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山さんの刑事部屋
Snow Kiss
梔子 凪(クチナシ ナギ)(二四)男性。
柊木 天(ヒイラギ ソラ)(二二)女性。
染井 霞(ソメイ カスミ)(二二)女性。
竜胆 朔(リンドウ サク)(二三)男性。
山茶 颯(ツバキ ハヤテ)(二八)男性。
日車 陽(ヒグルマ ヒナ)(二一)女性。
●街・夕
日没には間があるが薄暗い街。
寄る辺なく空を見上げる梔子凪。
一面に低く垂れこめた雲。
鼻の頭を赤くして白い息の呟き。
凪「どうせなら降りやがれ・・・」
●タイトル
●居酒屋・個室・夜
合コンの席上。
テーブルを挟んで六人の男女。
ある程度進んだ宴のまったり感。
朔「ハイお題! 嫌いな季節!」
隣の凪にエアマイクを向ける竜胆朔。
凪「冬。何一ついいこと無いし」
朔「即答あざます」
霞「えー、なんでー。イベントてんこ盛りで
楽しいじゃないですかー」
幹事席の染井霞、うっすら桜色の頬。
凪「参加しないイベントに意味は無い!」
朔「出た、弥勒系男子!」
凪「何だよそれ」
朔「草食系男子の上位互換っすよ」
陽「じゃあ冬の具体的な欠点って?」
膝を立ててテキーラを飲む日車陽。
凪「出勤の時も帰宅の時も外が暗くて侘しい。
着る物が多くてめんどくさいし肩が凝る。
色んな病気に警戒しないとだし、火の始末
にも気を遣う。あと・・・」
颯「どんだけ出んねん。冬に国でも亡ぼされ
たんか」
悠然とソフドリを飲む山茶颯。
陽「クチナシ君がナポレオンみたいじゃん」
朔「冬がかわいそうだよ。一つでもいいから
いい所探してあげて」
凪「うーん・・・イヤな虫がいない」
朔「だけ?」
凪「だけ」
霞「虫ニガテなんですか。かわいい」
朔「あ、俺もニガテ。ちょうちょすらムリ」
霞「ワザトラシイ」
疑いの眼差しで朔を見る霞。
朔「いや、マジな話」
颯「俺もあかんわ。ダンゴムシも触れん」
霞「師匠もかわいい」
朔「なんでやねん」
隅の席でチビチビ熱燗を飲む柊木天。
ワイワイ盛り上がる中、ボソッと呟く。
天「・・・私、好きだな」
凪「え?」
呟きを聞き逃さなかった凪。
天、曇った眼鏡で微かに微笑んで。
天「冬。空が一番クリアだから」
●街・夜
合コン終わりの煌びやかな街。
上機嫌で駅までの道を行く六人。
自然と二対二のペアになって。
先頭に大股の颯と陽。
続いて朔と霞。
最後尾に凪と天。
凪、微妙な沈黙を気にするように。
凪「ヒイラギさんって理工学部でしたっけ。
ゼミで何研究してるんですか」
天「ウチュウセンです」
凪「宇宙船? アポロとかソユーズとか?」
ロケットっぽいポーズを取って。
天「あ、スペースシップの方じゃなくて」
凪「違う?」
天「えっと、ニュートリノとか・・・」
凪「そっち? すっごい難しそうなやつだ」
天「言うほど難しくないんですよ」
凪「文系の俺には歯が立ちません」
天「私も最初はミーハーな入りだったから」
凪「へえ、どんな?」
天「笑わない?」
凪「善処します」
天「中学生の頃『素粒男子』っていう素粒子
を擬人化したアニメがあって・・・」
凪「あー、それ何か知ってる。イケメンしか
出てこない系の・・・」
天「・・・笑ってるし」
凪「違う違う、ほっこりしてるだけ」
天「素粒子ってすごく健気なんですよ。想像
も出来ないくらい小っちゃい子が太陽風に
乗って地磁気にいたぶられながらも必死に
大気圏に突入してくる姿、受け止めてあげ
たくなるじゃないですか」
居酒屋と打って変わった大熱弁。
凪「宇宙線って言われても、ガヴァドンしか
思いつかないなあ」
天「カバドン?」
凪「ガヴァドン知りません? 二次元怪獣」
朔「盛り上がってますやん。えろい話?」
二人の間に割り込む朔。
凪、無言で朔をフルネルソン。
朔「痛い痛い! マジ折れるっす!」
霞、振り向いてガキを見る目。
●凪の部屋・夜
風呂から上がって雑に頭を拭く凪。
ベッドで震えるスマホを手に取って。
メッセージアプリの画面。
天からの初めてのメッセージ。
天(メッセ)「今夜はお疲れさまでした」
天(メッセ)「ガヴァドン確認しました」
天(メッセ)「正直、萌えです」
最後にガヴァドンAのスタンプ。
メッセージを見てにやける凪。
窓に映った自分の顔に気づいて引く。
●大型雑貨店・バックヤード・午後
大量の段ボールを台車から下ろす凪。
手際よく開封してゆく朔。
担当ごとに仕分けてゆく颯。
作業の手は止めずにボーイズトーク。
朔「ところで諸兄、ご収穫の程は?」
颯「藪から棒に何の話や」
朔「そりゃあ、先般の紳士淑女の会食の話に
決まってるじゃないすか」
凪「収獲なんか無いよ」
朔「結構楽しんでたくせに」
凪「そう見えたんなら処世術。俺のせいで場
を白けさせるのは筋違いでしょうが」
朔「嘘だあ」
凪「嘘じゃねえっての」
颯「これ混載やな。折りコンに分けるで」
凪「お願いします」
颯、二つのコンテナに商品を分類。
颯「これは何やろ」
朔「あ、ハンドクリームなんでウチの」
颯「食いもんみたいな容器やね」
朔「ココナッツの香りなんでマジで美味そう
なんすよ。売場にテスター有るんで」
颯「ホンマ? 後で嗅ぎに行こ」
凪「俺、毎日嗅いでる」
朔「そうそう、師匠はどうなんすか」
話を軌道修正する朔。
颯「どうって?」
朔「ヒグルマ姐さんすよ。結構フィーリング
合ってる感じだったんで」
颯「ヒナさんやったらぼちぼち連絡取ってる
けど」
朔「マジすか? 隅に置けないなあ」
颯「そういうリンドウはどうなん。気になる
子おったんか」
朔、作業する凪の横顔をチラ見。
朔「カスミちゃんは身内で幹事でゴマメだし、
姐さんは師匠がロックオンしちゃってるし、
残るはヒイラギさんっすよね。見た目地味
だけど素材は悪くないんだよなあ」
声のトーンを落とす朔。
朔「ただ、割と地雷系じゃないすか?」
凪、手を滑らせて箱を落としそうに。
すんでのところで無事キャッチ。
颯「危な。それビューティーの商品やろ。中、
割れモンだらけやで」
凪「・・・すんません」
朔「ちなみに俺の鑑定眼が確かなら・・・」
構わず話を進める朔。
朔「あの子、脱がせたらエグイっすよ」
凪、大きな箱をお手玉。
颯「おいおいどうした。低反発マクラやから
って雑に扱わんといてや」
凪「・・・度々すんません」
その時、売場から霞が襲来。
霞「こら男子! 口ばっか動かしてないで早
く売場出ろ! レジでヘルプ呼んでるぞ!」
颯「リンドウがソメイさんのこと、ゴマメ言
うてたで」
颯、捨て台詞と共に台車を押して退散。
朔「あ、ひどい」
霞「ちょっと、どういう事ですか!」
霞の手を間一髪で逃れて離脱する朔。
プンスカする霞と逃げ遅れた凪。
視線が合う二人。
●凪の部屋・夜
ベッドに寝転んでスマホを弄る凪。
おすすめスポット情報を漫然と閲覧。
●大型雑貨店・休憩室・午後(回想)
パックのコーヒー牛乳を飲む凪。
向かい合って手作り弁当を食べる霞。
霞「次はクッチー先輩が幹事ですからね」
顔も見ずに唐突に。
凪「えっ、何で」
霞「ウチ、奉仕活動は一年に一度って決めて
るんで」
凪「奉仕?」
霞「だってそうだったじゃないですか。ウチ
一つも得しないのに」
上目遣いで睨む霞。
凪「ごめんごめん。男子を代表してお礼申し
上げます」
霞「第一、先輩のためなんですから」
凪「ん?」
霞「うちの売場のココノエ先輩が辞める時、
ワールドエンドな顔してましたよね。自分
で気づいてないっぽいですけど」
凪、コーヒー牛乳を吹きそうに。
凪「・・・いやそれは」
霞「だから見るに見かねて・・・」
顔を伏せる霞。
フォークでプチトマトをぶっ刺して。
凪に向けて突きつける。
霞「先輩に課題です! 男女六人キャッキャ
ウフフできる素敵スポットを週明けまでに
見繕うこと! 異議は認めません!」
凪、頬をヒクヒク。
凪「・・・善処します」
●凪の部屋・夜
凪、メッセージアプリをポチポチ。
凪(メッセ)「たとえば」
凪(メッセ)「たとえばだけど」
凪(メッセ)「遊びに誘われて嬉しい場所っ
てある?」
ノータイムで入るリプ。
天(メッセ)「スーパーカミオカンデ」
一人で吹き出す凪。
凪(メッセ)「いやいや」
凪(メッセ)「そんなノリで行く所じゃない
でしょ」
凪(メッセ)「そもそも入れるの?」
凪(メッセ)「一般ピープルなのに」
またもや即リプ。
天(メッセ)「見学ツアーあり〼」
続けて送られてくるURL。
ベッドに正座する凪。
凪「すげえ・・・」
●科学館・展示室・午前
緩慢に腕を動かす黄金色のロボット。
ポカンと眺める霞と朔。
霞「キャッキャ?」
朔「ウフフ?」
からかうように開くロボットの眼。
*****
力学コーナーに颯と陽。
向かい合い、ハンドルを回して力比べ。
有利な方なのにねじ伏せられる颯。
涼しい顔の陽を見上げて。
颯「恐れ入谷の鬼子母神や・・・」
*****
硝子窓の中にうっすらと紫の光。
凪「カミオカンデは流石にムリだったんで」
天「全然。私、こういう所大好きです」
人工オーロラコーナーの凪と天。
天、展示窓をうっとり覗き込んで。
*****
何だかんだ言いながら満喫する六人。
月面での体重を測ったり。
太陽の林檎を持ち上げたり。
ミュー粒子コーナーで講義する天。
凪、チンプンカンプンの笑顔。
*****
プラネタリウムの入場列。
親子連れに混ざって並ぶ六人。
霞「思い出した。ウチ、遠足で来たことある」
陽「地元民なら大抵来てんじゃない?」
颯「俺の時はまだ出来てなかったで、ここ。
プラネタリウムは別の場所やったわ。確か
戦前からあった古い施設や」
朔「世代間ギャップってヤツっすね」
颯「年寄り扱いやめーや。たかだか数年違い
やで。タイミングの問題やん」
天「私、小学校はよその県だったから」
霞「中学の時だっけ、転校」
天「うん、三年生で」
霞「そして高二。ついに運命の出逢い!」
陽「アタシらの絆は永遠だし」
天と霞の肩に手を回す陽。
霞「運命と言えばさ、クッチー先輩との縁も
なかなかじゃない?」
凪にウィンクする霞。
凪「まあそうだな。当時は認識してなかった
だけで」
霞「すれ違ってても覚えてないですよね」
陽「同じ駅って言っても所詮男子校と女子校
だもん」
霞「生徒同士ほとんど接触なかったし」
朔「マジで? 一番異性との交流に飢えてる
お年頃なのに?」
陽「むしろ互いに敵対視してたよな」
颯「何でやねん。キミら戦闘民族か」
会話を聞きながら控えめに微笑む天。
彼女から目が離せない凪。
●同・プラネタリウム・午後
空いている席を探す六人。
満員に近い館内、四つ並びの空席発見。
颯「お、あっちにも二つ空いてるで」
少し離れた場所を指す颯。
朔「じゃあ俺そこで。えっと・・・」
陽と霞は既に腰を下ろして。
天に狙いを定める朔。
朔「ソラちゃ・・・」
霞「リンリン先輩はこっちでしょ」
霞、強引に朔の腕を引っ張って隣に。
颯「せやったら俺も」
朔の隣に強引に腰かけて退路を塞ぐ。
通路に立ち尽くす凪と天。
霞「暗くなるから早く座ってください」
霞、わざとらしいそっけなさ。
凪と天、顔を見合わせて。
*****
並んで客席に座る凪と天。
落ち着きなく何度も姿勢を変える凪。
天「座り心地悪いですか?」
凪「深く掛けすぎたら寝ちゃいそうで」
その実、天に触れそうな腕を気にして。
ナレーション。消灯。
天球を見つめる子供のような天の瞳。
横目で天の横顔を見ている凪。
●公園・午後
川の中洲にある都市型公園。
爽風吹く初秋の遅い午後。
思い思いに寛ぐ六人。
咲き誇るバラに心奪われる霞と天。
通りがかりのベビーカーに構う朔。
風景をデジカメで撮っている颯。
少し離れて彼らを漠然と眺める凪。
その隣に歩み寄る陽。
陽「休憩?」
凪「ああ、うん」
陽「隣いい?」
凪「どうぞ」
凪と並んでフェンスに凭れる陽。
背後の川を水上バスが通り過ぎる。
陽「お疲れっした」
凪「どうも。ホント疲れました」
陽「いくら遊びだって幹事は大変だよね」
凪「理解者がいてくれて良かった。それより
どう? 退屈じゃなかった?」
陽「悪くなかったよ。あれだけの時間、集中
して何かを見上げることもそうそう無いし。
あとミュージアム飯も美味かった」
凪「それは何より」
二人の視線の先、女子二人。
陽「クチナシ君って」
凪「ん?」
陽「ソラのこと気に入ってるん?」
凪「・・・・・・」
固まる凪の顔を覗き込む陽。
陽「まあ聞くまでもないか」
陽、川の方に向き直って。
陽「あの子さ、割と難しいよ」
凪「・・・どういう意味?」
陽「高校の時、ちょっと嫌な事があって」
フェンスに体重をかける陽。
川に身を乗り出すように。
陽「それからずっと男を避けてんだよね」
凪「・・・・・・」
陽「合コンも最初、全然乗り気じゃなかった。
カスミが『ウチの男どもは人畜無害だから
絶対大丈夫!』って押しに押しまくって」
凪「・・・いかにもソメイさんって感じ」
陽「ほんと、勢い任せ。でも言ってる内容は
正しかったよ。約一名怪しいのはいるけど」
凪「俺じゃないことを祈る」
陽「クチナシ君は・・・まあ合格かな、今の
トコ」
フェンスを乗り越えて護岸に立つ陽。
凪の背後に回り込んで。
静かにスリーパーホールドの姿勢。
首に腕を回されて、凪ドギマギ。
陽「・・・行くんだったら少しずつだからね。
イケイケだとあの子壊しちゃうから。もし
そんなことになったら・・・」
陽の腕に少しだけ力が入る。
凪「・・・分かった。肝に銘じます」
陽「OK、君に賭ける」
凪の耳元で囁く陽。
天「ヒナちゃーん! すっごく珍しい昆虫が
いるよー!」
霞「クッチー先輩もこっち来て見てください
よー! あ、コワイんでしたっけ。じゃあ
いいや。アハハハハ」
女子二人、小学生みたいな大声で。
陽「何でアタシに虫見せようとしてんの?
まあ見るけどさ・・・」
身軽にフェンスを乗り越え歩み去る陽。
女子三人の睦まじい姿を見つめる凪。
●オクトーバーフェスト会場・夕
泡を立てて注がれるビールの黄金色。
ジュウジュウ焼けるソーセージの狐色。
暮色漂う会場に溢れる人人人。
芋洗い状態の通路を進む凪たち六人。
朔「やべえ、選択肢ミスった?」
霞「まさかこんなに混んでるなんてね」
颯「俺の頭を目印にし。はぐれなや」
雑踏から頭二つ分飛び出した颯。
陽「とりあえずどこかに落ち着かない?」
朔「あ、じゃあ先に席押さえて来るっす」
霞「キープできたら電話ください。リンリン
先輩は一杯目何がいいですか」
朔「ヴァイツェンでー!」
言い残しながら人波に連れ去られる朔。
颯「見つけられるんかな人数分」
陽「最悪、立ち飲みでもいいんじゃない?」
霞「あの人ああ見えて抜け目ないですから」
凪のシャツの裾を引っ張る手。
裾を掴んだ天の指。
天「あっ、ごめんなさい。押されて怖かった
のでつい・・・」
凪「・・・いいよ。ちゃんと持ってて」
緊張した顔で前を向く凪。
目の前には見知らぬ人の後頭部。
連れの三人の姿、どこにもなく。
*****
ゴミ箱から溢れる暴飲暴食の跡。
雑踏から外れた死角。
スマホに耳を澄ます凪と佇む天。
凪「ダメだ、ソメイさん出ない」
リダイヤルを試みる凪、制する天。
天「向こうから連絡来るの待ちましょ」
凪「でもいつかかって来るか・・・」
天「その間、私たちだけでも楽しみません?
時間がもったいないですし」
凪「・・・・・・」
暫く天の顔を見つめた後、頷く。
*****
会場の片隅、二人用の簡易席。
凪の手にピルスナーのコップ。
天の手にシュバルツのコップ。
二人の間にソーセージとチキン盛り。
ざわめきの中に吸い込まれる乾杯。
唇に泡を残して悪戯っぽく微笑む天。
●同・夜
空になったプレート。
何杯目かのビール。
凪と天、それぞれ頬を染めて。
凪「エライなあヒイラギさん。夢へのロード
マップがちゃんと描けてて。俺より二つも
年下なのに」
天「そんなことないですよ。留学にしたって
まだ絵空事で、何一つ決まってませんし」
凪「いや、ヒイラギさんなら行けるよ。絶対
行ける。俺の未来予測に狂いはないっ!」
凪、ビールをグビリ。
天「・・・クチナシさんはどうなんですか」
凪「どうって?」
天「将来やりたいこと、とか」
凪、一瞬遠い目。
凪「・・・忘れちゃった。来る日も来る日も
シャンプー品出ししてたらいつの間にか。
在庫切らさないよう気を配ったり、前出し
面陳を徹底したり、隙間時間でラッピング
練習したり、何だかんだこなしてるうちに
先のこと考えるの止めちゃったんだな」
天「今のお仕事を極めるのは?」
凪「リーダー研修なんかは受けてるんだ一応。
でも、ずっと自分の腹の底で叫んでる奴が
いてさ。『いいのかそれでー!』って迷わ
せてくる。ヒイラギさんには解らないよね、
こんな感覚なんて」
自嘲的に笑ってビールをグビリ。
翳る天の表情。
天「・・・・・・」
俯く天の瞳は眼鏡の陰に隠れて。
ふと、一陣の強い風。
天「冷たっ」
突然小さく叫んで頬に触れる。
夜空を見上げる天。
地上の光に遮られて星一つ見えず。
凪「どうしたの?」
天「雪が・・・」
凪「まさか。こんなに暑いのに?」
断続的に吹く横風。
キョロキョロする天の鼻先。
ふわふわと漂う雪の結晶。
天「ほら」
凪「・・・ああ、アレだ」
凪の指さす先。
十メートルほど離れたかき氷のブース。
威勢よく回る砕氷機。
飛び散る氷粒の数片が風に乗って。
凪「そう言えばさ、めっちゃ雪が積もった日
無かった?」
天「え?」
凪「高校の時。たしか年末。俺が高三だった
からヒイラギさんは高一でしょ? 覚えて
ない?」
天「・・・・・・」
凪「俺の学校、山の中腹だったでしょ。坂道
の途中で足滑らしたら駅まで転げ落ちるん
じゃないかって冷や汗モノだったんだよ。
ヒイラギさんトコは線路沿いだから・・・」
黙り込んだ天に気づく凪。
凪「ごめん、俺ばっか喋って」
顔を真っ赤にして俯く天。
天「・・・思い出してください」
凪「ん?」
天「その頃のことを思い出したら、やりたい
ことだってきっと思い出せる・・・」
唐突にスマホのバイブレーション。
残ったビールの水面が激しく揺れる。
着信表示は『染井さん』。
凪「遅いよ、何やってたの」
先方の応答に耳を澄ます凪。
やがて、苦笑い。
凪「あいつらに一杯食わされた」
天、凪をちらっとだけ見て。
天「・・・知らない」
●凪の部屋・夜
クローゼットを漁っている凪。
奥から衣装ケースを引き出して。
*****
ベッドに俯せて古いノートを捲る。
呆れ顔がいつの間にか少年の表情に。
*****
メッセージアプリの画面。
宝箱のスタンプ。
凪(メッセ)「みつけた!」
凪(メッセ)「やりたかったこと」
パトカーのスタンプ。
天(メッセ)「おまわりさん?」
凪(メッセ)「刑事ドラマ!」
●レコード喫茶・夜
レトロな店内に響く木下サウンド。
珈琲をよそにノートに夢中な天。
珈琲の味も感じないほど緊張した凪。
天、無言でページを捲り続けて。
パタンと巻を閉じ、ふっと吐息。
天「すごいじゃないですか」
凪「・・・バカにされるかと思った」
凪、安堵の吐息。
天「私そんな失礼な人間じゃないですよ」
凪「ごめんごめん。でも反応が怖くて」
ひとくち珈琲を啜る。
凪「冷めてる」
天も自分の珈琲を。
天「・・・これはこれで」
凪、返されたノートをパラパラ。
ぎっしり詰まった鉛筆書き文字。
凪「客観的に見たらやばい奴でしょ。架空の
刑事ドラマのキャラ設定に、サブタイトル
とプロットが二百話分とか。どこかに持ち
込む予定も覚悟もないのに。バカじゃない
とすれば狂気の沙汰だよ」
天「初めてですか、見せるの」
凪「封印してたからね。最悪、処分したかも
って思ってた」
天「探してみて良かったでしょ?」
凪「感謝してるよ。ヒントくれた事と、背中
押してくれた事」
天「何もしてないです、私」
凪「どう言おうと、俺には響いたから」
『私だけの十字架』が終わる。
凪「・・・すぐ嫌になっちゃうんだ、自分の
作ったもの。小学生の時も、ヒーロー物の
敵怪人のデザインをノート何冊分も描いた。
その時は傑作に思えたんだけどある瞬間に
スーッと冷めちゃって、そしたらやたらと
恥ずかしくなってきて・・・」
天「捨てちゃったんですか」
気まずそうに頷く凪。
天「・・・良かった」
凪「え?」
天「後悔してる」
凪「・・・・・・」
天「もったいないって思ってる」
凪「それはまあ」
天「じゃあ、まだ何か作るの諦めてないって
事じゃないですか?」
天、守護天使のように微笑みかける。
天「私だって途方もない事ばかり考えてるん
ですよ。人に笑われるのなんて、いちいち
気にしてられません」
凪「例えば?」
天「人工衛星による粒子観測の分野で革命を
起こしたいって野望もあるし、もういっそ
自分が宇宙飛行士になって、ISSで実証
実験しちゃうのもアリかなあ・・・とか」
凪「・・・すげえ」
天「妄想も妄言も無課金ですから」
店内の音楽、『スターマン』。
凪「ヒイラギさんのリク?」
天「ちょっとベタすぎました?」
凪「いいんじゃない」
天「それより、ゲーテとマドンナってこの先
どうなっちゃうんですか」
凪「え」
不意を突かれて戸惑う凪。
天「ドラマですよドラマ。ゲーテが麻薬組織
に捕まってお薬漬けにされて、マドンナは
銀行強盗の人質の身代わりを買って出て、
この二人、また無事に会えるんですか?」
凪「あー、えっとどうだったかな・・・」
キラキラと期待に輝く天の瞳。
凪「その辺で挫折したからな・・・ちゃんと
続き考えてみるよ」
天「ぜひ!」
凪「そんなに気に入った?」
天「はい、好きになっちゃいました!」
●同・外・夜
喫茶店の軒下で立ちすくむ二人。
地面を穿つような激しい驟雨。
天「降るなんて言ってなかったのにな」
トートバッグを探る凪。
折り畳み傘を取り出してドヤ顔。
凪「どこでもアンブレラ」(ダミ声)
何かを堪えるように顔をそむける天。
天「・・・どっちにも似てないですね」
凪「・・・富田耕生だから」
●メッセージアプリの画面
おつカレーのスタンプ。
凪(メッセ)「いつか一緒に行こう!」
宇宙猫のスタンプ。
凪(メッセ)「大気圏外じゃなくて」
凪(メッセ)「カミオカンデのことです」
暫くの間。
リトルグレイのスタンプ。
天(メッセ)「よろこんで!」
●大型雑貨店・ビューティー売場・午後
ハロウィンモードのディスプレイ。
うろうろするジャックオーランタン。
お菓子の入った籠を抱えて。
中の人は霞。
霞「ハッピー・ハロウィーン!」(籠り声)
客の女子高生たちにお菓子を配る。
●同・バックヤード・午後
霞、ジャックオーランタンのまま帰還。
霞「あーもう! 息できないしアツイ!」
頭部を脱いで空調の吹き出し口へ。
霞「何これ、風もアツイじゃん!」
颯「急に冷え込んだからな、今朝」
霞、POP組立中の颯をギロリ。
霞「師匠先輩」
颯「何やねんその呼び方」
霞「ウチのために上に掛け合ってください。
クーラーに切り替えろって」
颯「あれ? ここのパーツ無いがな。売場に
忘れてきたんかなあ」
颯、つむじ風のごとく退散。
入れ替わりに入って来る凪。
凪「お疲れ」
ちらっと見てからエレベーター前へ。
霞「何か言うこと無いんですか?」
考え込む凪。
凪「・・・ごめん、また熨斗間違えてた?」
霞「じゃ・な・く・て!」
ハロウィンコスをアピール。
凪、一休さんシンキングで察し。
凪「おー・・・めちゃ似合ってる」
平板な声が虚ろに響く。
霞、ふんぬふんぬと地団太。
霞「もういいよ。脱ぐもん」
凪「いや着とけば? 似合ってるんだし」
霞「もう! もう!」
もこもこブーツで蹴りを入れる。
なかなか着かないエレベーター。
凪「あのさ」
霞「ハア?」
凪「ソ・・・ヒイラギさんって最近どう?」
霞「ソラちゃん? 別に普通ですけど」
凪「まめに連絡取ってる?」
霞「そう言えば・・・」
蹴りを止めて思案する霞。
霞「既読つくのが遅いとかはあるかな」
凪「そっか・・・」
運気が下がるような溜息。
霞「あのー」
凪「なに?」
霞「その、かまってちゃんオーラ全開の溜息、
やめてもらえます?」
凪「う・・・」
エレベーターの扉が開く。
先に乗り込む霞。
霞「乗らないんだったら閉めますけど」
慌てて乗り込む凪。
●同・エレベーター・内・午後
下降に身を任せる二人。
霞「ツバキ先輩、ヒナちゃんを今度のクリス
マスライブに誘うんですって」
凪「へえ、そうなんだ・・・」
エレベーターの駆動音が響く。
霞「今から休憩ですか?」
凪「うん」
霞「着替えたら行きます」
●同・休憩室・午後
ユニフォーム姿の霞が座る。
凪、向いからスポドリペットボトル。
凪「ゴチです」
しっとりした髪で笑う霞。
グビグビと美味そうに水分補給。
霞「プハー、生き返った。まったく嫌になり
ますよ。数日でコーナー撤収したらお次は
クリスマスですよ。ウチらに関係ない所で
季節は巡ってゆくんですねえ」
霞、大袈裟に慨嘆。
霞「で、ソラちゃんですよね」
凪「こんな時期だし、やっぱ忙しいのかな」
霞「うーん。単位も卒論も院試も大丈夫って
聞いてたんですけど・・・」
不安そうな凪の表情をチラリ。
霞「有るとすれば留学の事くらいかなあ」
凪「あんまりしつこく連絡するのって逆効果
だよね?」
霞「ハァー、何ですかウジウジと」
霞、クソデカ溜息。
霞「男子中学生じゃないんだしもう少し毅然
としててくださいよ。そろそろ『男の子』
を卒業して『男性』になりましょ」
うなだれる凪。
霞「・・・ヒナちゃんに何か言われました?」
凪「え、なんで・・・?」
霞「勘です勘」
凪、暫くの逡巡ののち。
凪「ソメイさんも知ってるかもだけど」
*****
いつになく真剣な表情の霞。
霞「そうですか、そんなことを」
凪「だからどうしても二の足踏んじゃって」
黙考する霞、ハラハラする凪。
霞「分かりました。もういちどだけ奉仕活動
してあげます」
凪「へ?」
霞「幹事ですよ、か・ん・じ。なので早めに
候補日、三つくらい絞ってください」
霞の手を両手で握る凪。
凪「明日でも明後日でも空ける! シフト入
ってても無理やり空ける!」
霞「そんなの、マネージャーにブチギレられ
ますって・・・」
握られた手を弱めに振り払う霞。
心なしか耳たぶが紅い。
●動物園・昼
晩秋の風吹く動物園を行く一行。
いつもの五人のうち陽が欠席。
暑い地方の動物たちは元気が無い。
シックな装いの天も少し元気が無い。
霞「うー、結構冷えるなー」
颯「貼るカイロあるけど要る?」
霞「さすが師匠先輩。鶴亀万年ですねえ」
颯「せやから年寄り扱いすんなって。それと
三つくらい混ざってんぞ諺」
霞「お。あれヒクイドリじゃない? 近くで
見ようよソラちゃん!」
天の手を引っ張って連れて行く霞。
霞「クッチー先輩もこっち来て。写真撮って
くださいよー」
凪を手招き。
後に残された男子二人。
これまたいつもの調子が出ない朔。
三人の様子をじっと見ている。
颯「どしたん。具合悪いんか」
朔「え、いや別に。それよりヒナ姐さん欠席
で残念っすね。俺ら完全にあぶれ者っすよ」
颯「まあな、今日はクチナシが主役やから。
聞いとるやろ、ソメイさんから」
朔「はあ・・・」
颯「なんやガス溜まったみたいなツラして。
今やったら吐き出してもええけど」
朔「うーん・・・」
迷った末にポツンと呟く朔。
朔「・・・あの二人、両想いなんすよね?」
ヒクイドリの檻の方を見やる颯。
今度は凪と天の写真を霞が撮っている。
凪と天の微妙な距離咸。
颯「付き合うまでは行ってないやろけど時間
の問題ちゃうか。何でそんな・・・まさか
お前、いらんチョッカイ・・・」
朔「ちょっ、そこまでは飢えてないっすよ。
じゃなくて、この前たまたま見ちゃったん
すよ・・・」
*****
颯と朔の方へ駆け寄って来る霞。
嬉しそうにスマホを掲げながら。
霞「見てこれカッコイイでしょ、ヒクイドリ
シスターズ!」
威嚇するヒクイドリの前に霞と天。
霞、オリジナル威嚇ポーズ。
天、乗っかるもぎこちなく。
霞「脚とかまんま恐竜みたい。あ、こっちは
ビビってるクッチー先輩でーす」
咆哮するヒクイドリの前に凪と天。
凪、背後からの奇声に驚き顔。
天、少し無理した笑顔。
霞「先輩方も撮ってあげましょうか。それか
ローランドゴリラの前で・・・」
二人の神妙な雰囲気に気づいて。
霞、たちまち真顔に。
*****
マレーグマ舎の前。
人間くさい仕草で樽と戯れるクマ。
並んで眺める凪と天。
凪「なんか親近感わく。オッサンみたい」
天「可愛いです・・・」
言葉と裏腹にどこか上の空。
凪、天の整った横顔に視線を奪われて。
樽を積み上げようとするクマ。
高所にあるリンゴを取ろうとしている。
積もうとして何度も失敗。
積めたと思ったら樽に登る術がない。
天「・・・バカみたい」
凪「え?」
天「だってそうじゃないですか。樽投げたら
たぶん落ちてきますよ、あのリンゴ」
凪「・・・愚直なんだと思う」
天「クチナシさんはどう思います?」
凪に正面から向き合う天。
強くも、どこか縋るような瞳。
天「手の届くところに簡単な方法があるのに
信念を曲げたくないから選べない、そんな
愚か者のこと」
凪、真意を測りかねて。
凪「・・・クマのことだよね?」
天「もういいです」
ぷいと顔をそらす天。
凪「待って」
思わず天の二の腕を掴んで。
凪「あ、ごめん・・・」
すぐに手を離す凪。
天、マフラーに鼻から下を埋める。
凪「・・・好きだよ」
ぴくんと反応する天。
凪「融通がきかずに損ばっかしてても、胸を
張って歩いてる愚か者が好き」
天「・・・クマのことですよね?」
遂に成功して意気揚々のマレーグマ。
●同・グッズショップ・午後
ポストカードコーナーで熟考する颯。
霞「ヒナちゃん、爬虫類派ですよ」
颯「ヒッカケちゃうやろな?」
霞「ウチがそんなイケズすると思います?」
クッキーか最中で迷う朔。
霞「彼女Aさんに?」
朔「違うよ、仕事場。今日のシフト替わって
もらったから」
霞「変なところ律儀なんですねえ」
朔「意外性の男なの俺は。てか、彼女Aって
何だよ。明菜ちゃんか」
でかい縫いぐるみに心奪われる天。
凪、その後ろ姿を見ながら。
マレーグマのキーホルダーを手に。
●凪の部屋・夜
凪、スマホの写真を肴に晩酌。
ほとんどが複数人で撮ったもの。
その中に一枚だけ天のソロショット。
マフラーに顔を埋めた横顔。
夢中で何かを見つめる姿を望遠で。
凪「星見てる時もこんな顔だったな・・・」
独り言を遮るアプリの通知。
天(メッセ)「今日はお疲れさまでした」
ペコリとする雪童子のスタンプ。
天(メッセ)「すっごく寒かった!」
天(メッセ)「でも」
天(メッセ)「熱帯の子たちもガンバッてた
から」
天(メッセ)「わたしたちも冬に負けてられ
ないですね!」
凪の頬、自然と緩む。
凪(メッセ)「おつかれ!」
ごろ寝するマレーグマのスタンプ。
凪(メッセ)「すでにくじけそう」
凪(メッセ)「まだ十一月なのに」
凪(メッセ)「来月はきっとこうなる」
氷漬けマンモスのスタンプ。
天(メッセ)「その時はじっくりと低音解凍
してあげます。笑」
天(メッセ)「あ、そうだ」
天(メッセ)「キーホルダーありがとう!」
天(メッセ)「さっそくつけてみました」
添付された写真。
カジュアルなバッグのアップ。
マレーグマのキーホルダーと並んで。
少し古びたアニメキャラの編みぐるみ。
天(メッセ)「隣のはスルーで」
懇願するするリトルグレイスタンプ。
少し間があって。
天(メッセ)「やっぱり紹介しておこう」
天(メッセ)「推し素粒男子のヒッグス様」
天(メッセ)「ちなみに手作り。思春期の愛
の暴走。汗」
スマホを手に凍りついている凪。
反対の手はチューハイ缶を潰しそう。
ヒッグス様が視界いっぱいに。
●大型雑貨店・売場・夜
閉店後、売場総出での品出し。
大量に積まれた季節商品の箱。
陣頭指揮するフロアマネージャー。
自らも手を動かしながら鼓舞。
マネージャー「みんな、遅くまでごめん!
終わったらいい肉ごちそうするから!」
売場のあちこちから男女の歓声。
*****
ヘアケア用品売場の凪。
空いた棚に黙々と品出し。
その瞳はどこか別時空を漂って。
●急行電車・朝(回想)
立錐の余地もない満員の車内。
ドアの近くに高校生の凪。
四方から押されて必死に耐える。
後ろからより強烈な圧迫。
ドアに手を突いて踏みとどまる凪。
凪とドアの間に挟まれた女子高校生。
胸に抱いていた学生鞄がずり落ちて。
女子高生の胸がちょうど凪の腹の辺に。
凪の抵抗むなしく。
電車が揺れる度に当たる胸。
通過していく窓の外の駅。
咲き誇る梅の花も一瞬で通り過ぎて。
凪の目に映るのは俯いた少女の髪。
押しつけられて潰れる胸。
嫌悪に耐えているような肩。
凪「あ・・・ごめ・・・」
少女の片手が押し戻すように凪の胸に。
その時、電車が速度を緩めて。
停車と共に開く反対側のドア。
一気に背中のプレッシャーが消える。
凪の横をすり抜ける少女。
固く結んだ唇と、眼鏡の下の潤んだ瞳。
凪「ごめんなさい・・・」
凪の微かな声は駅のノイズに飲まれて。
ホームの人波に消える少女。
鞄のキーホルダーが目に焼きつく。
手作りの編みぐるみヒッグス様。
どこからか響いてくる陽の声。
陽(声)「・・・高校の時、ちょっと嫌な事
があって・・・」
陽(声)「・・・それからずっと男を避けて
んだよね・・・」
延々とループし、増幅する言葉。
●大型雑貨店・売場・夜
急に近くで響く朔の声。
朔「先輩、足!」
我に返る凪。
落ちたテスターを踏んでいる足。
床に広がったトリートメント。
箱を抱えてあちゃー顔の朔。
少し離れて様子を窺っている霞。
凪の生気のない顔を心配そうに。
●同・ロッカー室・夜
私服に着替え終わった凪。
スマホを手にした途端にバイブ。
着信表示は『柊木さん』。
凪、画面を見つめたまま取れない。
時間は二十三時過ぎを示している。
三十秒ほど続いたのち止まる振動。
暫くして着信するメッセージ。
天(メッセ)「お話できませんか?」
天(メッセ)「相談したい事があります」
天(メッセ)「いつでも良いのでお電話いた
だきたいです」
天(メッセ)「起きて待ってます」
スタンプも絵文字もない文面。
凪、泣きそうな顔になりながら。
壁に背をつけてずるずると腰を落とす。
狭い通路に足を突っ張るようにして。
投げ出した手の中で断続的な振動。
●メッセージアプリの画面
一方的に並んだ天のメッセージ。
最初は連絡を乞う内容が続く。
やがて日付が変わる直前に。
天(メッセ)「こぐま座流星群」
天(メッセ)「一緒に見ませんか」
天(メッセ)「十二月二十二日」
天(メッセ)「いちばん空が広い場所で」
*****
日付が変わって。
凪からのリプは入っていない。
天からは最後に一つだけ。
天(メッセ)「愚か者は卒業します」
寂しそうにバイバイするリトルグレイ。
●凪の部屋・夜
テーブルでノートPCを開く凪。
文書ソフトを立ち上げて。
白紙の一頁目に大きなフォントで。
『アクション刑事ドラマ・企画書』。
スピーカーから流れる『喜びの世界』。
吹っ切れない凪の顔。
手元にはプリントアウトした紙。
テレビ局のドラマ企画公募の梗概。
●大型雑貨店・通用口・夜
私服姿の凪。
窓口の警備員に会釈して去ろうとする。
向い側の電柱から歩み寄る人影。
凪にぶつかるように進路妨害。
凪「すみませ・・・え?」
帽子をかぶった黒ずくめの陽。
睨みつけるように見上げる瞳。
●レストラン・前・夜
イルミネーションを纏った街路樹。
その蔭に隠れている陽と凪。
向い側のレストランの窓を見張って。
寒そうに縮こまる凪。
凪「・・・中じゃダメ?」
残念な子を見るような陽の表情。
凪「・・・こういう映画、観たことあるわ。
犯人があったかいメシ食ってるの恨めしげ
に外で見てる刑事たち。せめて映画みたい
にコーヒーでもあれば・・・」
陽「口閉じとけば。冷たい空気吸わずに済む
し」
夜気よりも冷たい物言い。
怪訝な顔で見て通り過ぎるカップル。
凪「理由くらい言ってくれてもよくない?
仕事終わりにわざわざスパイごっこに付き
合ってるわけだし」
陽「まるで他人事だね」
凪「他人事じゃないなら何? こんな高そう
な店に出入りする知り合いなんて・・・」
陽「クチナシ君、ソラに何したの?」
不意打ちに言葉を失う凪。
陽「あの子が自暴自棄になるなんて今までに
無かったのに・・・ねえ、何したのよ!」
凪「・・・別に何も」
陽「ああ、なるほどね。何もしなかったわけ
だ。あの子が一人で苦しんでる時に何も」
毒のある陽の口調。
凪「苦しんでるって・・・そんなの初耳だよ。
ヒイラギさん俺に一言も・・・」
言いかけて自嘲的に笑う。
凪「言うわけないか。俺が元凶みたいなもん
だしな。そっか、きっとヒイラギさんも思
い出したんだ・・・」
陽「何言ってるのか全然解んないんだけど。
・・・まあ、君に期待なんかしたアタシが
甘ちゃんだった」
レストランを見据える陽。
陽「出てくる・・・。君がもたらした結果を
その目に焼きつけるといいよ」
扉が開いて現れる男女二人連れ。
そのまま歩道を歩み去って。
凪の耳の奥で血流が音を立てる。
目に焼きついた初老の男と天の姿。
●歩道・夜
行き交う人々の顔はイルミに彩られ。
不思議と皆、幸せそうに見える。
その中を歩む初老男と天。
天の腰に添えられた男の手。
足早な歩幅に従わせるように。
ずっと俯き加減の天。
二人の背後から後をつける陽と凪。
凪、穴が開くくらい天の後ろ姿を凝視。
陽「食事は今夜で二度目。前回は紳士的に駅
まで送って行っただけ」
凪「その時も尾行を?」
陽「最初から最後まで」
凪「彼女は知ってる?」
陽「知るわけない」
凪「言わなかったの?」
陽「言うはずない」
凪「じゃあなんでこんなこと・・・」
陽「君にとっては他人事でしょ」
ぐうの音も出ない凪。
凪「・・・誰、あのオッサン」
陽「名誉教授。ゼミの先生よりエライ人」
凪「まさか留学の・・・」
陽「隠れて!」
凪を看板の後ろに引き込む陽。
立ち止まって振り向いている天。
瞳に浮かんでいた微かな希望が消える。
名誉教授に促され、再び歩き出す天。
●シティホテル・フロント・夜
フロントで鍵を待つ名誉教授。
少し離れて不安そうに佇む天。
まるで迷子の女の子。
天の肩にかかる陽の手。
振り返った天の瞳。
喜びと罪悪感と絶望とが交錯する。
陽の背後で複雑な表情の凪。
陽「一緒に来て」
天「ちょっと、ヒナちゃ・・・」
名誉教授「待ちたまえ」
鍵をぶら下げた教授が歩み寄る。
名誉教授「私の連れに何か用・・・」
教授の上品なコートの襟を掴む陽。
陽「ジジイはジジイらしく家でオコタにでも
こもってろよ」
突き飛ばされて二三歩よろめく教授。
頭から落ちる中折れ帽。
天「やめてヒナちゃん・・・」
陽「ソラ、帰るよ」
天の腕を引っ張って正面玄関へ。
名誉教授「大人になりなさいヒイラギ君!
私の口利きが無ければ君など・・・」
中折れ帽を拾って押しつける凪。
追おうとする教授を阻むように。
名誉教授「退け、退かんか。私はただ彼女の
指導を・・・」
ロビーの注目を集める小競り合い。
名誉教授「何の権利があってこのような無礼
な真似・・・」
凪の獰悪な眼差しに気づく教授。
名誉教授「君、もしかしてヒイラギ君の?」
凪「違います」
帽子をもう一度押しつけて踵を返す。
陽と天の後を追って。
●公園・夜
人気の絶えた都会の狭間の小公園。
ようやく二人に追いついた凪。
ジャングルジムの前の陽と天。
詰問している様子の陽。
天を遊具に押しつけるようにして。
凪が声を掛けようとした時。
突然、陽が天の唇を奪う。
足が攣ったようにつんのめる凪。
陽の体の蔭から覗いた天の顔。
凪を見返す瞳から涙がひとすじ。
気配に気づいて唇を離す陽。
振り返らずに凪へと言い放つ。
陽「わかったでしょ、そういうことだから。
君が入る余地なんて最初から無かったの」
凪「・・・わからねえよ」
陽「見世物じゃない。早く消えて!」
歯を食いしばって背を向ける凪。
天「違うの・・・クチナシさん・・・」
弱々しい言葉は再び唇で塞がれる。
今度はそれに応えてしまう天。
涙を流しながら陽の髪に指を絡めて。
後も見ず走り去る凪。
●街・夜
凪、疾駆。
浮かれ気分の街に砂をかけるように。
ぶつかられても怒らない往来。
その寛容さにまた腹が立って。
街に呪詛を振りまきながらひた走る。
やがて足が動かなくなるまで。
*****
下を向いて激しく咳き込む凪。
証券会社本社ビルの外階段。
棒になった足を引きずって登る凪。
二階の外壁に設けられた小空間。
まるでキャピュレット家のバルコニー。
ただ、ジュリエットはいない。
腰壁に背を預けてへたり込む凪。
嘲笑する世界から身を隠すようにして。
微かな嗚咽が夜空に流れる。
●大型雑貨店・喫煙室・午後
濛々たる紫煙に満ちた小部屋。
喫煙者たちに混ざって凪。
煙草も吸わず片隅に佇んでいる。
凪の隣でライターを灯す音。
颯「クチナシって喫う人やっけ?」
いつの間にか寄り添う颯。
凪、黙って首を横に振る。
颯「じゃあ何で」
凪「何もかも嫌になって。いっそ燻製になり
たくて」
颯「癪なやっちゃな。俺のネタよりオモロイ
やんけ」
目を細めて泰然と煙を吐く。
颯「ライブ、ヒナちゃんに断られてもたわ」
凪「・・・・・・」
颯「テレビにも賞レースにも縁が無い木っ端
芸人やから、しゃあない」
凪「・・・・・・」
颯「俺らコンビの初単独のイベやったんや。
見てほしかったんやけどな」
凪「・・・チケット買いましょうか」
颯「アホ、お前に憐れんでもらわんでも完売
しとる。こう見えて劇場ではキャーキャー
言われとんねん。毎回ごっつい出待ちが」
凪の憔悴ぶりに気づいて。
颯「この頃ずっと目ぇ赤いぞ。煙のせいとは
ちゃうな」
凪「・・・・・・」
颯「後悔するんやったら最初から期待すな」
凪「・・・・・・」
颯「若いうちは傷ついてナンボや。一生引き
ずるかも知れん。忘れたと思った頃に夢に
見て枕を濡らすかも知れん。けど、それも
また人生のスパイスなんやで」
凪「・・・・・・」
颯「それにまだ手遅れとも限らんやろ」
凪「・・・気休めはいいです」
颯「諦め早っ。若いくせに早漏かい。いや、
逆に年取ったら遅なんのか・・・」
何か言ってほしそうにチラッチラッ。
凪「・・・・・・」
颯「・・・そろそろボケてくれや」
凪「・・・さすが亀の甲」
颯「いまいちやな。ソメイの方が達者やで」
肩を落とす凪。
凪「何だったら出来るのかな俺」
颯「アホみたいに思い続けることちゃうか」
兎の眼で縋るような凪。
煙でサーカスする颯。
颯「目ぇ逸らすんやめて、もう一回ちゃんと
見たったらええねん」
●同・屋上・午後
よく晴れた空に北風が渡る。
消防設備の蔭にしゃがみ込んだ凪。
スマホの画面を食い入るように見て。
天の横顔の写真。
すぐ傍にいるような天の声。
天(声)「カバドン?」
天(声)「思い出してください」
天(声)「好きになっちゃいました!」
折々の天の姿が空のスクリーンに。
眼鏡を曇らせて日本酒を飲む姿。
プラネタリウムの薄闇のワクワク顔。
好きなジャンルを語る時の早口。
夫婦キツネの睦みを羨ましげに見る姿。
凪の話を飽かず聞く包容力ある笑顔。
陽の唇の下から見つめる哀しい瞳。
*****
画面に一つ二つ、涙、こぼれ。
●ファストフード店・テラス席・夜
電話をかけ終えた霞。
目の前のテーブルにアイス抹茶ラテ。
一口啜って思わず震え上がる。
霞「うぉ、さむっ!」
応える者はいない。
何だか一句詠みたくなって。
霞「寒ン空デートがしたいなコンチクショー」
●地下街・夜
複数の地下街が合流する広場。
中央の柱に凭れている陽。
通話を終えスマホを持つ手を下ろす。
もう片方の手で自分を抱くように。
多方向から殺到する人波の中。
永遠に留まり続けるような陽の姿。
●公園・夜(回想)
長い口づけの後。
天、陽を振り払う。
手の甲で唇を拭う天。
陽「・・・やめてよそういうの」
天「むりやりしたくせに・・・」
陽「それは謝る。・・・嫌いになった?」
天「・・・ヒナちゃんは好きだよ。でも」
陽「比べないで!」
強い口調に怯む天。
陽「・・・今はそれが一番こたえる」
その場を去ろうとする天。
なりふり構わず腕を掴む陽。
天「痛いよ・・・」
それでも腕を離さない。
陽「どこに行くつもり?」
天「今ならまだ追いつける」
陽「追いついても手遅れだって」
天「そんなことない。ちゃんと話せば」
陽「ソラ、アンタ自分がどんなとこ見られた
か分かってんの!」
天「・・・・・・」
陽「なんであんな奴と・・・。アンタの才能
があったら自分を安売りしなくたって!」
天「私の何を知ってるのよ・・・」
陽「知ってるよ何でも。だって・・・」
言葉を飲み込む陽。
陽「・・・アタシのせい?」
天「何言って・・・」
陽「文化祭の時、あのクソ男をアタシが紹介
しなかったらこんな事には・・・」
天「その話はしないで」
冷めた天の表情。
陽「だってそうじゃん今も。恋に臆病なくせ
して、肝心な時には自分を粗末に扱って。
それも全部・・・」
乾いた音。
頬を押さえる陽。
天「・・・ごめん」
陽「・・・クチナシ君の目、見た?」
天「・・・・・・」
陽「言っとくけど、男ってそういうの絶対に
無理な生き物なんだからね」
陽、吐き捨てるように。
天「・・・ヒナちゃんなら受け入れてくれる
っていうの?」
陽「そんなの当たり前じゃん。今までだって」
天「そうだね。そうだった。ヒナちゃんは私
にずっと優しくしてくれた。それに甘えて
私・・・」
陽「甘えることの何が悪いんだよ。無理して
ぶつかって傷つく必要なんてある? ドM
じゃあるまいし」
天「飛ぶ前から諦めたくないよ」
決然とした天の瞳。
天「拒絶されてもいい・・・」
陽「ソラ・・・」
天「このまま終わるのだけは絶対にイヤ」
天の腕から力なく離れる陽の手。
●地下街・夜
相変わらず流れ続ける人波。
柱の前に陽の姿は無い。
●大型雑貨店・休憩室・午後
向かい合って座る霞と凪。
霞、生殺与奪の権を握った神のよう。
霞「ご要望通りヒナちゃんに連絡しました」
凪「感謝してます」
続きを期待するように見つめる凪。
霞「はいはい」
胸ポケットから紙片を取り出す霞。
霞「脅迫状を預かって参りました」
凪「は?」
霞「どうしてどいつもこいつもウチを間に挟
みたがるんですかね。代読します」
紙片を開き勿体ぶって読み始める。
霞「『ソラは頂いた。返してほしければ一人で
来い。話くらいは聞いてやる。そこで私を
納得させてみろ。その内容次第では返して
やってもいい』・・・あのトンチキ、ソラ
ちゃんは誰の所有物でもねえっつうの」
霞、苦笑い。
凪「ヒグルマさんって、いつもこう?」
霞「いえ、今は相当バグってますね。真剣な
場面で芝居がかってる時は余裕がない証拠。
続き読みますよ。『十二月二十二日十九時、
この街で一番空が広い場所で待つ』・・・
最後のはクイズかな?」
凪「解けなかったらその時点で交渉決裂って
ことか。シビアだなあ」
霞「いいですよ? 一緒に考えてあげても」
霞、わかりやすい目配せ。
凪「・・・いや、気持ちだけいただいとく。
大人だから、自分の力で辿り着かないと」
紙片を畳んでポケットに戻す霞。
霞「健闘をお祈りします」
すこし残念そうに笑う。
*****
テーブルに突っ伏した霞。
向い側はすでに空席。
足を忍ばせる朔。
凪の後の空席に座る。
朔「・・・今度の火曜日なんだけどさ」
霞、顔を僅かに上げてジロリ。
霞「余り者同士がくっつく展開とか、マジで
有り得ないんですけど・・・」
朔「お塩いただきましたぁ。あざーす」
精一杯おどけてみせる朔。
霞、再び突っ伏して知らんぷり。
●街・夕
日没には間があるが薄暗い街。
寄る辺なく空を見上げる凪。
一面に低く垂れこめた雲。
鼻の頭を赤くして白い息の呟き。
凪「どうせなら降りやがれ・・・」
街に流れる『荒野の果てに』。
●同・再開発地区・夜
ターミナル駅近くの工事現場。
都会の真ん中にぽっかりと空隙。
それを囲む背の高い防音壁。
物々しい警告看板。
『侵入者には発ぽうします』。
それを見て溜息をつく凪。
ふと視線を移した先。
関係者入口に吊られたキーホルダー。
どこか間抜けなマレーグマ。
扉に手をかける凪。
力をこめるとゆっくり奥へ。
●同・現場内・夜
広大な敷地内は公園整備の途中。
見晴るかす全天は緞帳のような曇模様。
その下、慎重に歩を進める凪。
舞台の一登場人物のごとく。
辺り一帯に人の気配は皆無。
スマホの呼出音。
凪「・・・もしもし」
陽(声)「五分遅刻。ダメ刑事」
凪「入口が分かりにくいんだよ」
凪の手にはキーホルダー。
陽(声)「本当の事件なら一発アウトだけど、
辿り着けたからオマケ。よくわかったね」
凪「図書館籠って地図見まくった。現時点で
区内にここより広い野外空間は一箇所だけ。
その公園は緑が豊かすぎて逆に見晴らしが
良くない」
陽(声)「おいおいアナログかよ? 今時の
刑事ドラマはサイバー捜査バリバリだよ」
凪「その話、ヒイラギさんから?」
陽(声)「うん?」
凪「刑事ドラマ書いてる話」
陽(声)「まあね。何でも話してくれる仲な
もんで」
凪「ふーん。じゃあ彼女の好きなキャラは?」
陽(声)「マウント取ってるつもり?」
凪「どっちがだよ」
だだっ広い空地で子供じみた攻防。
陽(声)「まあいいや、本題に入ろう。答え
は用意してきた? 君がソラにふさわしい
かどうか、アタシを納得させられる答え」
凪「・・・そんな答えなんかないよ」
空地を吹き過ぎる木枯し。
陽(声)「じゃあ何しに来たわけ。潔く敗北
宣言でもするつもり?」
凪「勝ちとか負けとか関係ない!」
凪の声が冷たい空気を震わせる。
陽(声)「・・・耳、痛いんだけど」
凪「誰が彼女にふさわしいかなんて、勝手に
決めていいことじゃないだろ」
さっきより抑えた声で。
凪「決められるのは彼女・・・ソラさんだけ
なんだ」
陽(声)「・・・キレイゴト」
凪「選ばれるのは君かも知れない」
陽(声)「・・・・・・」
凪「俺に言えることは一つだけ」
覚悟を決めたように息を吸って。
凪「ソラさんに会えてよかった」
陽(声)「・・・・・・」
電話の双方に満ちる沈黙。
先に口を開いたのは凪。
凪「たとえ嫌われても構わない。二度と話せ
なくなったって後悔しない。今この瞬間に
会いたいって思える人がいる、その事実を
俺は大切にしたい」
陽(声)「・・・・・・何だよクソ」
凪「ヒグルマさん?」
陽(声)「よくもそんなクソキモイこと真顔
で言えるな。恥って概念ないの?」
凪「・・・だんだんキツくなってきた」
陽(声)「もう遅いよ。寝るとき思い出して
布団で悶絶しやがれ、一生」
電話の向うから伝わってくる苦笑。
陽(声)「・・・参った、アタシにはムリだ。
ソラを守ってるつもりが結局、自分のケチ
なアイデンティティ守ってるだけだった」
凪「ヒグルマさんの想いだってきっと・・・」
陽(声)「あーうるさいうるさい。これ以上
傷に粗塩塗りつけんなって。それにしても
時間にルーズなヤツばっか。おいソラ!」
背後から二重に聞こえる陽の声。
ゆっくりと振り返る凪。
陽(声)「まだ着かないの?」
スマホを持って所在なげに佇む天。
天「・・・着いたよ今」
中途半端な距離で向かい合う凪と天。
天「入口がわかんなくて・・・」
陽(声)「似た者同士か、結構なことで」
凪「・・・ヒイラギさん、聞いてたの全部」
キョドリながらも頷く天。
凪、耳まで真っ赤に。
陽(声)「最後に警告。ソラを泣かすような
ことしたらいつでも殴りに行くから・・・」
最後まで聞かず天に歩み寄る凪。
天もまた、もどかしい足取りで。
そして、流星のように。
凪の懐に飛び込む天。
凪、ためらいながらも手を天の背に。
凪「・・・俺、謝らないといけないことが」
天「そんなの必要ですか?」
凪「え・・・」
天「今、こんなにあったかいのに」
天、顔を凪の胸に埋める。
電車での不本意な邂逅のやり直し。
天「・・・私、やっぱり愚か者でした」
凪「留学ダメだった?」
天「まだ決まったわけじゃないです。すぐに
二の矢を放ちます。今度はもっと真直ぐな
矢筋で」
凪「俺にできるやり方で応援する。これから
一緒に考えよう」
天「ありがとうございます」
凪のコートを掴む手、ギュッと。
天「でも、今は星を」
憂鬱な夜空を見上げる凪。
凪「見えそうにないよ。何もかも中途半端、
俺みたいに」
天「ちゃんと見えるじゃないですか」
防音壁の彼方を指さす天。
天「ほら、あんなに瞬いてる」
天の指す先にはビル群。
イルミネーションが星のように。
凪「ほんとだ。でも言うほど瞬いては・・・」
天に向けかけた視線を慌てて戻す凪。
天の瞳にも光る<星>が。
凪「冷たっ」
唐突に叫んで頬に手をやる凪。
その目の前に一片、また一片。
ひらひら舞い落ちる雪。
天「ほら、中途半端とか言うから」
凪「星に雪とはまた風流な」
天「両方なんて贅沢ですね」
顔を見合わせて笑う二人。
天の唇に落ちた雪が体温で溶ける。
天「このシチュエーションも素敵ですけど」
どこからか取り出した折り畳み傘。
天「風邪ひくといけないから」
二人の頭上に優しく開いて。
傘の柄、色褪せかけたペンギン。
*****
白く化粧された傘。
二人、<星>を見つめ続ける。
凪「あさっての夜なんだけど・・・」
天「あ、その日は先約が」
凪「そうなんだ・・・」
天「毎年、家族と過ごすのが決まりなので」
凪「あーなるほど・・・」
天「だってそれが本来の姿でしょ?」
凪「おっしゃる通り」
天「私が冬を好きなもう一つの理由はね、家
の玄関の灯がいつもより優しく見えること」
凪「きっと温かいご家庭なんだね」
天「あさって、見に来ます?」
凪「うぇ!?」
天「何ですかその反応。私、何か変な事言い
ました?」
悪戯っぽく覗き込む天。
雪も溶けそうな傘の下。
鳴り渡る『諸人こぞりて』。
●駅・改札外・朝(回想)
重苦しい空から雪がしんしんと。
屋根の下で空模様を窺う制服姿の天。
思いきって道へ駆け出そうとする。
凪「走ると危ないよ」
天の頭上で開く小さな傘。
見上げた天の目に鮮やかなペンギン柄。
背後から折り畳み傘を差し掛ける凪。
凪「使って」
天「でも・・・」
凪「風邪ひくといけないから」
もう一本の雨傘を示す。
凪「こういう時のために余分に持ってるから」
傘を開いて行きかける凪。
天「あの、いつお返ししたら・・・」
凪「きっとすぐ会えるよ。その時で」
凪、不器用な笑顔を残して。
足下を気にしながら坂道へと。
一瞬滑りかけて踏み止まって。
小さくなる照れ隠しの後ろ姿。
残された天、傘をくるくる。
頬が紅いのは寒いからだけだろうか。
『諸人こぞりて』フェードアウト。
入れ替わりにギターのイントロ。
●エンドクレジット
BGM『喜びの世界』。
了
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