チワワのひとり言

チワワのひとり言

魔法



翌日、学校の帰りに履歴書を持ってT男に紹介されたお店に行ってみた。
その床屋は、駅のロータリーからちょっと路地の奥に入った袋小路の一番奥にぽつんとある椅子3台の小さなお店です。
ドアを開け入っていくと、山城新吾にそっくりのマスターと色白の男性と色黒の女性がいて 
「こんにちは。T男君の紹介で・・」と言うとマスターが、たばこをくゆらせながら 「ああ、バイトねっ」と言いながら待合の椅子に促して私の顔をジロッと見た。
「かみゆいです。始めまして 履歴書です」と言い差し出すと受け取ったのに見ないのです。
そして「床屋の学校行ってるの?日暮里?」と聞かれ「はい、そうです」と言うと「自分で自分を器用だと思う?」と聞かれ何も深く考えずに「はい!」と答えるとマスターは、立ち上がりながら「明日から学校が終わったらすぐ来て」
私も立ち上がり「はい、よろしくお願いします」と頭をさげ店を出た。
店を出て、自分で自分を器用とは言わないかぁー・・?時給の話しなかったなぁー・・?
店の名前だけしか知らない状態でバイトが決まりました。

学校では、実技の授業も始まり、風船を膨らまして泡をつけてレザー(西洋剃刀)で風船を割らないように泡をそぎ落とす 何度もやっているうちに風船が削れて泡に風船の色が混ざって風船は、みるみる薄くなり最後は、割れてしまいます。
ほとんどの生徒は、レザーも鋏もその他の保温カップ、髭ブラシ、丸櫛、砥ぎ石、手バリカン、刈り布、剃り布などはじめてお目にかかるものばかりです。
実技は、順番などを確認しながら生徒同士でペアで行います。
何故か私は、男子と組む事が多く今思うと勉強になりました。剃りやすい女子の顔ばかり剃っていると濃い髭の人を剃るのが怖いのですが、初めから髭ズラに慣れたのでよかったのです。
毎日毎日、顔を剃られ、頭を洗われて顔は、ガサガサ、髪は、パサパサでした。
学科より実技の授業の方が、好きで段々と床屋って面白いなぁ・・などと楽しく授業を受けていました。

学校が終わりバイト先の床屋には、5時から5時半の間に入るように自分で決めて そうすれば喫茶店に行き20分ぐらいはみんなと過せるのでそんな段取りでバイトに向かいました。
店に入って行くとお客さんがいっぱいでした。
色黒の女性にエプロンを渡され、あれこれやる事を指示され 閉店時間の7時までの2時間は、あっという間でした。
お客さんが帰り掃除を終えるとマスターが、お疲れー!といい皆がお疲れ様でした!と言うのです。
それからお店の従業員2名と自己紹介しあってマスターから夕方は忙しいから学校が終わったら早めに入って欲しいこと、声は大きく、服装はだらしないのはダメ等々話があって時給は、380円と言われた。

学校は、日曜日がお休みでしたが、日曜日は、朝9時から7時まで床屋でバイト、月曜日は、バイトは休みでも朝から学校にという生活が続き まる1日お休みすることは無くなりました。
そんな生活も数ヶ月が過ぎたころK男が、松戸あたりにアパートを探すと言うので一緒に探し見つけたのが、築10年以上の共同便所で風呂なしという駅から歩いて15分ぐらいの薄暗い高台に立つアパートです。
バイトが終わる頃K男と待ち合わせ一杯呑みに行ったり、K男のアパートで手作りのつまみで一杯やったりしているうちにK男と私は、急接近ということになりました。
K男は、明るく、世話好きで誰に対しても公平で人の話をよく聞いてくれて優しくユーモアがあって観葉植物が好きで料理も器用に作れて今まで出合った事のないタイプでした。
改まって付き合いたいと言うのでもなく自分達も自然と回りも公認していたかんじでした。
K男は、人前でも私の髪をいじり直したり、顔を触ったり、ウィンクをしたり・・・昔なら触るんじゃあーねーよ、いじんなよ!と怒鳴り飛ばしていたはずが、K男の魔法にすっかりかかった私がいました。
魔法は、醒めるのでしょうか・・・・?   つづく


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