株式会社SEES.ii

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2017.11.30
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―――――

 10月19日。午前11時――。
 タクシーに乗っていた伏見宮京子は、国道1号線に並ぶ街の景色をぼんやりと眺めた。
 ついさっきまで空想の世界を見ていた。グローバルゲートで買い物をする岩渕と京子を
エスコートする丸山佳奈と、3人で一緒に笑いあっている空想だった。
 ……まただ。……また、私には、何もできなかった。
 心の中で京子は呟いた。


 腕の時計を見る。午前11時30分。約束の時間と場所に相手の気配はない。強い風が
服をはためかせ、細い体を揺らしている。
伝馬町のコメダ珈琲店で11時半
 約束の言葉を思い出し、店の前でしばらく躊躇してから、京子は思い切って扉を開けた。
禁煙席に座り、ミルクコーヒーを注文する。おしぼりで手を拭きながら深呼吸をする。
「……これはこれは、お美しい皇女殿下――……待ちました?」
 頭上から若い男の声がした。忘れたくとも忘れられない、聞き覚えのある声だ。
「……いいえ」
「いや~……本当にお美しい。皇室に入っておられれば、佳子様や眞子様と同格か、それ
以上の《金銭的価値》がありますねえ……」
「……川澄……奈央人……あなたという人は……」
 そう。かつて《D》の宝を奪い、岩渕を拉致監禁し、あまつさえ殺害すら予告した男――
川澄奈央人を、京子は睨みつけ……禁煙席に近いカウンターの女性客にチラりと視線を送る。

手はずになっているからだ。

 グローバルゲートでの爆発と、犯人である佐々木亮介の自爆から数日――京子は何度も
電話に手を伸ばし、《D》の様子を伺おうとした。大丈夫なのか? 丸山さんの葬儀は?
そう聞こうとした。だがそのたびに、電話の相手は『後ほどお電話させていただきます』
の一点張りだった。岩渕は県外を飛び回っているらしく、簡単なメールでのやりとりしか

何を考えているのかわからない、悪魔のような男からの連絡がきた。

「……さて、では――情報交換といきますか。お姫様……」
 川澄がニヤニヤとしながら腕を組み、注文したカフェオレを一口すすり、「《D》に
届いた犯人からの動画の件は、ご存知ですか?」と言ってまたニヤニヤして微笑んだ。

 川澄が私に接触してきた理由はわからない……わかりたくもない。……けれど、確かな
ことがひとつだけはっきりしている。
 事件は、まだ、何も、解決してはいないのだ……。
 静かな恐怖に京子は身を震わせた。
 泣きそうになるのを堪え、川澄を睨み続け――そして、男の話に確実に登場するであろう
岩渕の安否を思った。何か、ドス黒い手が彼と《D》に迫っていることを思った。もちろん、
これはただの女の直感、ただそれだけのことなのかもしれない……でも……でも……。
 ――それでも、彼と《D》の助けになりたかった。この男と会って話をする理由は、それ
だけで充分だった。

―――――

 同日。同時刻――。

『……それでは亡くなった方々の中で、これまでに身元が判明した方のお名前を申し上げ
ます。緑区の愛知大学生、ヤマダ・コウイチさん。ヤマダさんの後輩でツジモト・サキエ
さん。中区の無職、ムラヤマ・ショウジさん。ショウジさんの妻でムラヤマ・ヨウコさん。
瑞穂区のアルバイト、コデラ・ユキさん。瑞穂区の会社員、サトウ・シホさん。瑞穂区の
会社員のスズキ・マサルさん。マサルさんの長男で幼稚園児のアリスちゃん………』

 岩渕は名阪自動車道をひた走るフィアット500のハンドルを握りながら、ラジオから
流れるもうこの世にはいない人々の名の羅列を聞き入っていた。
 いつもなら昼食をどこで食べようかと思案している時間だった。だが、食欲はまったく
なかった。激しいストレスから込み上げるイライラと吐き気を抑えながら、岩渕はもう
1時間近くハンドルを握り締めていた。

『……天白区の高校生、ミウラ・ホノカさん。ミウラさんは名古屋市立大学病院に搬送され
ましたが、昨日の午前1時すぎに病院で死亡が確認されました。緑区の中学生、マエダ・
ケンタロウさん。マエダさんはつい先程、NTT西日本東海病院で息を引き取られました。
あっ……たった今、名城病院に収容されていた公務員、ミズタニ・ケイコさんが亡くなられた
との情報が入りました……。
 ……日進市の無職、イトウ・ヨウジさん。豊明市の大学生、クニエダ・エマさん。中川区の
会社員、ヤマモト・ジュンイチさん。ヤマモトさんの妻のヨシエさん。長女のエミリちゃん。
次女のアカネちゃん……』

 岩渕は奥歯を噛み締め、ギリギリと音を鳴らした。そのまま短い呼吸を繰り返し、それ
からラジオのチャンネルを変え、片手で助手席に置いた自身のスマートフォンを起動させた。

 ――そこには、何もなかった。《D》からの業務連絡も、京子からのメールも、誰からも、
何からも、連絡や電話の記録はなかった。最後に《D》と連絡を取ったのは、昨日の深夜、
総務課長の宮間から電話があり、『早く帰って来いっ!』と怒鳴り散らされただけの内容
だった。名駅前支店で何かトラブルが発生したであろうことは容易に想像できた。だが、
その理由も告げずに電話を切られた意味がわからなった。社長からの連絡はない……こちら
からする気にもなれないが、な……。
 ……ふざけやがって。 散々ドサ回りさせといて……『早く帰って来い?』 バカにして
やがるのか? そうだ。そもそも丸山が死んだのはすべて、社長のせいだ。いや、佐々木
亮介とかいう無職のガキと、澤という強欲な男のせいだった。
 ……そうだ。《D》社長、澤光太郎のせいだ。こんな企業、働いてられるか……。俺や
京子も、利用されるだけ利用されて……いずれはゴミのようにに捨てられるのがオチだ。
たいした理由もなくグローバルゲート支店を開店させ、丸山の忠誠心を利用して見殺しに
した……。あの場には、俺も社長も役員が全員揃っていたのにも、かかわらず、だ……。
 そうなのだ。澤という男には、これまで数え切れないほどの暴力を受けてきた。殴られ、
蹴られ、罵倒され、給料のピンハネをされ続けてきた。その上、未だ終わらないドサ回り
営業を岩渕に押しつけ、自分は市長や県知事や国から感謝状の贈呈? ふざけんなよ……
ナメやがって……アホらしい……畜生が……もう、うんざりだ……冗談じゃねえ……こんな
腐れ企業、さっさと抜けちまうか……。

 岩渕は心の中で呟いた……呟き続けた。
 ……わかってるよ。
 ……最低なんだろ?  ああ、そうだ。最低なんだよ……俺も、社長も、《D》も……
人間も会社も、そんなに簡単に変わることなんてできやしない……腐った企業は、腐った
まま潰れるだけ……だったら、俺は、京子だけでも……いっそ……。
 岩渕の中に言いようのない怒りとイラ立ちが込み上げ、フィアットのアクセルを深く踏み
込む、その時――助手席に置いたスマートフォンが着信の音を鳴らした。
 反射的に岩渕の体が弛緩した。
 反射。そう条件反射。スマートフォンの液晶に表示された名前をのぞき見た時、岩渕の
全身の筋肉が弛緩をはじめた。安堵した、と言ってもよかった。そう。『それ』は、ちょうど
岩渕が話したいと思っていた相手であったのだから。
 カーナビのBluetoothを起動させ、受話器の形をしたパネルに触れる。その時、カーナビの
液晶に『それ』の名が浮かび、そして、『それ』は、口を開いた。

『……もしもし、岩渕さん? 永里です。永里ユウリです』
 電話の向こうで、『それ』はおかしそうに笑っていた……。 

―――――

 予約はしていなかったが、今池駅前にあるルートインには簡単にチェックインすること
ができた。
 壁際にシングルベッドがあるだけの窮屈な部屋に入ると、川澄奈央人はカーテンも開けず
ベッドに腰を下ろし、煙草のヤニで黄ばんだ壁を見つめた。
 薄汚れたカーテンの向こうから街の喧騒が絶えず耳に届く。時折、人の話し声や廊下を
歩く靴の音がする。

「……ふう……これから、どう動こうかな?」
 僕は天才だ。当然、事件の首謀者については察しがついている(もちろん、その情報を
京子や他の誰かに、しかもタダでくれてやる気は絶対にない)。だが、僕にとって最も
重要なことは真犯人の暴露でも、逮捕でもない……。
 ……対決する? ……決着は? ……どう奪う? ……どこへ向かう?
 川澄は事件の首謀者から大金を奪い、悔しそうにハンカチを噛むそいつの姿を思い浮かべ
ようとした。最後にオイシイところをかっさらう自分の姿と、悔しそうにボロボロと涙を
流すそいつの姿を――……。 
 ……だが――できなかった。脳裏に残る伏見宮京子の言葉が、強く、川澄の心を蝕むかの
ようにこびりつき、どうしても、打ち消すことができなかった。

『……止めなければなりません。争いあったり……奪いあったり……傷つけあったり……
こんなことをしても、何の意味もないんだ……早く、早く止めないと……また……』

《D》に届いた動画を見終わった後で、京子が涙ぐみながら呟いた言葉の記憶は、川澄の
心を乱すのに充分だった。争うこと、奪うこと、傷つけること……それは川澄の母の信条
であり、おそらく、《天使》のオーナーであった父の信条であり、川澄奈央人の信条でも
あった。川澄はずっとそうして生きてきた。今になって、その生き方を変えるつもりは……。
 ありえない……僕は、僕の生き方は……そんな簡単には変わらない……変えられない……
そのハズだ……。

 川澄はそれ以上考えるのをやめた。今池駅で買った中日ドラゴンズの弁当を開け、「いた
だきます」と言って飯を口の中に放り込んだ。しばらく仮眠したあとで、また情報収集の
ために夜の名古屋市を奔走する予定だった。

「……確証がないことばかりだからね……そんなに有益な情報交換はできなかったけど……
まぁ、少なくとも、誤った選択肢だけは選ばないで欲しいな……道を誤れば、すべてを失う
かもしれないよ? 《D》も、岩渕さんも、何もかも……ね……」
 シミで汚れた壁を見つめたまま、誰にともなく川澄奈央人は呟いた。



「……ところで、いつ来るんですかい? その《暴徒》ってヤツらは?」
 元自衛隊員の警備部長が私に問い、私は微笑む。
 歓迎する準備は万端に整えた。警察や行政は関係ない。
 そう。ここに来るのだ。激昂に我を忘れた暴徒たちの集団が、私を殺そうとやって来る。
 伏見の姫君と――姫の愛する《D》と岩渕。私が壊したいもののすべて――。
 さぁ、壊れろ。壊れて晒せ――私の持っていないモノを持つ資格が、彼女にあるのか、否か。
証明してもらいましょうか……そして――

 ――何もかも、すべてを、失ってもらいますよ……京子様……。

―――――

 『激昂するD!』 hに続きます。










  本日のオススメ!!!
  ↓久しぶりのgumi様。HoneyWorksさんからの楽曲です。


↑ちなみにsees的な優先順を決めるとすればですね……gumi様>イアさん>リンちゃん>青い人、
の順ですね……。
 改めてgumi様の魅力を考えるとですね、やはり歌詞を選ばない自由度と切ない演出が効く
中低音サウンドですかね……例えばイアさんは超高音特化であり、リンちゃんは機械的な色が
強く、青い人は中途半端感が強すぎる(*´σー`)エヘヘ。

 ハニワ、ことHoneyWorksさんは日本のクリエイターユニット。イラスト・漫画・アニメ・
ボカロ曲の作詞作曲・元々はニコ主。メンバー3名……作る歌詞もメロディも女性的ですが、
gumi様の特徴を上手く使っているな、というイメージ。一度は必聴ですっ!!

 ところで……皆様、中島愛(めぐみ)さんという声優さんはご存知でしょうか? そう――
gumi様のベースとなった方ですが……彼女、どこいった??


            ↑カラオケ用楽曲。みんな好き、らしい。

            ↑Flowerとのコラボ。好き。

            ↑ザ・青春。聞くだけで恥ずかしい、神曲。

 HoneyWorksの楽曲。う~ん……女性にはオススメだけど、男性には……💦






 お疲れ様です。seesです。
 はい。風邪引きましたね……。いや~…最近人の出入りが激しい場所へよく行ったもん
だから誰かに変なモンもらいましたね……💦💦
 更新も遅れてすみませんm(__)m……話の構成は完成していても書き出しがどうしても
時間かかっちゃって……。眠いし。体だるいし。病院行ってたし。

『激昂~』は残り3~4話程度の予定です。その後は楽天ブログ様の動向を見守りつつ、
細々とやっていけたらね~と思います。まぁ、こんな駄文に付き合っていただけるのは、
ほんの一握りの方々だけでしょうしね……。

 今話は短め。各キャラクターの動向に一貫性を持たせるのは苦労します。あまりムダに
字数を使いたくないですし……まぁ、前回のロスがひどかったからな私も……反省ス。
 ちなみに、今回は川澄回ですね。……次回は対決前夜?にしようかしら……。
 また更新遅れたらすみません。こりゃもう誰も覚えてくれないスね💦

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて🎵





 好評?のオマケショート 『……駐車場にて』

 sees   「先輩、アノ鳥の名前、何てーすか?」
 先輩(女)「……ありゃ、オナガよ」
 sees   「へーかわいいっすね。スズメみたいっすね。最近よく見ますよね?」
 先輩(女)「……オナガは雑食だからね。ここいら(名古屋)は木や森も多いし、そこらに
       巣、作ってるのかも……」
 オナガ1 「ピュピューイ……ピューイ。チューイ、チューイ(なんやこのアホ面は)」
 sees   「うわっ、鳴いたよっ! カワイイっすね」
 先輩(女)「……しかも2羽いるみたいだし……つがい、かしら?」
 オナガ2 「ギギギー……ギーギー(なんか食わせろ)」
 sees   「? 汚ねー声だな……オスか? なかなか人懐っこい鳥なんすね💦」
 先輩(女)「sees君、何かエサ的なモノ持ってないの?」
 sees   「う~ん……そうやっ!」

       seesは鞄から今日のオヤツにと用意しておいた『しるこサンド』を取り出し、
       袋を開け、1枚取り出し――「ルールルルル……ルールルル……」と言いながら、
       オナガの前に放り捨てた。

 オナガ1 「ピュ?  ピュ?  ……! (。・ω・。)ノ♡! (えーもん持っとるやないか)」
       オナガがしるこサンドにクチバシをつけようとした――
       その瞬間――オナガ2が喚き散らして飛び立ったっ!
 オナガ2 「……ギッ!! ギギーっ! (ギギギ、くやしいのう、くやしいのう)」
       つられるかのようにオナガ1も飛び立ち、辺りにいた鳥たちは消えてしまった。
 sees   「やっぱ、警戒心が強いのか―――――」
       seesが溜め息を漏らそうとした次の瞬間――――
       ヤツが――
       すぐ目の前に――
       そう。ヤツが、すぐ目の前に――黒い悪魔が、しかも巨大で丸々太った鳥獣が、
       ふたりの眼前に降り立ったのだっ!!
       あまりの衝撃に、あまりの恐怖に、seesと先輩(女)は絶叫した――。

 sees   「うわっーーーーっ! このカラス、どらでっかっ!!!」
 先輩(女)「……いやや、いやぁぁーーーーーーっ!!」

       そして、黒い悪魔は、しるこサンドをくわえて飛び立ち、背後の電線へと
       飛び乗った……。
        あー……ヒッチコック監督の『鳥』じゃねーけど……カラス怖わ💦

                                🐣🐦了🐔🐤


こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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Last updated  2017.11.30 23:14:49
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Re:SEESの短編集 03 『激昂するD!』 g(11/30)  
どもども!日本語がよくわからなくなるコメントを書き残すことに定評のあるるみ子さんです!!
川澄さんの悪役っぽく振舞ってる姿を拝めて、ウキウキしている次第でございます(^p^)
天才といえど、なにげに京子ちゃんの言葉に心動かされそうになってて可愛いです!
いや、可愛いって表現変ですかね(;^ω^)
川澄さんの天才力なら確かに、犯人突き止めたりとかお金を根こそぎ奪えそうな気がしますが、悪魔のような存在だとしてもやっぱり人間の心はまだあるんだなって思いました。
川澄さんがどのように動くのか、楽しみであります!
そして、ラストに登場した人って、京子ちゃんに恨みでもある人なんですかね・・・。
この人が、今回の事件の首謀者になるんですかね・・・?
全てを失って欲しいと思っている人物・・・誰だろう・・・。
ともかく、モヤモヤが残らぬ解決に至る事を願ってます(`・ω・´)
ではでは! (2017.11.30 21:20:28)

応援ですRe:SEESの短編集 03 『激昂するD!』 g(11/30)  
LAME39  さん
★こんばんは。
 コメント有り難うございました。嬉しいです。
 ♪また来ますね~❤~おやすみなさい。
 2*p*🌠❤✿゚₀*♦♫❤.Bye (2017.12.02 23:46:52)

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