Hacha!



ハチャ・・・性別不明。正体不明の殺人鬼。

茶葉 ルミ・・・女性。県警捜査第一課主任。

蟹江・・・男性。茶葉の部下。
呉井・・・男性。同。





●廃キャンプ場・夜
   廃業して数年経ったキャンプ場。
   無理やりこじ開けられたフェンス。
   草むす地面。朽ち始めた管理小屋。
   無秩序に停められたヤン車。
   焚火を囲む男三女三のグループ。
   酒とクスリと怪談話に花が咲く。
男A「で、誰も逃げらんねーようにタイヤの
 空気ぜんぶ抜かれてんの」
男B「マジかよ」
男A「サツが着いた頃には生きてるヤツ一人
 もいなくて。手とか足とかそこら辺にゴロ
 ゴロ転がってたんだと」
女C「やめてよ、マジキモイんだけど」
女D「てか、ゼッタイ盛ってるよね」
男A「盛ってねえって。五堂さんから聞いた
 まんま」
男E「けどよ、そんなヤバい事件があったら
 ネットニュースとかになるんじゃねーの。
 知らねーぞそんな話」
男A「たぶんだけどさ、ガチヤバな事件って
 ニュースになる前に、政府がインペーすん
 じゃね?」
女C「なんか頭良さそうなコト言ってんの。
 アホのくせして」
男A「てめ、犯すぞ」
女C「やってみろよ、●●●ちぎったる」
女D「ちょっ! ケツ触られたんだけど!」
男B「なんで俺を見んだよ」
女D「あっしの右、アンタしかいないじゃん」
女F「ねぇ・・・」
   重苦しい声に静まり返る一同。
女F「それって、ホントに人間のしわざなの
 かな・・・」
女C「え、どゆことどゆこと?」
女F「だって・・・いくら頭がおかしいから
 って、そんなメチャクチャな力で・・・」
男B「もしかして、クマとか?」
女D「あっ、それだ! クマクマー!」
男E「いや、そっちの方がこえーよ」
女D「ダッサ、なにビビってんの」
男E「いやビビるだろ。あいつら、ワンパン
 で人間の首飛ばせるんだぜ」
   女F、黙って立ち上がる。
女C「ん、どしたん?」
女F「・・・トイレ」
男A「気をつけろよ。どっちにしても犯人は
 捕まってねーんだし」
男B「管理小屋だろ。ついてってやろうか」
女D「アンタが言うと下心にしか聞こえない
 んですけどー」
男B「おま・・・まさかヤキモチですかぁ」
女D「ハア!?」
男B「あー、一人で行っちゃったじゃん」
女C「あの子にちょっかいかけんじゃねえよ。
 こわいパパさんに埋められっから」
男E「ユーレイ出たら動画忘れんなー」
   女F、馬鹿騒ぎを背にして。
   管理小屋へ続く暗い小径。
   なぜか道端に一体のお地蔵様。
   森からはざわめきや動物の気配。
   左右を気にしながら小走りに。

●同・承前
   小径を戻ってくる女F。
   闇にも慣れて心なしかさっぱりした顔。
   お地蔵様の横を鼻歌まじりで通過。
   その首が無くなっているのも気づかず。
   近づく焚火、妙におとなしい仲間たち。
女F「トイレ、マジで怖かったんだけど」
   仲間のシルエット、動かない。
女F「壁いっぱいに真っ赤なペンキで魔法陣
 みたいな落書きしてあんの。イタズラでも
 やりすぎだよねー」
   後ろから女Dの肩に手を置く。
女F「おーい。効いてきた?」
   話しかけて違和感に気づく。
   体の割に妙に大きな女Dの頭部。
   焚火越しの三人も何かおかしい。
   顔と胴体が一人ずつずれているような。
   肩に置いた手に思わず力が入る。
   ころり転げ落ちる女Dの首。
   いや、首は男Bのものだ。
女F「!!!」
   声にならない叫びと共に男Bを見る。
   その胴に乗っているのはお地蔵様の首。
   炎が乱れ、一斉に皆の首が落ちる。
女F「!!!!!」
   高周波の叫びを残して女F、遁走。
   闇の中を遮二無二走って駐車場へ。
   ミニバンの影を見て一抹の希望。
   無施錠のドアから運転席に滑り込み。
   挿しっぱなしのキーを回すも無反応。
女F「なんなん、なんなん、もう!」
   慌てて降りてエンジンルームを確認。
   暗くて判りにくいが入念な破壊の痕。
   フロントガラスに映る背後の人影。
   絶望の表情で振り返る女F。
   斧と男Eの生首を提げた異様な巨体。
   振り上げた斧から新鮮な血が滴って。
女F「!!!!!!!!」
   絶叫する洞穴のような口にズーム。
   その暗闇にタイトル、『Hacha!』。

●同・翌日昼
   警察の一隊で騒然たる一帯。
   次々と運び出される担架。
   ブルーシートに覆われた動かない荷。
   茶葉ルミ、その一つを呼び止める。
   シートの端をめくって確認。
   眦からこぼれ落ちる真珠の涙。
   彼女の背後で派手に嘔吐し続ける呉井。
   介抱する蟹江、茶葉の様子に気づいて。
蟹江「仕方ないですよ。こんなむごい現場は
 俺も二〇年デカやってきて初めてです」
   止まらない呉井の嘔吐に苦笑しつつ。
蟹江「主任もコイツと一緒に休んでて下さい。
 鑑識との打ち合わせはやっときますから」
茶葉「・・・誰が休みたいと言った?」
   ぶるぶる震える茶葉の背中。
蟹江「主任?」
茶葉「この日をずっと待ってたんだ。信じて
 はみるもんだな・・・」
   茶葉の正面に回り込んだ蟹江、啞然。
   涙をこぼしながら笑っている茶葉。
茶葉「フフ・・・キャンプ場に頭の緩いガキ
 ども。お誂え向きのシチュエーションじゃ
 ないか。スラッシャー映画ってのはこうで
 ないとな。フヒヒ・・・」
蟹江「落ち着いて下さい。これは映画なんか
 じゃない、現実です!」
   諌める蟹江の肩をガッと掴む茶葉。
茶葉「だ・か・ら、涙がちょちょぎれるほど
 喜んでるんじゃないか!」
   そのまま蟹江の体を揺さぶって。
茶葉「ずっとずっと戦いたかったんだ、人智
 を超えた大量殺人鬼って奴とさ。そのため
 にデカになったと言っても過言じゃない」
蟹江「しゅ、主任。こいつは貴女一人の力で
 どうにかなるようなヤマじゃ・・・」
   蟹江の体をドーンと突き飛ばす。
   未だ嘔吐中の呉井と重なり倒れる蟹江。
茶葉「至急、県内全域に緊急配備要請だ! 
 拳銃携帯許可も忘れるな! いやそんな物
 じゃ生ぬるいわ、機動隊とSATにも準備
 させとけ!」
   ゲロまみれの部下たちを尻目に。
茶葉「さァお次はどこだ。この時代この国で、
 お前がぶっ壊すものは何だ」

●暴力団事務所・詰所・同時刻
   狭い部屋にモニターと事務机。
   カードゲームに興じる二人の舎弟。
   ブザーがけたたましく鳴り響く。
舎弟G「ったく、俺のターンを邪魔するたぁ
 図々しい野郎だ」
舎弟H「早よ出ろって。待っててやるから」
舎弟G「ちぇ、イカサマすんじゃねえぞ」
   舎弟G、裏口のモニターを確認。
舎弟G「珍しいな、<跳ねっ返り>様だぞ」
舎弟H「シーッ! 親父の耳に入ったらどう
 すんだよ」
舎弟G「目の前で言うわけねえだろバーカ」
   舎弟G、ロックを解除してマイクへ。
舎弟G「どーぞ、お入りください」
   そのまま詰所を出て裏口へ。
   聞こえてくる怪訝そうな声。
舎弟G(声)「ありゃりゃ?」
舎弟H「どうした? 閉めるぞ?」
   重苦しい沈黙。
   舎弟H、ロックをして詰所を出る。

●同・裏口
   分厚い二つの扉に挟まれた薄暗い空間。
   出口も入口も堅く閉ざされて。
   客の姿も舎弟Gの姿もない。
   茫然と立ち尽くす舎弟H。
   無意識に電灯のスイッチを探る。
   その指先に滴り落ちる粘っこい液体。
   明るくなると同時に目に入る赤色。
   見上げたH、Gと目が合う。
   壁灯の装飾に刺さったGの生首。
   H、過呼吸になりながら後退り。
   壁のような巨体にぶつかって振り返る。
   眼前に、斧の刃の鈍い煌めき。
   アメコミ的擬音『HACHA!』。

●同・応接室・午後
   血臭ただよう応接室。
   鑑識カメラのフラッシュが間断なく。
   悠々と室内を見渡す茶葉。
茶葉「何ともはや壮観じゃないか。和彫りが
 芸術とはよく言ったものだよ」
   部屋の壁一面に絢爛な和彫り展覧会。
   綺麗に剝がされ広げられた生皮たち。
   その主たちは今しも搬出中。
蟹江「全員の死因が頭頂への一撃。その他に
 外傷は無いそうです」
茶葉「首元から二の腕まで、無傷で剥がした
 かったんだろ。素晴らしい職人気質だ」
   茶葉の横で呉井、何度も空えずき。
   その背中をポンと叩く蟹江。
蟹江「朝からずいぶん成長した」
呉井「もう出すモン残ってなくて。ウエッ」
茶葉「グロ耐性ゼロのくせによくこの商売を
 選んだな」
呉井「刑事ドラマくらいの描写なら平気なん
 ですけど。ウッ」
茶葉「ホラー映画もダメな口か」
呉井「ええ。オボッ」
茶葉「つまらん男だ」
蟹江「まあまあ。そう手厳しくせんでやって
 下さい。こいつトラウマ持ちなんで」
呉井「ハイ、小坊の時にちょっと・・・」
蟹江「話す気になれたら話せばいいさ」
呉井「・・・ウス」
茶葉「そんなんだと、私と付き合えないぞ」
呉井「えっ」
   制服警官に連れられてくる舎弟H。
   怯えきって目も上げられない。
蟹江「死にそびれたな、ボウズ」
舎弟H「う、うるせえ・・・」
蟹江「でかい口叩けた義理か。親分も兄貴分
 も見殺しにしやがって」
舎弟H「む、ムチャ言うなよ・・・。あんな
 バケモンどうやって・・・」
茶葉「見たのかお前!」
   目をキラキラさせて食いつく。
茶葉「タッパは? ナリは? エモノは傷口
 から斧で確定なんだが。パワータイプか、
 それともマイケルみたいな神出鬼没型か」
舎弟H「な、何言ってんだこのオバサン」
   思わず蟹江の後ろに隠れるH。
茶葉「オバサン? お前の母ちゃんより十は
 下だぞ失敬な。それよりも殺人鬼だ。お前
 の見たことを残らず・・・」
舎弟H「何も見てねえよ! ずっとロッカー
 に隠れてたからょ・・・」
   H、次第に小声に。
   応接室の外で何か騒ぎが勃発。
茶葉「やかましいな。組の関係者は入れるな
 って言っといたのに」
呉井「俺、ビシッと止めてきます」
   呉井、襟を正して。
蟹江「大丈夫か。奴ら相当気が立ってるぞ」
呉井「男らしいとこ見せたら、付き合えるっ
 てことですよね」
   茶葉と蟹江、顔を見合わせて。
呉井「だからその・・・主任と・・・」
茶葉「・・・ふふっ、考えとくよ」
   意気揚々と応接室を飛び出す呉井。
   数秒の静寂の後。
   突き飛ばされて室内に戻される。
   踏み入ってきた、顔面凶器の中年男。
茶葉「おやおや、組対の次藤さん」
マル暴「チッ、誰かと思えば一課の魔女か」
茶葉「身に余る二つ名、光栄至極」
   舎弟Hに睨みをきかせるマル暴。
マル暴「そのチンピラを引き渡せ」
茶葉「出来ない相談ですね。こいつはウチの
 重要参考人なんで」
マル暴「餅は餅屋って言うだろうが。捜一が
 ヤー公のケンカに首突っ込んでんじゃねえ」
   あらためて現場を見回す茶葉。
茶葉「これが只の抗争だと?」
マル暴「こいつら前々から西の連中と揉めて
 たんだよ。人のシマで随分あくどいシノギ
 してやがったからな」
舎弟H「言いがかりだ。ありゃNPO名義で
 やってるボランティアなんだぜ。なのに、
 こないだも別件で引っ張って散々いたぶり
 やがって・・・」
マル暴「洒落た口きくじゃねえか」
舎弟H「は、早く保護してくれ。この野郎に
 だけは引き渡さないでくれ」
茶葉「ふーん、極道がこんな七面倒臭い真似
 をねえ・・・」
   丁寧に張られた人皮を愛でながら。
マル暴「西の奴らは元からイカレてるんだ」
舎弟H「イカレるにしても限度があるだろ」
茶葉「とにかくお聞きの通りです。どうぞ、
 あちらの扉から」
   大仰に出口を示す茶葉。
マル暴「てめえ何の権限があって・・・」
茶葉「これは昨夜の殺しと同一犯です。所轄
 に帳場が立ったので彼の聴取はそちらで。
 おい、丁重にご案内しろ」
呉井「はい主任! さあ一緒に来い」
   呉井、わざとマル暴にぶつかるように。
   Hの腕を掴んで揚々と部屋の外へ。
マル暴「・・・同一犯と決めつける根拠は」
   掛け軸を指さす茶葉。
   『一日一善』の上から書かれた血文字。
   臓物まじりの『HACHA』。

●廃キャンプ場・トイレ・回想
   扉が取れかけた個室の中。
   壁一面に描かれた赤い魔術的図形。
   その上に題名のように『HACHA』。

●覆面パトカー・車内・夕
   悪夢のように美しい宵町を流す車。
   時折、サイレンがドップラーで横切る。
   ハンドルを握る蟹江、助手席の茶葉。
蟹江「まだ見つからんようですね」
茶葉「・・・だな」
蟹江「俺のイメージだと図体の馬鹿でかい獣
 みたいな野郎なんですが、こうも捕まらん
 ところを見ると案外・・・」
茶葉「・・・うん」
   窓外に目を据えて心ここにあらず。
蟹江「そろそろ戻る頃合いじゃないですか。
 一九時から捜査会議ですよ」
茶葉「案外・・・案外ねえ・・・」
   茶葉の視界を流れて行く通行人たち。
   無個性で無害な一般市民の群れ。
無線「各移動! 各移動!」
   突然、ヒステリックに呼び立てる無線。

●所轄警察署・捜査本部・夜
   冒瀆された治安の中心。
   入口の戒名にべったりと赤い手形。
   会議室に並べられた長机の列。
   行儀よく着席した刑事たちの残骸。
   但し四肢はごちゃ混ぜにシャッフル。
   それぞれの机には摘出された眼球。
   床一面薄く張った血の池。
   惨状を前にした茶葉と蟹江。
茶葉「キャンプ場で五人、組事務所で十人、
 ボディカウントが幾何級数的に増えてる。
 ここでは何人やられた?」
蟹江「少なくとも二〇人はいたみたいです。
 そのうち何人やられたかは・・・」
茶葉「正確な数はパズルを解かないと、か」
蟹江「ただ・・・」
茶葉「どうした」
蟹江「呉井と、任同した組員の二人が・・・
 署内のどこにもおりません・・・」
   ホワイトボードをじっと見る茶葉。
   切断された指を組み合わせて例の署名。

●覆面パトカー・車内・深夜
   コインパーキングに駐車中の車。
   助手席でカーラジオを操作する茶葉。
   サイドウィンドウをノックする音。
   荷物を抱えて立つ蟹江。
   茶葉、ドアロックを解除。
   運転席に乗り込む蟹江。
   パンパンのコンビニ袋を茶葉へ。
茶葉「ずいぶん買い込んだな」
蟹江「腹が減っては何とやらです。お好きに
 つまんで下さい」
   ツナマヨと明太子おにぎりを選択。
   車内に流れるニュース。
   動物園のパンダの帰国を惜しむ声。
蟹江「何も報道してませんね。当たり前か」
茶葉「パトもサイレン切ってる。そこら中に
 ウヨウヨいるけどな」
   パッケージを開けるのに悪戦苦闘。
   無言で差し出して蟹江に開けてもらう。
茶葉「(モグモグ)待機命令は変わらずか」
蟹江「ええ。絶賛命令違反中ですけど。主任、
 口の中身見せない」
茶葉「(モグモグ、モグモグ)」
蟹江「監視カメラの解析結果、なんとか聞き
 出してきました」
茶葉「でかした。早く教えろ」
蟹江「知らない方がいいかもしれませんよ。
 俺、薄気味悪くって・・・」
茶葉「勿体ぶるな。事務所に来たのは誰だ」
蟹江「組長の娘です、キャンプ場から消えた」
   茶葉、無言で次のおにぎりを開ける。
   巻けてない海苔を無理やり巻きつけて。
茶葉「(モグモグ)呉井の地元ってどこだった
 かな・・・」
蟹江「呉井ですか? 確か●●県の海岸沿い
 だったような」
茶葉「(モグ)今すぐ思い出せ(モグ)」
蟹江「・・・あ、絶対そうです。前、土産に
 生シラス貰ったこと有るんで」
茶葉「今出たら、朝には着くな」
   蟹江、コッペパンを詰まらせて。
蟹江「ゲフンゲフン、ダメです主任。管轄外
 に出たら待機中って建前が・・・」
茶葉「建前なんぞ便所に流しちまえ。ヤマは
 とっくにサッチョウ案件だ。素直に待って
 たってお声はかからん」
蟹江「ゴホ、だったら尚更・・・ゴホゴホ」
   蟹江にネクター缶を差し出す茶葉。
   自分はUCC缶をグビグビ。
茶葉「それに・・・アイツはもうこの辺には
 いないよ」
   ラジオからは甘いシャンソン。

●小学校・校門・朝
   校内から足を縺れさせた男性教師。
   校門前に急停車する覆面パトカー。
   降り立つ茶葉と蟹江。
蟹江「どうしたんだ、何があった」
   教師、無傷だが死ぬほど狼狽して。
男性教師「け、刑事さんが来て、ふ、不審者
 がうろついてるから校内を調べるって中に
 ・・・そしたら急に様子がおかしくなって、
 子供たちを次々・・・」
   頭を抱えてうずくまる教師。
男性教師「あああどうしよう・・・まだ中に
 児童が・・・」
   茶葉、冷徹な目で教師を見やる。
茶葉「この男をどこかに閉じ込めろ」
蟹江「どこかって?」
茶葉「どこでもいい、暫くは出られん所だ。
 私は他に生き残った者がいないか調べる」
   拳銃を抜いた茶葉、弾倉チェック。
   孤高の狩人のように校門を潜る。
   行く手に、不気味に沈黙する校舎。

●同・承前
   蟹江、車外で無線連絡。
   校門から疲弊した茶葉が。
茶葉「・・・先生は?」
蟹江「体育倉庫に。外から施錠しました」
   鍵束を示す蟹江。
茶葉「そうか。気の毒だが応援が来るまでは
 我慢してもらおう」
蟹江「じゃああの人・・・」
茶葉「運が良かった只の生存者・・・いや、
 運は良くないかもな。生涯、自分を責め続
 けるだろうから」
蟹江「奴は・・・」
   首を横に振る茶葉。
蟹江「子供たちは・・・」
   少し強く首を横に振る。
蟹江「畜生・・・奴はどこへ・・・」
茶葉「登校しているはずなのに見当たらない
 児童が一人いた」
蟹江「どうやってそんな」
   蟹江、血に染まった茶葉の手を見る。
茶葉「出席簿と・・・後は単純な照合だ」
   茶葉の頬が怒りで痙攣している。
茶葉「一線越えやがった。報いは受けさせる」

●老人介護施設・ロータリー・夕
   毒々しい夕空からしとしと降る雨。
   何とも不吉な狐の嫁入り。
   ランドセルを背負った少年。
   迷いのない足取りで入口へ向かう。
茶葉「戸部ふう君、だね」
   ゆっくり振り返る少年。
   愛らしい顔だが人間味は感じられない。
   駐車場側から歩み寄る茶葉。
茶葉「聞いたよ。すっごくお祖母ちゃん想い
 なんだって? 偉いね、一人で面会かな」
   拳銃を抜いて少年に向ける茶葉。
茶葉「でも残念。今日この近所でガス漏れが
 あってね。入所者はみんな他の施設に避難
 してるんだ」
   銃口を定めながら一歩また一歩。
茶葉「それともう一つ。ふう君、年中どこか
 ケガして学校に来てたんだって? それが
 お祖母ちゃんの入所と同時にぴったり無く
 なった。キミのお祖母ちゃんへの気持ちは、
 本当に<大好き>だけなのかな」
   ぽっかりと口を開ける少年。
   その喉奥から響く地獄の唸り。
   同時に赤黒い霧が全身の穴から。
   霧の中で少年の体が口を起点に裏返る。
   倍以上に膨れ上がるフォルム。
   茶葉の銃口、細かく震えて。
茶葉「それが正装か? クソヤロウ」
   霧が退いて、露わになる巨体。
   二メートル超の図体に薄汚れた巻毛。
   顔面に癒着した喜劇俳優のお面。
   血と体液に塗れたトレンチコート。
   長柄の斧を片手で楽々と持って。
茶葉「歴代諸先輩方の最大公約数的な御面相
 だな。案外ツマラン」
   ノーモーションで振るわれる斧。
   HACHA!
   転がって躱す茶葉、カウンターで銃撃。
   額の辺りで軽く弾ける銃弾。
茶葉「節分の鬼より効いてないじゃないか」
   続く二撃三撃を猿のように躱す。
   その合間にもしつこく頭部を銃撃。
   蠅を追い払うように鬱陶しがる殺人鬼。
   その隙に距離を稼ぐ茶葉。
茶葉「おや?」
   茶葉、芝居がかった不審顔。
   クンクンと小鼻を動かして。
茶葉「何だか臭うな。お前はどうだ」
   無言で斧を振り上げる殺人鬼。
茶葉「それとも、肝心の鼻が無いのかな」
   拳銃で再び狙いをつけて。
   雨音に混じって気体の漏れる音。
茶葉「ガス漏れが只の方便だと思ってるなら
 命取りだぜ」
   弱まる雨脚、漏出音が突然激しく。
   雲間の夕陽が殺人鬼の足下に射す。
   ドタ靴に踏まれたガス用マンホール。
   銃口をその方向に向ける茶葉。
   無造作に振り下ろされる斧。
茶葉「雨雲の上まで吹っ飛びな」
   発砲、火花、閃光、爆発!

●同・承前
   倒れた茶葉の顔に降る雨。
   衣服は焼け焦げ露出した皮膚には火傷。
   ゼエゼエ苦しい息が肺から漏れる。
茶葉「無茶は承知だったけど・・・報われん
 なあこれじゃ・・・」
   ほぼ無傷で茶葉を見下ろす殺人鬼。
   機械的に斧を振りかぶって。
   茶葉の爛れた唇に、ふと微笑み。
茶葉「呉井、そこは心地いいか?」
   斧の軌道がわずかに逸れる。
   顔の横のアスファルトが抉れる。
   どこからか飛んできた拳大の瓦礫。
   殺人鬼の頭にまともに命中。
蟹江「おい、そこのデカブツ!」
   のろのろと飛来方向を向く殺人鬼。
   割れた路面を踏みしめた蟹江。
   象撃ち銃を体全体で構えて。
蟹江「俺の大切な人から離れろ!」
   強烈な反動を伴う必殺の一弾。
   まともに腹に食らった殺人鬼。
   倒れはせずとも十歩ほど後退。
   茶葉の傍に駆け寄る蟹江。
蟹江「スイマセン、移送に手間取って」
茶葉「構わんよ・・・。それより奴から目を
 逸らすんじゃない・・・」
   蟹江、殺人鬼に鋭い視線を送る。
   明後日の空を見ている殺人鬼。
   そこにはもはや害意を感じず。
蟹江「何だか様子が変です」
茶葉「油断禁物だぞ・・・」
蟹江「俺たちが目に入ってないみたいです。
 どこか遠い所を見てるような」
茶葉「遠いところ・・・まさかな・・・」
   そこで茶葉の意識は途切れる。

●覆面パトカー・車内・夜
   ワイパーに散らされて煌めく雨滴。
   サイレン鳴らしてパトカー驀進。
   運転席に覆い被さるような蟹江。
   関節が浮き出るほど握ったハンドル。
   後部席、毛布を掛けた茶葉が横たわる。
茶葉「蟹江・・・病院だ・・・」
   絞り出すような茶葉の掠れ声。
蟹江「言われなくたって! 大丈夫ですよ、
 絶対助かりますから!」
茶葉「違う・・・入所者の、移送先・・・」
蟹江「えっ」
茶葉「奴が・・・次に向かう・・・」
蟹江「場所は知らない筈じゃ・・・」
茶葉「嗅ぎつけたみたいだ、癪だが・・・」
蟹江「・・・了解、かっ飛ばします」
   アクセルを踏み込む蟹江。
   揺れるシートに身を任せる茶葉。
茶葉「・・・お前、あんな銃どこから?」
蟹江「アフリカで映画撮るついでに象でも撃
 とうかと思いまして」
茶葉「いいね・・・すっかり私色に染まって
 きたじゃないか・・・」
蟹江「喜んでいいんですかね、それ」
   ハンドルを切りながら苦笑い。
蟹江「主任、あの時おっしゃいましたよね。
 奴は一線を越えたって」
茶葉「ああ・・・小学生を無差別にやるのは
 流石にルール違反だからな・・・」
蟹江「その言葉、身内がやられたときに聞き
 たかったです」
   一瞬きょとんとする茶葉。
茶葉「・・・全くだな。私も少しずれてる」
蟹江「少しですか」
茶葉「死にかけてるからって言いたい放題、
 覚えとけよ・・・」
   再び意識を失う茶葉。

●病院・個室・朝
   眩しい光に目を開ける茶葉。
   カーテンの隙間から朝陽が顔に。
   包帯とガーゼで覆われた痛々しい姿。
   苦労してナースコールボタンを押す。
   駆けつけてくる可愛らしいナース。
ナース「よかった! ここは病院ですよー。
 自分のお名前分かりますかー」
茶葉「か、かにえ・・・」
ナース「違いますよー。よーく落ち着いて」
茶葉「蟹江を・・・呼んで・・・」
   ナースの爛漫な笑顔が曇る。
ナース「茶葉さん、その事はもう少しお元気
 になってから話しますから、ね・・・」
茶葉「私は大丈夫・・・ここは市民病院?」
   ナースの頬に涙がポロポロと。
ナース「あっ、ごめんなさい・・・」
茶葉「・・・市民病院はやられたんですか」
   力なく頷くナース。
茶葉「じゃあ・・・蟹江は・・・」
ナース「その時に・・・茶葉さんや他の患者
 さんを守ろうとして・・・」
   包帯から覗く瞼をきつく閉じる茶葉。
茶葉「柄にもない事しやがって・・・」

●雑景
   リハビリに励む茶葉のモンタージュ。
   外傷回復。肉体鍛錬。執念醸成。
茶葉(声)「病院。製薬会社。中央官庁」
   ニュースが伝える国家的混乱。
   戒厳令下の市街。
   家の中で怯える家族。
   アングラ的享楽にふける若者たち。
   血走った右眼と白濁した左眼。
茶葉(声)「お次はどこだ」

●某国・大統領府・昼
   鼠色の空から舞う雪。
   市街のあちこちから上がる黒煙。
   宮殿の城壁に突っ込んだ戦車。
   そのハッチが内部から吹っ飛ぶ。
   砲塔から這い出す殺人鬼。
   搾りたての血液を斧にまとわせて。
茶葉「暫くぶりだな」
   戦車に正対する茶葉。
   軍の防寒コートに耳当て帽。
   左顔の火傷を覆う半仮面。
   足元に設置された対戦車ライフル。
   自動照準・自動装填式に魔改造済み。
   長大な銃身は戦車上の殺人鬼へ。
茶葉「バチ●ンじゃ世話になったな。まずは
 その時の礼だ」
   掌中のリモートスイッチを押す。
   苛烈な一撃が殺人鬼の胸部を直撃。
   殺人鬼、少しふらつくも倒れず。
   悠然と雪の上に降り立つ。
   銃身の角度、殺人鬼の動きに従って。
   茶葉の視線の動きによる補正。
茶葉「海を渡った最初のうちは苦労したよ。
 土地勘ゼロの国を渡り歩いて探すのは」
   次なる一撃、わずかな足止め。
茶葉「倍々ルールが災いしたよな。今や完全
 に戦争になっちまって。これじゃ居場所を
 わざわざ宣伝してるようなモンだろ」
   さらなる追撃、止められぬ接近。
茶葉「ますます頑丈になりやがって」
   斧の一閃がライフルの銃身を斜め切り。
   茶葉、身を翻し殺人鬼に延髄斬り。
   自重で俯せに倒れる殺人鬼。
   もうもうと舞う雪煙。
   茶葉の蹴り脚を掴む殺人鬼。
   立ち上がり、茶葉を地面に叩きつける。
   雪上に横たわる茶葉、すぐに動けず。
   殺人鬼、とどめの斧を振るわんと。
   茶葉の体の下から象撃ち銃。
   ちょうど銃口が殺人鬼の胸部へ。
茶葉「蟹江への手向けだ」
   ゼロ距離射撃に後退りする殺人鬼。
   集中砲火を浴びた胸部が崩れかけて。
茶葉「おい呉井」
   体を起こす茶葉。
茶葉「今度デートしてやるから手を貸せ」
   苦しみ始める殺人鬼。
   胸部を破って二本の腕が突き出す。
   殺人鬼の両腕を押さえつけるように。
   抵抗むなしく落ちる斧。
   這いずりながら苦闘する殺人鬼。
   新参の腕を何とかへし折る。
   ぬかるんだ雪上に差す影。
   見上げる殺人鬼。
   両手で斧を振り上げた茶葉。
茶葉「・・・やっと分かったよ」
   殺人鬼、幼児のように首を傾げる。
茶葉「お前を殺せるのはコイツだけだ!」
   空気を切り裂いて刃が走る。
   HACHA!
   間欠泉のように噴き上がる血潮。

●同・承前
   ぐずぐずに崩れた敵を見下ろす茶葉。
茶葉「セオリー通りだと、このままじゃ続編
 確定だな」
   力が抜けて膝をつく茶葉。
茶葉「私は出られそうにもないけど・・・」
   茶葉の耳が何かを捉える。
茶葉「どうやらお掃除の時間らしい」
   どんより澱んだ空を見上げる茶葉。
   上空を飛ぶ無人攻撃機カットイン。
   下部格納庫から物体が投下。
   寝転んだ茶葉の顔に雪が降りかかる。
   目に映る冬空。
   雲の中から現れる白いパラシュート。
茶葉「そう言えば、初めて映画館で観た映画、
 『アウトブレイク』だったわ・・・」
   白い息と共に漏れる独り言。
茶葉「こういうの・・・何て言うんだっけ」
   視界の中で大きくなるパラシュート。
茶葉「痛み分け? 喧嘩両成敗? 違うな」
   ひび割れた唇が微笑みの形に。
茶葉「地獄へ道づれ、だ」
   閃光。気化爆弾の爆轟。
   善と悪を懐に抱いて、消し去って。





                   了


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