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家族・焼酎・ゴルフそれから・・・
小説【ケータイ】
小説「ケータイ」
私が会社の懇親会の後、よく一人でスナックに立ち寄ってから帰ることを知った妻と喧嘩になった。
妻にとっては私が一人スナックに行くことがとても嫌だという。「どうして家ではだめなの?」「そんなに家ではいやされないの?」
別にそんな訳ではない。
最近は少し習慣的に飲んだ後は決まって行きつけのスナックへ立ち寄っていた。
何が楽しいのか。
カラオケ?
お店の女性との会話?
どうもうまく答えることが出来ない。
人が沢山いるとカラオケも順番待ちが長く、
そこまでして歌う気もない。
お客さんが多ければお店の女性も、寡黙な私の所へはたまにウィスキーを足しにくる程度である。
私はただ同じお店に来た人たちを眺め、他人の歌うカラオケを聴き、歌詞本をめくり気が向いたらリクエストを注文する。
そろそろ帰るか、と思ったら毎回決まった金額を払い店を後にする。
何でスナックに行くのか。何でだろう。本当に・・・。
私がスナックに寄って帰ることを知ったきっかけは、私のケータイのメールをみたから。
ある日、妻と日用品を買いに車でホームセンターへ行ったときのことである。車から降りようとしたところ、「雨降りそうだから、私、サチに洗濯物取込んでおいてって電話してからいくわ。」と急に妻が言った。
私はドキッ!っとした。「マズイ!」
私はこのまま行ってしまったら、私の送ったある女性へのメールを妻が見てしまうかもという恐怖に怯え、車から降りることができなくなってしまった。
今思えばこの時サッと降りてればなんともないことであった。
「どうしたの?何んで降りないの?」
「あ・・。ちょっと・・。俺もサチがいるかどうか知りたいし・・。」モゾモゾ。
「それ知って如何すんの?」
「だから。エーっと・・」全身にべっとりと冷たい汗が噴出してきた。」
「あっ!」
「うわっ!」
女の感とは何ゆえに非常な命中率を備えているものなのか?
「これでしょう?」
妻が私の顔の1センチ手前にケータイを差し出した。
「何隠してんのよ!」「メール見るわよ!」
ひ~~(”悲”)
ケータイのメールを見られることを警戒している様子に気づいた妻が、執拗に迫ってきた。こちらも必死に拒んだがとうとうあきらめた。
「何よこれ!」「××ちゃんばっかりじゃないの。」「どういうこと。これ (\/)ヾ」
「・・・・。(¨;)」
その後はもう
「★?♪*×☆#@・・・・・・・。もう大嫌い。どっか行け!バカ!」
「バカ?ッ」
私が××ちゃんとメールするようになったのは、お店に行って話すとお金がかかる。メールはお金もかけずにいろいろ会話が出来る。そんなことを考えてすることもなかった通勤のバスの社内からメールしていた。
返事は無いことのほうが多かった。
だがメールが帰ってくると嬉しかった。
あの事件以来、妻とはとても気まずい雰囲気になった。
毎日のようにメールについて妻から責められる。
「今日のおかずとってもおいしいね。」
「フン。無理して食べてくれなくていいわよ。」「どうして今日はこんなに帰りが早いの?」
「無理してお家で食べなくても××ちゃんに作って食べさせてもらえば?」
「またその話かよ。」
「そうよ。その話よ。何が悪いのよ。」
「いい加減にしろよ。」
「女性とメールしてるのがどうなんだ。だいたいお前は変な方向に考えすぎなんだよ。」
「何言ってんのよ。メール送るってことは下心があるからよ。」「そうに決まってんじゃない。」
「わかんないの?」
「下心なんかあるわけないじゃん。」
「じゃあなぜメールすんのよ。」
「会って挨拶すんのと同じやん。」
「毎朝××ちゃんに挨拶しなきゃいけないわけ?」
「暇だからしてんだよ。」
「毎晩毎晩遅くまでパソコンに向かって寝てないのに。」「メールなんてせず寝ればいいでしょ。」
「そんなに大事なことメールしてんの?」
「そんな訳無いじゃん。」
・
・
・
妻の攻撃は、まるで地雷のようなものである。
こちらが慎重に話題を選んで会話をしていても、ちょっとした言葉から妻はメールの話題にしてしまう。
私がメールしていたことがよっぽど嫌だったようだ。
これまで小噴火を繰り返していた火山が地鳴りを上げてついに大噴火するときが来た。
「ただいま」
「おかえり」声の主は奥の部屋の次女である。
(ん。?)
キッチンに妻の気配がした。「ただいま。」
「・・・・。」
(やっぱり)
その日の夕食は正に嵐の前の静けさ。ほとんど会話はなかった。
次女が一足先に食事を終え、食器をかたずけ、またゲームだろう。自分の部屋に入ってしまった。
(やべ~。)
ビールも無くなり、ご飯を入れに行こうとしたところ。
「ちょっと。・・・・。どうして今日に限って自分でご飯を入れに行くのよ。」
(お~きた。きた。)
「お前に言っても入れてくれそうになかったから。」
「なんでそんなこと判るのよ。」
「じゃあ。入れてくれるか?」
「なんで私が入れなきゃいけないの。」
「ほうら見ろ。」
「当たり前じゃない。」
「私、もうあなたのために何をするのもいやになったわ。」
「・・・。」
「何であなたなんかのために私がご飯の用意しなきゃいけないの。」
「・・・。」
「私ってあなたの何なの。」「お手伝いさん?」「ご飯作ってりゃいいの。」「洗濯してたらいいの。」
「トイレ掃除して、お風呂洗って、茶碗洗ってたらいいの。」「ねえ、言ってよ。私はあなたにとって何なの。」
「奥さんじゃん。」
「違う。私はあなたの奥さんなんかじゃない。」
「あなたは私以外の人に好意を持った。」「この家よりもスナックにいた方が気が休まるのよ。」
(おい、おい)
「私はもうあなたのためには何もしない。朝早く起きて、ご飯の用意して。弁当作って。」
「バッカみたい。」
「感謝してるよ。」
「フン。バカにしてるの?」
「そんなことないよ。心からそう思っているよ。」
「じゃあなぜ女の人にメールするのよ。どうしてスナックに寄らずに真っ直ぐ家へ帰れないのよ。」
「だから、それは・・・。」
「もういい。出てって。」
(?)
「何で俺が出るの?」
「いいじゃない。私は行くとこないんだもの。」
「あなたは行くとこどこでもあるじゃない。」
「××ちゃん家へ行って、泊めてもらったら。」「行きたいんでしょ。」
「おい、怒るぞ。」
「どうぞ。どうぞ。」「怒ってください。」「殴っていいわよ。さあ、さあ、殴ってみなさいよ。」
「殴れるもん、あっ!」
☆バシ!☆
「やったわね。」
「いい加減にしろ!」
「あなたが悪いんじゃない。」「どうして私ばっかり言われなきゃいけないの」
「私、あなた以外の人好きになったりしないわ。」「あなたと、もし離婚してもあなた以外の人と再婚なんかしない。」
「でもあなたは違う。」「きっとすぐに好きな人が出来て、すぐに結婚してしまうわ。」
「私は、私にはあなたしかいないの。」
・
・
・
「ごめん。悪かった。」「お前がそこまで悩んでいたなんて。」
「もう、スナックには行かないよ。××ちゃんへのめーるもしない。」
「・・・・。」
「ありがとうそんなに俺のこと思っててくれて。」
「だって、私があなたを好きになって結婚したんだもの。」
「俺だって、お前に惚れて結婚したんだぜ。」
「うそよ。あなたは私じゃなくても誰でもよかったのよ。」
「違うよ。お前だったから結婚したんだよ。」
「もう、けんかやめよ。」
「うん。わかった。」
時を見計らったように次女がテレビを見にリビングへ姿を現した。
今日、ネットで頼んだ一冊の本が届いた。「日本の銘酒事典:講談社」。
最近、焼酎探しに凝っている。今は空前の「芋焼酎ブーム」なのだ。
近所の酒屋はコンビ二も含め全て廻ってみた。
出来れば「森伊蔵」、「魔王」、「村尾」の3M(スリーエム)に出会えると最高だが、
そんなことはまずありえない。出来れば「伊佐美」、「佐藤」を定価で売る店があったらいいな~。と
思いながら酒屋を見つけては店内をじっくり時間をかけて眺める。
この焼酎探しは、昔凝ってた山野草をや小鳥たちとの出会いを楽しむ山歩きに似た感覚がある。
興味のない人にとって雑草に混じり咲く野生ランなどはただの「草」なのである。足で踏んづけても、
草刈機で刈ってしまってもなんとも思わない。
ところが、草花の名を知るものにとっては、宝石にも変えがたい高貴で、可憐で、愛しい”山野草”
に映るのだ。
田舎の酒屋でもうホコリも払わなくなった棚の奥にひっそり置かれた、いや忘れられた「百年の孤独」など
見つけたりなどしたら、興奮しまくってしまうんじゃないか。そんなことを思いながら酒屋探訪を続けている。
先程の銘酒事典の中に「うまい酒が手に入る!全国酒販店ガイド」という記事があり全国で18軒の酒屋が紹介してあった。
その中の一店が松江にあり。直ぐに電話してみた。
「魔王ありますか」
「今は置いてません」
「伊佐美か村尾ありますか。」
「佐藤ありますか」
「佐藤なら注文していただければ約2ヶ月後にはお渡しできると思います。」
「じゃあ2本注文します。」
「申し訳ございません。当店は電話でのご注文は承っておりません。」
「店頭におこしのお客様のみの販売となります。」
「じゃあ、佐藤一升瓶いくらで売られてますか。」
「大変申し訳ございません。」「電話ではお答えできません。」
ピン!ときた。間違いなく安く売ってる。行きたいな。
「お~い。」妻を呼んだ。
「明日の日曜日、松江に行くぞ。」
「なに。急に。」
「佐藤が買える。」「恐らく定価だよ。」
「わざわざ松江まで?」
「そう。わざわざ松江まで。」
「私も行くの?」
「当たり前じゃん。ドライブだよ。ド・ラ・イ・ブ」
「もう。勝手に決めて。」
「行かないの?」
「行きたいんでしょ。」「ついてってあげるわ。」
「さすが俺の女房。」
妻とは本当に久しぶりのドライブだった。
中国縦貫道を三次で降り、54号線を走る。BGMは妻の好きな「松居慶子」。軽快なリズムが心地いい。
島根県境近くの道の駅で焼きたてのりんごパイを買った。りんご半分が入ったパイを「ハツ。ハツ。ヒェモオイヒイ。」
と言いながら妻と交互に食べる。
「コヒー空けとくよ。」
「ありがとう。」
「ガム食べる?」
「ハイ。あ~んして。」
「あ~ん。」
お目当ての酒屋は松江市の北部、市街地からは多少離れた住宅街にあった。
店内には予想通り、プレミア焼酎がずらりと並んでいた。
運良く佐藤の黒麹仕込み1本(1升)も購入でき、大満足で帰路についた。
午後2時をまわり、急にザーっと夕立が降り出した。
「すごい雨ね。」
「やっぱ山陰だね。」
「そうね。でもある意味気持ちいいわね。何もかも水に流されるって感じ?」
「そうだね。どうせ降るならこのぐらい降ってほしいね。」
「わー。すげー。」ワイパーを速度最大に切り替えた。
「今日は色々な事があって本当に楽しいね。なんだか今日の俺たちは恋愛中のカップルみたいだね。」
「な~に。それ。」
「この前さあ、お前が俺のこと『今でも好き』って言ってくれたじゃん。」
「あの後時間がたつにつれ、俺の心の中でそのことがだんだん大きくなってきて。」
「またお前のことが新鮮な気持ちで好きな気持ちがどんどん大きくなっていくのが分かるんだな~。」
「お前にまた『ぞっこん?』『夢中?』って感じかな。」
「あらあら。」
「ホンとだぜ。」
「そう。」
「お前が好きで好きで大好き~。って叫びたいぐらいだぜ。」
「あんた。いったい歳いくつよ。」
「41歳。」
「いいおじさんの言うことか?」
「だって、本当だからしょうがないぜ。」
「よく言うよ。」
「手つないでいい?」
「バカっ。いい加減にして。」
「でも本当は嬉しいだろ?」
「もういいから。」
「本当のこと言えよ。」
「しつこい。」
「でもさ~。いつまでもこんな気持ちは大切にしたいな~。」
「・・・・。」
「夫婦ってさ。『一番身近な他人。』って最近考えてんだよねー。」
「そうねー。」
「だから色々あるんだよね~。」
「・・・・。」
車は中国縦貫道高宮ICを過ぎた。雨はあがり、前方は見事なまでの真っ赤な夕焼け。
「きれいだね。」
「凄く綺麗。」
「本当に今日は楽しかったね。」
「そうね。」
「俺たちってさ。よく喧嘩もするけどさ、どっちかって言うと仲のいい夫婦じゃないかな。」
「そうかしら。」
「きっとそうだよ。」
「だいたい俺お前のことが本当に好きだもん。」
「あらあら。」
「本当だぜ。」
「私もあなたのこと好きよ。」
「でも、俺がお前のこと好きな気持ちのほうが大きいよ。絶対。」
「わかったわよ。」
「今日はまだ家に帰りたくないな。」
「どうして?」
「もう少し二人だけの時間を過ごしたいな。」
「今は、恋人同士みたいじゃない。」
「そうね。」
「家に帰っちゃうとそれが家族になっちゃうから。」
「家族が嫌なわけじゃないよ。でも夫婦は恋人同士でもあるわけだから・・・。」
「でも今日は十分楽しかったわ。」「明日からまた仕事もあるし。」
「また今度どこかへ連れてって。」
・
・
・
「じゃあそうしようか。」
「そうしよう。」
車を駐車場へ止め、私たちは娘たちと恐らくもう一人来ているだろうわが家へまた戻っていった。
終わり
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