狂犬病などの感染症、保護期間の満期……様々な理由で殺処分される動物たちを施設内のガス室へと送る時、私は……彼らの声を聞いていた。もちろん、彼らが人間の言葉を喋るわけではない。けれど、彼らの声は繊細で……儚げで……悲しくて……切なくて……苦しげで、今すぐにでも心臓が止まってしまうような……それでいて、どこか熱っぽく……何だか人間の感情表現に近い声だった。 熱……感情……? そう。自らの死の運命を、彼らは知っていたのだと思う。 死の運命を知った時、彼らは何を思うのか? 悲しい? 辛い? もちろんそれらはあるのだろう……。 いや……私は彼らではないのだから、彼らの心中など永遠にわからない。 そう――。もしも、仮に、万が一……それが私であったならば……―― ――……思うことは、ひとつだけなのかもしれない……。 証明のできない考えを頭の中で巡らせながら――私は階段を上っている。階段の先にある窓の隙間から射す、満月の月光が、足元を照らし――私は何気なく顔を上げた。「あっ」 そこには、見知らぬ若い女が立っている。あまりに突然のことであったためか、瞬間、私の脳はパニックに陥った。一段下がり、「……どちら様ですか?」と言った、その時――。 その時、若い女は、両手で持ち上げた何かを……黒い、金属の塊を……私の頭上に……私の脳天に……叩き下ろした。「えっ?」 悲鳴を叫ぶ前に意識が飛びかけ、バランスを崩し、そして……長い髪をなびかせながら、私は――転落した。直後、意識を失う前、階段上にいる若い女と目が合った。闇に隠れて顔の細部までは見えないものの……女は、口角をぐにゃりと曲げ、目尻を歪め、頬を吊り上げた。そう――女は笑っていたのだ……。 瞬間、私は自分がなぜこんなメに遭うのかを理解した。そして――『死の運命』を知った者が何を思うのかを、再び、強く、理解した。 思いを口に出そうとした直前に――首が背骨か、もしくは両方の骨が折れる音が聞こえ……直後に――私は闇の中に消えた。 私の命はそこでブツリと切れている。だけど、私は知っている。私をこんなメに遭わせたのは誰か、何の目的だったのかも……知っている。いや、そんなことはどうでもいい。たとえわからなかったとしても、別に、いい。どうでもいいのだ……。 大切なことはひとつだけ。私が殺処分した動物たちの声の意味……それさえ理解できたのならば……構わない。それだけで充分、私は私の人生に満足した……。――――― 真っ暗な闇の中を歩く。歩く。歩き続ける……。 そこは海溝を思わせる深い闇の中だった。私は歩き続ける。感覚はない。脚が勝手に動いているのだ。嗅覚もない、聴覚もない。触覚もない、けれど、歩いているという思いだけはわかる。 一瞬、チラッと、光の粒が顔の前を横切っていくのが見える。 私は直感した。まるではじめから、生まれた時から知っていたかのように――直感した。 そうか……これが、この光の粒が『生』の世界……。 今、自分が歩いている世界こそ『死』の世界で、『死』の世界に漂うほんの小さな光の粒が『生』の世界なのだ……。体の大きな自分では『生』の世界に入れない。指一本入れることすらできない……。そう。自分は死んだのだ……。だから私は歩いた……歩いた……歩き続けた……いつか、自分が入れる『生の光』を探して……。 そして……奇跡は起きた。「……アンタに朗報がある……まぁ、たいしたコトはシテやれないがな……」 それは――『生』と『死』の境目の、とても小さな隙間に住む者たちの声……。彼らは『生』を終えた時、『生』にこびりついた残滓のような者たちだった。残滓は『生』と『死』の両方の世界を行き来でき、『生』の世界では『幽霊』だとか、『幻』だとか、『錯覚』だとか、『夢』だとか、『気のせい』だとか呼ばれていた。 ――その残滓が、彼女に奇跡をもたらせた。「……これまでの汚れ仕事……ご苦労様。アンタみたいな立派な人間……そうはいないよ」 私は返答しない。したくてもできない。残滓が私に言う。「……10秒間やる。その間、アンタの声と姿を『生』に戻してやる……」 ――それだけ? 残滓は私の心の声を聞いたかのように、言う。嬉しそうに、言う。「贅沢言うな。アンタ、事故に偽装されて殺されたんだろ? 家族ぐるみでさ。そいつら何とかしたいとか思うだろ? なら警察にでも化けて出て、真相話して来いよ。案外、再捜査してくれるかも、だぞ?」 ――……ああ、そうか。私、殺されたんだっけ……。でも別に、恨みとか、無いし……。 残滓は饒舌だった。誰かと話したくて仕方ない、という印象だった。「はあ? ならアンタ、好きなヤツは? 別れの挨拶でもしたいとは思わんか?」 ――……別れの挨拶?「そうだ。よくあるだろ? 『余命一ヶ月の花嫁』とか『おくりびと』とか『黄泉がえり』とか……そういうコトしたいとか思うだろ?」 ――……挨拶がしたい? そう、なのかもしれない。私は……忘れかけていたのだ。彼らの言葉を……彼らの言葉の 意味を……。 そうだ。私は思った。彼らの言葉の意味を、『生』の誰かに教え、伝えねばならないのだ。 それが彼らの希望であり、宿願なのだ。もしかすると私は、その使命を彼らに託された? 目の前を飛び回る光の粒に向けて、私は腕を伸ばした。筋肉ではなく、脳内でイメージ するように――残滓は嬉しそう笑うと、小さな声で囁いた。 「姿と声を10秒間だ。その間は何にも触れられねえし、触られねえ。わかったか?」 ――……うん。 「まずは場所を指定して、化けて出る時間を指定しろ……時間指定はサービスだぞ?」 ――……ありがとう。 顔の筋肉が勝手に動く。 たぶん、私は今――微笑んでいるのだろうと思う……。 ――――― 犬たちはこの女の姿を見ても脅えはしない。またいつものようにマズい飯を持って来てくれたのだろうとしか考えてはいないのだろう。……手慣れたもんだ。残滓は安心して、様子を見る。 「……あなたたちの思いを、少しでも誰かに伝える方法を思いついたの」 犬たちは真剣に耳を傾け、聞いていた。自分たちの思いが少しでも……少しでも報われること……らしい。正直よくわからんが……何かあるのか?「今日のお昼ごはんは少しだけ残しておいて。そして夕方のチャイムが鳴ったら、残したご飯を咥えて、あの――少しだけ開けてある、鉄格子の窓の近くに放り捨ててみて……それで、あなたたちの思いは少しだけ報われる……。ずっとあなたたちの面倒を見ていたかったけど……ごめんね……ごめんね……」 ――10秒が経過した。「…………?」『死』の道を再び歩きはじめる女の後ろ姿を、残滓は口を開けて呆然と見送った。殺処分前の犬や猫なんてどうでもいい。そう思う、そう思っただけなのに……。 そう。残滓はその身に――強烈な悪寒と、凄まじい戦慄を感じていた。――――― 夕方5時を知らせるチャイム鳴り、動物愛護センターにも流れ聞こえた。 犬たちは残した餌を咥え、窓へ放り捨てた。 窓辺で佇んでいたオナガが、飛んできた餌を口バシでキャッチして飛び立った。 餌を咥えて飛ぶオナガを狙い、カラスが滑空した。 滑空するカラスを見て、野良猫が住宅街で脚を止めた。 住宅街を走っていたスクーターに乗る少年が、野良猫の出現に驚いて転倒した。 転倒したスクーターと少年からいくつもの荷物が散乱し、道路上にバラ撒かれた。 砕けたサイドミラーを拾うサラリーマン。 タブレット菓子を拾う子供。 財布や小銭や鍵を拾う少女。 ノートや文房具を拾うOL。 転倒した少年を助け起こす、中年男性やカップルの男子高生や女子高生……。 ほんの些細なことで、ほんの少しだけ運命がズレた人々は、それぞれの道へ、それぞれが歩きはじめた……。どこかの、何かの、得体の知れぬ思いを背に乗せられて……。――――― 数日後――。 女が最後――檻に囚われた犬猫たちに伝えた挨拶がどうしても気になって、残滓は再び『生』の世界へ意識を飛ばした。そして――信じられないものを見てしまった。 あの女の夫は……緑区の大高緑地の森の中で見つけた。瞬間、残滓は声を失って後ずさりした。「うっ……こりゃあ、ひでぇな」 雑草の上に全裸で転がる――それは死体だった。「ありえない……そんな……」 恐怖に打ち震えながら夫の姿を観察する。地面に横たわった夫の遺体には目玉がなく、苦痛に顔を歪めている。刃物か何かで腹を裂かれた痕があり、胃や腸がだらしなく雑草の上に垂れている。全身に肉が削がれたようなキズがあり、肉片と血でそこら中がおぞましく汚れていた。 ……生きたまま、動物に食われた? そう。間違いない。あの女の夫は死んでいる。それも生きたまま、文字通りの生贄にされたのだ……。 あの女の義父と義母は、港区の廃棄された商業施設で見つけた。その、あまりにも強烈で、あまりにも残酷な死に方に――残滓はガタガタと震えて息を飲んだ。 商業施設に残された下水の浄化槽の中……汚物と汚水の溜まるマンホールの中に、ふたりは閉じ込められ……400キロある蓋をこじ開けようと必死にもがき、のたうち回り、何日も何日も苦しみ続け、やがて――力尽き、絶命していたのだ! あの女を殺した実行犯は……正確には夫の不倫相手である(あの女は最後まで知らなかったのかもしれないが)彼女には、さらに残酷な仕打ちが用意されていた……。 彼女を見つけたのは昭和区の第二赤十字病院の病室、もちろん患者として、である。彼女のカルテをのぞき見て、残滓はたじろいだ。あまりにも冷酷で、あまりにも理不尽な仕打ちに、残滓はただ、ただ――たじろいだ。 彼女の病名は『原因不明』、症状は『重症心身障害者』……介助なしでは動くことも、食べることも、触れることも、喋ることも、聞くこともできぬ重度の障害……脳機能は著しく低下し、肺炎気管支炎も併発。死ぬまで、24時間、生涯――苦痛と絶望を強いられる運命……。 ありえない……あの女、まさかそこまで計算して、あの『挨拶』を? 嘘だろ……?いやいやいや、あの女は遺族や犯人に恨みは無い、と言っていた……。なのに? どうして?どうやって? ……理解できねえ。いや……理解なんてしたくねえ……。 翌日、残滓は『生』の光を完全に抜け、『死』の道を歩きはじめた。 その事実を誰かに伝えることはしなかったし、伝える相手もいなかった。 残滓が何を思い、何の結論に至ったのかは、誰にもわからない……。――――― 右投右打の元プロ野球選手が、死後、左利きであった可能性が高いと医師に診断された事例がある。アフリカで生まれた黒人男性が、死後、白人男性と同じ遺伝子色素を有していたとされる研究レポートが残っている。もしかすると、死後に開花する才能や能力は存在するのかもしれない。 けれど、もはや、それを確かめようとする者はいなかった。ただ――『死』の世界には、予知のような力を使い、たったの10秒で4人を抹殺できる能力を開花させた者がいるのかもしれないし――『生』の世界には、残虐非道な方法で人間を殺したいと願う動物たちがいるのかもしれない……。 確かなことがひとつだけ、ある。 そこにはただ、闇の中で『生の光』を探す女と、ペットのように横を歩く小さな小さな残滓の影が、ゆっくりと歩き続けているだけだった……。 ――――― 了 本日のオススメ!!! 酸欠少女さユりさん……。 つい先日新曲配信されたので試聴……うん。相変わらずのイカれた娘っぷりですね。 スタイルも顔もseesの好みではないし、言動のイカれ具合も好きではない、が、何ででしょうかねえ……彼女の歌と歌詞にはどこかパワーを感じますね……。歌詞もまるっきり意味わからんのですが……。オススメです。 上から新曲の『月と花束』『ちよこれいと』『ふうせん』の3曲。 一応、『酸欠少女さユり』、載せさせていただきます……。 お疲れサマです。seesです。 単発ショート復帰1作目、いかがでしたかね。今回は完全オリジナルですが、中身は『ファイナルディスティネーション』のオマージュ的な品になってしまったス。 これは去年の12月頃に下書きを済ませていたので、あんまり苦もなく作れました。制作時間は7時間くらい……かにゃ。内容はまずまずですが、固有名詞のチョイスに苦労したwwかなり自己満足作。ちとファンタジーすぎたかも、理解不能でしたらゴメン。 トータル70点くらいかな(笑) やっぱ楽だなーー、ショートはww seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつでも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『死か、自腹か、』 sees 「なんてっ、たって~アーイドール🎵不倫は文化よ~🎵フッフ~🎵」 とある日。今は亡き?アイドルの名曲を口ずさみながら、seesは港区から 中区市街地へ続く湾岸一般道を14号と共に爆走していた……。 sees 「……ん? なんか臭いな……」 微かなコゲ臭……そして――。 sees 「――……!」 ガタガタと揺れる車体、ブレるハンドル、焦るsees。一瞬にしてテンパイ。 sees 「ホッピング(エンジン不具合による揺れ)かよっ! おいっ、14号っ、 大丈夫かっ?」 14号 「……タ、タスケテ、タスケテ、seesサン……」 sees 「城之内クーンっ! ……じゃなかった。バネット14号ぉぉぉぉっ!!!」 14号 「……ボク眠クナッテキタヨ……ボク20マンキロハシッタカラ、ツカレタヨ」 sees 「……死ぬな……死ぬな……死ぬんじゃあないっ! パトラッーシュッ!」 ……… ……… ……… その後、港区のセブンに車を駐車し、相棒のエンジンルームを開ける。 sees 「あのコゲ臭……やはり点火プラグか、焼き付いてやがる……いつエンジンが 停止してもおかしくはない……か……コゲくせえし……」 さて……どうするか……。seesは選択を迫られていた。 1――本社まで自力で戻り、車両整備のブタにブン投げ。ただし、この状態で 本社までたどり着けるかは不明。走行中に緊急停止した場合はレッカー移動& 土下座&死。 2――自力で回復。ただし自腹の可能性が高い。申請すればワンチャン金 くれるかもだが……seesのボーナス査定のためには……自己犠牲は必至。 どうする? どうする? どうする? ――― ――― エネオス 「――プラグ2本と工賃込みで、9000円になりまぁーすっ」 sees 「……カードで」 2本かよっ! クソがっ……畜生……畜生……しかし……まぁ……。 14号 「ヮリぃ~ス、seesハoィセ冫★ぉかけ〃τ〃また動けるヨウ~★ぉぉきに」 ……なぜギャル語? 若返った、てことか? ――まぁ、いいか。まぁ、良しとするか。 ケガしたまんまじゃ、走るのも辛ぇからな……。 了🚙=333 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.02.16
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 注意! こちらは最終話後編です。K-1はこちらへ。――――― 11月1日――。 名古屋市熱田区にある屋内霊園《熱田の杜 最勝殿》の参拝ブースに10数名の男女が立ち並んでいる。祭壇の前に立った澤社長は、『丸山佳奈』の名が刻まれたプレートと小さな壺とを交互に見つめ、両手の指を組んだ拳を額に押し当てながら、恰幅の良い体を震わせて泣き続けていた。 それはその場に居合わせた者全員の心を震わせてしまうほどに、辛く切ない悲鳴だった。こぼれ落ちそうな涙を瞳に溜めたまま、岩渕はゆっくりと視線を逸らした。そして、悲痛な声を上げ続けている社長の声をじっと聞いた。「……こんなに悔しいことはない。……こんなに悲しいことはない」 涙を流し続ける社長の背中を見つめ、岩渕は思った。《ユウリクリニック》の残骸からは女性の遺体がひとり発見された。遺体は顔も性別も特徴もすべて消えたバラバラの状態であったが、司法解剖と遺族からの証言により――遺体は永里ユウリ本人と確認された。 それは取り返しのつかないことだった。爆弾事件の真相も、《D》との関係性、岩渕や京子との関係性も……すべてが闇に葬り去られることを意味していた。 悪いのは佐々木亮介の狂気か、永里ユウリの悪意なのか……それとも、彼らを取り巻く社会の歪みが原因なのか……何もわからないままだった。永里の関係者は全員が『関係ない。あると言うなら証拠を見せろ』とうそぶき、遺族は弁護団を結成して検察や国と徹底的に争う構えを見せている。直近まで行動を共にしていたであろう警備部長の安藤は、《ユウリクリニック》爆発の直後、『もう会うことはない』と言い残し、何も知らされていない部下たちを置き捨てたまま――行方知れずとなった。安藤浩司、という名も偽名である可能性が高かった。証拠物件の宝庫だったはずの《ユウリクリニック》は院長室や私室を中心に吹き飛ばされてしまい、パソコンやサーバーのデータ・金庫の中身も予め処分や整理がされていた。問題の爆発物に関する製造元や入手ルートも依然として不明のままだ。《D》の証言も、駐車場での騒動も、事件や爆弾そのものとはあまり関係なく、警察の捜査は難航していた……。「……ねえ、岩渕……さん」 誰にも聞こえないくらいの小さな声で、京子は岩渕に囁いた。「……どうした?」 軽く息を吐き、隣に立つ京子の顔をのぞき込む。ずっと泣いていたのだろうか、京子は目元をハンカチで軽く拭うと、赤く腫れた目を開いて顔を向けた。「……気分でも悪いのか?」 岩渕が聞くと、京子はゆっくりと首を左右に振り、手を上げ、岩渕の頬を静かに撫でた。「……ただ、呼びたかっただけ……」 頬を撫でたまま京子が言う。 そう。 伏見宮家と永里家の関係性について、《D》と岩渕は何も語らなかった。それは澤社長や宮内庁や国からの命令や指示なのではなく、《D》全員の総意の結果であり、今回の事件と伏見宮京子は無関係だという証明に繋げるためだった。 幸い、宮内庁側に事件の関係者はなく、《ユウリクリニック》は岩渕の治療のため利用していただけ……という結論に落ち着いた。永里家との交友についても、伏見宮家は事業のパートナー以上の関係を否定した。伏見宮家の当主はいかなる団体の質問にも答えておらず、マスコミの追及もそこで終わった……。「……その子が、私らの命を救ってくれたんですね……」 参拝ブースの端に立つ男がそう言ったその瞬間、社長の体がビクッと跳ねた。そして、喪服の裾をひるがえし、「大村知事っ! 」と叫んで振り向いた。「大村知事……それに、河村市長まで……」 岩渕を含め、その場に居合わせた《D》全員が驚き――声の主を見つめる。愛知県知事、大村秀章。名古屋市長河村たかし。間違いなかった。「お久しぶりです……」 岩渕のすぐ前まで来た大村知事が言い、岩渕と京子は無言で頭を下げた。 報道はされていないが、あの日――グローバルゲートの視察に非公式で訪れていた知事と市長は、そのまま――…… 社長と祭壇へ向けて――……深々とお辞儀をした。 そして――……「ありがとう……ありがとう……ありがとう……」と、何度も、何度も、何度も……頭を下げた。 そうだ。丸山佳奈は守ったのだ。このふたりだけじゃなく、俺のこと、京子のこと、《D》のことも、あらゆる不幸から俺たちを守り抜いた。自分の幸福を投げ捨てて、他人の不幸から俺たちを守り抜いた……。 そうだ。丸山佳奈は不幸を奪い、幸福を授けたのだ……あの、佐々木亮介の理論を、根本から打ち砕いてやったのだ。そのことに、岩渕は気がついた。 知事と市長が《D》へ感謝の言葉を述べている。 何の脈絡もなく、ふと、母のことを思い出した。そして、思った。 あの日、俺が捨てられた日、確かにあった俺の不幸は――今もずっと、俺の中で蠢いているのだろうか? 本当に? 京子や《D》と出会えた運命は……つまりは……母がくれた最後の幸運であることのようにも思えた……。 もう……恨みも憎しみも……消えたよ……母さん……。 はじめて思うよ……母さん……俺を生んでくれて……ありがとう……。 八重歯を強く噛み締めながら、岩渕はそっと微笑んだ。 泣いていなかったはずなのに、その瞬間、笑みの中で涙が溢れた……。 ――――― 京子は岩渕の腕にすがりつき、彼の流す涙を見つめていた。 祭壇の前では社長と知事と市長が揃って感謝の言葉を繰り返し、周りでは《D》の社員たち全員が泣いている。 京子も泣いていた。佳奈さんのことを考えると悲しくて、悔しくて、涙が溢れて泣いてしまう。その気持ちに嘘はない。……嘘? 京子は思った。 岩渕のことは心から愛しているし、《D》のことも大好きだし、これからもずっと応援したいと思っている。その気持ちに嘘はない。 けれど――……何だろう? それだけじゃない……何か、こう……お腹の底から湧き上がる……この気持ちは……。こんな感情は……知らない。岩渕や《D》に対してのものじゃあない、ことはわかる。……このドロドロとした……黒くて、汚らわしくて、決して気分の良いものではない……この気持ちは……たぶん……アイツ……だ。「わっちらげぇんぜいにほんはぁー、あんたらでーの応援するだぎゃぁーで、こんからもながよぐしてくれんと助かるやでもー。ほんまになーありがとーう」 河村市長がわけのわからない名古屋弁を言い、《D》の社員たちが「市長、何言ってるんだかわからないです」と唱和して笑っていた。岩渕も笑い、私も笑った。 結果、市長も知事も《D》を認めてくれた。これからも《D》は発展し、名古屋の経済に少しずつ影響を及ぼす企業へと成長するのだろう。……それはいい。そんなことは、別にいいし、構わない。岩渕の幸せこそが、私の幸せでもあるのだから……。 大丈夫。いずれは父や祖父にも……必ず《D》と岩渕さんのことを認めてもらうから……。 「……ごめんなさい、ちょっと電話してきますね」 岩渕の耳元へそう呟いてから、京子はひとり外へ出た。周囲に誰もいないことを確認し、ハンドバックからiPhoneを取り出し、電源を入れた。 予定していた時間通りに、着信音が鳴り響く。 京子はiPhoneを耳に押し当て……そしてまた、考えた。 私は、許さないと言った。 私は……私だけは、決して、あなたのような、卑怯者を許さない。 そう言ったはずだ……。 私がさっき、佳奈さんの墓前で何を考えていたか、あなた、わかる? 殺す。 あなただけは、絶対に、殺す。 そう。 私は、未だ――激昂しているのだ……。 そして……。 ――――― 本日のオススメ!!! ↓岸田教団&THE明星ロケッツ様。 ↑インディーズ時代から認知はしておりましたが、発表されたばかりの新曲が↓我がブログの《D》の世界観と合うと感じましたので、急遽推すことに決定しました。 メンバーはリーダーの岸田氏とVoのichigo氏、Gtのはやぴ~氏、Drのみっちゃんで構成される4人の音楽グループ。熟練かつ安定した演奏にパワフルなichigo氏の歌声が絶妙……歌詞は厨二病的かつ明快、楽曲毎のイメージに沿っていて非常にわかりやすい。 アニメとのタイアップが非常に多いが、顧客の要望に合った楽曲を毎回完璧に提供できる技量はさすが。(まぁ、レーベルがアニメ推しの会社でもあるのだろうケド……) いや~……カッコイイっすわ(*‘∀‘)!! ↑から『ストレイ』『LIVE MY LIFE』『天鏡のアルデラミン』 岸田教団&THE明星ロケッツのオリジナル楽曲含む必聴のアルバム……。 当然seesは全部持ってマスッ!! ……が、同人関係のものは未入手……欲しいなぁ。 お疲れサマです。seesです。 最終話ということもあり、更新にやたら時間かけてすいません……<(_ _)> 何せ2部構成、というのは『愛されし者』以来、久しぶりのことでして……。 後書きも少し長めw 今回のお話は反省点も多々あり、読者様方には理解不能の部分もかなりあったと思われます。特に佐々木亮介のくだりと爆死の前後……ここらへんは割愛した部分も多く、到底seesも納得していた作りではなかったのですが……丸山佳奈氏のキャラクターをゴリ推しすることで誤魔化しました(笑)。 サービス回と手抜き回、ガチ制作回と毎回力の入れ方が違ったのも失礼しました。そこはseesのリアル仕事が忙しくて……下書きなしの書き殴り、寝ながら作る、アニメ見ながらセリフをそのままパクって書く、などの卑劣な行為の結果……変に違和感の残る文章が蓄積……大変失礼致しました。 お話全体の総括ですが……今回の主人公は京子様、ですね。岩渕氏はヘタれ役、澤社長は盛り上げ役、佳奈さんには生贄役、その他は適当な配分で構成。舞台は名古屋市。都市伝説と時事ニュースを混ぜ込んだ内容。季節感はゼロ。……うん。中途半端なデキやな~。 次回からはショートショートに回帰し、しばらくしたらまた《D》の短編ですね。今度はスケールの小さな……例えば殺人事件、温泉旅館、地下街、幽霊騒動、宝石盗難、なんかの小規模テーマで登場人物少なめの設定、かにゃ? まずは…単発ショートで原点回帰っ! 脳と腕が鈍ってなきゃオモロイの作れそう……。 楽天プロフィール終了、しちゃいましたねww フォロワーの方々、短い間ではございましたが、訪問・応援・コメント、誠にありがとうございました。あまり訪問行けなくてすいません……ホント、操作性不具合というか、機能性無知というか……出不精というか……とにかくすいません。読み捨てゴメンです……(´;ω;`)ウゥゥ(わりと記事を見に行ってはいますので……) seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでのフォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、辛辣なコメントも大大大歓迎で~す(seesも大人ですので、「ならお前作ってみろ」などの返しはしませんよww)。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『優しくない街……』 次長 「……アッチとコッチ回って書類受け取って来い。ついでに東京インテリア 行ってアレやコレや受け取って来い。車は……アトラスでエエやろ?」 sees 「ブ、ラジャーです(^_-)-☆✌」 ヒヒヒ……いや~久しぶりのアトラスは萌えるねぇ……。やはりこの デカいハンドル。高い車高(2t)。広い運転席。そして……―― sees 「どけやーーーっ、アトラス様のお通りだーーいっ!!! そこのCRZッ、 てめーら踏み潰すどーっ!! ちょこまかすなやっ!! 無駄無駄無駄無駄ぁっ!!」 あああ……。 この重量感と視界の広さ、体感あるスピードと重力……やっぱりトラックは エエなーー💓恍惚💓 sees 「……あ゛ーー気持ち゛いい゛ーーー……愚民どもを上から見下ろすこの 感覚、たまらんぜよ……」 気分は世紀末覇王かニュータイプか……そんな気分で市街を爆走するseesで あったが、そう――そんなイイ事がずっと続くワケはない……。 ……… ……… ……… ――!! ヴ……事業所付近に、停めるスペースが無い、だと? じ……じまったぁ゛…今日は日曜か……。駐車できねぇ……。 そう。目的地付近の駐車場にはコインパーキングしかなく(普段は何にも 考えず利用するだけ)、完全に想定外。 sees 「……しゃーない。とりあえず近くのコンビニで(もちろん許可をもらって)。 徒歩で行くか……」 ……… ……… ……… 良し。書類も受け取ったし、あとは東京インテリアか、あそこは駐車場も あるし問題ないやろ……。 そう。 その安心感からか、私はカン違いしていた……いや、少し違う。ボケていた。 よーし着いたぞ。さぁーーーて……。 ( ゚Д゚)!! キキィィーーーッ!!! seesは急ブレーキを踏む。 ブブーッ!! 後続から響く激しいクラクションの嵐……。 そう。癖だ。クセで、やらかしかけたのだ……。 seesがいつもイオンへ買い物に行く時のクセが出てしまい、何と……屋上 駐車場にトラックを放り込もうとする――大事故が起こってもおかしくない、 重罪クラスの過失をヤラかしかけたのだ……。 頭上に見える『制限2.2メートル』の看板……。 sees 「……夢だ。これは……夢だ……」 seesは涙ぐみながらハザードを灯らせ、窓から謝罪し、鳴り響くクラク ションを聞きながら―― ――後続の、怒りの形相でseesを睨むオッサンの車を見た……。 ……偶然にも、それは――CRZ。車社会の名古屋での別名『走るゴキブリ』。 いい歳したオッサンがスポーツタイプ乗るなよ……。 seesはそう思い……そう思いながら、涙した(´;ω;`)ウゥゥ畜生……。 😢了😿こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング ――――― また……退屈になっちゃったな……。 真昼の太平洋。大海原の中心に、女はいた。 女は小型クルーズ船であるサンロイヤル・エンプレスのメインサロンでミルクティーを啜り、名駅高島屋のミッシェル・ブランのマカロンを齧りながら、思った。そして、先月に起きた名古屋での爆弾事件のことを、まるで他人事のように思い返した。 ……楽しかった。本当に、心が躍るように楽しかった。 佐々木亮介の精神を完全に支配していく過程……彼が本当に私からのプレゼントを受け取り、躊躇わず使ってくれるのか、という不安……人々がパニックに陥り、警察が必死に犯人捜しをする様子……丸山佳奈の死と死の動画、それをアイツらに送りつけた時の高揚感……慈しみ合う、ロマンチックなふたりのやりとり……戦う者たちの闘志、怒り、苦痛、流される鮮血……。そして、最後まで『永里ユウリ』を慕ってくれた――たったひとり残した――身代わりのために用意しただけの――あの美しい受付嬢の体を縛り、口と鼻に濡れたタオルを押し当てた時の感触……そう……はじめての、殺人。自分が直接殺した人間の、あまりにあっけなく死んだあの瞬間は……。 ……楽しかった。本当に、楽しい日々だった。 そうだ。これが私のすべてなのだ。……脳内を巡る光景を眺めながら私は思う。 私は退屈が嫌いなのだ……退屈するくらいなら、誰かを殺してでも解消する……。 人生は長い。けれど……無意味で無価値な時間を過ごしたくはない。有り余るカネを使い倒し、世の中の刺激を味わい尽くさねば……私の生きる意味なんてない。……おそらくはこれからも、私は私の退屈を満たすため、誰かの幸福を奪い続けるのだろう。その理論を教えてくれた亮介クンには、本当に感謝している。 そうだ。奪えばいいのだ。『退屈』が私の不幸であるならば、他人の幸福で穴を埋めよう。……それだけだ。それだけのことなんだ。……しかも、私はそれを簡単に実行し、叶えることができる。それが、嬉しい――。 次はどこで何をしよう? 計画を考える時もまた、女は――永里ユウリは興奮した。 メインサロンのソファのすぐ脇に立っている若い男の存在に気づいたのは、ユウリが3枚目のマカロンを口に入れて間もなくのことだった。男はポケットからスタンガンを取り出して――……。 ――――― 僕のすぐ目の前、クルーザー後部のアフトデッキの上には、両手両足をロープで縛られた永里ユウリが俯せに横たわっている。デッキの階段にはユウリの体から剥ぎ取られた貴重品が散乱している。カルティエの指輪と腕時計。エルメスのブレスレット。ハリー・ウィンストンのネックレス。ブルガリのダイヤのピアス。 性的な目的からではないので、衣服は着たままだ。ただ、これから僕のすることを、さらに効果的にするためだ。それだけだ。 当然だが、殺してはいない。スタンガンの衝撃で一時的なマヒ状態にしただけだ。ついさっき、クルーザーの操縦者らしき女性の部下にも使用したが、問題はなかった。 さて……この女の運命は、いかに? ……まぁ、予想はついてるんだけどね。僕は微笑む。「……お前、どうやってこの船に入り込んだ? ……目的は何? ……私を殺す気か?」 デッキの上に体を起こした女は、歯を食いしばり、怒りと憎しみの入り交じった凄まじい形相で僕を睨みつけた。 敵意を剥き出しにしたユウリの発言に僕は驚く。調査を続けて何日か経つが、彼女のこういう言動は見たことがなかった……これが素、なのかな? 別にどうでもいいが。 僕は微笑みながら、言う。「まず、ひとつ目は――エンジンルームに隠れてました。ふたつ目は――泥棒と依頼です。みっつ目は――あなた次第です」「こんなことをして……お前っ、ただじゃあ済まさないからなっ!」 ユウリは猛烈な怒りに頬を紅潮させて、全身をブルブルと震わせている。おそらくは、その脳内で僕は惨殺されているのだろう。「……私の家を甘く見るなよ。貴様と、貴様の家族も皆殺しにしてやる……」 僕はデッキの階段に腰を下ろし、足元に転がるユウリの近くまで脚を伸ばすと――瞬間、ユウリがワニのように体をよじらせ、僕の足首を噛み千切ろうとする。僕は慌てて脚を曲げて引っ込める。「まぁまぁ……そう怒らないでくださいよ」 こんな女と話していてもつまらないだけだ。……どうせこの船も、この船に積まれた多額の現金も、美術品も、貴金属も、全部僕のものになるのだから……さっさと仕事を済ませよう。そう思った。もちろん、この女の生死のことなど興味はない。「……ねえ」 ユウリが言う。「ねぇ……あなた」 ユウリの口調が急に変わり、思わず彼女の顔を見る。「あのね……今だったら……許してあげる。あなた……どうせ《D》の連中に頼まれたか、関係者でしょう? 今だったら……何もなかったことにしてあげる……」 デッキに顔を擦りつけた女は、潤んだ瞳で僕を見つめる。今にも号泣しそうな顔を歪めて媚びるかのように言う。「……お金ならあげる……私の体も好きにしていいから……お願い……命だけは助けて……何でもする……何でもするから、お願い……お願いよ……」「……非常に興味深い提案ですが……残念ながら、その決定権は僕にはありません。それは誰か? あなたも察しがついてるんじゃないですか?」 そう言って、僕は優しく微笑む。「ちょうど時間ですね……さて、皇女殿下の判決は?天国か? 地獄か? ――まぁ、どちらも似たようなものですがね……」 ここで、ユウリの口調が再びヒステリックに変わる。「クソ女がっ! ……生まれの幸福だけで生きてきたような、クソアマッ! 不良品とくっつけて人生台無しにしてやろうと思ったのにっ……畜生っ! 畜生っ!」 ……不敬な発言ですね、ホント。 男は――川澄奈央人はまた微笑む。 そう。川澄は依頼されたのだ。依頼内容は、逃走した永里ユウリの身柄の確保。報酬はユウリの個人資産の一部。断る理由はない。あるわけがない。 そして……川澄はクスクスと笑いながら――…………――スマートフォンのパネルを操作した。―――――「こちらも大変な損害です。ケガ人も大勢いますし、少額で構いませんので、その……寄付をお願いできませんか? 澤社長にも恩を売ってみてはいかがです?」 川澄は困ったかのように笑うと、やがて了承した。本当は伏見宮家で《D》の方々の治療費は負担しても良いのだが、いかんせん、父や祖父が納得する理由が思いつかない。 今現在――川澄が電話の向こう側で何を考えているのか? 何を実行しているのか?京子は決して質問はしない。問うたところで特に思うことなど何もない。 思うことがあるとすれば……これからのことを思うことがあるとすればひとつだけ、ひとつだけ、心に決めていたことがあった。 ……守り抜いてみせる。 ……これから先、何があっても、何が起きても、私が《D》を守ってみせる。 それだけだ。そのシンプルな答えだけが、今の京子のすべてだった。『……ところで――この人……どうします? 生かして警察にでも連れて行きますか?』 川澄がわざとらしく聞いた。 永里ユウリはまだ生きている。本当は、会って直接言いたいこともあるのだけど……。もういいや。もう、いい。どうせユウリが死ぬ瞬間に立ち会えないのでは、面白くない。「……もう、結構です。そのまま――……」 今すぐ、あの女の息の根を止めてもらうことにする。「……海にでも捨ててください」 ……守り抜いてみせる。 何をしても、何を失っても……何が何でも……。 岩渕も、《D》も、私のものだ……誰かに奪われてなるものか……。 彼を愛しているのだ……この気持ちは……私だけのものなのだ……。 了
2018.02.07
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